韓国における言論の自由の侵害
韓国統一部が民間団体が朝鮮民主主義人民共和国を非難するビラを撒いていることについて「南北間の合意に反する」として中止を求めている[*1]。
そもそも宣伝活動の中止という合意自体、共和国側がより強力な工作の手法を多数所持している事を考えれば著しく韓国側に不利な合意であり、そのような合意を取り結んだ事自体が共和国を問題視する立場からは非難されるべきであるが、この合意はあくまで国家間の合意であって国民の活動まで規制するものではないはずである。当局自身が「国内法では行為自体を禁止できない」といいつつ中止を求めているところに韓国の太陽政策の実態が良く現れており、また同時に韓国が自由民主主義国家でありながら、国家による国民の活動への介入が常態化していることが良く現れていると言える。
南北問題に関する市民運動に関して言えば、韓国に亡命した脱北者やその他の活動家(共和国で人道援助活動を行っていた医師ノルベルト・フォラツェン氏などが有名だろう)が、韓国国内での活動について度々韓国政府から妨害を受けていることは広く知られている。
もう一つの事件として、日本による朝鮮の支配について肯定した『親日派のための弁明』の著者である金完燮氏に対する名誉棄損の訴訟でソウル高裁で地裁に続き賠償を命じる判決が出されている[*2]。このほかにもインターネット上の親日サイトに対する閉鎖措置などが度々行われている。
この二つの事件はいずれも市民の政治や言論などに対する韓国政府の介入事例といえる。そして、こうしたことが常態化しているという点では韓国は未だ自由な国とは言い難い状況といえる。
もう一つの朝鮮半島の国家である朝鮮民主主義人民共和国は言わずと知れた、言論の自由やその他の人権が全く保障されていない国家である。また、その隣国であり歴史的に朝鮮半島に大きな影響力を持ってきた中国における人権侵害の実態も昨今しばしば問題視されている。以前に「靖國問題をめぐる最近の見解を検証する(1)」でも触れたが、個人を不可侵の尊厳をもった存在と見るという価値観が欠落していることは東アジア大陸圏に共通の傾向なのだろうか。
日本では、古くは戦前のアジア主義、最近では「東アジア共同体」構想など、アジアとの共存共栄を主張する動きが強く存在する。しかし日本と大陸東アジア諸国との体制や価値観の相違を考慮しているのか疑問に思わざるを得ない。「教育基本法改正案が衆議院を通過」でもアジア主義と先の大戦での大日本帝国の失態との関連に言及したが、体制や価値観の相違を無視したアジア主義はかえって日本にまで大陸東アジアの悪風をもたらすのではないだろうか。
朝鮮日報, 2006/9/2, 韓国統一部「北に非難ビラまくな」
中央日報, 2006/10/10, ‘親日作家’金完燮氏に賠償判決
そもそも宣伝活動の中止という合意自体、共和国側がより強力な工作の手法を多数所持している事を考えれば著しく韓国側に不利な合意であり、そのような合意を取り結んだ事自体が共和国を問題視する立場からは非難されるべきであるが、この合意はあくまで国家間の合意であって国民の活動まで規制するものではないはずである。当局自身が「国内法では行為自体を禁止できない」といいつつ中止を求めているところに韓国の太陽政策の実態が良く現れており、また同時に韓国が自由民主主義国家でありながら、国家による国民の活動への介入が常態化していることが良く現れていると言える。
南北問題に関する市民運動に関して言えば、韓国に亡命した脱北者やその他の活動家(共和国で人道援助活動を行っていた医師ノルベルト・フォラツェン氏などが有名だろう)が、韓国国内での活動について度々韓国政府から妨害を受けていることは広く知られている。
もう一つの事件として、日本による朝鮮の支配について肯定した『親日派のための弁明』の著者である金完燮氏に対する名誉棄損の訴訟でソウル高裁で地裁に続き賠償を命じる判決が出されている[*2]。このほかにもインターネット上の親日サイトに対する閉鎖措置などが度々行われている。
この二つの事件はいずれも市民の政治や言論などに対する韓国政府の介入事例といえる。そして、こうしたことが常態化しているという点では韓国は未だ自由な国とは言い難い状況といえる。
もう一つの朝鮮半島の国家である朝鮮民主主義人民共和国は言わずと知れた、言論の自由やその他の人権が全く保障されていない国家である。また、その隣国であり歴史的に朝鮮半島に大きな影響力を持ってきた中国における人権侵害の実態も昨今しばしば問題視されている。以前に「靖國問題をめぐる最近の見解を検証する(1)」でも触れたが、個人を不可侵の尊厳をもった存在と見るという価値観が欠落していることは東アジア大陸圏に共通の傾向なのだろうか。
日本では、古くは戦前のアジア主義、最近では「東アジア共同体」構想など、アジアとの共存共栄を主張する動きが強く存在する。しかし日本と大陸東アジア諸国との体制や価値観の相違を考慮しているのか疑問に思わざるを得ない。「教育基本法改正案が衆議院を通過」でもアジア主義と先の大戦での大日本帝国の失態との関連に言及したが、体制や価値観の相違を無視したアジア主義はかえって日本にまで大陸東アジアの悪風をもたらすのではないだろうか。
朝鮮日報, 2006/9/2, 韓国統一部「北に非難ビラまくな」
中央日報, 2006/10/10, ‘親日作家’金完燮氏に賠償判決
教育基本法改正案が衆議院を通過
11/16午後の衆議院本会議で教育基本法改正案が自民・公明両党などの賛成で採決された。教育基本法改正案についての詳細は以前にこの教育基本法改正問題について論じた記事「与党が合意した教育基本法改正案について」
を参照されたい。
上記の記事でも主張したが、教育の基本に関わる法律に抽象的な公共的・道徳的規範を盛り込むことには問題があると言わざるを得ない。政治・法律と教育とは分離されるべき事柄であると考える。現在、教育の場において政治的な主張、主には日本の軍事政策や外交政策をいたずらに軍国主義として非難する主張がしばしば教員から生徒へ押し付ける形でなされていると言われている。だからといって政府が教育問題に別の道徳的規範をもって介入する事には問題があるといえる。政治と教育との相互の侵犯を防ぐ枠組みを考える事が必要だろう。
ところで、教育と愛国心との関連を問う問題は、しばしば歴史教育、特に近代日本の歴史の教育の問題と関連して論じられてきたので、今回はこの問題について少し議論したい。
満州事変から大東亜戦争にかけての先の大戦について、ことさらに侵略を強調する見方には問題がある。一方で、以前に筆者が靖國問題について論じた記事「靖國問題をめぐる最近の見解を検証する(1)」 でも少し言及した事だが、次の理由から、一連の大戦について肯定的に評価する見方にも問題があると言わざるを得ない。
満州事変は関東軍の軍人の暴走によって発生し、中央がそれを止める事ができなかったという性質の事件であり、またこれをきっかけにワシントン会議に基づく秩序が崩壊し日本と欧米諸国との関係の悪化が始まったのである。さらに、もともと日本は対外膨張を支えるだけの国力に欠けており、その上日本軍は「輜重兵が兵のうちならチョウチョトンボも鳥のうち」といわれるように兵站機構が著しく脆弱で、満州事変以降の勢力圏の拡大は無謀だったと言わざるを得ない。欧米勢力を排した日本を中心とした大アジア主義的な構想は最初から現実性を欠いた観念論だといえる。
同じように現実性を欠いた、しかも欧米勢力に否定的な立場といえば、戦後の、極端に日本の武装やアメリカとの同盟関係についても否定的に考え、一方では中国などアジア諸国との共存を唱える立場が直ちに想起される。戦前から現在に至るまで、日本の外交政策を損なってきた流れはこうした意味で一貫している。
戦後の日本の弱腰姿勢のみをあげつらい、一連の大戦について肯定的に評価することは木を見て森を見ない立場であり、また、先の大戦における日本の行動様式と同じく現実に対する認識と省察を欠いた観念論といえる。実際において、歴史教育において「誇りを持てる歴史」を教える運動が愛国心教育を進める運動の中心をなしてきた。しかし、現実に対する認識や省察を欠いた観念論から抽象的な愛国心を掲げるのであれば、それは非常に危険な事といえるだろう。
上記の記事でも主張したが、教育の基本に関わる法律に抽象的な公共的・道徳的規範を盛り込むことには問題があると言わざるを得ない。政治・法律と教育とは分離されるべき事柄であると考える。現在、教育の場において政治的な主張、主には日本の軍事政策や外交政策をいたずらに軍国主義として非難する主張がしばしば教員から生徒へ押し付ける形でなされていると言われている。だからといって政府が教育問題に別の道徳的規範をもって介入する事には問題があるといえる。政治と教育との相互の侵犯を防ぐ枠組みを考える事が必要だろう。
ところで、教育と愛国心との関連を問う問題は、しばしば歴史教育、特に近代日本の歴史の教育の問題と関連して論じられてきたので、今回はこの問題について少し議論したい。
満州事変から大東亜戦争にかけての先の大戦について、ことさらに侵略を強調する見方には問題がある。一方で、以前に筆者が靖國問題について論じた記事「靖國問題をめぐる最近の見解を検証する(1)」 でも少し言及した事だが、次の理由から、一連の大戦について肯定的に評価する見方にも問題があると言わざるを得ない。
満州事変は関東軍の軍人の暴走によって発生し、中央がそれを止める事ができなかったという性質の事件であり、またこれをきっかけにワシントン会議に基づく秩序が崩壊し日本と欧米諸国との関係の悪化が始まったのである。さらに、もともと日本は対外膨張を支えるだけの国力に欠けており、その上日本軍は「輜重兵が兵のうちならチョウチョトンボも鳥のうち」といわれるように兵站機構が著しく脆弱で、満州事変以降の勢力圏の拡大は無謀だったと言わざるを得ない。欧米勢力を排した日本を中心とした大アジア主義的な構想は最初から現実性を欠いた観念論だといえる。
同じように現実性を欠いた、しかも欧米勢力に否定的な立場といえば、戦後の、極端に日本の武装やアメリカとの同盟関係についても否定的に考え、一方では中国などアジア諸国との共存を唱える立場が直ちに想起される。戦前から現在に至るまで、日本の外交政策を損なってきた流れはこうした意味で一貫している。
戦後の日本の弱腰姿勢のみをあげつらい、一連の大戦について肯定的に評価することは木を見て森を見ない立場であり、また、先の大戦における日本の行動様式と同じく現実に対する認識と省察を欠いた観念論といえる。実際において、歴史教育において「誇りを持てる歴史」を教える運動が愛国心教育を進める運動の中心をなしてきた。しかし、現実に対する認識や省察を欠いた観念論から抽象的な愛国心を掲げるのであれば、それは非常に危険な事といえるだろう。
朝鮮民主主義人民共和国による核実験をめぐる動き
朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮、ないし共和国と略す)による核実験についてアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でこれを非難する特別声明が発表されるようである[*1]
。一方、日米両政府は会議最終日の19日に発表する首脳宣言にこの問題を盛り込むよう働きかけているが、中国および議長国のベトナムは反対している。会議の最終的な成果を注目していきたい。
なお、この核実験については以前の記事「朝鮮民主主義人民共和国による核実験を非難する」 でも取り上げているのでそちらも参照されたい。
ところで、この核実験については、10/31にアメリカ、中国、朝鮮の6カ国協議代表が北京での非公式の協議で6カ国協議の再開を合意している。この前に、中国は唐家セン国務委員を北朝鮮に派遣し、10/19に金正日国防委員長は中国側に「追加核実験は行わない」という意向を語ったとしている。この発言が10/20以降、世界に広まり、それに前後して、6カ国協議での核問題の協議に向けた動きが現れてきた。
このときまで、10/14に国連安全保障理事会は北朝鮮への制裁決議を採択し[*2] 、具体的な制裁に向けた動きや中朝両国の関係について関心が集まっていた。ところが、10/20に上記の金正日国防委員長の発言が流れたのを境に、アメリカ、中国、ロシア、韓国の4カ国は俄然トーンダウンした感がある。
日本人拉致事件でも金正日国防委員長は2002/9/17の日朝会談で拉致を認め、これによって譲歩を演出して日本側からの植民地支配の賠償と国交正常化を取り付けようとしたことはよく知られている。自ら引き起こした問題に対して譲歩を演出することは既に同国が用いる古典的な戦術と化している。今回の一連の流れもこのパターンを出ていないように思える。
日本は日本人拉致事件において、金正日国防委員長による拉致の事実の是認を受け、一層姿勢を強めたが、今回は「追加核実験は行わない」という金正日国防委員長の発言が流れたのを境に、4カ国が俄然トーンダウンした感がある。
