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東京都青少年健全育成条例の改正案可決

 表現の自由の侵害に当たると批判されてきた東京都青少年健全育成条例の改正案について、作者が表現した芸術性、社会性などを酌み取り、慎重な運用を求める付帯決議付きで、12月13日の都議会・総務委員会の採決を経て[1] 、12月15日の本会議で可決された[2]
 この改正案に反対の立場を取っていた民主党が賛成に方針転換し、自公民3会派が合意したことで、可決に至った。

 この改正案は、前回提示された条例案が6月に否決され、修正したものである[3] 。前回の条例案に登場し、有名となった「非実在青少年」規制が削除されているが、根本的な規制の枠組みは変化していない。
 正確には、2月に提出された原案で「非実在青少年」という造語が登場し、その後、「描写された青少年」と文言を変更したが、6月に否決されていた。

 旧案では、第7条にて、「自主規制」(そもそも法や条例によって定められたものは自主規制とは言えないから、「」を付する)の対象に「非実在青少年」の性的行為に関するものを加えていたのだが、「非実在青少年」の性的行為に関する規定を削り、法に触れる性的行為や婚姻を禁止されている近親者間における性交または性交類似行為を不当に賛美または誇張した描写に対する規制を加えている。
 さらに、第8条にて、そのような図書のうち、特に強姦などの著しく社会規範に反する性交または性交類似行為を、著しく不当に賛美または誇張することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく妨げるものについて東京都規則で定める基準に該当し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるものについて、不健全図書に指定できるよう規定している。

 こう見ると、「非実在青少年」を削除したように見えるが、実際には、「非実在青少年」の性的行為に関する描写は多くの場合「(淫行条例、児童福祉法などの)法に触れる性的行為」と見なされるだろう。さらに、年齢に関する直接の規定が設けられていないため、「非実在青少年」の行為に限定されず規制することができる。先の条例案に比べても規制の対象は拡大していると見なせる。さらに、「不当に賛美誇張する」という文言も主観的であり、規制の曖昧さも問題といえる。
 また、「婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為」とあるが、近親者間における婚姻は禁止されていても、性交行為自体は禁止されていない。つまり、そのような行為自体は法律上も問題とはされていないのである。それにも関わらず、それを描写することを規制するとはどうしたことであろうか。

 また、このほか、前回の改正案に存在した問題のある規定が今回の改正案にも存在している。たとえば、第18条の6の3(旧案では第18条の6の5)では、13歳未満の児童が衣服の全部または一部を着けていない状態であるものについて、「扇情的な姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として描写」する対象とならないよう保護者・事業者が「適切な保護監督及び教育に努め」るよう規定し(第1項・第2項)、そのようなものを販売・頒布し、あるいは閲覧・観覧に供したと認めるときは都が必要な「指導・助言」をすることができると規定し(第3項)、必要と認めるときは、保護者・事業者に対して説明あるいは資料の提出を求め、または必要な調査をすることができると規定している(第4項)。しかし、(次で触れる)山口貴士氏の批判にあるとおり、「扇情的」「みだりに性的対象として」という表現が主観的であり、家族のアルバムなどが該当する可能性もあり、第3項・第4項の規定も、具体的な行動について制限されておらず、警察が関与する根拠とされるおそれがある[*1]

 このほか、保護者が携帯電話フィルタリングを拒否する際に、正当な理由を書面で提出することを要求し、携帯電話フィルタリングを拒否することを極めて困難とする規定(第18条の7の2第1項)や、青少年がインターネットを利用して違法または自己若しくは他人に有害な行為をした場合に、都が保護者に対して再発防止に資する情報の提供その他の「支援」(という名目で不当な介入を行う危険があろう)を行うことを認めた規定(第18条の8)なども旧案のままである。
 ただ、児童ポルノを所持しない責務や都が行う児童ポルノ根絶の施策への協力の責務などを定めた旧案第18条の6の4は削除され、代わって、第18条の6の2第2項に「都民は、児童ポルノの根絶について理解を深め、その実現に向けた自主的な取組に努めるものとする」という規定が増設されることとなった。
 このほか、山口貴士氏が修正案の条文を検討し、詳しく論じている(筆者もこの指摘に同意見である)ので、そちらも参照されたい[4]

 なお、この規制そのものの問題点ではないが、出版業界の自主規制ルールにも問題がある。出版業界の自主規制ルールでは、東京都の不健全図書として連続3回、もしくは1年間に5回以上指定された図書については、特別な注文等がない限り取次業者では扱わないことになっている[5] 。したがって、東京都の不健全図書としての指定には、単なる区分陳列やビニール包装といった問題に留まらない重大性があり、ここに大きな危険性があるといえる。

 そもそも、言論・表現は本質的に私的領域に属するものであり、犯罪行為を「不当に」賛美する描写、いわば「不当な」言論を公表する自由や、そのような出版物を取り扱う自由も当然存在するものと考える。
 そうした言論・表現が社会的な影響をもつと考えられるとしても、それは当事者の自治によって解決すべき問題であり、権力の介入すべき問題ではないと考える。したがって、そもそも改正案を待たず、現行の、青少年への販売・閲覧等を制限する規定も廃止されるべきであると筆者は考える。

 東京都小学校PTA協議会など保護者団体は「子供の性的な価値観がゆがめられないようにしたいという親の当たり前の願いを反映している」と訴えている。それが親の当たり前の願いであることは確かだろう(少なくとも筆者はそのように考える)。しかし、それはあくまでも、それ自体自己または他者の私的自由の侵害にあたる事態ではなく、子供や保護者と、作家や出版社などの言論・表現活動を行う者との間の私的領域に属する問題であると言うべきである。

 子供の性的な価値観が歪められることを問題とするならば、法による強制に頼ることなどせず、保護者自身の自助努力と、もう一方の当事者である言論・表現活動を行う者との間の議論などの私的自治を通じて解決を図るべきではあるまいか。
 法による強制にせよ、暴力の一形態である。いかに正義と倫理に根ざした目標であっても、その実現のために「暴力」に訴えるという手段が悲惨な末路を迎えることは、共産圏の崩壊、現在も中国や北朝鮮共和国で続く人権侵害、我が国の寛政・天保の改革の破綻、はたまた嶋中事件・浅沼事件・2度の長崎市長襲撃事件・連合赤軍事件・よど号事件といった右翼・左翼のテロや部落解放同盟による「確認・糾弾」などの歴史が示している。
 内村鑑三は「戦争廃止論」にて「戦争の利益は強盗の利益である」と語ったが、言わば、法による強制あるいはその他の暴力によって問題解決を図ることもまた「強盗の利益」と言うべきである。無論、生命や身体、財産、あるいは言論活動などの私的自由の侵害に対しては、適正な法に基づく処分や正当防衛が許されるべきであり、あるいは状況によっては自力救済が許されることもあろうし、また、現代社会において必然的に生じるところの貧困に対して最低限度の生活を保障するためのセーフティネットは認められよう。

 前回の条例案がネットを騒がせた頃、Newsweek2010年3月17日号に、「銃所持を支持する新リベラル-憲法は中絶する権利と同様の武装権も認めてる」という記事が掲載された。この記事によると、シカゴに住む老人マクドナルド氏(もちろん、かのファーストフード店とは無関係である)が銃を所持していたのが、シカゴ市の条例違反として起訴された問題で、「憲法説明責任センター」(Constitution Accountability Center/CAC) という法律家団体が、「個人の自己決定権」を根拠にマクドナルド氏を支持したという。このような「個人の自由」に徹した団体が我が国にも必要なのではないだろうか。


