海に消えた魂達が、虹色に光る日〈全四景~第四景~〉 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

山形県庄内からの新鮮便。採れたての物語を召し上がれ。
あなたが初めて出逢ったのに、不思議と懐かしさを感じる世界が、ここにあります。
佐藤美月〈小説家・エッセイスト〉のブログへようこそ。




いらっしゃいませ。そしてお帰りなさいませ。

庄内多季物語工房へ、ようこそおいで下さいました。

山形県庄内地方は、澄んだ空気と肥沃な土壌、そして清冽(せいれつ)な水に育まれた、新鮮で滋味豊かな野菜や果物の宝庫です。

それに加えて、時に不思議な光景に遭遇する土地でもあるのです。

今回、物語収穫人である私、佐藤美月が遭遇致しました不思議な光景は、全部で四編に分けてお届けしております。

それでは第四景を、どうぞこちらから、ご堪能下さいませ。



虹流れ星虹流れ星



そこで漸く、文庫本が入った包みを抱えていたことを想い出しました。

私の体温が移って、胸元で温かくなっています。

「…‥あ、これは文庫本で、一度は読んだことがある小説ばかりなんです。

でも、例えば海辺で潮風に吹かれて、波音を聴きながら読んでみたら、五感が刺激されて、また違う世界が味わえるんじゃないかと思って、持ってきてみたんです」

私は包みの中から一冊の文庫本を取り出すと、潮風と一緒に、ページをぱらぱらと捲ってみました。

それは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』でした。

すると、シャボン玉の大群の中から、一つのシャボン玉が遊離して、文庫本の近くにふわふわと寄ってきました。

まるでそれは、ナイトバザールの時に、人混みから遊離して、古本の露店の前にしゃがみ込んだ、私自身のようでした。

もしかしたら、現世では堪らなく小説好きだった魂が、そのシャボン玉と同化しているのかも知れません。

そんなことを考えていると、そのシャボン玉がくるくると高速で回り出し、それに合わせたようにして、文庫本に並んでいた繊細で美しい文章の数々が、次々と空中に浮き上がりました。

それから、シャボン玉の動きに巻き取られるようにして、瞬く間にそこに吸い込まれていったのです。

私は呆気に取られて、その奇妙な光景を眺めているしか出来ませんでした。

ふと我に返ると、手にしていた文庫本からは、全ての文章が綺麗に抜け落ちていました。

後に残されたのは、古びてはいるものの、すっかりまっさらになったベージュ色のページでした。

その様子を一緒に眺めていたシャボン玉使いの男性が、ハンドルを回す手は止めずに、こう口にしました。

「もし惜しくなければ、手許にある文庫本の文章を全部、そのシャボン玉と同化している魂に、捧げてやってもらえませんか?

今生で小説に触れるのは、これが最後でしょうから、なるべく思い残すことなく、昇天出来るようにしてやりたいんです」

私は文章を貪欲に吸い込んだ虹色に煌めくシャボン玉を見詰めて、静かに頷きました。

そこに宿っている魂はもしかしたら、小説家志望だった元同僚かも知れないと思ったからです。

そこで包みの中から、次々と文庫本を取り出すと、潮風に手伝ってもらいながら、ページをぱらぱらと捲っていきました。

太宰治の『人間失格』、森鴎外の『舞姫』、芥川龍之介の『鼻』、夏目漱石の『夢十夜』など、明治から大正に掛けて活躍した文豪達の素晴らしい文章が、くるくると高速で回転するシャボン玉の中に、どんどん吸い込まれていきました。

やがて全ての文庫本の文章を吸い込むと、そのシャボン玉はご機嫌なゴールデン・レトリーバーのように、私の周りをぐるぐると回りました。

それから、私の右頬に軽く触れると、他のシャボン玉に混じって、虹色に美しく煌めきながら、澄み切った青空へと昇っていきました。

そんな一部始終を見守っていたシャボン玉使いの男性は、近くに寄ってきていたゴールデン・レトリーバーの頭を撫でながら、こう言いました。

「あの魂はもしかしたら、あなたに縁(ゆかり)のある魂だったかも知れませんね。

何か、心当たりはありますか?」

はい、何となく、と言葉を濁して答えながら、まっさらになった文庫本のページを見詰めました。

まるで元同僚から、そこに新しい文章を記すのは、美月さんの役目だよと言われている気がしてなりませんでした。

こうして思わぬ形で、元同僚の魂を弔うことになりましたが、最後に好きだった小説を捧げられて、本当に良かったと思いました。

希望を宿したように虹色に煌めくシャボン玉の大群が、次々と吸い込まれるようにして、果てしない青空へと昇っていきます。

その様子を目を細めて見上げながら、今度はこの体験を小説にするからねと、元同僚の魂に誓いました。

その下で、少し波が荒くなっている冬の日本海は、大量の銀貨をばら蒔いたようにして、きらきらと豊かに輝いていました。



       ~~~ 完 ~~~



お月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあとお月様あしあと




セキセイインコ青当ブログの楽しみ方ガイドセキセイインコ黃 



当ブログは、メッセージ性の強いエッセイ&小説&ポエムで成り立っております。


エッセイをお楽しみになりたい方は、タイトルに☆マークが付いている記事をクリックしてみて下さい。


小説&ポエムをお楽しみになりたい方は、タイトルに☆マークが付いていない記事をクリックしてみて下さい。


ちなみに今回の記事は、小説&ポエムに当たります。


また、テーマ別にお楽しみになりたい方は、テーマ別でカテゴリー分けされていますので、テーマ別の一覧を確認して、クリックしてみて下さいね。


当ブログの世界観を経験することで、より豊かな人生に移行し、生きることを更に楽しめるようになることでしょうラブラブおねがいラブラブ





義理チョコ佐藤美月は、小説家・エッセイスト・ライター・コラムニストとして、活動しております。


執筆依頼は、こちらから承っております🎵↓