朝鮮民主主義研究センター では核実験に対するアメリカの対応を「ほとんど黙認に近い」として非難している。しかし、そもそも朝鮮戦争以降、アメリカは北朝鮮に対して厳しい経済制裁を課しているし、北朝鮮船舶への貨物検査についてはアメリカが提唱したものである。今回のトーンダウンだけを見てアメリカの対応を無策と非難することも当を得ないのではないだろうか。
一方、日本は日本は独自の制裁として北朝鮮からの安保理制裁決議に記載されていない物資も含めた全物資の輸入禁止措置と、北朝鮮船舶の入港禁止を行っている[*3] 。また、上記の安保理決議を受け、酒やたばこなどの嗜好品、トロ、自動車、キャビアなど具体的な品目を定めた上で贅沢品の輸出禁止を決定している[*4] 。
また、北朝鮮船舶への臨時検査の実施への参加を検討していたが、周辺事態法などの適用が見送られたため、米軍による臨時検査への後方支援を行っていくと見られる。
中朝国境では今でもトラックが通過している。中国はトラックの荷物検査や輸出禁止品目の拡大を行っているが、その実態はいい加減なものであるという報告もいくつかあるし、汚職が蔓延している同国の実態にかんがみればそれらの情報は信憑性が高い。
中国は北朝鮮統治区域での鉱山などの権益を持っており、また、金正日体制が崩壊した後に直接西側国家と対峙すること、難民の自国への流入、間島地方の領有問題の浮上などを恐れている。特に2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博を控え、国際紛争を可能な限り回避しなければならない立場にある。それに核実験は論外にしても、中国にとっては北朝鮮は西側諸国に対する外交カードとしての利用価値がある。さらに中国にとっては台湾問題も無視できない問題の一つである。これらの事情から、ただちに北朝鮮が親中政権に交代できる保証がない限り、金正日体制の崩壊に消極的にならざるを得ないだろう。同様に中国はアメリカによる軍事力行使も望まないだろう。
また、アメリカもイラク情勢の混迷以降、東アジア問題に十分に力を入れることができない状況にあり、中間選挙での共和党の敗北もあり、こと東アジア情勢に対しては強硬路線は薄れつつある。民主党の有力議員は米朝直接対話を求めており、今後のアメリカも北朝鮮政策においては、現在の状況を維持し続ける可能性が高い。
したがって、日本が行う制裁が、金正日体制に対する新たな打撃としては最も強力なものになると思われる。金正日体制側も制裁下で苦難の強行軍を決め込む可能性が高い。日本による制裁、特に経済面での制裁と技術流出の防止の徹底が当面望みうることといえる。
ところで、国家による拉致の禁止を定めた「強制的失踪防止条約」が国連総会第三委員会で採決された[*5] 。この要約は6/29に国連人権理事会で採決され、総会で議論されていた。今後12月の総会本会議で採択された後、20カ国の批准により発効する。先方が約束事を意に介さぬ国家であるからには、一個の条約がただちに拉致問題の解決に結びつくとは考えにくい。しかしながら、ともかく国家機関による拉致が明確に犯罪行為として国際法に規定される事は歓迎していきたい。
[*1]讀賣新聞 2006/11/18 APEC首脳会議が特別声明へ、北の核に「強い懸念」
[*2]10/14に国連安全保障理事会は北朝鮮への制裁決議を採択した。この中では戦略物資と並び「贅沢品」の輸出禁止措置、北朝鮮を出入りする船舶の荷物検査の徹底がこめられている。
SECURITY COUNCIL CONDEMNS NUCLEAR TEST BY DEMOCRATIC PEOPLE’S REPUBLIC OF KOREA, UNANIMOUSLY ADOPTING RESOLUTION 1718 (2006).
[*3]平成十八年内閣告示第四号、平成十八年経済産業省告示第三百八号から第三百十一号。
[*4]毎日新聞 2006/11/13 北朝鮮制裁:24品目の「ぜいたく品」輸出禁止固める
[*5]
THIRD COMMITTEE APPROVES DRAFT RESOLUTION CONCERNING CONVENTION ON ENFORCED DISAPPEARANCES; HEARS INTRODUCTION OF 17 TEXTS ON HUMAN RIGHTS ISSUES.
なお、この核実験については以前の記事「朝鮮民主主義人民共和国による核実験を非難する」 でも取り上げているのでそちらも参照されたい。
ところで、この核実験については、10/31にアメリカ、中国、朝鮮の6カ国協議代表が北京での非公式の協議で6カ国協議の再開を合意している。この前に、中国は唐家セン国務委員を北朝鮮に派遣し、10/19に金正日国防委員長は中国側に「追加核実験は行わない」という意向を語ったとしている。この発言が10/20以降、世界に広まり、それに前後して、6カ国協議での核問題の協議に向けた動きが現れてきた。
このときまで、10/14に国連安全保障理事会は北朝鮮への制裁決議を採択し[*2] 、具体的な制裁に向けた動きや中朝両国の関係について関心が集まっていた。ところが、10/20に上記の金正日国防委員長の発言が流れたのを境に、アメリカ、中国、ロシア、韓国の4カ国は俄然トーンダウンした感がある。
日本人拉致事件でも金正日国防委員長は2002/9/17の日朝会談で拉致を認め、これによって譲歩を演出して日本側からの植民地支配の賠償と国交正常化を取り付けようとしたことはよく知られている。自ら引き起こした問題に対して譲歩を演出することは既に同国が用いる古典的な戦術と化している。今回の一連の流れもこのパターンを出ていないように思える。
日本は日本人拉致事件において、金正日国防委員長による拉致の事実の是認を受け、一層姿勢を強めたが、今回は「追加核実験は行わない」という金正日国防委員長の発言が流れたのを境に、4カ国が俄然トーンダウンした感がある。
朝鮮民主主義研究センター では核実験に対するアメリカの対応を「ほとんど黙認に近い」として非難している。しかし、そもそも朝鮮戦争以降、アメリカは北朝鮮に対して厳しい経済制裁を課しているし、北朝鮮船舶への貨物検査についてはアメリカが提唱したものである。今回のトーンダウンだけを見てアメリカの対応を無策と非難することも当を得ないのではないだろうか。
一方、日本は日本は独自の制裁として北朝鮮からの安保理制裁決議に記載されていない物資も含めた全物資の輸入禁止措置と、北朝鮮船舶の入港禁止を行っている[*3] 。また、上記の安保理決議を受け、酒やたばこなどの嗜好品、トロ、自動車、キャビアなど具体的な品目を定めた上で贅沢品の輸出禁止を決定している[*4] 。
また、北朝鮮船舶への臨時検査の実施への参加を検討していたが、周辺事態法などの適用が見送られたため、米軍による臨時検査への後方支援を行っていくと見られる。
中朝国境では今でもトラックが通過している。中国はトラックの荷物検査や輸出禁止品目の拡大を行っているが、その実態はいい加減なものであるという報告もいくつかあるし、汚職が蔓延している同国の実態にかんがみればそれらの情報は信憑性が高い。
中国は北朝鮮統治区域での鉱山などの権益を持っており、また、金正日体制が崩壊した後に直接西側国家と対峙すること、難民の自国への流入、間島地方の領有問題の浮上などを恐れている。特に2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博を控え、国際紛争を可能な限り回避しなければならない立場にある。それに核実験は論外にしても、中国にとっては北朝鮮は西側諸国に対する外交カードとしての利用価値がある。さらに中国にとっては台湾問題も無視できない問題の一つである。これらの事情から、ただちに北朝鮮が親中政権に交代できる保証がない限り、金正日体制の崩壊に消極的にならざるを得ないだろう。同様に中国はアメリカによる軍事力行使も望まないだろう。
また、アメリカもイラク情勢の混迷以降、東アジア問題に十分に力を入れることができない状況にあり、中間選挙での共和党の敗北もあり、こと東アジア情勢に対しては強硬路線は薄れつつある。民主党の有力議員は米朝直接対話を求めており、今後のアメリカも北朝鮮政策においては、現在の状況を維持し続ける可能性が高い。
したがって、日本が行う制裁が、金正日体制に対する新たな打撃としては最も強力なものになると思われる。金正日体制側も制裁下で苦難の強行軍を決め込む可能性が高い。日本による制裁、特に経済面での制裁と技術流出の防止の徹底が当面望みうることといえる。
ところで、国家による拉致の禁止を定めた「強制的失踪防止条約」が国連総会第三委員会で採決された[*5] 。この要約は6/29に国連人権理事会で採決され、総会で議論されていた。今後12月の総会本会議で採択された後、20カ国の批准により発効する。先方が約束事を意に介さぬ国家であるからには、一個の条約がただちに拉致問題の解決に結びつくとは考えにくい。しかしながら、ともかく国家機関による拉致が明確に犯罪行為として国際法に規定される事は歓迎していきたい。
[*1]讀賣新聞 2006/11/18 APEC首脳会議が特別声明へ、北の核に「強い懸念」
[*2]10/14に国連安全保障理事会は北朝鮮への制裁決議を採択した。この中では戦略物資と並び「贅沢品」の輸出禁止措置、北朝鮮を出入りする船舶の荷物検査の徹底がこめられている。
SECURITY COUNCIL CONDEMNS NUCLEAR TEST BY DEMOCRATIC PEOPLE’S REPUBLIC OF KOREA, UNANIMOUSLY ADOPTING RESOLUTION 1718 (2006).
[*3]平成十八年内閣告示第四号、平成十八年経済産業省告示第三百八号から第三百十一号。
[*4]毎日新聞 2006/11/13 北朝鮮制裁:24品目の「ぜいたく品」輸出禁止固める
[*5]
THIRD COMMITTEE APPROVES DRAFT RESOLUTION CONCERNING CONVENTION ON ENFORCED DISAPPEARANCES; HEARS INTRODUCTION OF 17 TEXTS ON HUMAN RIGHTS ISSUES.
朝鮮民主主義人民共和国による核実験を非難する
10月9日、朝鮮民主主義人民共和国は核実験を実施した事を発表した。
この事態は、テロリスト組織などへの核の流出が懸念されている現在(事実、同国は中東諸国へ武器輸出を行っているとして問題視されている[*1])、東アジア地域のみならず全世界の平和に対する脅威を意味するといえる。事実、同日中に国際連合はこれを国際秩序に対する重大な挑戦と非難し[*2]、日本の各政党も非難声明を出しており[*3]、衆議院は10月10日に全会一致で非難決議を採択している。
また、軍備拡大のための出費は国家財政を圧迫し、国内インフラ整備を妨害している上に通貨の乱発による価格上昇を招き、人民生活にまで悪影響を及ぼしている。他にも、軍備拡大に関しては、在日コリアンに対する恫喝による資金の収集や、逆に在日コリアン自身による技術提供の自発的な協力なども問題視されている。
今年7月のテポドン発射においても既に同国は近隣諸国から非難を受けており、国連安全保障理事会では非難決議が採択されている[*4]。制裁決議に反対した中華人民共和国およびロシア連邦も非難決議には賛成した。さらに、テポドン発射の後、在日本大韓民国居留民団(民団)は在日本朝鮮人総聯合会(総聯)との間の和解共同声明を白紙撤回している。
既に国連安保理では制裁決議の採択に向けた協議が進行しており、日本政府は基本的に制裁決議に賛成すると見られ、さらに独自の制裁を検討している。
筆者もまた、同国の核実験(むろんテポドン発射や日本人拉致など、その他の軍事行動や国家犯罪も含め)を全世界の平和に対する脅威を孕むものであると見ており、極めて強い憤りを持たざるを得な同国の軍事行動に対して、各国政府による制裁と共に、否それ以前に、民間での自発的な制裁がなされることが必要だろう。特に、日本は民間次元での資金や機械、技術などの提供および流出が問題視されており[*5]、これらの停止と共に、資金・物資・技術などの提供および流出の実態の解明と、関係者の相応の責任の追及がなされることを望む。
その上で日本人においては個々の韓国人・朝鮮人に対する迫害行動を避け、また韓国・朝鮮人においては核開発を国力の象徴と見なすような民族主義や「日本やアメリカの帝国主義に大本の原因がある」とするような責任転嫁などを避け、平和の観点から団結してこれらの制裁措置へと進む事を望むものである。
[*1]例えばCHUNICHI WEB PRESS, 中東にスカッド60基 北朝鮮が輸出か米議会報告書 [CHUNICHI WEB PRESS], 2003年9月27日.