[*1] ただし、付け加えるならば、法解釈上、行政の行う一般的な指導・助言・調査の範囲を逸脱することは許されないと解すべきである。もちろん、そのような「適正な運用」がなされると信ずべき理由も何処にもないが(他方、秋葉原のナイフ狩りや、「君が代」処分など、「不適正な運用」がなされることを疑うべき理由はある)。
 なお、自治体が行政指導に従わなかった者に不利益な扱いを行うことについては、その違法性が問題とされており、「武蔵野マンション訴訟」の判決では、違法性が認定された(正木宏長氏の講義録 などで触れられている)。

[1] 産経ニュース 2010.12.11 22:52 マンガの過激性描写、東京都の規制条例成立へ 「慎重な運用」で3会派一致
[2] 毎日新聞 2010年12月15日19時43分 都条例改正案:本会議で可決 性的描写の規制強化へ
[3] 山口貴士氏が修正案の全文 を公開している。旧案の全文 は兎園氏の「無名の一知財政策ウォッチャーの独言」にて閲覧できる。
[4] 弁護士山口貴士大いに語る、第156号議案「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」の条文の検討
[5] 「青少年条例と自主規制」日本雑誌協会・日本書籍出版協会50年史, pp. 139--151.

足利事件の再審が決定し、無罪判決の見通し

 23日に東京高裁が1990年に栃木県足利市で4歳の女児が殺害された「足利事件」の再審を決定した。近く、一審の宇都宮地裁で再審公判が開かれるものの、検察側は有罪立証をせず無罪判決が言渡される見込みである。

 足利事件では、被告の自白の内容は自己矛盾が多く、目撃者の証言とも矛盾が多かったため、自白の信用性は低いものだったほか、唯一の物証であるDNA鑑定についても問題視された[1] 。被害者の下着に付着していた精液のDNAと被告のそれが一致していたというものだが、鑑定には不適格な資料であり、また、科警研の技官の技術力も低いことが問題視されていたのである。

 二審(東京高裁)[*1] ではこうした矛盾点が次々と明らかにされたにも関わらず、「控訴棄却」の判決を下した。被告弁護団は高裁判決後、無実を証明する手段として、独自に押田茂實・日大医学部教授に依頼してDNA鑑定を行い、その結果、両者のDNAが一致しないという鑑定結果を出していた。それにもかかわらず、2000年に最高裁は被告側の上告を棄却し無期懲役の判決が確定したのである。

 さらに2002年に再審請求を行ったが、2008年2月に宇都宮地裁は再審請求を棄却した。ところが、東京高裁の抗告審で東京高検は同年10月15日に裁判所の再鑑定に反対しない旨の意見書を提出(これは後述する飯塚事件を考える上で重要な事項である)、それをきっかけに同年12月24日に東京高裁はDNA再鑑定を正式決定し、5月8日、検察・被告双方の鑑定人は被告のDNAと被害者下着に付着するDNAが一致しなかったという結論を出し、再審が決定する結果となったのである。


 ところで、DNA鑑定の信用性が問題となっているもう一つの事件として、飯塚事件[*2] が存在する。1992年に福岡県飯塚市で起こった女児殺害事件である。

 この事件において、検察が行ったDNA鑑定では死体遺棄現場付近に残された体液のDNAと被告の毛髪のそれとが一致したことが有罪判決の決定打となったのだが、帝京大学の帝京大医学部の石山昱夫教授が行った鑑定では、検察側鑑定と同様に被告人と毛髪と被害者に付着していた犯人と思われる血痕が比較分析されたものの
被告人のDNAとは一致しないという結果が出たのである。

 また、石山教授は週刊現代の記事において科警研の鑑定について、「科学警察研究所の技官は素人集団のようなもので、何回もやり直しをしなければならないような技術しか持っていなかった」「あと10年もすればDNA再鑑定の要請が山ほど起きるだろう」と当時のDNA鑑定の杜撰さを厳しく非難している[2]

 ところが、2008年10月26日に再審請求を準備中の本事件の「死刑囚」に対して死刑執行してしまったのである。
 先に、同年10月15日に東京高検が足利事件について裁判所のDNA再鑑定に反対しない旨の意見書を提出したことを述べた。
 こうしたことを法務省関係者が把握していなかったはずはなく、その直後にDNA鑑定の誤りに起因する
不当判決であることが疑われる死刑囚の死刑を執行したのは、捜査や裁判の問題点が露見することを
懼れて、事実隠蔽を図ったと疑われるも止むを得ないであろう。

 足利事件では再鑑定の結果、両者のDNAが一致しないという結果が出されたが、飯塚事件では当時の試料は全て使い切ってしまい残っておらず、DNAの再鑑定はできないという。全て使い切ってしまい、再鑑定を不可能にすること自体言語道断と言えよう。流石にこれは深刻な問題であると判断したのか、最高検は将来の再鑑定の要求に備え、鑑定試料の保存を指示したという。


 ともあれ、このような誤りであることが明白な捜査と裁判によって、人の身体の自由を17年にもわたって奪い、
あるいはその生命さえも奪うということが許されないことは自明である。

 まず、当面の対処方策として、旧い鑑定方式によって有罪判決を受けた者全てに対してDNA再鑑定を実施すべきである。また、DNA鑑定に限らず、鑑定にあたっては鑑定試料の保存を明確に義務付けた上で、鑑定試料の必要以上の消費を禁じなければならない。さらに、鑑定が適格に行われたかを検証する仕組みを構築する必要がある。
 裁判段階においても、鑑定が適格に行われたかを検証すること、複数方式での鑑定を行い、真相解明に最善を尽くす努力を行うことなどが求められよう。

 また、足利事件の再審請求の経緯から、再審制度においても問題があることが見て取れる。
 まず、刑事訴訟法上、再審開始の条件は極めて厳格に定められており[*3] 、この基準では、本件を含む多くの事例において「明らかな証拠」とまでは言えないことを理由として再審請求を棄却するという判断が出来てしまう。被告に有利な判決変更を行う可能性が疑われるときには常に再審を行わなければならないといえる。
 また、再審請求を、原判決をした裁判所が管轄する規定(刑事訴訟法第438条)も、判断の適正さの確保の観点からは問題がある。再審請求の管轄は独立の機関に委ねられるべきではあるまいか。

 もちろん、このほかにも、取調べの全面可視化、検察側への全証拠の保全・公開の義務付け、監察官の独立機関化、裁判所の検察からの独立性の確保、私人間の人権問題への介入(それ自体が国家による人権侵害となりうる)ではなく国家権力による人権侵害を取り扱う専門機関の設置など、なすべきことは多数ある。何よりも、まず、警察・検察・裁判所が推定無罪の原則を遵守することが重要である。

 最後になったが、検察および裁判所に対しては、再審を機に足利事件の冤罪の発生の経緯について自ら、真剣に検証を行うことを望むものである。



[*1]
一審の宇都宮地裁では弁護人までもがDNA鑑定を信じてしまい、被告人は「罪を認めて情状酌量を勝ち取る」
弁護方針に逆らえず、検察側証拠をほとんど全部認めてしまったため、事実調べが一切行われず、無期懲役の判決となった。その後、本件の冤罪の可能性を感じた弁護士により新たな弁護団が編成されたのである。

