白い沈黙が降り積もる庭 | 佐藤 美月☆庄内多季物語工房 ~心のエネルギー補給スペースへようこそ~

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山形県庄内からの新鮮便。採れたての物語を召し上がれ。
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いらっしゃいませ。

本棚迷宮へ、ようこそおいで下さいました。

ああ、ブログを間違えてはいませんよ。

この空間は、庄内多季物語工房の中にある一角です。

ただ、今宵は、金と銀に分かたれた双子の月が輝いていますので、時空に歪(ひず)みが発生しているのです。

どうやらあなたは、その歪みに迷い込んでしまわれたようですね。

それでは、せっかくですので、今暫く、お付き合い願えますでしょうか。

どのみち、銀の月が金の月に重なり合うまでは、この迷宮から出られないようになっていますので。

ああ、申し遅れました。私は、本棚迷宮の管理人、桜葉影人(えいと)と申します。

以後、お見知り置きを。

さて、今宵は、あなたも良くご存知の本のページの構成について、少し風変わりな見地から、つらつらと紐解いてみたいと思います。

一体に本というものは、選び抜かれた限定数の言葉達と、選ばれることのなかった無数の言葉達によって、構成されています。

選び抜かれた限定数の言葉達が、何列にも渡って、整然と並んでいる様は、まるで黒々とした蟻が大群を成して、行進しているようにも思えます。

それに対して、選ばれることのなかった無数の言葉達が、何列にも渡って、整然と並んでいる様は、いわゆる行間と呼ばれますが、まるで白い沈黙が、雪のように淡々と降り積もっている庭のようにも思えます。

本のページを開きますと、黒々とした蟻の大群の行進と、白い沈黙が降り積もる庭とが、交互に存在していることに、お気付きになるでしょう。

その完璧に保たれた美しい規則性は、どのページを開いても、過(あやま)たず、見出されることになります。

人々が本を読むことの効用の一つとして、知らず知らずのうちに、静かな気持ちに包まれていくということが挙げられます。

それは、この完璧に保たれた白黒の規則性によるところも、要因の一つではあるでしょう。

そこで、選び抜かれた限定数の言葉達と、選ばれることのなかった無数の言葉達との関係性を、感じ取ってみることにしましょう。

その二つの関係性は、こちらが主役で、あちらが脇役というようなものではなく、常に互いが互いを支え合う、どちらも無くてはならない、リバーシブルの関係であると言えるでしょう。

時には、選び抜かれた限定数の言葉達の存在に、癒されたり、救われたりすることがあるものです。

そうして時には、選ばれることのなかった無数の言葉達の存在にも、同じように癒されたり、救われたりすることがあるものです。

ですから、本のページを開いた時に、その時のあなたに必要なことは、選び抜かれた限定数の言葉達の文字列を、読み取って行くことではないかも知れません。

その周りにひたひたと満ちている行間や余白などの白い沈黙が降り積もる庭を、ただ眺める一時があるだけで、心が落ち着くこともあるでしょう。

そこには、何も存在していないかのように思えるかも知れませんが、選ばれることのなかった無数の言葉達が、密やかに、息衝いているのです。

それらの選ばれることのなかった無数の言葉達に出逢いたくなった時には、また違った本を、読んでみることです。

そこには、別の本では選ばれることのなかった無数の言葉達の一部が、選び抜かれた限定数の言葉達として、登場していることでしょう。

常日頃から、読書量の多いあなたは、選び抜かれた限定数の言葉達と、選ばれることのなかった無数の言葉達とに、数多く、出逢っていることになります。

その出逢いによって、あなたの人生が、より豊かなものに育まれていることは、間違いないでしょう。

僭越ながら、この庄内多季物語工房のブログの中にも、あなたとの出逢いを待ち侘びている、選び抜かれた限定数の言葉達と、選ばれることのなかった無数の言葉達とが、存在しております。

これからも、その言葉達との出逢いを、存分に楽しんで行って頂ければと思います。

…‥そろそろ、銀の月が金の月に、重なり合う刻限がやって参りました。

そうなったら、時空の歪みは正され、あなたはこの迷宮から抜け出ることが可能になります。

勿論、このままこの異空間に留まることも、普段通りの日常生活に戻っていくことも、どちらでも選べます。

ただ、どちらを選ぶにしろ、あなたの世界観は、本棚迷宮に迷い込んでいらした時と比べると、微妙に違うものになっている筈です。

ですから、どちらを選んだところで、本来は、さほど変わりはないのです。

…‥今、銀の月が金の月に、完全に重なり合いました。

あなたにお逢い出来ました喜びを胸に秘めつつ、本棚迷宮の管理人である私は、お暇(いとま)しなければなりません。

それでは、今宵も最後までお付き合い下さいまして、誠にありがとうございました。

また機会がありましたら、お逢い致しましょう。


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義理チョコ佐藤美月は、小説家・エッセイストとして、活動しております。執筆依頼は、こちらから承っております。→執筆依頼フォーム