若手長期契約インフレーション
メジャーリーグでは今新しい時代の波が押し寄せている。
今回は新しい契約傾向の波に注目する。
2000年に入ってから急激に高騰し始めたMLBの選手年俸だが、
ここ数年は特に先発投手への長期契約がインフレ状態にあった。
例で言えば、2006年のバリー・ジート(ジャイアンツ:7年1億2,600万ドル)
2007年のカルロス・ザンブラーノ(カブス:5年9150万ドル)、2008年のヨハン・サンタナ(メッツ:6年1億3,750万ドル)。
この3人に共通するのは、投手として一流の実力を持ち、
尚且つタフさが持ち味で年間200イニングは固いということ。(今のジートにはあまり当てはまらないが)
また契約する側として最も重要なのは、ケガをせずに働き続けてくれることである。
そんな投手の数が少なくなり、球団は限りあるそんな投手を獲得しようと大金を使う。
そして長期契約が多くなり、市場に出る投手の数がまた減るという繰り返しである。
これがここ数年の傾向であり、今後もしばらく続いていくと見られる。
しかしそれに加え、昨年、今年辺りからジャーリーグでは期待の若手との長期契約が多くなってきた。
そしてこの傾向も同じくしばらく続きそうなのだ。新しい波になることは間違いないと思われる。
ここで代表的な例を挙げてみたい。
まずは2007年オフにロッキーズと長期契約を結んだトロイ・トゥロウィツキー。
昨年トゥロウィツキーはフルシーズン1年目ながら、
ナリーグ優勝を果たしたチームの正遊撃手として攻守に活躍、
新人王投票では僅差の2位に入るなど、かなりハイレベルな成績を残した。
同オフに6年3100万ドルで、メジャー2年目の選手としてはかなり高額な長期契約を結んだ。
そのトゥロウィツキーを跳ね除け、
昨年の新人王に輝いたブルワーズの長距離砲ライアン・ブラウンも
今月15日にこちらはなんと8年4500万ドルで契約した。
ブラウンの実力も既に折り紙つきで、昨年シーズン途中のデビューにも関わらず、3割30本を記録。
規定打席外だったが、長打率ではナリーグトップだった。
そして最も驚きだったのが、レイズのエバン・ロンゴリアだ。
こちらは今年メジャーデビューした選手で、
まだ数試合しか出場していない4月18日に6年1800万ドル+3年オプションという長期契約。
確かに打撃も守備も抜群で、将来のMVP候補にも名前が挙がる。
しかしメジャー1年目で将来を感じさせる好成績を残したトゥロウィツキーやブラウンと比べれば、
契約額は低いものの、かなり賭けに出た行動だといえる。(成功の可能性は確かに高いが)
また2006年新人王であり、現在メジャートップクラスの選手であるハンリー・ラミレス(マーリンズ)も
5月17日に6年7200万ドルで長期契約に合意した。
ラミレスは既に2年の濃いキャリアがあるが、それでもまだ年俸調停(*1)の権利さえ得ていない選手、
そんな若手と財政難のマーリンズがこんな契約を結ぶのもかなり驚きだ。
天才打者ミゲル・カブレラや2005年最多勝のドントレル・ウィリス(共に現タイガース)にも
オファーしなかったような内容だからだ。
それではなぜこのような状況が生まれてきているのか。
まだキャリアが浅いにも関わらず長期契約をしている上記の選手達にはある共通点がある。
それは①所属チームの資金が少ない②チームの中心になれる選手だということだ。
まずは所属チームの都合面からこの傾向を見ていこう。
上記の例だとコロラド、ミルウォーキー、フロリダはMLBの中で決して裕福なチームとは言えない。
そのため若手が大きく成長し、FA権を得てしまうと、その選手を残留させるほどの資金が出せないのだ。
いい選手ほど高い値が付き、結局ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市に本拠を構えるチームに引き抜かれる。
もしくは大金で引き抜かれる前にトレードに出し、見返りとして若手を得るという決断も迫られる。
最近で言えば前述のカブレラ、ヨハン・サンタナ(ツインズ→メッツ)、トリー・ハンター(ツインズ→エンゼルス)などがそうだ。
よってそういう対象になりそうな選手なら、若いうちに安値で長期契約を結んでおいたほうがベターかもしれない。