[*2]
 1960年代に起こった、これもまた冤罪事件として批判される脱税疑惑事件とは全く別の事件である。
 1960年代に起こった「飯塚事件」は飯塚毅税理士の節税対策が「脱税の指導」にあたるとして、国税当局や検察から捜査を受けることとなったものである。職員4名が逮捕・起訴されたが、最終的に1970年に無罪判決が下された。飯塚毅税理士はそれまで課税当局の不当な課税処分に対して度々不服審査請求を行い、再審査を認めさせており、国税当局の「私怨」による冤罪が疑われているのである。

[*3]
 刑事訴訟法第435条 では、再審の請求には確定判決による場合を除き、「有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」(第6号)とある。
[1]
足利事件の問題点、裁判の経過などは「菅家さんを支える会・栃木」のサイト 足利事件 を参照。

特に、DNA鑑定の問題点については「足利事件とは/本件DNA鑑定の問題点」 を、DNA鑑定以外の矛盾点などについては「足利事件の問題点」 および FRIDAY 2000年3月24日号『足利幼女連続殺害事件』の真犯人は別にいる! を参照。

[2]週刊現代 2009年6月13日号、少女二人殺害「DNA冤罪」でも死刑にされた犠牲者



ポリティカル・コンパス試作版

設問


Q1.
警察における強引な取調べによって冤罪が生まれると言われているが、このような事態を防ぐためには取調べの可視化を進め、外部から取調べの過程が適正か否かを確認できるようにすべきだと思われるがどうか?


Q2.
また、実際に冤罪であることが発覚した場合、当然それに対する賠償が問題となるが、現行の国家賠償は不当に低額ではないのか?国家権力の暴走への抑止力の意味も込めて、国家賠償金額を大幅に引き上げる必要があると思われるがどうか?


Q3.
入学式や卒業式には国旗掲揚および国歌斉唱をおこなうべきか?


Q4.
歴史教科書の記述や検定をめぐってしばしば問題が起こっているが、教科書への検定は必要か?


Q5.
マリファナは合法化されるべきか?


Q6.
電子機器が高度に発達したこの時代、政府による監視活動は容易になったが、犯罪者だけがそのことを心配すればよいのだろうか?


Q7.
同性間の婚姻制度を認めてもよいか?


Q8.
夫婦の別姓での結婚を認めるべきか?


Q9.
15歳から17歳の異性との、合意に基づく性的交際は合法化されるべきか?


Q10.
成人を撮影ないし描写した猥褻な画像の配布・閲覧は、当人の合意がある限り合法であるべきか?15歳から17歳の人物である場合やそもそも実在しない人物を描写した場合はどうか?


Q11.
過激な暴力や、その他の残虐な表現は規制されるべきか?


Q12.
人種や門地、性別に基づく差別、ないしはこれを助長する表現は規制されるべきか?


Q13.
マイノリティの地位向上のために、国家はマジョリティには与えられない特別の支援を行うべきか?


Q14.
非営利の二次創作物は、著作権法上合法化されるべきか?


Q15.
安楽死や心中などの自殺への加担、その他本人が合意している場合の殺人は合法化されるべきか?


Q16.
銃剣類の所持・携帯の規制は緩和されるべきか?


Q17.
国家は、大衆を誤った方向に導くようなビジネスには刑罰を課するべきか?


Q18.
大型店舗の出店は無制限に許容すると、その地域の既存の店舗の経営が危ぶまれる結果になると思われるが、規制すべきか?


Q19.
企業が自分から環境保護のために動くとは期待できないので、企業には規制を課するべきだと言われるが、どうか?


Q20.
商業ベースでは維持できないような劇場や博物館を税金で支えるべきか?


Q21.
労働者の解雇条件は、緩和すべきか?


Q22.
派遣社員や有期雇用社員は、特殊な技術を必要としたり、繁閑の差が激しいような業務に限定すべきか?


Q23.
大手金融機関が破綻したときには公的資金を注入して経済への影響を食い止めるべきか?


Q24.
福祉政策の充実は人々の勤労意欲を減退させるから好ましくないと言われるが、どうか?


Q25.
不景気時には景気回復のため、積極的に公共事業を実施すべきだろうか?


Q26.
海外からの食料輸入は、極力関税を掛ける等して避けるべきか?


Q27.
より一般に、保護貿易政策は必要か?


Q28.
道路特定財源のための暫定税率は廃止すべきか?


Q29.
現在、多くの国が反テロリズムの名の下に、過度に言論や政治活動の自由を抑制している、または抑制しようとしていると言われるが、どうか?


Q30.
自由主義や民主主義、私有財産制といった近代国家の基本原理を否定するための政治活動は、その活動自体が暴力性を伴っていない場合でも制限すべきか?


以下、回答例


A1.
お見込みの通り。これに限らず、権力の暴走を防ぐために、常にその運用は監視に晒されなければならないと考える。我が国の制度はその点において、未だ甚だ不十分な段階にある。


A2.
お見込みの通り。ただし、国家権力の暴走を抑止するには、事後の懲罰的措置のみならず、権力を行使する各機関の構造的な問題点を検証しなければならない。また、単純に現場に全責任を負わせるものであってはならない。


A3.
国旗掲揚については各学校の自由裁量に、国歌斉唱は各生徒の自由意志に委ねられるべきと考える。


A4.
教科書検定制度は廃止されることが望ましいと考える。ただし学校が各生徒に対して特定の見解への誘導・強要などを行うことがないよう指導すべきだろう。


A5.
お見込みの通り。麻薬その他の薬物は使用者の自己責任に委ねられるべきと考える。


A6.
政府による監視活動は、しばしば個人の政治・文化における活動を萎縮させ、また実際に政治的なアクションに利用される危険性を孕んでいるるため、安易な監視活動は回避されるべきであると考える。


A7.
そもそも、法律婚制度自体を廃止し、事実婚制度に切り替え、婚姻関係は当事者の契約自由の原則に基づいて処理されるべきであると考える。


A9.
15歳以上であれば、有効な合意を行うことは可能であると考えられるため、当事者の自由な意志と責任に委ねられるべきと考える。ただし、合意の有効性の判断には年齢が下がるほど慎重になるべきだろう。


A10.
猥褻性は道徳上の問題であり、法的な規制によるべき問題ではないと考える。実在の人物を撮影ないし描写することに関しては、A7の通り当人の有効な合意の有無によって判断するべきであると考える。


A12.
A10前段と同様。人種や門地、性別に基づく差別は無視できない人権上の問題であるが、言論・表現を国家により規制されないことがより優先されるべき人権であると考える。


A22.
派遣社員や有期雇用社員の増加が労働環境の悪化につながっているのは事実だが、業種限定は好ましくない。重要なのは同一労働同一賃金の原則と、最低賃金の保障であると考える。


A24.
福祉政策の充実は必ずしも人々の勤労意欲を減退させることにはつながらないと考える。経済への悪影響は、政府の規制による経済活動への介入のほうが大きいと考える。


A27.
政府による障壁を撤廃し自由な貿易を促進し、国家間の経済的な障壁を廃し市民の選択の自由が多様化することが望ましいと考える。


A28.
そもそも日本の財政は公共事業予算を極度に重視していることが問題である。よって道路特定財源は暫定税率廃止による縮小にとどまらず、一般財源化した上で福祉予算や教育予算に変えるべきだと考える。


