時間の幻術師が操る時間の宝珠〈後編〉 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

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それらのことを踏まえた上で、あなたに一つ、提案してみたいことがある。

普段は恐らく、時間に追われて生活することが多いだろうから、たまには一日くらい、時計で計測する時間を忘れて、過ごしてみてはどうだろうか。

イメージとしては、暖かい南の島で、のんびりと寛いで、過ごすような感覚である。

目の前に広がるのは、透明度の高いエメラルドグリーンの海と、照り付ける陽射しを反射して煌めく、美しい白い砂浜。

沖に目を転じると、そこに現れた鯨の親子が揃って吹き上げる潮が、アクアマリンのように澄み切った青空へと昇って行く。

そんな場所ですることと言えば、椰子の木陰に広げられたデッキチェアーに寝そべって、甘く冷たいトロピカルジュースを飲みながら、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』を読むことくらいだろう。

そんなゆったりとした寛ぎの中で、経過する時間を知る術は、穏やかに刻まれる波の音と、青空を旅していく太陽の角度と、あなたの腹時計くらいのものだろう。

あなたが暮らす地球に巡って来るのは、ドラマチックな朝と昼と夜である。

決して午前七時や、午後八時などという、時計の長針と短針で計測するような、無味乾燥な数字ではない。

そして、昼と夜の間には、ワンクッション差し挟まれる、印象深い時間帯がある。

それこそが、空が美しいグラデーションを描いて見せる、黄昏時である。

水平線に接している空の縁から、天空へと向かって、見事な色彩の地層が積み重なって行く様子を堪能出来る。

珊瑚色マンダリンオレンジ、レモン色、クリーム色と、次第に色彩が白茶けて行ったかと思えば、今度はそれが逆転して、露草色、薄紫色、濃紫色、藍色と、次第に色彩が濃くなっていく。

その幻想的なグラデーションを夢中で追っていくうちに、いつの間にか、日はとっぷりと暮れている。

黄昏時というものは、大概短く感じるものだが、それは時間の幻術師が、時間の宝珠を、華麗に操る時間帯だからである。

そうしてそれは、空の美しさに夢中になることによって、心の中にある憂いをすっかり忘れさせてくれる、幸福で濃密な時間帯なのである。



        ~~~ 完 ~~~


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義理チョコ佐藤美月は、小説家・エッセイストとして、活動しております。執筆依頼は、こちらから承っております。→執筆依頼フォーム