分かりやすくするために2012年にFAを取得するはずだったハンリー・ラミレスを例に出そう。
もしラミレスがマーリンズと今回の長期契約を結ばず、
現在残している成績を12年まで残し続けた場合、
最強ショートとして大都市のチームが
総額1億ドル(100億円)以上で買い叩いていたのは間違いない。
その時マーリンズは保障としてドラフト上位指名権を得るが、ラミレスを止める術はない。
しかし今回の長期契約によって、マーリンズは2014年までラミレスの所有権を得たのだ。
ラミレスは現在24歳だから、恐らく全盛期はマーリンズで迎えることになるだろう。
この様にFAになった選手を繋ぎ止めるほどの資金が無いチームは、
有望な選手との長期契約がそれを回避するいい手になる。
次に現在長期契約を結んだチームは、そのチームの中心となり得る選手と契約していることが分かる。
成績面ではオールスタークラスの成績を残し、チームの顔として活躍するような選手だ。
別の面から見ると、関連グッズが最も売れる選手と言ってもいいだろう。
他の選手のみならずファンからも頼りにされる選手、そんな選手に球団としては出来るだけ長い間所属していて欲しい。
現在のメジャーリーグを見渡してみると、ヤンキースのデレク・ジーター、
マリナーズのイチロー、カージナルスのアルバート・プーホルスらの名前が挙がる。
「球団名を言えば、彼の顔と名前が浮かぶ」ようなフランチャイズスター達だ。
若い頃からの長期契約により、球団からの期待と責任感を背負う。そしてそれに打ち勝つ。
こんな状況が次のスーパースターを生む可能性は高いだろう。
その結果が現在の若手長期契約インフレを呼んでいるのだ。
確かにリスクは大きい、しかし既に成熟した選手よりは球団の出費も少なくて済む。
これから数年この傾向は続くだろう。誰もが最高のフランチャイズスターを欲しがっている。
そしてこのトレンドが終わるときは、期待に押しつぶされた若手が出てきてしまった時だろう。
*1:メジャー歴3年以上だが、まだFAを取得していない選手が、球団側に成績に見合った年俸を求めること。球団側と選手側の希望額を出し合い、調停委員会が適切な方に決める。
今回は新しい契約傾向の波に注目する。
2000年に入ってから急激に高騰し始めたMLBの選手年俸だが、
ここ数年は特に先発投手への長期契約がインフレ状態にあった。
例で言えば、2006年のバリー・ジート(ジャイアンツ:7年1億2,600万ドル)
2007年のカルロス・ザンブラーノ(カブス:5年9150万ドル)、2008年のヨハン・サンタナ(メッツ:6年1億3,750万ドル)。
この3人に共通するのは、投手として一流の実力を持ち、
尚且つタフさが持ち味で年間200イニングは固いということ。(今のジートにはあまり当てはまらないが)
また契約する側として最も重要なのは、ケガをせずに働き続けてくれることである。
そんな投手の数が少なくなり、球団は限りあるそんな投手を獲得しようと大金を使う。
そして長期契約が多くなり、市場に出る投手の数がまた減るという繰り返しである。
これがここ数年の傾向であり、今後もしばらく続いていくと見られる。
しかしそれに加え、昨年、今年辺りからジャーリーグでは期待の若手との長期契約が多くなってきた。
そしてこの傾向も同じくしばらく続きそうなのだ。新しい波になることは間違いないと思われる。
ここで代表的な例を挙げてみたい。
まずは2007年オフにロッキーズと長期契約を結んだトロイ・トゥロウィツキー。
昨年トゥロウィツキーはフルシーズン1年目ながら、
ナリーグ優勝を果たしたチームの正遊撃手として攻守に活躍、
新人王投票では僅差の2位に入るなど、かなりハイレベルな成績を残した。
同オフに6年3100万ドルで、メジャー2年目の選手としてはかなり高額な長期契約を結んだ。
そのトゥロウィツキーを跳ね除け、
昨年の新人王に輝いたブルワーズの長距離砲ライアン・ブラウンも
今月15日にこちらはなんと8年4500万ドルで契約した。
ブラウンの実力も既に折り紙つきで、昨年シーズン途中のデビューにも関わらず、3割30本を記録。
規定打席外だったが、長打率ではナリーグトップだった。
そして最も驚きだったのが、レイズのエバン・ロンゴリアだ。