[*2]Security Council members 'strongly condemn' nuclear test by DPR Korea
[*3]自由民主党, 公明党, 北朝鮮の核実験実施発表に対する声明
民主党, 北朝鮮の地下核実験の強行は断じて容認できない(談話)
社会民主党, 北朝鮮の核実験実施を非難する(談話)
日本共産党, 北朝鮮の核実験強行に抗議する
[*4]Unanimously adopting resoultion 1695 (2006).
[*5]たとえば、ミツトヨによる三次元測定器の不正輸出事件では不正輸出された測定器の一部が共和国にわたっている事が確認されている。日本テレビNEWS24, 2006年9月5日。
また在日朝鮮人と軍備拡大との関連については筆者が3月28日の記事 「拉致事件による朝鮮総聯傘下団体への強制捜査について」でも取り上げたが、朝鮮総聯傘下の団体「在日本朝鮮人科学技術協会」から科学技術情報が本国へ流れている、この団体は活動を縮小しているが、他に本国へ技術を移転するパイプが存在するという情報がある。ウラジミール, ミサイルデータ流出、テポドン打ち上げ 謎の組織「科協」に迫る, 正論 409(2006/4), 266--277(投稿者のサイトに初稿が公開されている)を参照。
この事態は、テロリスト組織などへの核の流出が懸念されている現在(事実、同国は中東諸国へ武器輸出を行っているとして問題視されている[*1])、東アジア地域のみならず全世界の平和に対する脅威を意味するといえる。事実、同日中に国際連合はこれを国際秩序に対する重大な挑戦と非難し[*2]、日本の各政党も非難声明を出しており[*3]、衆議院は10月10日に全会一致で非難決議を採択している。
また、軍備拡大のための出費は国家財政を圧迫し、国内インフラ整備を妨害している上に通貨の乱発による価格上昇を招き、人民生活にまで悪影響を及ぼしている。他にも、軍備拡大に関しては、在日コリアンに対する恫喝による資金の収集や、逆に在日コリアン自身による技術提供の自発的な協力なども問題視されている。
今年7月のテポドン発射においても既に同国は近隣諸国から非難を受けており、国連安全保障理事会では非難決議が採択されている[*4]。制裁決議に反対した中華人民共和国およびロシア連邦も非難決議には賛成した。さらに、テポドン発射の後、在日本大韓民国居留民団(民団)は在日本朝鮮人総聯合会(総聯)との間の和解共同声明を白紙撤回している。
既に国連安保理では制裁決議の採択に向けた協議が進行しており、日本政府は基本的に制裁決議に賛成すると見られ、さらに独自の制裁を検討している。
筆者もまた、同国の核実験(むろんテポドン発射や日本人拉致など、その他の軍事行動や国家犯罪も含め)を全世界の平和に対する脅威を孕むものであると見ており、極めて強い憤りを持たざるを得な同国の軍事行動に対して、各国政府による制裁と共に、否それ以前に、民間での自発的な制裁がなされることが必要だろう。特に、日本は民間次元での資金や機械、技術などの提供および流出が問題視されており[*5]、これらの停止と共に、資金・物資・技術などの提供および流出の実態の解明と、関係者の相応の責任の追及がなされることを望む。
その上で日本人においては個々の韓国人・朝鮮人に対する迫害行動を避け、また韓国・朝鮮人においては核開発を国力の象徴と見なすような民族主義や「日本やアメリカの帝国主義に大本の原因がある」とするような責任転嫁などを避け、平和の観点から団結してこれらの制裁措置へと進む事を望むものである。
[*1]例えばCHUNICHI WEB PRESS, 中東にスカッド60基 北朝鮮が輸出か米議会報告書 [CHUNICHI WEB PRESS], 2003年9月27日.
[*2]Security Council members 'strongly condemn' nuclear test by DPR Korea
[*3]自由民主党, 公明党, 北朝鮮の核実験実施発表に対する声明
民主党, 北朝鮮の地下核実験の強行は断じて容認できない(談話)
社会民主党, 北朝鮮の核実験実施を非難する(談話)
日本共産党, 北朝鮮の核実験強行に抗議する
[*4]Unanimously adopting resoultion 1695 (2006).
[*5]たとえば、ミツトヨによる三次元測定器の不正輸出事件では不正輸出された測定器の一部が共和国にわたっている事が確認されている。日本テレビNEWS24, 2006年9月5日。
また在日朝鮮人と軍備拡大との関連については筆者が3月28日の記事 「拉致事件による朝鮮総聯傘下団体への強制捜査について」でも取り上げたが、朝鮮総聯傘下の団体「在日本朝鮮人科学技術協会」から科学技術情報が本国へ流れている、この団体は活動を縮小しているが、他に本国へ技術を移転するパイプが存在するという情報がある。ウラジミール, ミサイルデータ流出、テポドン打ち上げ 謎の組織「科協」に迫る, 正論 409(2006/4), 266--277(投稿者のサイトに初稿が公開されている)を参照。
靖國問題をめぐる最近の見解を検証する(2)
政治家の靖國参拝や靖國神社でのA級戦犯合祀を批判する主張は以前から中朝韓の三国や、日本国内で反戦運動を行っている人々によってなされているが、従来こうした動きに反対してきた人々が靖國神社そのものに対して圧力を匂わせるような発言を行っている。
前回 取り上げた、麻生氏の発言もそうであるが、もう一つには岡崎久彦氏が産経新聞に掲載した遊就館の展示内容の修正要求記事[*1] がそれである。これはG. F. Will氏によるワシントン・ポスト紙の記事[*2] を紹介したもので、Will氏の記事における、遊就館の展示中にある「アメリカが不況の脱却のために資源の乏しい日本を経済制裁により戦争に追い込み、これによりアメリカ経済は回復した」という旨の主張が不適切だという批判を受けて岡崎氏もこれを支持し、展示内容の修正を要求したものである。
岡崎氏の主張は「私は遊就館が、問題の個所を撤去するよう求める。それ以外の展示は、そ れが戦意を鼓吹する戦争中のフィルムであっても、それは歴史の証言の一部 であり、展示は正当である。ただこの安っぽい歴史観は靖國の尊厳を傷つけ るものである。私は真剣である。この展示を続けるならば、私は靖國をかば えなくなるとまであえて言う」という厳しいもので、これを全国紙である産経新聞の朝刊に掲載した事は圧力を匂わせるものに思われる。
私的な宗教施設である靖國について、全国紙の朝刊に展示内容の修正要求記事を掲載することには違和感を感じざるを得ない。靖國神社そのものに対する圧力を匂わせる点において麻生氏の「非宗教法人化」発言と通じるものがある。麻生氏の「非宗教法人化」は靖國の公的施設化を意図したものであるが、岡崎氏がわざわざ全国紙に訂正要求記事を掲載するのもこれを意図したものであろうか。それならば、靖國問題を政争の具にすることを避けることを主張する岡崎氏の基本的スタンスに反している。
靖國神社の歴史観については筆者は前回の記事でも(いわゆる「侵略戦争」論の類に留まらず)問題点が提起されていると述べたが、岡崎氏の指摘自体は適切だと考える。しかし、岡崎氏が産経紙へ今回の記事を掲載したことには違和感を抱かざるを得ない。
[*1] 岡崎久彦, 【正論】元駐タイ大使・岡崎久彦 遊就館から未熟な反米史観を廃せ, 産経新聞2006年8月24日朝刊. 岡崎研究所 で閲覧可能。
[*2] George F. Will, The Uneasy Sleep of Japan's Dead , The Washington Post, August 20, 2006; Page B07.
前回 取り上げた、麻生氏の発言もそうであるが、もう一つには岡崎久彦氏が産経新聞に掲載した遊就館の展示内容の修正要求記事[*1] がそれである。これはG. F. Will氏によるワシントン・ポスト紙の記事[*2] を紹介したもので、Will氏の記事における、遊就館の展示中にある「アメリカが不況の脱却のために資源の乏しい日本を経済制裁により戦争に追い込み、これによりアメリカ経済は回復した」という旨の主張が不適切だという批判を受けて岡崎氏もこれを支持し、展示内容の修正を要求したものである。
岡崎氏の主張は「私は遊就館が、問題の個所を撤去するよう求める。それ以外の展示は、そ れが戦意を鼓吹する戦争中のフィルムであっても、それは歴史の証言の一部 であり、展示は正当である。ただこの安っぽい歴史観は靖國の尊厳を傷つけ るものである。私は真剣である。この展示を続けるならば、私は靖國をかば えなくなるとまであえて言う」という厳しいもので、これを全国紙である産経新聞の朝刊に掲載した事は圧力を匂わせるものに思われる。
私的な宗教施設である靖國について、全国紙の朝刊に展示内容の修正要求記事を掲載することには違和感を感じざるを得ない。靖國神社そのものに対する圧力を匂わせる点において麻生氏の「非宗教法人化」発言と通じるものがある。麻生氏の「非宗教法人化」は靖國の公的施設化を意図したものであるが、岡崎氏がわざわざ全国紙に訂正要求記事を掲載するのもこれを意図したものであろうか。それならば、靖國問題を政争の具にすることを避けることを主張する岡崎氏の基本的スタンスに反している。
靖國神社の歴史観については筆者は前回の記事でも(いわゆる「侵略戦争」論の類に留まらず)問題点が提起されていると述べたが、岡崎氏の指摘自体は適切だと考える。しかし、岡崎氏が産経紙へ今回の記事を掲載したことには違和感を抱かざるを得ない。
[*1] 岡崎久彦, 【正論】元駐タイ大使・岡崎久彦 遊就館から未熟な反米史観を廃せ, 産経新聞2006年8月24日朝刊. 岡崎研究所 で閲覧可能。
[*2] George F. Will, The Uneasy Sleep of Japan's Dead , The Washington Post, August 20, 2006; Page B07.