A30.
いかなる政治的目的を持つ場合でも、活動の行為自体が他者の自由を侵害しないものであるときには、政治活動の自由は保障されなければならないと考える。

ポリティカル・コンパスについて考えてみた

10ヶ月もの間ブログの更新を忘れてしまっていた。この間、特に中華人民共和国によるチベット侵攻や、インターネット規制法案問題などで書きたいことがあったのだが、個人的に多忙であり、資料の収集・整理が間に合わず更新できずにいた。


そんな中で、筆者が考えをめぐらしてきたことが一つある。

ポリティカル・コンパスというものをご存知だろうか。もう3年以上も経ってしまったが、当時は話題になったものである。

当初、アメリカで作られた[*1] ものだが、日本とアメリカの政治事情の違いや、宗教観の違いから、このポリティカル・コンパスで日本人の政治的スタンスを判断すると、しばしば「リベラル左派」に分類されてしまうということが、当時より批判されてきた。


ただ、[*2] も政治思想を分類する上では適切ではないように思える。第一には、保守とリベラルの区別の基準が曖昧であることにある。
設問内容からは、リベラルを「個人的自由を認める」立場としているように思えるが、必ずしも個人的自由に関わらない設問も存在するように思える。また、設問の多くは、個人的な道徳観を問うているのか、政策として自由を認めるのか否かを問うているのかが曖昧であると見ることができる[*3]


また、経済的な対立軸に関しても、「大きな政府=福祉国家」「小さな政府=市場原理主義」という前提を置いていると思えるが、これも必ずしも適切ではない。福祉予算は政府による支出の一部でしかないからである。福祉予算の充実を主張する人々にはその他の目的での政府の支出を削減すべきだと主張する人々も少なくない。

昨今話題となっている、金融機関への公的資金投入には、ラディカルな自由主義者は反対しているが、一方で、日本共産党もかなり批判的な立場を取っている[*4] 。いずれにせよ根本にあるのは「市民の税金を、金融機関の失敗の後始末に使うべきではない」という批判であるし、これは一理あるように思える。


そこで、本家のポリティカル・コンパスも参考にしつつ、「国家により規制を受けない、という意味での自由をどこまで認めるか」という基準に特化する、という方向性を定めて、新たなポリティカル・コンパスを製作してみた。

今回は設問を製作することだけを考えた。設問といくつかの設問への回答例を次に上げる。今後、設問の追加、回答選択肢と採点基準の設定を考えていきたい。


[*1]The Political Compass . 日本語訳は霞が関官僚日記 を参照。

[*2]日本版ポリティカルコンパスについて

[*3]言うまでもなく、個人的自由には、「伝統主義的な道徳観を持つ自由」も含まれる。

[*4]派遣労働、民主党の国会対応、金融危機と景気対策について しんぶん赤旗, 2008年10月11日. 日本共産党の志位委員長は「本当に金融の“システミックリスク”があるんだったら、日銀が貸し付けることはあってもいい」「しかし、公的資金を入れて返ってこなくてもいいというやり方をしたらモラルハザード(倫理の欠如)になって国民にたいへんな被害が及ぶ」と語っている。

アメリカ合衆国、朝鮮民主主義人民共和国のテロ支援国家指定を解除

アメリカ合衆国が朝鮮民主主義人民共和国のテロ支援国家への指定を解除した。このことについて、日本では拉致被害者家族連絡会を中心に激しい反発が起きている。


今回の指定解除はInternational Herald Tribune の記事[*1] に "The removal from the U.S. list of state sponsors of terrorism, is only provisional, the officials said. ..." と書かれているように今回の解除はあくまで一時的な措置であり、今後北朝鮮共和国が査察の受け入れ、その他の合意を十分に履行しなければ指定を復活させる。その意味ではこれはアメリカ側のカードと見るのが妥当だろう。

北朝鮮共和国の側では、13日、IAEA要員の立ち入りを許可し、14日、寧辺の核施設で無能力化作業を再開している。


もっとも、北朝鮮共和国は既にアメリカに対して南北同時核査察を提案するなど、無理難題を要求している。これまでにも両国の一方が譲歩を匂わせる言動を発しては、結局は北朝鮮共和国側が口実をつけて合意を十分に履行せず、再び振り出しに戻る自体が何度も繰り返された(このことはこれまで筆者も何度か言及した)が、それらの状況を見れば、今回も同じ結果となる可能性は高い。


ただ、状況が従来と大きく異なっていることを示す要素が今回は存在する。既に読者各位がご存知であろう件である。

9月9日の建国60周年行事で朝鮮人民軍のパレードが行われず、金正日国防委員長が現れなかった。その翌日、アメリカのメディアが金正日が8月中旬に脳卒中で倒れた可能性があるという報道を行い、その後韓国政府も報道された事実を認めたことで、金正日の重病説が浮上した。
これまでにも、金正日が各種行事に姿を見せず、健康問題が取り沙汰されることはあったが、今回は各国の政府や朝鮮半島問題に関わりの深い人物も動いている。さらに、北朝鮮共和国内部に「将軍様のご教示」の類が長らく見られないという内部情報[*2] があり、これまでになく重病説の信憑性が高い。


金正日の重篤状態が続いても、北朝鮮共和国側は核問題に関して、現在に到るまで、これまでのパターン(いわゆる「お約束」である)に忠実に沿った行動を繰り返している。それゆえ、金正日個人の状況によらず、北朝鮮共和国側が今後もお約束通りの行動を繰り返す可能性は高いと見ることは可能である。ただ、拉致問題に関しては、少なくとも金正日が工作部門を掌握した時期(1970年代半ば)以降のものに関しては、金正日の影響力の失墜と共に明るみに出る可能性は期待される。一方で、金正日の影響力の失墜がどのような影響力をもたらすのかを知ることは難しい。良い方向に進む可能性を現実のものとするために努力すべきであり、一方では想定される事態の悪化(軍部の硬化など)には常に備えなければならないだろうと言うよりない。


[*1] International Herald Tribule, U.S. dropping North Korea from terror list, officials say , 2008年10月11日.

[*2] デイリーNK, 北, 2ヶ月間‘将軍様の方針’はなし , 2008年10月10日 17:37.

