団体戦観戦記の続きです。
二日目、つまり2月7日は試合が初日にくらべて随分と遅いスタートでした。Yちゃんと二人で美味しいランチが食べたいね、と意見が合致して、ホテルから電車を駆使して20分くらいのところにあるシーフード専門店、"Antica Osteria del Mare" という店に出向きました。
あまり深く考えずに近くのレストランを検索してみつけたお店でしたが、大当たり。
でも我々のグルメ紀行に関してはまた別途、記事にするとして、今日のこの記事ではとにかく団体戦について。
この日は男子のSPとアイスダンスのフリーダンスが行われました。Yちゃんと私が座ったのは、全日と同じキスクラ真正面の良いお席でした。
試合日程の具合で、この男子SPの結果如何でその次の種目であるフリーダンスにどのチームが出場するかが決まります。
となるとせっかく練習して出場に備えていても、「はい、どうぞお帰りください」と言われてしまうチームもいた、というわけですよね。なんだか残酷。
さて、男子の試合に戻りますが、私がこの日の一つのハイライトとして挙げたいのがカナダのスティーブン・ゴゴレフ選手の演技でした。SPで92点以上のスコアを叩き出し、10人中3位の好成績を獲得してカナダのフリー進出の功労者となりました。
今シーズンの彼のSPは "Mugsy's Move Medley" というタイトルで、ブノワ・リショーさんの振り付けです。クールな銀行強盗をイメージしたということのようで、ゴゴレフ選手は素敵なスーツ姿。長身で細身の彼に素晴らしく似合っています。
これまでは確かグレーのスーツだったと思うのですが、オリンピック用にさらにシャープな黒に変わっていたのも良かったです。
次々と高難度ジャンプが決まり、ゴゴレフ選手の演技がどんどん躍動感を帯びて来るのを見ていて何とも言えず、胸がいっぱいになりました。普段はあまり笑顔を見せない彼ですが、このプログラムはお気に入りらしく、ものすごく気持ちよさそうに滑るのです!
これまで何度もこのブログで言って来たことですが、スティーブン君は幼少期から天才と謡われ、羽生結弦選手やハビエル・フェルナンデス選手が拠点とするクリケット・クラブで大事に育てられていました。(ごく最近もゴゴレフ選手は偉大な先輩たちと一緒に練習をしていた頃のことを懐かしそうに述懐していて、Skate Canada のインスタグラムにその様子が投稿されてたんですが、ちょっと今見つかりません。)
2018年のバンクーバーJGPFでは繰り上げで補欠から出場したものの、見事に最年少の13歳で優勝。素晴らしい才能の持ち主と言われていたんですよね。
ところがシニアに上がってからは急に身長が伸びたり、怪我に再三見舞われたりして本当に長い間、苦労した彼でした。少し調子が上がって来たと思ったら、SPが良くてもFSでミスが頻発する、というような大会が続いたことも思い出されます。
私も何度かGPカナダ大会で彼の苦しい演技に遭遇し、その度にコーチのリー・バーケルさんが静かに教え子を労り、見守る様子を見てきました。
それだけに今シーズンのゴゴレフ選手の活躍は感慨深いものがあります。
長い間、低迷していたのは確かですが、今年の1月に開催されたカナダ選手権では見事に優勝を飾り、たった一つのオリンピックの出場枠を勝ち取ったゴゴレフ選手はまだたったの21歳!
本当に良く、めげずに粘ってここまで戻って来てくれました。
さあ、そして1位と2位を争うであろうとされた鍵山選手とイリア・マリニン選手の演技です。
マリニン選手が先に滑り、彼にしては少し低めの98点台のスコアを出した時、私は鍵山選手に首位を獲るチャンスがあると思いました。(正直、マリニン選手はこの時から少し動きがいつもより少し粗い、という気がしたんですよね)
今シーズンの鍵山選手のSPはとってもお洒落な、そしてプレイフルなプログラムとなっています。彼にしか出来ないような複雑なフットワーク、ステップ、それを表情豊かに楽しそうに滑る姿を見るとこちらもつい笑顔になります。
この日、鍵山選手の素晴らしいパフォーマンスを見せて、会場を沸かせました!ご本人も満足そうで、チームメイト達に迎えられながら聞いたスコアがなんと108点台!