靖國問題をめぐる最近の見解を検証する(1)
靖國問題に関して最近関心が集まっているが、筆者が最近関心を抱いている事は、この問題について以前は中国や朝鮮・韓国、それに日本国内の反戦主義者が政治家の靖國参拝などを非難していたのであるが、最近では従来これらの勢力に批判的だった人々の中に靖國神社に対して圧力を匂わせるような発言をする人が現れている事である。そこでこうした動きについて本記事では扱いたい。
この動きに該当するものは、一つには麻生太郎外相の靖國神社の非宗教法人化を主張する発言、もう一つには岡崎久彦元駐タイ大使が産経新聞に掲載した、遊就館展示内容の修正を求める記事である。
今回は、麻生太郎氏が靖國神社の非宗教法人化を提唱していることについて論じたい。
麻生氏の靖國神社に関する見解は氏のウェブページに掲載された論文[*1]で見ることができる。
麻生氏の考えは、靖國神社は日本人の集合的記憶を留めるという点で代替し得ないものであり、国家の為に命を犠牲にした人々は国家自身が祀らなければならず、それゆえに靖國神社は必要なものである、一方で靖國神社が慰霊の場として存在するためには、宗教性が政治家の参拝の上での障害となり、また終戦からの時の経過と共に寄付金が減少し経営が悪化しているため、非宗教法人化したうえで、最終的には特殊法人とし、政治からの距離を遠ざけていくべきだというものである。
まず、実際には下に記すように靖國神社には麻生氏の言うところの日本人の「集合的記憶」に留まるものではない靖國神社自身のスタンスが存在する。その点で靖國神社は形式のみならず実態としても国家を離れた私的な宗教施設としての位置を確立している。非政治化のために国が靖國神社のあり方の変更を求めるのであれば、それは際限なく行われ「非政治化」とは真逆の状況となる可能性なしとしない。そもそも既に一個の宗教法人として存在している靖國神社に対して国家が介入する事が宗教活動の自由に反している。
もともと靖國神社は天皇に仕える忠臣を祀る別格官幣社となっているという経緯を持ち、例えば明治維新で新政府軍に抗戦した幕府軍や新撰組その他の集団の構成員、西南戦争を起こした西郷隆盛以下士族軍は祀られていないなど、純粋な戦争犠牲者の追悼施設とは言い難い面を持っている。また自身のサイト[*2]で「日本の独立をしっかりと守り、平和な国として、まわりのアジアの国々と共に栄えていくためには、戦わなければならなかった」と大東亜戦争も含めた過去の戦争について評価している。
過去の戦争への肯定的評価については(アジア侵略を言い立てるようなものは論外としても)満洲事変・支那事変によって欧米諸国の中国権益を侵害したことが欧米諸国との関係悪化を経て最終的には大東亜戦争へとつながっていく過程をネグレクトしているとか、当時の日本の生産力・技術力・経済状況で欧米諸国、とりわけアメリカと戦争をするのは無謀であったとか、日本軍自身の非効率的な官僚機構や体系立った作戦立案能力の欠如や兵站軽視にともなう食糧不足などの欠陥を無視している[*3]とか、多くの問題点が提起されているが、ともかく靖國神社が過去の戦争に関して特定の思想をもって戦没者を祀る施設であることは確かである。政教分離の原則から、靖國神社の宗教性が問題にされるが、宗教に限らず、特定の思想をもって戦没者を祀る施設を国家的施設として認めることは望ましくないし、そのような思想を除去した上で国家的施設へと取り込むのであれば、これまた靖國神社の思想活動の自由を侵害するものといえる。
靖國神社は一個の宗教施設として、その宗教および思想に関する立場をもって戦没者を祀る自由を保障されるべきであるし、一方で国家が戦没者の追悼という最小限の観点のみをもってこれを行う施設を運営することは望ましい事だと考える。両者は別個の施設として、両立する存在である(既存の千鳥ケ淵戦没者墓苑の拡張などが順当だろう)。筆者自身は基本的に国家は小さなものであるべきだと考えているが、純粋に戦没者の追悼を行うことまで否定しようとは考えていない。
実際において、このように可能な限り政治的主張や宗教色などを拝して追悼を行うにしても、中国などからの非難は止まないだろう。天皇皇后両陛下のサイパン訪問に関して天皇陛下による慰霊を非難する中国の記事が紹介されている[*4]ように、中国は先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼するという立場を「戦犯」と戦争犠牲者の区別を怠り侵略者を美化するもので、歴史に対する認識と反省を欠いているとしている。またA級戦犯合祀が俎上に載せられている現状からすれば、他の追悼施設でA級戦犯の追悼を行っても中国などから同様の批判がなされる可能性は高い。
そもそも極東国際軍事裁判を含んだ一連の戦犯裁判には、その運用の実態が公正な刑事裁判の原則を外れた一方的な復讐裁判であるものが少なくない。一方で開戦に至る過程での日本の行動に問題点が存在したことは上述したとおりであり、また「戦犯」とされた者の中には実際に日本の法体系から見ても処罰されなければならない行為を行った者が少なくないことも確かである[*5]。
しかし、こうした戦争に関連する事実関係と戦争責任の究明と、戦争犠牲者の慰霊・追悼とは別次元の問題だと筆者は考えているし、それは一般的な日本人の宗教感覚にも概ね一致すると思われる。国民党が汪兆銘の墓を爆破したことや、韓国に於ける昨今の親日派糾弾の風潮などを見るにつけ、中国や朝鮮・韓国には悪と見なした存在を全否定する風潮が強く存在するように思えてならない。
大戦に関する事実関係を究明し、個々の政治家・軍人その他の人々についてもその大戦への寄与を検証する事は当然としても、同時に彼らも戦争の犠牲者として追悼されるべき存在である事は個人としての不可侵の尊厳であると考える。元来、中国人は個人主義が強いと良い意味でも悪い意味でもしばしば言及されるのに対して(中国共産党政権を含めた)国としての「中国」およびその影響を色濃く受けた「朝鮮」はあまりにも個の尊厳を顧みない国であると言わざるを得ないが、戦犯に対するスタンスにもそれが現れているといえよう(こうしたことは、日本国内の反戦主義者にもしばしば言えることである)。
不可侵の個の尊厳という見地からすれば、現在靖國神社が自らの見解に基づいて戦没者の慰霊を行っていることも当然保障されるべき宗教的な尊厳である。国家による戦没者慰霊のために靖國神社に非政治化を求めるなら、靖國神社の現在もっている性格そのものを変容させる事につながりかねず、本末転倒というものだろう。靖國神社が独自の見解を持てば持つほど、それは国家から独立した存在であるほかない。靖國神社の靖國神社としての性質を守ろうとするなら、それを不可侵の尊厳をもった独立した宗教施設として認めるよりないといえよう。
次回は、岡崎氏の靖國問題をめぐる記事を検証したい。
[*1] 麻生太郎, 2006年8月8日「靖国に弥栄(いやさか)あれ」
[*2] やすくにQ&Aを参照。靖國神社はリンク設定をトップページのみに限定しており、リンクの際に神社への連絡を求めているが、論評の為に直接該当URLを紹介する事は正当な事であり、著作権などの侵害にも該当しないと判断し、やすくにQ&AのURLを示す。
[*3]大東亜戦争に関する日本の戦争責任を旧来の侵略戦争史観を脱して日本自身の問題として検証したものとして、讀賣新聞の「検証・戦争責任」の連載が話題を呼んだ。日本軍の構造的問題点については多くの人々が取り上げているが、例えば山本七平氏は様々な著書を通じて、現代日本の問題点と関連付けながら分析している。例えば山本七平, 私の中の日本軍(上)(下), 文藝春秋, 1983を参照。また、消印所沢, 軍事板常見問題 第二次大戦(およびその前後)アジア・太平洋方面FAQでは日本軍の問題点と、(主に小林よしのり氏による)それらを無視して大東亜戦争を肯定的に述べる見解を様々な論点において取り上げて批判している。
[*4] 2005年6月28日日経新聞「侵略を美化」と批判・両陛下の訪問で中国紙を参照。
この日経記事に紹介された中国の記事によると、新聞晨報は天皇は「殺人者」と「被害者」への対応を区別すべきだと指摘し、天皇の言葉「先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼する」を「侵略者を美化する言葉で、歴史に対する正確な認識と反省を欠いている」と批判したほか、新京報は天皇が慰霊する戦死者を「靖國神社の戦犯と同じ穴のむじなだ」と断じたという。
[*5] 例えば東条英機の戦争責任について取り上げたものは秦郁彦, 東条英機の「戦争責任」, 諸君, 19(8) (1987), 26--42を参照。これは秦郁彦, 現代史の争点, 文藝春秋, 2001にも収録されている。
この動きに該当するものは、一つには麻生太郎外相の靖國神社の非宗教法人化を主張する発言、もう一つには岡崎久彦元駐タイ大使が産経新聞に掲載した、遊就館展示内容の修正を求める記事である。
今回は、麻生太郎氏が靖國神社の非宗教法人化を提唱していることについて論じたい。
麻生氏の靖國神社に関する見解は氏のウェブページに掲載された論文[*1]で見ることができる。
麻生氏の考えは、靖國神社は日本人の集合的記憶を留めるという点で代替し得ないものであり、国家の為に命を犠牲にした人々は国家自身が祀らなければならず、それゆえに靖國神社は必要なものである、一方で靖國神社が慰霊の場として存在するためには、宗教性が政治家の参拝の上での障害となり、また終戦からの時の経過と共に寄付金が減少し経営が悪化しているため、非宗教法人化したうえで、最終的には特殊法人とし、政治からの距離を遠ざけていくべきだというものである。
まず、実際には下に記すように靖國神社には麻生氏の言うところの日本人の「集合的記憶」に留まるものではない靖國神社自身のスタンスが存在する。その点で靖國神社は形式のみならず実態としても国家を離れた私的な宗教施設としての位置を確立している。非政治化のために国が靖國神社のあり方の変更を求めるのであれば、それは際限なく行われ「非政治化」とは真逆の状況となる可能性なしとしない。そもそも既に一個の宗教法人として存在している靖國神社に対して国家が介入する事が宗教活動の自由に反している。
もともと靖國神社は天皇に仕える忠臣を祀る別格官幣社となっているという経緯を持ち、例えば明治維新で新政府軍に抗戦した幕府軍や新撰組その他の集団の構成員、西南戦争を起こした西郷隆盛以下士族軍は祀られていないなど、純粋な戦争犠牲者の追悼施設とは言い難い面を持っている。また自身のサイト[*2]で「日本の独立をしっかりと守り、平和な国として、まわりのアジアの国々と共に栄えていくためには、戦わなければならなかった」と大東亜戦争も含めた過去の戦争について評価している。
過去の戦争への肯定的評価については(アジア侵略を言い立てるようなものは論外としても)満洲事変・支那事変によって欧米諸国の中国権益を侵害したことが欧米諸国との関係悪化を経て最終的には大東亜戦争へとつながっていく過程をネグレクトしているとか、当時の日本の生産力・技術力・経済状況で欧米諸国、とりわけアメリカと戦争をするのは無謀であったとか、日本軍自身の非効率的な官僚機構や体系立った作戦立案能力の欠如や兵站軽視にともなう食糧不足などの欠陥を無視している[*3]とか、多くの問題点が提起されているが、ともかく靖國神社が過去の戦争に関して特定の思想をもって戦没者を祀る施設であることは確かである。政教分離の原則から、靖國神社の宗教性が問題にされるが、宗教に限らず、特定の思想をもって戦没者を祀る施設を国家的施設として認めることは望ましくないし、そのような思想を除去した上で国家的施設へと取り込むのであれば、これまた靖國神社の思想活動の自由を侵害するものといえる。
靖國神社は一個の宗教施設として、その宗教および思想に関する立場をもって戦没者を祀る自由を保障されるべきであるし、一方で国家が戦没者の追悼という最小限の観点のみをもってこれを行う施設を運営することは望ましい事だと考える。両者は別個の施設として、両立する存在である(既存の千鳥ケ淵戦没者墓苑の拡張などが順当だろう)。筆者自身は基本的に国家は小さなものであるべきだと考えているが、純粋に戦没者の追悼を行うことまで否定しようとは考えていない。