民主党が取調べの録画・録音による可視化法案を提出

民主党が12月5日に参議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(取調べの録画・録音による可視化法案)を提出した[*1] 。この法案ではビデオ等の録画・録音による取調べの可視化に加え、録画等のない自白の証拠能力の否認を定め、さらに、検察官手持ち証拠リストの開示も義務付けている。

最近の冤罪事件としては、大阪高裁所長襲撃に関する冤罪事件、富山県氷見市の強姦冤罪事件、鹿児島県曽於郡志布志町(現・志布志市)の選挙違反冤罪事件などが存在するが、これらの事例ではいずれも取調べ段階での自白が強要に基づくものであると認定された一方で、警察・検察側の論証に問題点が多数あることが指摘されている。一般に、取調べ段階での自白の強要が冤罪の要因になるといわれており、冤罪が疑われる事件の多くは自白の任意性が主要な争点の一つとなっているし、実際に自白の強要が認定され、無罪判決が出ることもある。

こうした事例を受けて検察庁は取調べの録音・録画を部分的に行っており、裁判において証拠として提出されたこともある。

したがって、取調べ段階での自白の任意性が検証可能となることはこうした冤罪事件を防ぎ、また犯罪の捜査・裁判が適正に行われることを促す意味で当然に必要なものであるといえる。

言うまでもなく、罪を犯していないにもかかわらず不当に身体などの自由を奪われることはあってはならぬことである。そして、刑事事件の真実が歪められることは、当該事件の真の解決、さらには当該犯罪にかかわる法益の保護を不可能にしてしまうだろう。それゆえ、冤罪は回避されなければならないのである。

ただ、単純にこの制度の整備によって問題が根本的に解決するものではない。自白の強要が行われるのは警察・検察および裁判所側の自白偏重の姿勢によるものであり、したがって、こうした姿勢を改め、物的証拠を中心とした捜査を行うことが必要である。そのためには証拠収集権限の強化、および収集された証拠の開示の義務付けを図る必要があるだろう。

もっとも、証拠収集権限の強化に関しては、人権の見地から反対の意見が強い。重要なことは、取調べであれ、盗聴などその他の証拠収集行為であれ、それが適正に行われていることが外部から検証可能となることである。

警察においては他にもファイル交換ソフトによる情報流出や裏金問題といった不祥事が多数発生している。警察だけでなく、現在、薬害肝炎や年金記録漏れ問題に関する厚生労働省(年金記録漏れについては社会保険庁も)の対応、防衛省(旧・防衛庁)の守屋元次官の接待疑惑など、中央省庁の不祥事がいくつも取り上げられ、問題視されている。このような中央省庁の失態は今に始まったことではなく、古くから変わらず続いていることであり、近年になってその一端が明るみに出ているにすぎないのだろうが、おおよそ日本の官僚機構自体が自己を律する機能に欠け、また外部からの検証が困難な状況にある、というわが国のあり方にかかわる根本的な問題が存在するといえる。

もとより国家機関の運営が適切に成されているか否かは国家自身の自己統制と共に外部の厳しい監視の下におかれなければならない。とりわけ、警察・検察のような国家権力の直接の発動の機会となる場においてはなおさらである。今回の刑事訴訟法改正案がその一つのステップとなることを望みたい。

蛇足だが、12月7日、法務省は初めて死刑執行を行った死刑囚の氏名や犯罪事実、死刑の執行場所を公表した。これも司法の適正化を図るために、その運用の実態がより透明化されたという点では妥当だといえるだろう。

[*1] 民主党, 取調べの録画・録音による可視化法案を参議院に提出


ミャンマー連邦軍事政権による人権侵害

日本人ジャーナリスト長井健司氏が9月27日にミャンマーの反政府デモの取材中、軍事政権治安部隊の発砲により殺害された事件は、ミャンマー軍事政権に対する日本国内の非難を高まらせている。
なお、10月4日に長井氏の遺体は日本に戻り、10月8日に葬儀が行われた。

高村正彦外相は9月28日にミャンマー連邦のニャンウィン外相と国連本部で会談した差異に真相の究明と関係者の処罰を要求し、10月3日には同国に対する支援の縮小を検討する考えを示した[*1]
警視庁は、殺人犯は国外で日本人に対して行われた場合には日本国内の刑法が適用される(刑法(明治40/4/24, 法律45号、改正平成19/5/23, 法律54号)第3条の2)ことから、殺人容疑で捜査に乗り出すことを決定している。

国連においては、10月2日には国連人権理事会がミャンマー連邦への非難決議を採択し、10月11日に国連安全保障理事会が同国の実力行使に対して遺憾の意を表明する議長声明(S/PRST/2007/37)を採択している[*2]

今回の反政府デモに関しては欧米諸国が制裁に動き出す中、日本は慎重な姿勢を見せていたが、日本人ジャーナリストの殺害を受け、強硬な動きを見せつつあると思われる。
日本国民に対する不当な殺害に対しては日本政府による極めて強硬な措置がなされてしかるべきである。それはまずもって国民を保護するという国家の最小限の義務である。
大韓民国による李承晩ラインでの日本漁船の拿捕については、ついに日本は厳しい対応をとることができず、北朝鮮共和国による日本人拉致問題でも一昔前までは日本は満足な対処をとることができなかった(今回の問題に対する対応は、北朝鮮共和国に対するメッセージともなるだろう)。このような過ちが繰り返されるべきではない。
そして、日本人ジャーナリスト殺害事件に限らず、ミャンマー連邦軍事政権による人権侵害全体に対して監視の目をむけ、軍事政権の対応を注視した上で、改善の動きのない場合には厳しい措置が検討されるべきである。

歴史的には、ビルマはその成立過程からして日本と深い関係にある。建国の父アウン・サン将軍は日本軍の特務機関のひとつであった南機関(機関長:鈴木敬司大佐)と共に1941年12月にビルマ独立義勇軍(ビルマ防衛軍をへてビルマ国軍に改組)を設立し、1943年8月のビルマ国誕生後には国防省に就任した。ビルマ独立義勇軍には1962年にクーデターを決行して政権を掌握、ビルマ社会主義計画党議長に自ら就任し、ビルマ軍事独裁の創始者となったネ・ウィン将軍(ビルマ国軍では司令官)も加わっていた。
後に彼らは日本の傀儡という状況に反対し、またインパール作戦の失敗などにより敗色濃厚となった日本軍に見切りをつけ、1944年8月、ビルマ共産党などと共に反ファシスト人民自由連盟を形成し、1945年3月には抗日戦争を開始、5月には連合軍の指揮下に入る。日本敗戦後も英国はすぐにはビルマの独立を認めようとはせず、再びビルマを植民地とするが、1947年1月に1年以内の完全独立を約束するアウンサン・アトリー協定が成立、翌年に再び独立を果たす。英国は少数民族の処遇やビルマ人エリートの内部対立などの問題を収拾しきれず、ビルマ統治の実益も薄いと判断し、ビルマ統治を放棄したのが遠からぬ実態だろうと思われる。

その後、1954年に日本とビルマは平和条約と賠償協定を締結、翌年に賠償金の支払いが行われ、南機関との共闘・ビルマ国成立の時代からおよそ10年ぶりに日本とビルマの友好関係が復活する。ネ・ウィン議長は、南機関との共闘の時よりビルマ独立義勇軍に属していたこともあってか、特に親日の姿勢を見せている。1963年に経済技術協力協定を締結、1965年より経済技術無償協力を開始(1988年の軍事クーデター後に事実上停止)し、1975年からは無償資金協力を行ってきた。さらに1988年の軍事クーデター後に成立した「国家法秩序回復評議会」政権をいち早く承認し、軍事政権と要人の往来が行われている。また、ビルマは1981年には鈴木敬司氏の未亡人をはじめとする南機関の関係者7名に勲章を贈っている。

日本がビルマと友好関係にあった時期、欧米諸国はビルマの軍事独裁と人権侵害を問題視していた。世界各地の反共独裁政権を支援していたアメリカも、ビルマの独裁政権に対しては限定的な支援(軍事支援に関しては、対ゲリラ戦程度の装備の提供)にとどめ(これとても、CIAなどから強い反対があったという)、またその人権状況を問題視していた。
東側諸国もビルマとの結びつきは強くなく、その中で注目すべきは北朝鮮共和国と友好関係にあったのがラングーン廟爆破テロ事件を期に国交断絶に加え国家承認を取り消したが、近年武器購入などの軍事面での関係改善が始まり、2007年4月には正式に国交を回復したこと[*3]、また近年中華人民共和国が最大の軍事・経済両面での援助国となっていることである。