おそらくアメリカ・チームはこの結果を予想していなかったのではないかと思います。マリニン選手が出たらとりあえず首位の10点は確保できるのではないか、と。
しかしこの時点で日本が4種目中3つを制して33点獲得。対するアメリカは34点。たったの1点差でフリー種目を迎えます。
アイスダンスのフリーダンスではマディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組が堂々の首位で10点。うたまさ組は5位となって6点を獲得します。
カナダは私の大好きなラジョワ&ラガ組が「ホワイト・クロウ」を演じてくれました。このプログラムは2022-2023年に初めて演じたもので、それまでの彼らのイメージ(爆速・派手でプレイフル)を打破するシリアスでドラマチックな演目でした。
ラガ選手がクラシック音楽のピアノ演奏者であり、作曲も手掛ける本格的なミュージシャンであることはカナダでは良く知られていますが、ヌレエフを題材とした映画のサウンドトラックを採用した時は皆が少なからず驚いたものです。しかしこのプログラムは彼らの代名詞ともなり、オリンピック・シーズンに再演されることになった時は多くのファンが喜びました。
そうしてフリーダンスが終わった時点で日本とアメリアとの点差は44対39とまた開き、最終日を迎えたのでした。
****
8日(日曜日)
いよいよ団体戦の最終日です。
日本チームの活躍に自ずと応援にも力が入ります。何となく、試合が始まる前はアメリカが金メダル、そして日本が銀メダル、というのが大方の予測だったのではないでしょうか?銅メダルはイタリア、ジョージア、そしてカナダが争うのかな、と。
しかし最終日には日本が全ての種目を制する可能性もありました。アメリカが金メダルを死守するために男子のエースのマリニン選手を出さざるを得ない展開になったのは、少なくとも観る側にとってはエキサイティングでした。
後々から考えたら、世界ランキングの上位を占める10か国(フリー以降は5か国)のトップ選手を集めた団体戦って、観戦するにはかなりお得だったのではと思います。
個人戦は全て一日に一種目しかないのですから、それに比べると一気にペア・女子・男子の演技を見ることのできる団体戦最終日などはとってもバラエティに富み、豪華なラインナップだったのですよね。
さあ、まずはペアのFSです。
会場ではYちゃんも私も良く存じ上げているペン記者の方々と再会したりして、かなり盛り上がりました。私たちの手にしているりくりゅう応援隊のq_taroさんのバナーがえらくウケて、皆さん、写真を撮ってくださいました。
そして我らがりくりゅうの演技が始まります。
このAssago Milano Forum で「グラディエーター」の音楽が鳴り響き、三浦選手と木原選手がノーミスの演技を披露することを何度、夢見たでしょうか?
出発前のシミュレーションではほぼほぼクリーンなプログラムを滑る彼らを見ていただけに、この日の素晴らしいパフォーマンスはさほど驚くものではありませんでした。
私が言うのも何ですが、これが彼らの日常的な実力。練習で日々、ブルーノさん質が観ているクオリティの演技なのです。
まずは圧倒的なスピードとスケーティング・スキルの美しさ。彼らが登場すると(申し訳ないですが)他のどのペアチームとも段違いな疾走感であるのが歴然とします。
そこに加えて、爆発的なパワーで繰り出されるツイストやスロージャンプ。そしてSBSは三浦選手のジャンプがこれまでと比べても驚くほど力強く、高くなってしっかりと回っている。これは渡部トレーナーとしっかり取り組んできた成果が如実に表れていたと思います。
また、素晴らしく滑らかな技術のおかげでりくりゅうのリフトは上がるところから降りて来るところまで一切、途切れることがありません。
どこかの解説者が、ペア演技におけるリフトではとかく女性の動きに皆が気を取られがちだけれど、男性の足元にもしっかりと注目してほしいと言っていました。その点、木原選手の足さばきの鮮やかさはペア界でピカイチ、アイスカバレージも見事です。
それら全ての要素が相まってこそ、マリーフランス・デュブルイユさんの振り付けたこのプログラムの秀逸さが生きて来ます。
一見、派手なトランジションや複雑な動きが無いように思えますが、息をつくところが全くない、スタート・ポジションからエンディングのポーズまで一気に駆け抜けていく1000メートルダッシュの様です。
まさに4分間、ずっと走り続けながら、三浦選手も木原選手も次々と技を繰り出している。これはとんでもなく難度の高い演目であるとジャッジ達が理解している証拠に、シーズン開始時からずっと高い評価を得てきました。
この日、それがとうとう150点の壁を大幅に上回るスコアとなって再確認されたのでした。
団体戦フリーの155.55点は、この後の劇的な勝利の布石となったのかも知れない、ということは今だから言えるのでしょうか?