実際において、このように可能な限り政治的主張や宗教色などを拝して追悼を行うにしても、中国などからの非難は止まないだろう。天皇皇后両陛下のサイパン訪問に関して天皇陛下による慰霊を非難する中国の記事が紹介されている[*4]ように、中国は先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼するという立場を「戦犯」と戦争犠牲者の区別を怠り侵略者を美化するもので、歴史に対する認識と反省を欠いているとしている。またA級戦犯合祀が俎上に載せられている現状からすれば、他の追悼施設でA級戦犯の追悼を行っても中国などから同様の批判がなされる可能性は高い。
そもそも極東国際軍事裁判を含んだ一連の戦犯裁判には、その運用の実態が公正な刑事裁判の原則を外れた一方的な復讐裁判であるものが少なくない。一方で開戦に至る過程での日本の行動に問題点が存在したことは上述したとおりであり、また「戦犯」とされた者の中には実際に日本の法体系から見ても処罰されなければならない行為を行った者が少なくないことも確かである[*5]。
しかし、こうした戦争に関連する事実関係と戦争責任の究明と、戦争犠牲者の慰霊・追悼とは別次元の問題だと筆者は考えているし、それは一般的な日本人の宗教感覚にも概ね一致すると思われる。国民党が汪兆銘の墓を爆破したことや、韓国に於ける昨今の親日派糾弾の風潮などを見るにつけ、中国や朝鮮・韓国には悪と見なした存在を全否定する風潮が強く存在するように思えてならない。
大戦に関する事実関係を究明し、個々の政治家・軍人その他の人々についてもその大戦への寄与を検証する事は当然としても、同時に彼らも戦争の犠牲者として追悼されるべき存在である事は個人としての不可侵の尊厳であると考える。元来、中国人は個人主義が強いと良い意味でも悪い意味でもしばしば言及されるのに対して(中国共産党政権を含めた)国としての「中国」およびその影響を色濃く受けた「朝鮮」はあまりにも個の尊厳を顧みない国であると言わざるを得ないが、戦犯に対するスタンスにもそれが現れているといえよう(こうしたことは、日本国内の反戦主義者にもしばしば言えることである)。
不可侵の個の尊厳という見地からすれば、現在靖國神社が自らの見解に基づいて戦没者の慰霊を行っていることも当然保障されるべき宗教的な尊厳である。国家による戦没者慰霊のために靖國神社に非政治化を求めるなら、靖國神社の現在もっている性格そのものを変容させる事につながりかねず、本末転倒というものだろう。靖國神社が独自の見解を持てば持つほど、それは国家から独立した存在であるほかない。靖國神社の靖國神社としての性質を守ろうとするなら、それを不可侵の尊厳をもった独立した宗教施設として認めるよりないといえよう。
次回は、岡崎氏の靖國問題をめぐる記事を検証したい。
[*1] 麻生太郎, 2006年8月8日「靖国に弥栄(いやさか)あれ」
[*2] やすくにQ&Aを参照。靖國神社はリンク設定をトップページのみに限定しており、リンクの際に神社への連絡を求めているが、論評の為に直接該当URLを紹介する事は正当な事であり、著作権などの侵害にも該当しないと判断し、やすくにQ&AのURLを示す。
[*3]大東亜戦争に関する日本の戦争責任を旧来の侵略戦争史観を脱して日本自身の問題として検証したものとして、讀賣新聞の「検証・戦争責任」の連載が話題を呼んだ。日本軍の構造的問題点については多くの人々が取り上げているが、例えば山本七平氏は様々な著書を通じて、現代日本の問題点と関連付けながら分析している。例えば山本七平, 私の中の日本軍(上)(下), 文藝春秋, 1983を参照。また、消印所沢, 軍事板常見問題 第二次大戦(およびその前後)アジア・太平洋方面FAQでは日本軍の問題点と、(主に小林よしのり氏による)それらを無視して大東亜戦争を肯定的に述べる見解を様々な論点において取り上げて批判している。
[*4] 2005年6月28日日経新聞「侵略を美化」と批判・両陛下の訪問で中国紙を参照。
この日経記事に紹介された中国の記事によると、新聞晨報は天皇は「殺人者」と「被害者」への対応を区別すべきだと指摘し、天皇の言葉「先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼する」を「侵略者を美化する言葉で、歴史に対する正確な認識と反省を欠いている」と批判したほか、新京報は天皇が慰霊する戦死者を「靖國神社の戦犯と同じ穴のむじなだ」と断じたという。
[*5] 例えば東条英機の戦争責任について取り上げたものは秦郁彦, 東条英機の「戦争責任」, 諸君, 19(8) (1987), 26--42を参照。これは秦郁彦, 現代史の争点, 文藝春秋, 2001にも収録されている。
韓国人拉致問題について
共和国によって拉致された横田めぐみ氏の夫が、同じく共和国によって拉致された韓国人の金英男氏であることが判明し、話題を呼んでいる。
日本人拉致問題については以前にも「拉致事件による朝鮮総聯傘下団体への強制捜査について」 および「朝鮮民主主義人民共和国による脱北支援NGO関係者の引き渡し要求を検証する」 で触れているので、今回は韓国人拉致問題について触れたい[*1] 。
古くは朝鮮戦争において、多くの韓国人が拉致されている。朝鮮戦争による拉致被害者を支援する「6.25戦争拉北人士家族協議会」 には、朝鮮戦争時の拉致被害者と思われる人物の名簿が掲載されているが、登録されている人数は10万人を超える。
共和国が奇襲によって朝鮮戦争を始めたためにソウルを初めとする韓国統治区域の大部分が住民の避難する余裕もなく共和国の占領下におかれ、その後国連軍・韓国軍の反攻に際して共和国が撤退する際に撤退区域の住民を多数後方へと拉致したのである。
特に安在鴻、金奎植、李光洙といった多くの知識人がソウルから共和国へ拉致されたといわれる。確証を欠いており、一部は自ら進んで越北したと言われるが、良く知られた話である。実際問題として、たとえ左派知識人であっても多くは共和国占領下のソウルで彼らの本質を理解したのではないだろうか。そうなると、拉致である可能性は非常に高い。民族主義者として名高い曺晩植はもともと平壌で活動していたが、国連・韓国軍の反攻により平壌が陥落する際に撤退する朝鮮人民軍に同行するよう求められたがこれを拒否したため、処刑されたといわれる。
このほか、共和国の捕虜となった国連・韓国軍軍人のうち未帰還の軍人が多数存在すると言われているが、その人数は不明である。共和国に抑留された国連・韓国軍軍人は「解放戦士」と呼ばれるが、炭鉱などで極めて劣悪な環境での労働に従事させられているとされる。
朝鮮戦争休戦以降も共和国は多数の韓国人を拉致している。「北韓人権白書」[1] によれば、朝鮮戦争休戦以降の韓国人拉致被害者は3790人に達し、そのうち485名が現在まで抑留されていることが確認されている[*2] 。
朝鮮戦争後における韓国人の拉致は、越境した漁船や、場合によっては韓国の水域や、共和国の主張する(一般に認められていない)軍事水域で漁船を拿捕し、そのまま乗員を送還せずに抑留する場合や、海岸などで奇襲して拉致する場合などがある。もちろんこの他にも共和国による拉致の手段は多数存在する。
漁船の拿捕・拉致は、かつて韓国政府が李承晩ラインを設定して日本漁船を拿捕し、乗員を拉致した事件を思い出す手法であるが、金英男氏の場合は、海岸で工作員によって拉致されるという事例に該当する[*3] 。
拉致韓国人は、少なくともその一部は工作員を韓国の環境に適応させるための以南化教育に利用されている。安明進氏はこの教育の一環として以南化環境館と呼ばれる、ソウルの町並みのように様々な店舗が設置された地下施設に出入りしたが、この施設の案内人や、店舗の店員として働いていたのは拉致韓国人だったと語っている[*4] 。金英男氏も以南化環境館で案内人として働いていたといわれる[*5] 。
このように、拉致韓国人は工作員の育成に利用されているほか、拉致韓国人自身が工作員として南派(韓国に派遣)される場合もあるといわれる。
韓国政府及び韓国社会は拉致韓国人の救出に極めて消極的であったとして批判される。これは、かつては上述した、拉致韓国人自身が工作員として南派される可能性への危惧や、韓国側も独裁政権下の人権侵害という傷を抱えていたことが原因だと思われる。以前の韓国政府および韓国社会は休戦状態が継続しているという特殊な事情から共和国への危機感が極めて強く、その危機感が拉致韓国人にまで向けられることになったといえる。韓国もまた、日本に対しても李承晩ラインでの漁船の拿捕や金大中の拉致といった事件を起こしており、人権侵害という点においては相当に傷ある身だった。
一方、現在の韓国では韓国人拉致問題に限らず、共和国による人権侵害問題を取り上げることへの圧力が強く存在すると言われる。国連における共和国への非難決議の棄権や、駐中韓国大使館の脱北者への冷淡な姿勢、黄長[火+華]氏の軟禁など、韓国政府の共和国人権問題への対応はしばしば非難されるところである。これは国策としての太陽政策や民族主義感情などによるものといわれる。また、反米・反日感情から、共和国人権問題を取り上げることがアメリカや日本を利することにつながると見られているのかもしれない。一方では、韓国社会には統一コストや共和国への中ロの影響の増大、その他共和国の体制崩壊に伴う混乱への危惧があり、これが共和国への攻撃を鈍らせているとも言われている。
また、金英男氏の存在がクローズアップされたことで盧武鉉政権は対共和国政策を転換せざるを得なくなるという観測がある。しかし、金英男氏の拉致事件自体は1997年に確認されており、横田めぐみ氏との婚姻関係が今回確認されたことで、これまで共和国人権問題について国際社会の場で問題にされることがあってもなお消極的な姿勢をとり続けていた盧武鉉政権がどの程度姿勢の変化を見せるかは疑わしい。
それにしても、共和国の人権問題は多くの共和国公民や韓国国民に及び、日本人やその他の外国人にまで及んでいることである。民族主義の観点からするならば、なおのこと共和国の人権問題を「わが民族」の問題と見るべきだろう。さらに太陽政策という国策上の事情や共和国の体制崩壊に伴う混乱の危険性に関わらず人権問題は追及されるべき性質のものであるし、とりわけ自国民である拉致韓国人については韓国政府は救出する義務があるといえる(こうしたことは、日本政府にもある程度言えることである)。
金英男氏は韓国では1997年に既に拉致被害者として取り上げられた人物であるが、日本では横田めぐみ氏との関係から一気に大きな注目を集めた人物である。その意味では、金英男氏の問題は韓国よりも日本やその他の国々に大きな影響を与えるかも知れず、韓国の今後の対共和国政策は韓国自身が意識する以上に国際社会の厳しい注目に晒されるかも知れない。
また、韓国は拉致の被害国家であるのみならず、李承晩ラインを設定し日本漁船を不当に拿捕し、果ては第一大邦丸漁撈長を死亡させているなど、もう一つの日本人拉致とも言うべき事件の加害国家でもある。国会でも取り上げられ[*6] 、日本弁護士連合会からも非難された事件である[*7] 。日韓国交正常化によって漁船拿捕問題は法的に解決されたが、今も李承晩ラインは竹島問題に残されているし、人道問題としての漁船拿捕問題は未だ総括されているとは言い難い。政治的・法的問題とは切り離して人道問題として漁船拿捕問題を改めて考える必要があるだろう。
最後に、奇しくもこの金英男氏の一件に前後して韓国の映画監督申相玉氏が死去したことについて触れたい。申相玉氏は1978年、やはり金英男氏の拉致事件とほぼ時を同じくして共和国に拉致され、共和国の映画制作に従事し「プルガサリ」などの作品を残したが、後に西側に脱出した。申相玉氏の冥福を祈ることをもって本記事を終えたい。
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[*1]韓国人拉致および韓国軍捕虜の問題の詳細については北韓人権白書[1] および韓国における拉致事件 を参照されたい。
[*2]北韓人権白書[1] 2006(韓国語)p.228または北韓人権白書[1] 2005(英語)p.313
[*3]金英男氏の拉致については北韓人権白書[1] 2006(韓国語)p.230または北韓人権白書[1] 2005(英語)p.315を参照されたい。英語版では拉致が確認されたのは1977年だとしているが、そもそも金英男氏の拉致が行われたのは1978年だからこれは(韓国語版に記載されている年である)1997年の誤りだろう。
[*4]北韓人権白書[1] 2006(韓国語)p.231, 北韓人権白書[1] 2005(英語)p.317および安明進, 北朝鮮拉致工作員, 徳間書店, 1998, 2000.
