夕陽の王国に捧げるタペストリー〈全十幕~第一幕~〉 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

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香澄(かすみ)が住んでいるアパートの古びた郵便受けに、一通のエアメールが届けられていた。

差出人は、わざわざ確かめるまでもなく、大体察しが付いた。

恐らくは、香澄の母方の叔父である。

彼は、親族の間では、放蕩者と名高い人物だった。

一体何を生業にしているのかと言えば、海外の国を転々としながら、面白そうな外国文学を発掘しては、日本語に翻訳することを行っていた。

その傍ら、風変わりな小説やエッセイなども、執筆したりする。

全うな仕事に就いている常識的な人間の多い親族の間では、その評判は、決して芳しいものではないが、翻訳者としては、それなりに名の知られた人物だった。

そもそも日本にいること自体が少ないので、香澄にしても、数えるほどしか、顔を合わせたことはない。

それでも、日本に帰国している時には、わざわざ時間を作ってくれて、一日中、香澄に付き合ってくれるのだった。

叔父が連れて行ってくれたディズニーランドや水族館、海水浴や高原へのハイキングなどは、大人になった今でも、良い思い出として、記憶に残っている。

叔父とは滅多に顔を合わせないせいなのか、親や教師や友人には打ち明けられないことでも、何かと相談しやすい不思議な存在だった。

「好きな人を振り向かせるには、どうしたら良いの?」

「人間が生きていく意味って、何処にあるの?」

「どうやったら、今よりも幸せになれるの?」

「選択肢が複数ある時には、何を基準に選んだら良いの?」

その時々で疑問に感じていることを、叔父には素直に、ぶつけることが出来た。

そうすると、叔父は穏やかな微笑みを浮かべながら、直接その質問に答えてくれることもあったが、時には、少し風変わりな手法を駆使して、答えてくれることもあった。

その手法とは、質問の答えを物語に包み込んで、香澄に提示してくれるのだ。

香澄にしてみれば、答えが分かればどちらでも構わなかったが、それでも、物語仕立てになっていると面白いし、ストーリーが進む過程で、自分なりに色々と考えることがあり、その結果として、答えを手にするので、より理解が深まる感覚はあるのだった。

そうして、二ヶ月ほど前に、久々に叔父が帰国した際にも、東京の浅草に連れて行ってくれて、スカイツリーや浅草寺などを、回って歩いたのだった。

その時にも、思い付くままに、幾つかの質問を投げ掛けたものだが、たった一つだけ、直接答えてはくれない質問があった。

それは、こんな質問だった。

「人生を劇的に変えるには、どうしたら良いの?」


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・・・夕陽の王国に捧げるタペストリー〈全十幕~第二幕~〉へと続く・・・



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