ビルマと日本との友好関係は1960年代以降、満州国軍将校であった朴正煕・韓国大統領を中心とする韓国の満州国軍出身者と、岸信介首相を中心とする日本の満州国官僚経験者や大陸浪人などが日韓の友好関係を築いたことを連想させる。日本の保守系の政治家や言論人の間では韓国に対してと同様、ビルマに対する親近感が強く存在していた、あるいは今なお根強く存在していると見られる。
こうした事情からか、日本は欧米諸国のビルマへの批判姿勢に反し、友好関係を保っていたが、2003年に人道的かつ緊急のものを除いた援助を停止した。しかし、ビルマはこれに代わって自らも深刻な人権問題を抱える中華人民共和国に接近を始め、北朝鮮共和国とも友好関係を回復しつつある。10月11日の安保理での議長声明の採択の際にも、中国の主張を受けて表現を修正することとなった。

ミャンマー連邦は軍拡路線を続けており、ミサイルや化学兵器、原子力の導入にも積極的な動きを見せており、中朝両国との関係の深化も併せて考えれば、「ならず者国家」に堕する危険性を強く持っていると考えられている。この問題にはビルマ軍の設立に関与した日本、日本敗戦後の混乱の解決を放棄するかのごとく独立させた連合国、現在最も影響力を行使している中華人民共和国、そしてとりもなおさずビルマ自身に少なからぬ責任がある。
ミャンマー連邦軍事政権に対して長井氏殺害事件の真相究明を要求し、事件の責任を追及すると共に同国の人権状況の改善と民主化を促すことが国民の生命の保護という大原則、中朝両国との関係、国際社会の平和の維持、そして日本の真の過去の清算・克服などの見地から求められるところである。


[*1]外務省, 日本・ミャンマー外相会談概要および外務大臣会見記録(平成19年10月)を参照。

[*2]国連人権理事会のミャンマー問題に関する特別会合については、5th Special session of the Human Rights Councilを参照。国連安全保障理事会の議長声明は10月13日0時(JST)現在、国連安全保障理事会の公式サイトの2007年安保理議長声明の一覧には掲示されていない。この議長声明に対して、日本政府は外務報道官談話「国際連合安全保障理事会におけるミャンマー情勢に関する議長声明の発出について」を発表している。


[*3]こうした事情(にもかかわらず1950年代より日本政府がビルマと親密な関係を保っていたこと)は、当時の日本政府のアジア外交の意図が単に反共のための同盟関係の結成にのみあったのではなく、戦前よりの大アジア主義思想の影響が依然として存在していたことを暗示している。

朝鮮総聯中央本部売却問題

朝鮮民主主義人民共和国をめぐる拉致問題そのほかの諸問題への関与が問題視されている在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)をめぐって大きな動きが起こっている。

整理回収機構(RCC)が朝鮮総聯傘下の朝銀信用組合の不良債権の返済を求めた訴訟に対して2007年6月18日、約627億円全額の返済を求めた判決が下り(*1)、同時に判決確定前でも強制執行できる旨の執行文が付された。これに基づいて、中央本部などの施設が事実上差し押さえの状態となった。総聯は控訴期限まで控訴を行わなかったため、7月3日に判決は確定した(*2)

また、朝鮮総聯は中央本部である「朝鮮中央会館」の土地・建物を売却しようとしたが、相手方の「ハーベスト投資顧問」が購入代金を調達できなかったため、結局これは成立せず、中央本部に事実上強制執行が行われた。
この事件に関して、「ハーベスト投資顧問」の代表取締役である緒方重威元公安調査庁長官への事情聴取が行われていたが、緒方元長官は28日に詐欺容疑で逮捕された(*3)。さらに、7月18日には総連から4億8400万円を詐取したとして、東京地検特捜部は詐欺容疑で緒方元長官を再逮捕した(*4)

緒方元長官は公安調査庁長官となる以前には、東京地方検察庁・東京高等検察庁・最高検察庁の検事を務め、公安調査庁長官の後には仙台・広島の高等検察庁検事長を務めた人物である。
緒方元長官と検察・公安、そして北朝鮮共和国との関わりは父の代にまでさかのぼるといえる。緒方元長官の父・緒方浩氏は満州国最高検察庁思想担当検事をしていた人物であり、満州国において抗日運動の取り締まりなどを行っていた。
特に、南満州の抗日運動の討伐を目的とする東南三省治安粛正工作に最高検察庁連絡部の責任者として関係していたが、この南満州での抗日運動において主要な役割を担っていた人物の一人(そして朝鮮人に限れば最も重要な存在だった人物)が当時東北抗日聯軍第二方面軍長だった金日成であり、官憲側も金日成の逮捕を主要な目的の一つとしていた[1]。「満州人脈」の根深さを改めて思い知らされる事例である。

中央本部の「売却」は上述した不良債権返済訴訟における返済を求める判決を想定し、仮執行を遁れるために行ったと見られる(*5)。前述の通り、この判決には判決確定前でも強制執行できる旨の執行文が付されており、中央本部は22日に仮処分が決定し、26に処分禁止の登記が完了し、事実上差し押さえの状態となった。
また、中央本部だけでなく、全国各地の地方本部や朝鮮学校などの総聯施設に対しても差し押さえが行われている(*6)

朝銀信用組合には、末期の1998年から2002年にかけて1.4兆円の公的資金が投入されている。櫻井よしこ氏の調査によれば、「当時の状況を取材する中で、関係者がほぼ例外なく、関与した人物として名前をあげたのが野中広務氏だった」が、直接野中氏にこの点について尋ねたところ、「近畿朝銀についての関与を全面否定した」とのことである[2]
朝銀の破綻の原因は本国への不正送金にあると言われる。この資金投入についても責任を明確にし、資金返還を求めるべきだろう。
(なお、筆者は朝銀以外の破綻金融機関への公的資金の投入にも否定的な立場をとるが、ここでは一般の破綻金融機関救済の是非については論考を避ける)

ところで、本件の捜査は朝鮮総聯に対する詐欺事件として捜査が行われているが、むしろ朝鮮総聯側にも強制執行逃れのための財産隠蔽の意図があったと見るべきである。なお、朝鮮総聯は緒方元長官と「刑事訴追を求めない」という確認書を交わしていることが判明している(*7)
現在のところ、許宗萬・朝鮮総聯責任副議長への事情聴取が行われたが、そのほかには朝鮮総聯に対する追及の動きは表には出ていない。しかし、朝鮮総聯全体に捜査を展開し、朝鮮総聯の他の犯罪行為も追及の対象となるべきだろう。
朝鮮総聯は在日公民の権利擁護をうたっているが、筆者自身が以前に何度か触れたように実際には在日公民の人権を迫害している[3]。この事件を機に、政界の朝銀問題への関与についてもより深い真実の究明がなされることが望まれる。

司法界や政界とのつながりは、他の場所でも見られる。この取引において朝鮮総聯の代理人であったのが
土屋公献・元日本弁護士連合会会長であり、仲介役とされた満井忠男・元不動産会社社長は清和政策研究会元会長である三塚博氏の秘書を務めていたことがあった。朝鮮総聯と政界との間には根深い関係があると思われるが、この事件を契機に断ち切れるだろうか。

