抱き締め屋さん〈全四景~第三景~〉 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

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山形県庄内からの新鮮便。採れたての物語を召し上がれ。
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庄内多季物語工房へ、ようこそおいで下さいました。

山形県庄内地方は、澄んだ空気と肥沃な土壌、そして清冽(せいれつ)な水に育まれた、新鮮で滋味豊かな野菜や果物の宝庫です。

それに加えて、時に不思議な光景に遭遇する土地でもあるのです。

今回、物語収穫人である私、佐藤美月が遭遇致しました不思議な光景は、全部で四編に分けてお届けしております。

それでは第三景を、どうぞこちらから、ご堪能下さいませ。



くまクッキー本命チョコくまクッキー本命チョコ



『抱き締め屋』さんの話は奇妙であるだけに、実に興味深くもありましたが、何分夜勤明けで思考が停止していたために、その話を聴いてどうするかまでは、全く考えていませんでした。

けれども、ある程度睡眠を取り、再び健やかな思考力を取り戻してみると、私もぜひ『抱き締め屋』さんに逢いに行きたいという気力が、ふつふつと漲(みなぎ)ってくるまでになりました。

きっと、夜勤明けで出涸らしのようになっている私自身と、ある程度疲労が回復してからの私自身は、別人であるに違いありません。

人という生き物は、その時の状態によって、考える内容が結構変わるものです。

そこで、『抱き締め屋』さんに逢いに行くためには、蜂蜜を用意する必要があると思い、ダイニングキッチンにある食器棚を確認してみました。

普段から、紅茶やホットレモネードなどに蜂蜜を垂らして飲むのが好きなので、冬でも結晶化しにくいアカシア蜂蜜を常備していました。

食器棚には二瓶あり、使い掛けの物が一瓶と、まだ未開封の物が一瓶ありました。

その未開封の瓶を持って行こうと思いましたが、その日はもうとっぷりと日が暮れて、窓の外は、濃密な暗闇に包まれていました。

いくら行儀の良い熊であったとしても、野生の獣と暗闇の中で対峙するのは、避けたいものです。

白昼の間は、確かに温厚な『抱き締め屋』さんなのかも知れませんが、暗闇が野性を刺激した途端、危険な獣に豹変する可能性も、ないとは言い切れない気がしたからです。

そういった理由から、翌日の朝になるのを待って、小さめのトートバッグに蜂蜜の瓶を入れると、それを携えて、鶴岡公園へと徒歩で向かいました。

その日の天空における主役の座は、鈍色(にびいろ)に濁った雨雲が、どっしりと占めていました。

そんな中、上品な真珠色に輝く太陽の存在を探しましたが、解(ほつ)れた穴のような雲の隙間から、ちらちらと見え隠れするだけでした。

大気は冷たく感じられましたが、雪国特有の棘を刺すような厳しい冷たさではなく、それこそ先が丸くなった棘から、つんつんと軽くつつかれているような、円やかな冷たさしか感じられませんでした。

つくづくと、暖冬になったものだと思わざるを得ませんでした。

そうしてその道中、そう言えば、熊とは冬眠する動物ではなかったかということに、ふと思い至りました。

きっと、異常気象の影響を受けていない、身体の芯まで寒さが鋭く突き刺すような健全な冬であれば、『抱き締め屋』さんを名乗る熊も、今頃は巣穴に籠って、こんこんと冬眠している最中だったのでしょう。

ところが、暖冬の影響によって活動的になり、その分の栄養を補給しないといけなくなったので、蜂蜜を手に入れる手段として、『抱き締め屋』さんを始めたのかも知れません。
 
勿論、それが真相というわけではないでしょうが、それでも、あながち的外れでもないような気がしてきました。

そんなことをつらつらと思い巡らしながら、住宅街や官公庁の建物の間を抜け、寒空の下を十分ほど歩いているうちに、鶴岡公園の池の前にある木製のベンチが見えてきました。

実際に足を運んでみたところで、必ず逢えるという保証はありませんでしたが、もしも『抱き締め屋』さんと逢えなかったとしても、残念に思う反面、心の何処かで安堵しているような気もしていました。

何だかんだ言っても、逢いに来ているのは野生の熊なので、やはり恐怖心を拭い切れていなかったからです。

どちらに転ぶにしろ、後は出たとこ勝負で行くしかないと思っていました。

果たして、すっかり葉を落として裸木になった桜の木が、その複雑な枝を差し掛けている木製のベンチには、茶色の毛並みをした、身体がずんぐりと大きい熊が、両足を揃えた状態で、行儀良く腰掛けていました。

職場の後輩に教えてもらった通り、その近くにはイーゼル式の黒板が出ていて、そこには確かに『抱き締め屋』という文字が記されていました。

むくむくとした毛むくじゃらの身体が人間の三倍くらい大きいので、最初は怖じ気付きましたが、その一方で、何となく柔和な面差しをしているように感じられました。

もしかしたら、雌熊なのかも知れません。

どのようにコミュニケーションを取ったら良いのか悩みながらも、少しずつ近付いていくと、とうとう『抱き締め屋』さんの目の前に立ちました。

そこでお願いしますという意味を込めて、深々と頭を下げました。

それから恐る恐る顔を上げると、熊の方でも、丁寧に一礼を返してくれました。


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・・・ 抱き締め屋さん〈全四景~第四景~〉へと続く ・・・




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