[*5]中央日報2006年4月15日 78年金英男さんを拉致したスパイ、ソウルに居住
[*6]たとえば、参議院会議録情報 第019回国会 運輸委員会 第10号 を参照。
[*7]日本弁護士連合会, 李ライン問題に関する日本漁民拉致に対し韓国の反省を求める件(宣言)
[1]入手可能な最新版の「北韓人権白書」は次のもの。
北韓人権白書2005(英語)
北韓人権白書2006(韓国語)
日本人拉致問題については以前にも「拉致事件による朝鮮総聯傘下団体への強制捜査について」 および「朝鮮民主主義人民共和国による脱北支援NGO関係者の引き渡し要求を検証する」 で触れているので、今回は韓国人拉致問題について触れたい[*1] 。
古くは朝鮮戦争において、多くの韓国人が拉致されている。朝鮮戦争による拉致被害者を支援する「6.25戦争拉北人士家族協議会」 には、朝鮮戦争時の拉致被害者と思われる人物の名簿が掲載されているが、登録されている人数は10万人を超える。
共和国が奇襲によって朝鮮戦争を始めたためにソウルを初めとする韓国統治区域の大部分が住民の避難する余裕もなく共和国の占領下におかれ、その後国連軍・韓国軍の反攻に際して共和国が撤退する際に撤退区域の住民を多数後方へと拉致したのである。
特に安在鴻、金奎植、李光洙といった多くの知識人がソウルから共和国へ拉致されたといわれる。確証を欠いており、一部は自ら進んで越北したと言われるが、良く知られた話である。実際問題として、たとえ左派知識人であっても多くは共和国占領下のソウルで彼らの本質を理解したのではないだろうか。そうなると、拉致である可能性は非常に高い。民族主義者として名高い曺晩植はもともと平壌で活動していたが、国連・韓国軍の反攻により平壌が陥落する際に撤退する朝鮮人民軍に同行するよう求められたがこれを拒否したため、処刑されたといわれる。
このほか、共和国の捕虜となった国連・韓国軍軍人のうち未帰還の軍人が多数存在すると言われているが、その人数は不明である。共和国に抑留された国連・韓国軍軍人は「解放戦士」と呼ばれるが、炭鉱などで極めて劣悪な環境での労働に従事させられているとされる。
朝鮮戦争休戦以降も共和国は多数の韓国人を拉致している。「北韓人権白書」[1] によれば、朝鮮戦争休戦以降の韓国人拉致被害者は3790人に達し、そのうち485名が現在まで抑留されていることが確認されている[*2] 。
朝鮮戦争後における韓国人の拉致は、越境した漁船や、場合によっては韓国の水域や、共和国の主張する(一般に認められていない)軍事水域で漁船を拿捕し、そのまま乗員を送還せずに抑留する場合や、海岸などで奇襲して拉致する場合などがある。もちろんこの他にも共和国による拉致の手段は多数存在する。
漁船の拿捕・拉致は、かつて韓国政府が李承晩ラインを設定して日本漁船を拿捕し、乗員を拉致した事件を思い出す手法であるが、金英男氏の場合は、海岸で工作員によって拉致されるという事例に該当する[*3] 。
拉致韓国人は、少なくともその一部は工作員を韓国の環境に適応させるための以南化教育に利用されている。安明進氏はこの教育の一環として以南化環境館と呼ばれる、ソウルの町並みのように様々な店舗が設置された地下施設に出入りしたが、この施設の案内人や、店舗の店員として働いていたのは拉致韓国人だったと語っている[*4] 。金英男氏も以南化環境館で案内人として働いていたといわれる[*5] 。
このように、拉致韓国人は工作員の育成に利用されているほか、拉致韓国人自身が工作員として南派(韓国に派遣)される場合もあるといわれる。
韓国政府及び韓国社会は拉致韓国人の救出に極めて消極的であったとして批判される。これは、かつては上述した、拉致韓国人自身が工作員として南派される可能性への危惧や、韓国側も独裁政権下の人権侵害という傷を抱えていたことが原因だと思われる。以前の韓国政府および韓国社会は休戦状態が継続しているという特殊な事情から共和国への危機感が極めて強く、その危機感が拉致韓国人にまで向けられることになったといえる。韓国もまた、日本に対しても李承晩ラインでの漁船の拿捕や金大中の拉致といった事件を起こしており、人権侵害という点においては相当に傷ある身だった。
一方、現在の韓国では韓国人拉致問題に限らず、共和国による人権侵害問題を取り上げることへの圧力が強く存在すると言われる。国連における共和国への非難決議の棄権や、駐中韓国大使館の脱北者への冷淡な姿勢、黄長[火+華]氏の軟禁など、韓国政府の共和国人権問題への対応はしばしば非難されるところである。これは国策としての太陽政策や民族主義感情などによるものといわれる。また、反米・反日感情から、共和国人権問題を取り上げることがアメリカや日本を利することにつながると見られているのかもしれない。一方では、韓国社会には統一コストや共和国への中ロの影響の増大、その他共和国の体制崩壊に伴う混乱への危惧があり、これが共和国への攻撃を鈍らせているとも言われている。
また、金英男氏の存在がクローズアップされたことで盧武鉉政権は対共和国政策を転換せざるを得なくなるという観測がある。しかし、金英男氏の拉致事件自体は1997年に確認されており、横田めぐみ氏との婚姻関係が今回確認されたことで、これまで共和国人権問題について国際社会の場で問題にされることがあってもなお消極的な姿勢をとり続けていた盧武鉉政権がどの程度姿勢の変化を見せるかは疑わしい。
それにしても、共和国の人権問題は多くの共和国公民や韓国国民に及び、日本人やその他の外国人にまで及んでいることである。民族主義の観点からするならば、なおのこと共和国の人権問題を「わが民族」の問題と見るべきだろう。さらに太陽政策という国策上の事情や共和国の体制崩壊に伴う混乱の危険性に関わらず人権問題は追及されるべき性質のものであるし、とりわけ自国民である拉致韓国人については韓国政府は救出する義務があるといえる(こうしたことは、日本政府にもある程度言えることである)。
金英男氏は韓国では1997年に既に拉致被害者として取り上げられた人物であるが、日本では横田めぐみ氏との関係から一気に大きな注目を集めた人物である。その意味では、金英男氏の問題は韓国よりも日本やその他の国々に大きな影響を与えるかも知れず、韓国の今後の対共和国政策は韓国自身が意識する以上に国際社会の厳しい注目に晒されるかも知れない。
また、韓国は拉致の被害国家であるのみならず、李承晩ラインを設定し日本漁船を不当に拿捕し、果ては第一大邦丸漁撈長を死亡させているなど、もう一つの日本人拉致とも言うべき事件の加害国家でもある。国会でも取り上げられ[*6] 、日本弁護士連合会からも非難された事件である[*7] 。日韓国交正常化によって漁船拿捕問題は法的に解決されたが、今も李承晩ラインは竹島問題に残されているし、人道問題としての漁船拿捕問題は未だ総括されているとは言い難い。政治的・法的問題とは切り離して人道問題として漁船拿捕問題を改めて考える必要があるだろう。
最後に、奇しくもこの金英男氏の一件に前後して韓国の映画監督申相玉氏が死去したことについて触れたい。申相玉氏は1978年、やはり金英男氏の拉致事件とほぼ時を同じくして共和国に拉致され、共和国の映画制作に従事し「プルガサリ」などの作品を残したが、後に西側に脱出した。申相玉氏の冥福を祈ることをもって本記事を終えたい。
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[*1]韓国人拉致および韓国軍捕虜の問題の詳細については北韓人権白書[1] および韓国における拉致事件 を参照されたい。
[*2]北韓人権白書[1] 2006(韓国語)p.228または北韓人権白書[1] 2005(英語)p.313
[*3]金英男氏の拉致については北韓人権白書[1] 2006(韓国語)p.230または北韓人権白書[1] 2005(英語)p.315を参照されたい。英語版では拉致が確認されたのは1977年だとしているが、そもそも金英男氏の拉致が行われたのは1978年だからこれは(韓国語版に記載されている年である)1997年の誤りだろう。
[*4]北韓人権白書[1] 2006(韓国語)p.231, 北韓人権白書[1] 2005(英語)p.317および安明進, 北朝鮮拉致工作員, 徳間書店, 1998, 2000.
[*5]中央日報2006年4月15日 78年金英男さんを拉致したスパイ、ソウルに居住
[*6]たとえば、参議院会議録情報 第019回国会 運輸委員会 第10号 を参照。
[*7]日本弁護士連合会, 李ライン問題に関する日本漁民拉致に対し韓国の反省を求める件(宣言)
[1]入手可能な最新版の「北韓人権白書」は次のもの。
北韓人権白書2005(英語)
北韓人権白書2006(韓国語)
与党が合意した教育基本法改正案について
4月13日に自民・公明両党が教育基本法改正案について合意した[*1]
。大きな変化としては、前文において公共の精神の尊重や伝統の継承を掲げている[*2]
こと、また第2条において「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできたわが国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」を教育の目標として掲げていることが挙げられる。そこで、この二点の改正について検討してみたい。
「公共の精神を尊ぶ」ことが掲げられたことには「個人の権利尊重に偏りすぎている」などの批判があることが背景となっていると思われる[*2] 。
しかし、実際のところ、個を尊重するどころか個性を格差の発生=悪と規定し、結果の平等を過度に追い求める教育こそ日本の教育制度の大きな弊害と言うべきである。学習指導要領 や教科書検定による教科書の内容への極度の制限、高校入試における総合選抜制度や学校群制度や地元集中、習熟度別学習や飛び級制度に消極的な姿勢など、結果平等主義は文部科学省(旧文部省)・自治体・教育現場に共通する弊害だと言える。最近の教育改革によって、ようやくこれらの問題点が曲がりなりにも改善されつつあるというべきである。もちろん、このほかにもいわゆる管理教育、学級人数の多さ、大学の講座制、「入るのは難しく出るのは易しい」と言われる受験システム自体の欠陥、歴史教育や平和教育・同和教育での特定の価値観の押し付けなど、問題点はいくつもある。
もちろん、日本の教育制度の欠陥は官庁の縦割り行政のような構造的なものもあるだろうが、個性を格差の発生=悪と規定し画一化を図る路線が大きな弊害であることは否定し得ない。結果平等主義以外の問題にしても、たとえば歴史教育・平和教育・同和教育で進歩史観など特定の思想・価値観を生徒に強要する行為(自由主義史観教育など、他の史観に基づいた教育にも言えることであるが、現在のところ表面的な問題とはなっていないと思われる)などはまさしく個人の思想・信条・内心の自由を侵害するものである。
このように個の否定が日本の教育制度の大きな欠陥であり、ようやくそれを改善しようという動きが現れているのである。そうであるにもかかわらず、個の尊重に偏向することが日本の教育制度の問題点であるとして、公共の精神の尊重を前面に出すことは結果平等主義の悪弊に対する批判・反省を欠いていると考えられる。
愛国心については以前から教育基本法改正の重要な論点となっていたが、実際には既に学習指導要領に愛国心や他国の尊重に関する規定が記載されている。ただ、教育基本法にこれらの規定を盛り込むことにより、愛国心や他国の尊重の位置づけを格上げする効果は存在するだろう。
問題点を挙げるなら、伝統や文化の尊重、愛国心や他国の尊重というものの内実が明確に規定されていないことだろう。朝鮮民主主義人民共和国による日本人拉致や核開発、大韓民国によって李承晩ラインで行われていた漁船の拿捕などに触れることは「他国の尊重」に反するとされる危険性がある。同じことが国旗掲揚や国歌斉唱と愛国心の関連などいにおいてもいえる。現在においても、南北朝鮮を否定的に語ることをタブー視する風潮が教育現場に存在し、また国旗や国歌をめぐっても、文部科学省の指導と教員や生徒の良心の自由との対立が問題となっている。このような事実に鑑みても、愛国心や他国の尊重といったものを安易に教育基本法に盛り込むことには疑問を感じざるを得ない。
第1節 でも書いたように、日本の教育システムの大きな欠陥の一つは結果平等とか進歩史観とかいった公共的規範による統制にある。
たとえば、進歩史観教育では、教員が公共的規範に関する特定の思想を教育の場に押し出すことが問題であった。教育基本法改正案は、やはり思想を教育の場に押し出すことを志向しているといえる。しかし、いずれにせよ教育、とりわけ道徳教育の場に公権力を通じて特定の思想を押し出そうとするという問題点を抱えている。このように、公権力(その末端に位置する教員も含め)と思想や公共的規範との分離が不完全であることが日本の教育システムの大きな欠陥であり、今回の教育基本法改正案もその欠陥を孕んでいるのである。
愛国心や他国の尊重についても同様のことが言える。この改正の問題点を第2節 でも議論したが、そもそも道徳的規範を教育基本法に盛り込むことが適切ではないというべきである。
以上をまとめれば、教育基本法改正案の根本的な問題は国家と道徳との分離という大原則を損なおうとしていることだといえる。しかし、教育基本法改正案に賛成する人々はこの問題点をどれほど検討しているのか疑問であり、また反対する人々も、国家と道徳との分離という問題にまで遡って教育基本法改正案を検討しているのかは疑わしい。