また、元公安調査庁長官の関与による事件であり、さらに政界の重鎮であり、国家公安委員長を(当該元公安調査庁長官がその地位にあった時期に)勤めた人物の関与の可能性が疑われていることは、単なる「二重スパイ」のごとき問題ではなく、公安政策自体の危機にあるといえる。

本事件は公安調査庁にかかわる問題であるが、公安警察に対しても調査がなされるべきである。多発している警察の情報流出や冤罪事件[4]などを鑑みても、警察・検察機関全体に少なからざる問題点があるといわざるを得ない。それは簡単に言うなら外部の監視が公安調査庁や警察・検察の公安部門、また内閣調査室などの情報機関に対して十分になされていないことである(こうしたことは、わが国の官僚組織全般に言えることである)。

防諜政策の整備が求められているが、防諜にあたるべき機関がこのように信頼性に重大な問題を有するならば、まっとうな防諜は望めぬばかりか、かえって日本国民を含めた多くの人々の利益に反する結果を産み出しかねない[5]。この事件を機に、機関内部の自浄を徹底し、同時に関係機関が正常に機能すべく根本的な改革がなされることを望むばかりである。


[1]李命英, 四人の金日成, 成甲書房, 1976(韓国語版 金日成列伝, 新文化社(ソウル), 1974)で、緒方浩氏は当時の体験について証言している(同書pp.218--219など)。ここではその証言や、李命英氏の著書の内容の正確性については詳しい考察を省略するが、李命英氏の「金日成偽者説」に反して第二方面軍長の金日成は確かに朝鮮民主義人民共和国主席の金日成であると思われる。実際、恵山事件の判決文において第二方面軍長金日成の身許について、現在の万景台出身であるという認定がなされている(思想彙報20(1939), pp.1--8)。

[2]なお、緒方氏が公安調査庁長官に在任していたのは1993年7月2日から1995年7月31日で、1994年6月30日から1995年8月8日の間が村山内閣で、この時期の国家公安委員長が先述した野中広務氏であった。ここに、野中氏と緒方元長官との間に直接に接点が現れてくる。

[3]姜哲煥氏は北朝鮮共和国において祖母・両親らと共に管理所(政治犯収容所)に収容され、その後韓国に亡命し、北朝鮮共和国の政治犯収容所の人権侵害の実態を告発したことで知られているが、自らの一家が政治犯収容所へ収容された理由を、朝鮮総聯の幹部であった祖父が、朝鮮総聯内部の権力闘争に巻き込まれたことだったのではないかと推測している。また、氏は1970年代後半に韓徳銖議長の反対派たちが一斉に粛清され収容所に連行されたことや、自らが収容された咸鏡南道耀徳郡第15号管理所にも、帰国した朝鮮総聯の幹部とその家族が多く収容されていたことを証言している。朝鮮総聯では1970年代に韓徳洙が権力を掌握する過程で特に激しい権力闘争が展開されており、姜哲煥氏が収容された時期と重なっている。
氏の著書 姜哲煥, 安赫, 訳:池田菊敏, 北朝鮮脱出(上・下), 文藝春秋, 1997、姜哲煥, 訳:裵淵弘, 平壌の水槽, ポプラ社, 2003、
および「北朝鮮帰国者の生命と人権を守る会」の記事 姜哲煥, ひどい詐欺の犠牲になった北朝鮮帰国在日朝鮮人, カルメギ 51(2003)を参照。


[4]たとえば、田村譲氏のサイトを参照。

[5]組織犯罪処罰法の改正に伴ういわゆる「共謀罪」や人権擁護法案その他のメディア規制、インターネット規制の動きなどについても同様の理由から否定的な立場をとらざるを得ない。もっとも、防諜政策はそれ自体は国家の政策として必要なことであり、その点でこれらの問題とは問題の次元が異なる。


(*1)朝鮮総連に627億円支払い命令、仮執行も可に…東京地裁, 読売新聞2007年6月18日 。
(*2)朝鮮総連の敗訴確定=627億円返済訴訟-東京地裁, 時事通信2007年7月3日。
(*3)総連虚偽登記事件 緒方元公安調査庁長官ら3人逮捕, 産経新聞2007年6月28日。
(*4)総連売却事件 緒方元長官、容疑認める 4億8400万詐取で2人再逮捕, 産経新聞2007年7月19日。
(*5)朝鮮総連、本部売却は訴訟対抗策 明け渡し回避狙う, 朝日新聞2007年06月13日。
(*6)朝鮮総連9施設が差し押さえ、各地拠点の立ち退きも, 読売新聞2007年6月18日。
(*7)朝鮮総連 「訴追求めない」 緒方容疑者と確認書, 産経新聞2007年7月15日。

国民投票法が成立

2007年5月14日、日本国憲法の改正手続に関する法律案(第164国会衆議院法案30, 31号、第166国会修正、第166国会参議院法案5号、以下通称に従い国民投票法と呼ぶ)が参議院を通過し、成立した([1] を参照)。

以前、筆者が当ブログの記事「憲法改正国民投票法について」 で国民投票法案について取り上げた際に問題にした、投票運動に関する規制では、その際に指摘した規制に関しては多くが廃されており、かなり妥当なものに落ち着いているように思える。ただ、公務員や教職員の地位利用を禁止する規定に関しては漠然としているという印象を免れない。特に問題視されるべき地位・権力の濫用行為としては、警察などによる権力の使用や教職員による学生への(単位の不授与をちらつかせるなどの)脅迫などの行為が挙げられるがこのような強要行為は刑法上の職権濫用罪や強要罪、あるいは国民投票法第109条2号の利害関係を利用する罪などによって十分に処罰できる行為である。だとすれば一般に地位利用禁止規定を設ける必要性事態が疑問である。

国民投票法よりも問題とすべきは、改憲の方向性である。改憲問題に関してはしばしば戦争放棄をうたった憲法第9条が問題とされている。護憲派はこれを取り上げ、改憲を「戦争ができる国」を目指すものと非難している。

しかしながら、同条第1項はともかくのこと、戦力そのものの不保持を規定する同条第2項は自衛隊を保持している現実とも矛盾する。
さらに問題なのは、理論上においても現実においても国民の生命・身体・財産などの自由が他の国家または国家類似の武装勢力によって不正の侵害に面する非常事態が発生する可能性があるにも関わらず、そのような事態を想定し、これに対処する規定が存在しないことにより、かえってかかる非常事態において無制限に国民の生命・身体・財産などの自由が侵害される可能性なしとしないことである。かかる非常事態を解決するために、また非常事態の解決にかこつけて緊急措置による国民の自由の制限が恒常化しないために、国家により国民の自由がどこまで規制されうるか(または規制し得ないか)を規定することは避けられない。その点、単純に憲法第9条の禁止規定を緩和するだけでは不十分である。

改憲運動に関して言えば、筆者がより問題視すべきと考えているのは第9条ではない。むしろ、憲法の前文や国民の権利義務規定の改正について、より問題にすべきだと考えている。

