時間の幻術師が操る時間の宝珠〈前編〉 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

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時間というものは、本来ならば、煙が作り出す奇っ怪な形のように、変幻自在な姿を取るものである。

それ故に、精巧な時計の長針と短針とで、きっちりと律儀に、計測出来るような代物ではないのである。

そもそも、正確な目盛りが刻まれた時計を使って、変幻自在な時間を計測する行為は、極めて獰猛な野獣を、動物園の檻に閉じ込めて、鑑賞するような行為でしかないだろう。

その証拠に、あなたが好きなことに夢中になっている時には、ふと気が付くと、突風のようにあっという間に、時間が過ぎ去っていることがある筈だ。

まるで手品師のシルクハットの中に、兎が一瞬にして消え去ってしまったかのように。

または、あなたが然程気乗りのしないことを、嫌々ながら行っている時には、時間は遅々として、進まないように感じられることがある筈だ。

まるで巨大な水槽の底に、水が一雫、一雫、ゆっくりと溜まっていくのを、じりじりと待っているかのように。

実は時間というものは、時間の幻術師の管轄下にあるものである。

妖艶なベネチアンマスクのように、怪しげな微笑みを浮かべた幻術師の掌に乗っている時間は、虹色のマーブル模様が美しく混ざり合った、丸い宝珠の形をしている。

その宝珠が、丁度一瞬に相当するのである。

それではここで、あなたにだけ、ずっと秘められていた時間の秘密を明かしてみよう。

実は時間というものは、一瞬一瞬が全く別物として区切られていて、繋がってはいないのだ。

だからこそ、時間の幻術師が、時間の宝珠を操るままに、変幻自在に、その長さを変えるのである。

時間が突風のようにあっという間に過ぎ去ったと感じられる時には、幻術師の手の中にある時間の宝珠が、蒼白い焔に包まれた後、跡形もなく燃え尽きている状態である。

それから、時間が遅々として進まないように感じられる時には、幻術師の手の中にある時間の宝珠が、鳥黐(とりもち)のようにして、何処までも引き伸ばされている状態なのである。

そんなふうにして、時間というものは、時計で計測している時のように、一定の速度で経過するものではなく、時間の幻術師のその時の気分によって、一瞬毎に、長短が変わっていくものなのである。


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・・・時間の幻術師が操る時間の宝珠〈後編〉へと続く・・・



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