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風には、翼が生えている。
しかし通常は、目には見えないから、そのことを知らずにいるだけなのだ。
だが、改めて考えてみると、空中を飛翔していく者達は、どんなにささやかな肢体をしていても、翼や羽根の類いを持っているものだ。
翼竜、鳳凰、鳥、蝶、トンボ、セミ、カブトムシ、蜜蜂、蚊、蝿、テントウムシに至るまで、空中を身軽に飛翔していく者達は、その種族の徴(しるし)であるかのようにして、翼や羽根が生えている。
それ故に、風も例外ではないのである。
ただし、風に翼が生えていることを知っている者は、ディアモーガン大陸広しと言えども、風使いくらいのものだろう。
風使いとは、風を自在に操ることが出来る、特殊な血筋を受け継いだ種族である。
凄まじく鋭敏な感覚の持ち主である風使いは、風に翼が生えていることを、感じ取れる能力があった。
それだけに、風の翼が傷んでいたり、折れてしまっている状態なども、自分のことのようにして、克明に感じ取れるのだった。
それは、空中を飛翔する者達でも、翼や羽根が傷んでいたり、折れてしまっている状態だと、一時的に飛翔出来なくなることと、全く同じ理屈が働く。
だからこそ、翼が負傷している風達を、定期的に、修繕してやる必要があった。
その役目は、当然ながら、風のことを誰よりも良く知っている、風使いが担っていた。
しかしながら、ディアモーガン大陸では、風使いの存在自体、ごくごく限られた人間しか知ることのない、極秘の存在だった。
何となれば、風を自在に操れるので、そのことが知れ渡ると、他国侵略の際に、悪用される恐れがあるからだった。
風を自在に操れるということは、自分の都合の良いタイミングで、竜巻を起こせるということであり、嵐を起こせるということであり、津波を起こせるということだった。
その凄惨な力を持ってすれば、他国の国力を疲弊させることは勿論、叩き潰すことも可能になってくる。
だからこそ、風使いの存在そのものは、ごくごく限られた人間だけが知り得る、極秘の情報とされていた。
そうして、ディアモーガン大陸の中で、有力な覇権を誇ると評判の大国の一つに、ランドラン王国があった。
そのランドラン王国には、風使いの血筋を受け継ぐ者が、たった二人だけ、存在した。
だが、風使いの存在は極秘なため、表向きには、大道芸人として生きていた。
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・・・風の翼が癒える時〈後編〉へと続く・・・