国民の権利義務規定について、自民党が「公共の福祉」による制限を「公の秩序」による制限に改めることや、権利に対して義務が伴うことを明確化することや、道徳上の義務を明記することを主張していることなどがそれである。
もとより、憲法は基本的に国民の(他者による抑圧からの)自由を保障すべく、国家権力に対する規範を定めたものであり、特定の価値観に基づく道徳上の義務を規定するものではない。筆者は国家は国民の生命・身体・財産の自由と一定の福祉(当然ながら、自国政府自身や他国政府、および政府類似の軍事組織などによる侵害から国民の生命などを擁護する機能も含めて)を提供するサービス機構に徹し、価値中立的であるべきものと考える。ゆえに、むしろ国民の権利義務に関する規定についてこそ「護憲」が唱えられるべきだと考えるのである。

参考

[1]日本国憲法の改正手続に関する法律案(日本国憲法の改正手続に関する法律案・日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案に対する併合修正案)、議案審議情報 。最終的に成立した法案は衆議院のサイト および参議院のサイト に掲載されている。
 また、日本国憲法の全文は「法庫」 で閲覧できる。

海上自衛隊における特別防衛秘密の流出事件について

海上自衛隊2等海曹(旧軍の軍曹に相当)が日米相互防衛援助協定の「特別防衛秘密」にあたるイージス艦のデータを自宅に持ち帰っていたことが問題となっている。

今年1月、2曹の中国人の妻を不法滞在の疑いで逮捕した際に、自宅を捜索し、押収したHDにこのファイルが含まれたことから事件が発覚した。

このデータのもとは3等海佐(旧軍の少佐に相当)が作成した情報ファイルであり、2曹ははじめ猥褻画像を交換した際に同僚のパソコンからこの情報が一緒に入ってきたと言っていた。しかし、ファイル交換ソフトではなく、直接のコピーの際に機密情報が混入するというのは信憑性に乏しい。通常、猥褻画像と技術情報は別個のフォルダ(ディレクトリ)に保存されているはずだからである。その後、2等海曹は「同僚隊員から入手した」とした上で、理由を「艦船などの軍事情報に興味があり、手元に置いておきたかった」と供述しているという。

今回の事件の重大性は、このファイルの中には米国から供与されたイージスシステムに関する情報が含まれており、同システムがミサイル防衛の中核を担っていることから、日本の防衛に重大な影響を及ぼすだけでなく、日米の信頼関係、さらには自衛隊の国際的な信用にも影響を及ぼしかねないことにある。

もとより、安倍晋三内閣発足後、日米関係は小泉内閣時代に比べて微妙な状況にある。安倍首相の訪米は4月下旬にようやく実現したのだから、いささか遅すぎたという印象は拭えない。久間防衛大臣(旧防衛庁長官)のイラク戦争をめぐる発言や、昨今話題になっているアメリカ議会での従軍慰安婦非難決議なども、日米間の関係の変化をうかがわせる(北朝鮮共和国問題の温度差をあげる向きもあるが、こちらは慎重に論考する必要があるだろう)。
もちろん、安倍内閣自体が「主張する外交」を標榜するからには、アメリカとも二三の政治的な論点をめぐって対立があって当然という声もあるだろう。しかし、アメリカから提供された重要な軍事機密情報が流出したのが、実際に従軍慰安婦非難決議をめぐる対立が水面下で継続している時期であったことは、一層日米関係への影響を考えさせる。

もう一つは、中国人妻が情報流出をねらったスパイだったのではないかという疑惑である。実は、アメリカ本国でも、アメリカ海軍の技術開発などを受注している企業の関係者がイージスシステムを含む海軍の技術情報を20年以上、中国に提供していたとして、有罪の評決を受けている[*a] [*b] 。また、自衛隊内部での中国に関連した問題として、2006年8月に自衛隊員の中国への無断渡航事件が発覚した。このほかにも外国への無断渡航の事例が存在するという[*c] 。中国の軍拡の流れを考えれば、軍事技術情報に対するスパイ行為が相当大規模に行われている可能性は高いといえる。

筆者は以前、当ブログの記事「拉致事件による朝鮮総聯傘下団体への強制捜査について」 で在日本朝鮮人総聯合会傘下の在日本朝鮮人科学技術協会(科協)による技術流出について触れた。これは北朝鮮共和国による軍拡問題に関連する問題だが、今回触れている中国の軍備近代化と日米での中国のスパイ行為の関連についても同様のことがいえるのではないだろうか。

また、以前より自衛隊では(他の官公庁や企業と同じく)ファイル交換ソフトによる情報流出が問題となっている。ただ、今回の事件では、2曹の供述による限り、ファイル交換ソフトではなく同僚のパソコンからコピーしたとされているが、いずれにせよ自衛隊の情報管理が問われることになる。複雑な国際情勢の中、他国の軍隊(とりわけ米軍)との協力が求められている現在、外国から提供を受けた軍事機密情報の流出は致命的であるといえる。
アメリカでは上述の海軍スパイ事件に関して裁判によって有罪の評決が下された。アメリカが上述した自国内でのスパイ事件に関して処理した上で、日本が同様に厳正な処理を行わないなら日米関係のみならず、日本の国際的な信用に深刻な影響が出る可能性は高い[*d]

さて、この事件の後、防衛省は全職員に業務用データの私物パソコンへの保存禁止と過去の保存データ削除などを指示したが、それにも関わらず、この指示に従わず、よって私物パソコンに保存されていた情報を外部流出させた事例が発覚している[*e] 。さらなる対策として、大臣支持により、官房長、各局長、施設等機関の長、各幕僚長などより、すべての防衛省職員と自衛隊員を対象にした個別面談による指導を今回および以降毎年1回以上行い、指導を徹底するという[*f]
なぜ、私物パソコンへ業務用データの保存し、それを外部に流出させる事例が続くのだろうか。隊員が学習のために内部文書を私物パソコンに保存し、使用していたという事例が多い。事実、学習教材の整理が不十分だという指摘が存在する[*g]

さらに、情報の秘匿の必要性に対する評価にも問題があるといわれる。安易に情報を機密扱いすることによって情報の重要性を正しく認識できなくなっているのではないかという問題である。もう少し付け加えるなら、このような秘密主義はかえって自衛隊の不祥事の存在そのものまで見えにくくすることが危惧される。最近問題になっている従軍慰安婦問題に関しても、防衛省が関連資料の公開を渋ってきたことに原因の一端がある。情報をどう管理するかは、防衛庁から新たに発足した防衛省が直面する課題といえる。

今回のスパイ事件をめぐっては数多くの問題が周囲に存在している。それぞれの問題に固有の処方箋と防衛政策の根本的・総合的な変革の両方向において解決策が模索されることを期待する。


[*a]iza, 2007年4月7日, 中国新鋭艦に「イージス頭脳」 米でも軍事情報流出

[*b]産経新聞, 2007年5月11日, 中国人スパイに有罪 海軍の機密情報を持ち出す

[*c]防衛庁(現防衛省), 無断海外渡航の調査結果を踏まえた対策等について

[*d]防衛省 日米防衛相会談について(結果概要)

[*e]共同通信, 2007年4月9日, 武器庫の見取り図流出 陸自、また「ウィニー」
こうした情報流出事件に関する記事やそれについて言及したブログはネット上を
関連語句により検索することで大量に発見できる。

[*f]アスキービジネス, 自衛隊の情報流失が止まらないワケ

[*g]5月15日、久間防衛省による大臣指示。
防衛省 情報流出防止に係る隊員に対する指導の実施に関する防衛大臣指示について
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