教育基本法改正を論じている日本会議首都圏地方議員懇談会のブログ「草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN」の記事『「日本人としての誇り」をとりもどそう』 では
と、戦後教育の問題点を指摘している。その上で、
としている。ここに教育基本法改正を唱える人々の最大の自家撞着があるといえる。はじめに引用した部分の指摘している通り、先人を特定の道徳観に基づいて否定するということをしてきたことは戦後教育の大きな負の業績である。このような教育への特定の道徳観への介入こそ解決されるべき課題であるにもかかわらず、それを解決するために自ら教育基本法に道徳観を盛り込むということとしていることには全く納得しかねるのである。
なお、第1節でも述べたように、 学習指導要領 は学校教育システムにおける大きな足かせとなっており、また愛国心や他国の尊重に関する規定も教育基本法に盛り込まれずとも学習指導要領に盛り込まれており、真に日本の教育システムの欠陥を克服しようとするならば、学習指導要領について大幅な見直しが求められるだろう。
[*1]以下の記事を参照:
讀賣新聞2006年4月13日 教育基本法 愛国心表現、自公合意
朝日新聞2006年4月13日 教育基本法改正案全文を了承、与党協議会
なお、改正案全文は次の記事を参照:
産経新聞2006年4月13日 【与党の教育基本法改正案・全文】
[*2]以下の記事を参照:
産経新聞2006年4月13日 教基法改正「公共の精神尊重」 与党案決定
讀賣新聞2006年4月13日 「公共の精神尊重」明記
讀賣新聞2006年4月13日 「公共の精神を尊ぶ」…教育基本法改正で与党前文案
§1. 公共の精神の尊重について
「公共の精神を尊ぶ」ことが掲げられたことには「個人の権利尊重に偏りすぎている」などの批判があることが背景となっていると思われる[*2] 。
しかし、実際のところ、個を尊重するどころか個性を格差の発生=悪と規定し、結果の平等を過度に追い求める教育こそ日本の教育制度の大きな弊害と言うべきである。学習指導要領 や教科書検定による教科書の内容への極度の制限、高校入試における総合選抜制度や学校群制度や地元集中、習熟度別学習や飛び級制度に消極的な姿勢など、結果平等主義は文部科学省(旧文部省)・自治体・教育現場に共通する弊害だと言える。最近の教育改革によって、ようやくこれらの問題点が曲がりなりにも改善されつつあるというべきである。もちろん、このほかにもいわゆる管理教育、学級人数の多さ、大学の講座制、「入るのは難しく出るのは易しい」と言われる受験システム自体の欠陥、歴史教育や平和教育・同和教育での特定の価値観の押し付けなど、問題点はいくつもある。
もちろん、日本の教育制度の欠陥は官庁の縦割り行政のような構造的なものもあるだろうが、個性を格差の発生=悪と規定し画一化を図る路線が大きな弊害であることは否定し得ない。結果平等主義以外の問題にしても、たとえば歴史教育・平和教育・同和教育で進歩史観など特定の思想・価値観を生徒に強要する行為(自由主義史観教育など、他の史観に基づいた教育にも言えることであるが、現在のところ表面的な問題とはなっていないと思われる)などはまさしく個人の思想・信条・内心の自由を侵害するものである。
このように個の否定が日本の教育制度の大きな欠陥であり、ようやくそれを改善しようという動きが現れているのである。そうであるにもかかわらず、個の尊重に偏向することが日本の教育制度の問題点であるとして、公共の精神の尊重を前面に出すことは結果平等主義の悪弊に対する批判・反省を欠いていると考えられる。
§2. 愛国心および他国の尊重について
愛国心については以前から教育基本法改正の重要な論点となっていたが、実際には既に学習指導要領に愛国心や他国の尊重に関する規定が記載されている。ただ、教育基本法にこれらの規定を盛り込むことにより、愛国心や他国の尊重の位置づけを格上げする効果は存在するだろう。
問題点を挙げるなら、伝統や文化の尊重、愛国心や他国の尊重というものの内実が明確に規定されていないことだろう。朝鮮民主主義人民共和国による日本人拉致や核開発、大韓民国によって李承晩ラインで行われていた漁船の拿捕などに触れることは「他国の尊重」に反するとされる危険性がある。同じことが国旗掲揚や国歌斉唱と愛国心の関連などいにおいてもいえる。現在においても、南北朝鮮を否定的に語ることをタブー視する風潮が教育現場に存在し、また国旗や国歌をめぐっても、文部科学省の指導と教員や生徒の良心の自由との対立が問題となっている。このような事実に鑑みても、愛国心や他国の尊重といったものを安易に教育基本法に盛り込むことには疑問を感じざるを得ない。
§3. 根本的問題
第1節 でも書いたように、日本の教育システムの大きな欠陥の一つは結果平等とか進歩史観とかいった公共的規範による統制にある。
たとえば、進歩史観教育では、教員が公共的規範に関する特定の思想を教育の場に押し出すことが問題であった。教育基本法改正案は、やはり思想を教育の場に押し出すことを志向しているといえる。しかし、いずれにせよ教育、とりわけ道徳教育の場に公権力を通じて特定の思想を押し出そうとするという問題点を抱えている。このように、公権力(その末端に位置する教員も含め)と思想や公共的規範との分離が不完全であることが日本の教育システムの大きな欠陥であり、今回の教育基本法改正案もその欠陥を孕んでいるのである。
愛国心や他国の尊重についても同様のことが言える。この改正の問題点を第2節 でも議論したが、そもそも道徳的規範を教育基本法に盛り込むことが適切ではないというべきである。
以上をまとめれば、教育基本法改正案の根本的な問題は国家と道徳との分離という大原則を損なおうとしていることだといえる。しかし、教育基本法改正案に賛成する人々はこの問題点をどれほど検討しているのか疑問であり、また反対する人々も、国家と道徳との分離という問題にまで遡って教育基本法改正案を検討しているのかは疑わしい。
教育基本法改正を論じている日本会議首都圏地方議員懇談会のブログ「草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN」の記事『「日本人としての誇り」をとりもどそう』 では
わが国の歴史が正当に評価され、歴史の偉人たちの生き様に触れれば、わが師を得れるし、やかましい道徳論はいりません。
人の生き様に感応し、わが身を振り返る生きた道徳は、歴史上に満ち満ちています。その生き様を語るチャンスさえがあれば、愛国心はおのずから涵養されます。
その先人の生き様を正当に評価されず、否定してきたのが、戦後教育なのです。
と、戦後教育の問題点を指摘している。その上で、
この生き様を回復するために、教育基本法に「愛国心」が盛込まなければ、それが顕現できない、戦後日本の悲哀なのです。
としている。ここに教育基本法改正を唱える人々の最大の自家撞着があるといえる。はじめに引用した部分の指摘している通り、先人を特定の道徳観に基づいて否定するということをしてきたことは戦後教育の大きな負の業績である。このような教育への特定の道徳観への介入こそ解決されるべき課題であるにもかかわらず、それを解決するために自ら教育基本法に道徳観を盛り込むということとしていることには全く納得しかねるのである。
なお、第1節でも述べたように、 学習指導要領 は学校教育システムにおける大きな足かせとなっており、また愛国心や他国の尊重に関する規定も教育基本法に盛り込まれずとも学習指導要領に盛り込まれており、真に日本の教育システムの欠陥を克服しようとするならば、学習指導要領について大幅な見直しが求められるだろう。
[*1]以下の記事を参照:
讀賣新聞2006年4月13日 教育基本法 愛国心表現、自公合意
朝日新聞2006年4月13日 教育基本法改正案全文を了承、与党協議会
なお、改正案全文は次の記事を参照:
産経新聞2006年4月13日 【与党の教育基本法改正案・全文】
[*2]以下の記事を参照:
産経新聞2006年4月13日 教基法改正「公共の精神尊重」 与党案決定
讀賣新聞2006年4月13日 「公共の精神尊重」明記
讀賣新聞2006年4月13日 「公共の精神を尊ぶ」…教育基本法改正で与党前文案
拉致事件による朝鮮総聯傘下団体への強制捜査について
警視庁公安部は3月23日、1980年6月に中華料理店の店員だった原敕晁氏(当時43)の
拉致事件に関わった疑いで、在日本朝鮮人総聯合会(通称:朝鮮総聯)の傘下団体である
「在日本朝鮮大阪府商工会」など6か所を家宅捜索した[*1]。これは拉致問題による朝鮮総聯傘下団体への強制捜査としては最初のものである。
なお、この家宅捜索について朝鮮総聯中央本部は「在日本朝鮮大阪府商工会に対する強制捜索は公権力の乱用」とする朝鮮総聯中央本部広報室コメントを発表した。
この強制捜査については、拉致事件より20年以上が経過しており、また、筆者が以前の辛光洙問題に関する記事で取り上げたように、1986年に韓国で下された辛光洙への有罪判決において、辛光洙の原敕晁拉致事件への関与が認定されていたため、現在に至るまで強制捜査が行われなかったことへの不満が強い。
強制捜査が現在までずれこんだことについて、讀賣新聞の解説記事に二つの事情が掲載されている。韓国の捜査当局への供述が日本の裁判で証拠採用される見込みが低いこと、および捜索容疑となった国外移送目的拐取の時効が7年で、中華料理店の店主の男は、時効が成立するとの見通しが強かったことである。
しかし、警察庁の発表によれば、警察庁は当時、担当官を韓国に派遣して韓国当局と情報交換を行っている。この際に韓国当局と国際共同捜査を行って日本の司法手続きに耐える十分な証拠を固めることが可能だったのではないだろうか。また、辛光洙に有罪判決が出された時点では原敕晁拉致事件から7年経過しておらず、中華料理店の店主の男についても時効が成立しないことは確実であった。この事情を見ると、今回の強制捜査のみならず、最近の拉致問題をめぐる警察の動き自体が遅きに失したように思われる。
一方、朝鮮総聯と共和国本国の国家犯罪の関連については、1月23日にも朝鮮総聯傘下の「在日朝鮮人科学技術協会(科協)」の幹部だった男性が社長を務めるソフトウェア会社に陸上自衛隊の最新型地対空ミサイルシステムに関する研究開発段階のデータなどの記載された資料が流出していたことが判明している[*2]。さらに、日本国内でミサイル関連機器を調達しては、北朝鮮に送っているという指摘も出ている[*3]。また、最近では自民党が北朝鮮人権法案の成立に向けて動きを進めている[*4]。最近の拉致問題をめぐる警察の動きも、この一連の流れに乗ったものといえる。
さらに、辛光洙による拉致事件に朝鮮総聯が協力する過程について、共和国本国に帰国した子供や家族の写真を見せて協力を迫る手口がとられたとされる[*5]。共和国本国が帰国者を人質にとって在日コリアンを脅迫していることは以前から語られていたことであり[*6][*7]、拉致事件やその他の工作活動においてもその方法によって在日コリアンが協力を迫られていたということだろう。
日本の朝鮮総聯の解体ないし変革が共和国本国の体制の変革につながる保証はない。実際には、共和国本国は日本の朝鮮総聯の他にも体制維持のための装置を多数持っている。しかし、朝鮮総聯が拉致事件その他の工作活動によって、日本人や在日コリアンに多大な被害を与えていることは確かである。これらの工作活動は、一般の在日コリアンや日本人を巻き込み、直接に被害を与えたり在日コリアンや帰化した朝鮮系日本人や日系日本人の間の関係に悪影響を及ぼしたりしているという点において単なる国際政治上の謀略活動ではない。一方、在日コリアン、少なくとも朝鮮総聯系商工人について言えば、筆者が人権擁護法案に関する考察において取り上げた通りこれもまた単なる被害者ではなく、「五箇条の御誓文」問題など(詳しくは[*7]を参照)税金上の問題を抱えている。このような問題についても国によるさらなる調査が待たれるところである。
遅きに失したにせよ、現在国が拉致問題において積極的に動いていることは望ましいというべきだろう。拉致問題や核問題、その他の共和国をめぐる諸問題をめぐっての動きが今後も停滞することなく続くことが現在望まれることである。
参考
[*1] 日本警視庁、朝鮮総連傘下団体を家宅捜索-日本政府、現在韓国に居住中の金吉旭氏を国際指名手配へ(朝鮮日報)
原さん拉致事件で初の強制捜査 朝鮮総連傘下団体など捜索(産経新聞)
原さん拉致容疑者の国内協力者、佐賀などの16人判明(讀賣新聞)
[*2]2006年1月24日讀賣新聞など。なお、産経新聞では、さらにこのデータが科協を経由して共和国本国へ送られているとみられるとしている。この問題に関して朝鮮新報は該当するデータは民間会社が業務委託を受ける中で提供された資料に含まれていたもので、この会社は元社長が科協の非専従役員を務めていたに過ぎず、データが科協に流れたことはないとしている。
[*3]【ネットで透る北朝鮮】1:産業スパイ「科協」(現代コリア2004年2月号)
[*4] 自民党ニュース 北朝鮮人権法案の骨子了承 拉致問題対策本部
[*5] 家族写真見せ協力迫る…辛光洙容疑者、総連系元会長に(讀賣新聞)
[*6] 李英和, 朝鮮総連と収容所共和国, 小学館, 1999. ISBN: 4094034315.
