私が現在、T派遣会社の派遣社員として、籍を置いている企業では、約二千人の人達が働いている。
正社員と派遣社員の比率で言ったら、六対四くらいだろうか。
それでも、その規模の企業だと、必要な派遣社員の人員を、一つの派遣会社だけでは、到底供給出来るものではない。
従って、常時七社くらいの派遣会社が提携していて、それぞれ数人から数十人の人員を、企業先に派遣している。
そして、各派遣会社には、派遣社員の労務管理を担当している管理職が、常駐か非常駐かの違いはあれ、一人か二人は必ず存在している。
そんな派遣会社というのは、往々にして、提携先の企業に、多くの人員を派遣すればするほど、儲かる仕組みになっている。
その人員✖️マージンが、派遣会社に利益として入るからだ。
そこで血気盛んになってくるのが、派遣会社の管理職である。
派遣会社の管理職は、営業も兼ねているので、人当たりの良さの裏で、常に人員確保に血道を上げているものだ。
例えば、T派遣会社に所属している派遣社員に、T派遣会社は、派遣業務から手を引くみたいだから、今のうちにU派遣会社に移籍しておいた方が良いですよ、という噂を、U派遣会社の管理職が、意図的に流すことだってある。
勿論ガセネタだが、そこまでしても、人員を自分の派遣会社に引き入れたいのかと、呆れた記憶がある。
しかし、万が一にでもそんなことが罷(まか)り通ったら、同じ提携先の企業に入っている派遣会社同士で、人員の奪い合いが起こってしまうだろう。
ただ、今のところ幸いにして、そんな血みどろの闘いめいたことは、起こっていない。
それでも、そんなことををうっすらと匂わせる貼り紙が、各派遣会社毎に設置されているタイムカードの壁際に、何食わぬ顔で、ぴらりと貼られていることがある。
例えば、B派遣会社の貼り紙には、B派遣会社に所属している派遣社員が、友人を一人紹介すると、紹介料として、最大七十万円を支給すると記してある。
更に、紹介された友人にも、最大二十五万円を支給すると記してあるのだ。
明らかに、お金で人心を釣ろうという魂胆が見え見えの、品位のない貼り紙ではある。
B派遣会社はそこそこ大手で、資金力もあるから、そこまでの大盤振る舞いが出来るのだろうが、それにしても、その貼り紙を見る度に、心が釣られそうになる派遣社員は、きっと私だけではないだろう。
私が配属されている職場にも、B派遣会社に所属している派遣社員は何人かいるので、そのうちの誰かに頼んで、友人として紹介してもらおうかなあと、ちらりと考えたことすらある。
やはり一括で受け取れるニ十五万円は、魅力的だからだ。
そんなふうに心が揺れ動いたこともあったので、これはそのうち、一波乱あるに違いないと、何処かで踏んでいたところがあった。
そうしたら、予想通りの話を耳にすることになったのだ。
・・・ 美しい均衡を保って生きる!!!〈後編〉へと続く ・・・
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