いずれにしても2種目を残して日本が49点、アメリカが51点という僅差となりました。
*****
この日の私たちの席はそれまでと反対側、つまりキスクラやチーム応援席の真上、だったのです。そのため、演技のスタートを見守るコーチの方々、そして演技を終えて戻って来る選手たちの表情が良く見えました。
女子のフリーを滑るのは坂本花織選手。エディット・ピアフのメドレーに乗せた、これまたデュブルイユ大先生の振り付けによるプログラムです。
この演目については全日本選手権時にすでに詳しく書いていますので、ここでは飛ばしますが、いやホントに素晴らしい編集および構成です。
ミラノのこの会場、この機会を想定した壮大なプログラム。三浦&木原組の「グラディエーター」しかり、オリンピックにはやはり王道の、少々ベタな曲が似合うと思うのは私だけではないはずです。
通常のフィギュアスケート大会とは違い、オリンピックを観戦するお客さんは必ずしも難しいルールや細かい技の違いを把握しているわけではない。
かつて平昌五輪でカナダのアイスダンスのレジェンド、テッサ・ヴァーテュー&スコット・モイヤー組が優勝した時のことが思い出されます。
演技の質や技の美しさではパパダキス&シズロン組とさほど差があったわけではない。しかしあの場ではパパシズの演じた「月光」よりもテサモエのドラマチックな「ムーラン・ルージュ」の方が会場を熱狂させた。ジャッジ達も人間であり、曲のインパクトがものを言うことも十分、あり得る。
(個人的にはテサモエ達の勝利への執念がパパシズたちのそれを上回っていた、と思うんですが、まあそれはさておき)
ということで坂本選手のフリー・プログラムに話を戻しますが、冒頭のミステリアスで重厚な曲調から、徐々に明るく開けていく創りになっています。そこからパトリシア・カースの歌声が響き、「愛の賛歌」で盛り上がって「Je ne regrette rien」のクライマックスで終わる。
坂本選手が最後に両手をバッと振り上げて演技を終えると、これはもうお客さんが立ち上がるしかない、という流れになっているのです。
チームメイト達に迎えられ、キスクラで我らのクイーン・ケオーリが少し涙ぐむ姿が頭上のスクリーンに映し出されます。
しかし心配するには及びません。貫禄の首位獲得、日本に10点をもたらします。
特筆に値するのはジョージアのグバノワ選手が想定外の2位、彼女のこの日の演技は素晴らしかったです。全てのジャンプがフワリと美しく着氷され、次々にエレメンツが決まってノーミスが確定するとオベーションが起りました。
一方、アメリカのアンバー・グレン選手が少ししんどそうな演技となり、順位は3位。
なんと、男子FSを残してアメリカと日本が同点になりました。
****
やはりアメリカはマリニン選手を出すしかなかった。同点で迎えた男子フリーでは、日本の佐藤選手が今シーズン非常に安定している「火の鳥」を演じるのです。となると、アメリカが二番手のトルガシェフ選手を出して勝てるとは思えません。
個人戦のために力を温存すると、団体の金メダルを手放すことになる。これは究極の選択だったと思います。結束力を発揮した日本チームがギリギリまでアメリカを追い詰めた結果、マリニン選手にとっては辛い展開になってしまったと言えましょう。
この夜の男子フリーは素晴らしい試合だったと思います。
2番滑走で登場したイタリアのマッテオ・リッツォ選手の演技が中でも観客の涙を誘いました。