[*7] 野村旗守, 北朝鮮送金疑惑―解明・日朝秘密資金ルート, 文藝春秋, 2002. ISBN: 4167656310.
関連リンク
[1]西村幸祐, 酔夢ing Voice - 西村幸祐/遅すぎた強制捜査。明日、拉致被害者救出作戦講演会
[2]yaninattyauyo, 屋根の上のミケ/日本人拉致容疑で総連施設を強制捜査
[3]lancer1, アジアの真実/拉致疑惑で朝鮮総連傘下団体を強制捜査 ~朝鮮総連の工作機関としての実態解明へ~
拉致事件に関わった疑いで、在日本朝鮮人総聯合会(通称:朝鮮総聯)の傘下団体である
「在日本朝鮮大阪府商工会」など6か所を家宅捜索した[*1]。これは拉致問題による朝鮮総聯傘下団体への強制捜査としては最初のものである。
なお、この家宅捜索について朝鮮総聯中央本部は「在日本朝鮮大阪府商工会に対する強制捜索は公権力の乱用」とする朝鮮総聯中央本部広報室コメントを発表した。
この強制捜査については、拉致事件より20年以上が経過しており、また、筆者が以前の辛光洙問題に関する記事で取り上げたように、1986年に韓国で下された辛光洙への有罪判決において、辛光洙の原敕晁拉致事件への関与が認定されていたため、現在に至るまで強制捜査が行われなかったことへの不満が強い。
強制捜査が現在までずれこんだことについて、讀賣新聞の解説記事に二つの事情が掲載されている。韓国の捜査当局への供述が日本の裁判で証拠採用される見込みが低いこと、および捜索容疑となった国外移送目的拐取の時効が7年で、中華料理店の店主の男は、時効が成立するとの見通しが強かったことである。
しかし、警察庁の発表によれば、警察庁は当時、担当官を韓国に派遣して韓国当局と情報交換を行っている。この際に韓国当局と国際共同捜査を行って日本の司法手続きに耐える十分な証拠を固めることが可能だったのではないだろうか。また、辛光洙に有罪判決が出された時点では原敕晁拉致事件から7年経過しておらず、中華料理店の店主の男についても時効が成立しないことは確実であった。この事情を見ると、今回の強制捜査のみならず、最近の拉致問題をめぐる警察の動き自体が遅きに失したように思われる。
一方、朝鮮総聯と共和国本国の国家犯罪の関連については、1月23日にも朝鮮総聯傘下の「在日朝鮮人科学技術協会(科協)」の幹部だった男性が社長を務めるソフトウェア会社に陸上自衛隊の最新型地対空ミサイルシステムに関する研究開発段階のデータなどの記載された資料が流出していたことが判明している[*2]。さらに、日本国内でミサイル関連機器を調達しては、北朝鮮に送っているという指摘も出ている[*3]。また、最近では自民党が北朝鮮人権法案の成立に向けて動きを進めている[*4]。最近の拉致問題をめぐる警察の動きも、この一連の流れに乗ったものといえる。
さらに、辛光洙による拉致事件に朝鮮総聯が協力する過程について、共和国本国に帰国した子供や家族の写真を見せて協力を迫る手口がとられたとされる[*5]。共和国本国が帰国者を人質にとって在日コリアンを脅迫していることは以前から語られていたことであり[*6][*7]、拉致事件やその他の工作活動においてもその方法によって在日コリアンが協力を迫られていたということだろう。
日本の朝鮮総聯の解体ないし変革が共和国本国の体制の変革につながる保証はない。実際には、共和国本国は日本の朝鮮総聯の他にも体制維持のための装置を多数持っている。しかし、朝鮮総聯が拉致事件その他の工作活動によって、日本人や在日コリアンに多大な被害を与えていることは確かである。これらの工作活動は、一般の在日コリアンや日本人を巻き込み、直接に被害を与えたり在日コリアンや帰化した朝鮮系日本人や日系日本人の間の関係に悪影響を及ぼしたりしているという点において単なる国際政治上の謀略活動ではない。一方、在日コリアン、少なくとも朝鮮総聯系商工人について言えば、筆者が人権擁護法案に関する考察において取り上げた通りこれもまた単なる被害者ではなく、「五箇条の御誓文」問題など(詳しくは[*7]を参照)税金上の問題を抱えている。このような問題についても国によるさらなる調査が待たれるところである。
遅きに失したにせよ、現在国が拉致問題において積極的に動いていることは望ましいというべきだろう。拉致問題や核問題、その他の共和国をめぐる諸問題をめぐっての動きが今後も停滞することなく続くことが現在望まれることである。
参考
[*1] 日本警視庁、朝鮮総連傘下団体を家宅捜索-日本政府、現在韓国に居住中の金吉旭氏を国際指名手配へ(朝鮮日報)
原さん拉致事件で初の強制捜査 朝鮮総連傘下団体など捜索(産経新聞)
原さん拉致容疑者の国内協力者、佐賀などの16人判明(讀賣新聞)
[*2]2006年1月24日讀賣新聞など。なお、産経新聞では、さらにこのデータが科協を経由して共和国本国へ送られているとみられるとしている。この問題に関して朝鮮新報は該当するデータは民間会社が業務委託を受ける中で提供された資料に含まれていたもので、この会社は元社長が科協の非専従役員を務めていたに過ぎず、データが科協に流れたことはないとしている。
[*3]【ネットで透る北朝鮮】1:産業スパイ「科協」(現代コリア2004年2月号)
[*4] 自民党ニュース 北朝鮮人権法案の骨子了承 拉致問題対策本部
[*5] 家族写真見せ協力迫る…辛光洙容疑者、総連系元会長に(讀賣新聞)
[*6] 李英和, 朝鮮総連と収容所共和国, 小学館, 1999. ISBN: 4094034315.
[*7] 野村旗守, 北朝鮮送金疑惑―解明・日朝秘密資金ルート, 文藝春秋, 2002. ISBN: 4167656310.
関連リンク
[1]西村幸祐, 酔夢ing Voice - 西村幸祐/遅すぎた強制捜査。明日、拉致被害者救出作戦講演会
[2]yaninattyauyo, 屋根の上のミケ/日本人拉致容疑で総連施設を強制捜査
[3]lancer1, アジアの真実/拉致疑惑で朝鮮総連傘下団体を強制捜査 ~朝鮮総連の工作機関としての実態解明へ~
全国各地の青少年健全育成関連条例の改正について
昨今、各地域で青少年育成に関連する条例が改正され、いわゆる「有害図書」や暴力的表現を含んだゲームソフトなどに関する規制のほか、店舗への深夜立入の制限などの法制化が各地で行われている。詳しいことは[1]
を参照されたい。
これらの改正の背景には、近年少年犯罪や、逆に少年少女が被害者となる犯罪が問題視されていることが挙げられる。特に少年による凶悪犯罪には負の伝説とでも表現するのがふさわしい位に、世を震撼させ、その後も多くの人々の記憶に残り続けているものが多い。それで、こうした犯罪への不安感が青少年育成に関連した条例の改正を求める声となっていると思われる。
しかし、統計は少年犯罪、とりわけ凶悪犯罪が長期的に見れば減少傾向にあり、短期的に見ても増大傾向とは言えないことを示している。たとえば少年による殺人罪の検挙数は、1948年から1967年まで300-400人程度で、1961年に448人を記録したのが極大で、それ以降は減少傾向を示し、1973年以降は120人以下の範囲で推移している[2] 。少年による強姦罪の検挙数も、戦後増大し、1958年には刑法改正(集団強姦の非親告罪化)の影響もあって、4649人を記録したが、その後は減少傾向を示している。1997-1999年に一時的に増加傾向を示したが、その後は一層減少傾向を強めている[3] 。
少年による凶悪犯罪が減少傾向を示しているからといって、少年による凶悪犯罪への対策を軽んじるべきだというのではない。問題は、少年による凶悪犯罪が増加しているという議論が、しばしば少年犯罪の原因が現代社会における少年の周辺の環境にあるとして、それを変革・規制することとか、もっと直接的に青少年の行動自体を規制することとかを要求する議論を助長していることにある。
実際において、少年犯罪が増加していようとしていまいと、少年犯罪と暴力的表現・猥褻表現や犯罪の域に至らぬ単純な非行などとの因果関係は証明されていない。また、そもそも少年犯罪の増加の原因になるからという理由で各種表現やその他の他害的でない行動の自由まで法によって規制するべきだという考え自体が、差別表現やホロコーストを否定的に論じることを禁止するべきだという考え同様、権力からの自由を過度に軽視するものであると言わざるを得ない。それだけ、権力による表現や行動への規制からの自由は尊いものだと考える。
[1]「有害」規制監視隊
[2]少年による殺人統計
[3]少年によるレイプ統計
関連サイト
少年犯罪データベース
kangaeru2001氏のサイト。少年犯罪や幼女レイプ事件、その他の異常事件について各種統計や新聞記事などからデータベース化したもの。特に戦前から現在に至る多くの犯罪事例が掲載されているほか、少年による凶悪犯罪や幼女レイプ事件の件数の推移までデータベース化されている。このような事件は全くもって近年急増しているわけではなく、1960年代のほうがずっと多発していたことがわかる。
新・後藤和智事務所 ~若者報道から見た日本~
マスコミや言論文化人・政治家などによる青少年の危険性を煽動する言説や、昨今の青少年育成関連条例の改正などの動きを厳しく批判している。
これらの改正の背景には、近年少年犯罪や、逆に少年少女が被害者となる犯罪が問題視されていることが挙げられる。特に少年による凶悪犯罪には負の伝説とでも表現するのがふさわしい位に、世を震撼させ、その後も多くの人々の記憶に残り続けているものが多い。それで、こうした犯罪への不安感が青少年育成に関連した条例の改正を求める声となっていると思われる。
しかし、統計は少年犯罪、とりわけ凶悪犯罪が長期的に見れば減少傾向にあり、短期的に見ても増大傾向とは言えないことを示している。たとえば少年による殺人罪の検挙数は、1948年から1967年まで300-400人程度で、1961年に448人を記録したのが極大で、それ以降は減少傾向を示し、1973年以降は120人以下の範囲で推移している[2] 。少年による強姦罪の検挙数も、戦後増大し、1958年には刑法改正(集団強姦の非親告罪化)の影響もあって、4649人を記録したが、その後は減少傾向を示している。1997-1999年に一時的に増加傾向を示したが、その後は一層減少傾向を強めている[3] 。
少年による凶悪犯罪が減少傾向を示しているからといって、少年による凶悪犯罪への対策を軽んじるべきだというのではない。問題は、少年による凶悪犯罪が増加しているという議論が、しばしば少年犯罪の原因が現代社会における少年の周辺の環境にあるとして、それを変革・規制することとか、もっと直接的に青少年の行動自体を規制することとかを要求する議論を助長していることにある。
実際において、少年犯罪が増加していようとしていまいと、少年犯罪と暴力的表現・猥褻表現や犯罪の域に至らぬ単純な非行などとの因果関係は証明されていない。また、そもそも少年犯罪の増加の原因になるからという理由で各種表現やその他の他害的でない行動の自由まで法によって規制するべきだという考え自体が、差別表現やホロコーストを否定的に論じることを禁止するべきだという考え同様、権力からの自由を過度に軽視するものであると言わざるを得ない。それだけ、権力による表現や行動への規制からの自由は尊いものだと考える。
[1]「有害」規制監視隊
[2]少年による殺人統計
[3]少年によるレイプ統計
関連サイト
少年犯罪データベース
kangaeru2001氏のサイト。少年犯罪や幼女レイプ事件、その他の異常事件について各種統計や新聞記事などからデータベース化したもの。特に戦前から現在に至る多くの犯罪事例が掲載されているほか、少年による凶悪犯罪や幼女レイプ事件の件数の推移までデータベース化されている。このような事件は全くもって近年急増しているわけではなく、1960年代のほうがずっと多発していたことがわかる。
新・後藤和智事務所 ~若者報道から見た日本~
マスコミや言論文化人・政治家などによる青少年の危険性を煽動する言説や、昨今の青少年育成関連条例の改正などの動きを厳しく批判している。