いらっしゃいませ。そしてお帰りなさいませ。
庄内多季物語工房へ、ようこそおいで下さいました。
山形県庄内地方は、澄んだ空気と肥沃な土壌、そして清冽(せいれつ)な水に育まれた、新鮮で滋味豊かな野菜や果物の宝庫です。
それに加えて、時に不思議な音色に遭遇する土地でもあるのです。
今回、物語収穫人である私、佐藤美月が遭遇致しました不思議な音色は、四幕に分けてお届けしております。
それでは、第四幕を、どうぞこちらから、ご堪能下さいませ。
「確かに、もう十年以上、ヒーリング・エネルギーを使って、浄化していますね。
だから白い鳳凰が、守護してくれるようになったのでしょうか?」
「その可能性は、高いですね。
白い鳳凰の担当である浄化の分野を、促進する役割を、担っていらっしゃるわけですから。
お客様自身が浄化された状態で生きていらっしゃるだけで、その素晴らしい影響は、周囲の人々にも、確実に及んでいます。
ぜひ、今日お買い求め下さった風鈴を、夏中窓辺に飾っておいて下さいね。
そうすることによって、白い鳳凰との結び付きが強まりますし、ご自身の浄化の度合いも、より一層、深まっていくと思いますので」
私は何となく嬉しくなって、丁寧にお礼を口にすると、風鈴屋を後にしました。
風鈴屋の男性に言われた通り、風鈴を良く風に晒すようにして、ぶらぶらとぶら下げて歩いて行きました。
風鈴は、歩く速度に合わせて、チリンチリンと可愛らしい音色を響かせます。
噂では、絵付けされた風鈴は、独特の音色を響かせるようになると聞いていましたが、今のところは、その気配はありませんでした。
ところが、自宅に持ち帰り、窓辺に飾った途端、風鈴の音色が、明らかに変化したのです。
もしかしたら、アクリル絵具が完全に乾き切ったからなのかも知れません。
その時点で初めて、絵付けが完了したと見なされるのでしょう。
美しい白い羽根が描かれた風鈴の音色は、しゃらんしゃらんと響き渡りました。
それは白い鳳凰が、豊かな翼を羽ばたかせている時の、羽音のようにも聴こえました。
そうして、魂の奥まで瞬時に響き渡って、一瞬で浄化されるような、軽やかで繊細な音色でした。
ふと窓越しに空を仰ぐと、そこには鳳凰を彷彿とさせる形の薄雲が、悠然と伸び広がっていました。
私は心の中で、深い感謝の気持ちを込めながら、白い鳳凰に話し掛けました。
白い鳳凰様、私を守護して下さって、どうもありがとうございます。
これからも、どうかよろしくお願い致します。
すると不思議なことに、風鈴がそれに応えるかのようにして、しゃらんしゃらん、しゃらんしゃらんと、立て続けに高らかに鳴り響きました。
きっと白い鳳凰に、私の想いが伝わったのだと感じました。
その風鈴の心地好い音色が聴けただけでも、充分尊い贈り物を貰ったと感じていました。
それでその夜は、いつになく満ち足りた気持ちで、深い眠りに就いたのです。
そんなふうにして、安らかで深い眠りが得られる時は、浄化が行き届いている証拠でもありました。
しかし、白い鳳凰からの贈り物は、それだけに留まりませんでした。
翌朝すっきりと目が覚めて、風鈴を飾ってある窓辺を見やると、そこに白銀色に煌めく美しい羽根が一枚、残されていることに気付いたのです。
私は咄嗟に飛び起きて、窓辺に駆け寄ると、その羽根をそっと手に取りました。
その途端、風鈴が再び、しゃらんしゃらん、しゃらんしゃらんと、立て続けに高らかに鳴り響きました。
きっと、白い鳳凰の羽根だということを、それで知らせたかったのでしょう。
私はその白銀色の羽根を、窓辺から射し込んでくる朝陽に翳しました。
ふさふさした柔らかな羽根の表面に、崇高な白銀色の煌めきが宿っており、眺めているだけで、清らかな浄化のエネルギーが、全ての細胞に染み込んでいくようでした。
私は心の中で、白い鳳凰に丁寧にお礼を言いました。
するとそれに応えるかのようにして、風鈴が再び、しゃらんしゃらんと鳴り響いたのです。
私はこの夏中、その不思議な音色と共に、過ごすことになりそうです。
~~~ 完 ~~~
佐藤美月は、小説家・エッセイストとして、活動しております。執筆依頼は、こちらから承っております。→執筆依頼フォーム