こちらは今年メジャーデビューした選手で、
まだ数試合しか出場していない4月18日に6年1800万ドル+3年オプションという長期契約。
確かに打撃も守備も抜群で、将来のMVP候補にも名前が挙がる。
しかしメジャー1年目で将来を感じさせる好成績を残したトゥロウィツキーやブラウンと比べれば、
契約額は低いものの、かなり賭けに出た行動だといえる。(成功の可能性は確かに高いが)
また2006年新人王であり、現在メジャートップクラスの選手であるハンリー・ラミレス(マーリンズ)も
5月17日に6年7200万ドルで長期契約に合意した。
ラミレスは既に2年の濃いキャリアがあるが、それでもまだ年俸調停(*1)の権利さえ得ていない選手、
そんな若手と財政難のマーリンズがこんな契約を結ぶのもかなり驚きだ。
天才打者ミゲル・カブレラや2005年最多勝のドントレル・ウィリス(共に現タイガース)にも
オファーしなかったような内容だからだ。
それではなぜこのような状況が生まれてきているのか。
まだキャリアが浅いにも関わらず長期契約をしている上記の選手達にはある共通点がある。
それは①所属チームの資金が少ない②チームの中心になれる選手だということだ。
まずは所属チームの都合面からこの傾向を見ていこう。
上記の例だとコロラド、ミルウォーキー、フロリダはMLBの中で決して裕福なチームとは言えない。
そのため若手が大きく成長し、FA権を得てしまうと、その選手を残留させるほどの資金が出せないのだ。
いい選手ほど高い値が付き、結局ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市に本拠を構えるチームに引き抜かれる。
もしくは大金で引き抜かれる前にトレードに出し、見返りとして若手を得るという決断も迫られる。
最近で言えば前述のカブレラ、ヨハン・サンタナ(ツインズ→メッツ)、トリー・ハンター(ツインズ→エンゼルス)などがそうだ。
よってそういう対象になりそうな選手なら、若いうちに安値で長期契約を結んでおいたほうがベターかもしれない。
分かりやすくするために2012年にFAを取得するはずだったハンリー・ラミレスを例に出そう。
もしラミレスがマーリンズと今回の長期契約を結ばず、
現在残している成績を12年まで残し続けた場合、
最強ショートとして大都市のチームが
総額1億ドル(100億円)以上で買い叩いていたのは間違いない。
その時マーリンズは保障としてドラフト上位指名権を得るが、ラミレスを止める術はない。
しかし今回の長期契約によって、マーリンズは2014年までラミレスの所有権を得たのだ。
ラミレスは現在24歳だから、恐らく全盛期はマーリンズで迎えることになるだろう。
この様にFAになった選手を繋ぎ止めるほどの資金が無いチームは、
有望な選手との長期契約がそれを回避するいい手になる。
次に現在長期契約を結んだチームは、そのチームの中心となり得る選手と契約していることが分かる。
成績面ではオールスタークラスの成績を残し、チームの顔として活躍するような選手だ。
別の面から見ると、関連グッズが最も売れる選手と言ってもいいだろう。
他の選手のみならずファンからも頼りにされる選手、そんな選手に球団としては出来るだけ長い間所属していて欲しい。
現在のメジャーリーグを見渡してみると、ヤンキースのデレク・ジーター、
マリナーズのイチロー、カージナルスのアルバート・プーホルスらの名前が挙がる。
「球団名を言えば、彼の顔と名前が浮かぶ」ようなフランチャイズスター達だ。
若い頃からの長期契約により、球団からの期待と責任感を背負う。そしてそれに打ち勝つ。
こんな状況が次のスーパースターを生む可能性は高いだろう。
その結果が現在の若手長期契約インフレを呼んでいるのだ。
確かにリスクは大きい、しかし既に成熟した選手よりは球団の出費も少なくて済む。
これから数年この傾向は続くだろう。誰もが最高のフランチャイズスターを欲しがっている。
そしてこのトレンドが終わるときは、期待に押しつぶされた若手が出てきてしまった時だろう。
*1:メジャー歴3年以上だが、まだFAを取得していない選手が、球団側に成績に見合った年俸を求めること。球団側と選手側の希望額を出し合い、調停委員会が適切な方に決める。


