黄昏サーカスの曲芸電車〈後編〉 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

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彼女達は一様に、長い黒髪を一筋の乱れもない完璧なアップに結い上げ、手入れの行き届いた美しい身体のラインをそのまま拾う、レオタードのようなボディコンシャスの衣裳に身を包んでいた。

その衣裳は、なまめかしいルビー色に艶めく絹製で、同色の薔薇の刺繍とスパンコールによって、華やかに飾られていた。

睫毛と唇を強調した派手なメイクを施した女性達は、関節が柔らかく、まるで蛸のように身体をくねくねとくねらせながら、次々と人間離れした曲芸を披露し始めた。

上半身を思い切り後ろに仰け反らせたかと思うと、股の間から笑顔を覗かせて手を振ったり、三人が仰向けになって重なり合い、六本足の百足(むかで)のようにして、うねうねと練り歩いたり、そうかと思えば、三人が一直線にぴたりと並んで、千手観音を思わせるような、複雑で華麗な腕の動きを繰り広げた。

曲芸が披露されている間、電車内のスピーカーからは、陽気な中に、物悲しさが見え隠れする、琉球音楽のような曲が、流れ続けていた。

そうして最後に、三人揃って見事な海老反りを決めた時、伸びやかな白い素足は、肩の先でゆらゆらしていた。

その足の指の間に、いつの間にか挟まれていた大輪の真紅の薔薇が、丁度あなたの鼻先に差し出された。

その瞬間、高貴で馥郁(ふくいく)たる蜜の香りが、鼻腔を誘うようにして、しっとりと擽(くすぐ)ってくる。

それから、受け取ってくれと言わんばかりに、足先をくいっくいっと器用にくねらせるので、あなたは少々辟易(へきえき)しながらも、足の指の間に挟まれている真紅の薔薇を受け取った。

すると彼女達は、指の先まで洗練された動きによって、海老反りの体勢を美しく解いて、跳ねるように立ち上がった。

全ての動きにおいて、無駄が一切省かれている、実に機能的な動きだった。

続いて、姿勢をすっくと正すと、登場した時と同じようにして、連打される銅鑼の音に見送られながら、その車両から颯爽と立ち去って行った。

再び電車の中は、ごとごとと揺れる硬質な音に縁取られた沈黙に、支配されることになった。

一見、サーカスの曲芸が披露される前と、何も変わっていないかのように感じられる。

けれども、その車両内の空気感は、今は明らかに柔らかくなり、乗り合わせた人々の表情にも、穏やかさや優しさが浮かんでいた。

サーカスの妖しげな曲芸が似合う黄昏時を挟むことによって、重くなった一日分の記憶が、多少なりともリセットされるようだった。

本格的に一日分の記憶がリセットされるのは、夜に迎える睡眠によってだろうが、その準備段階として、黄昏時にも軽いリセットを挟める方が、本格的なリセットも、深まりやすいというものだ。

そうして、そんな黄昏時を味わった証として、その時のあなたの手許にあるのが、大輪の真紅の薔薇というわけだった。

それは、西の空に燃え盛る夕映えの一欠片のように、あなたの胸元で、ほんのりと情熱を滲ませている。



         ~~~ 完 ~~~



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義理チョコ佐藤美月は、小説家・エッセイスト・ライター・コラムニストとして、活動しております。


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