かつては4回転ループを跳ぶなどもしていた彼ですが、2024年の1月には腰の手術を受けて長期間のリハビリを要した時期もありました。
ダニエル・グラッスル選手やニコライ・メモラ選手などの若手の台頭によって、自国開催のオリンピックに出られるかどうかが不確定だった今シーズン。完成度の高いパフォーマンスを目指して挑んだイタリア選手権では見事に2位となりました。そして、二枠あったオリンピック出場権をグラッスル選手と獲得し、団体戦にも参加したのです。
この日のフリー演技で、リッツォ選手はノーミスの演技を披露し、最後のポーズを取る前にすでに観客は総立ち、会場は歓声が大きすぎて何がなんだか分からないような興奮の坩堝となりました。しかも彼の結果次第でイタリアが銅メダルを獲れるかどうかが決まる、という劇的な場面。
179点という高得点がアナウンスされ、先に滑ったジョージアのエガッゼ選手のスコア(154点)を大幅に上回った時点でイタリアの銅メダルが確定しました。もう大騒ぎです。
その後、3番滑走はカナダのゴゴレフ選手。彼も170点を上回る良いスコアを出して、個人戦に繋がる良い演技となりました。
さて、4番滑走でマリニン選手がフリーを演じます。GPファイナルや全米選手権で見せたような、あまりにも圧倒的なジャンプ構成でねじ伏せて来るパフォーマンスになるかと思われました。が、結果的には彼のPBやSBにも遠く及ばない200点というスコアが出ました。
この時すでに、私はマリニン選手がいつになく固いなあ、ジャンプも少し不安定だなあ、と思っていました。(後々のことがあるので、余計そう回想されているのかも知れませんが)
ただこれはきっと個人戦になればまた状況が変わって、彼がギアを上げて来るのだと思ってもいました。
最後に登場したのが佐藤選手です。昨シーズンの全日本選手権ではかなり厳しい状況に追い込まれた彼でしたが、今シーズンは誰よりも安定した演技を見せて来ました。
コーチの日下先生とのキスクラ模様が様々な大会で話題となりましたね?良いエネルギーを携えて挑んだ初・オリンピックの舞台でどういう演技をしてくれるのかが楽しみでした。
いつも見ていて感心するのですが、佐藤選手のジャンプはほとんど何の前触れもなく、ヒュッと離氷する感じですね。(描写が稚拙で申し訳ないですが)
以前、ジスラン・ブリアンコーチがジャンプの理論を説明するにあたって、twitchという言葉を使っていたのを記憶しているのですが、=「回転に入る際の反応」、それが素早ければ素早いほどジャンプのキレが良くなる、と。
とすると佐藤選手はトップ選手の中でもその twitch がものすごく速いのかな、と思いました。
素人目にはノーミスに見えた演技でした。とても嬉しそうな表情を浮かべ、キスクラへと移動する佐藤選手。
これはもしかすると200点を超えるのかな、と思われたのですが、ステップとスピンでわずかなミスがあったらしく、残念ながら194点に留まり、2位に。
チームメイト達に囲まれて、涙する佐藤選手の姿がありましたが、素晴らしい演技、素晴らしい戦いでした。
そしてわずか1点差で日本が銀メダル、アメリカが金メダル。銅メダルは開催国のイタリアに決まり、皆が笑顔で表彰式を迎えたのでした。
Yちゃんと私は日本の国旗を抱えて観客席の前まで行ったのですが、表彰式後にいつもは周回する選手たちが早々と引き上げていきました。
その後、とんでもない「表彰台ザラザラコンクリート事件」が判明するのですが…
*****
と、大急ぎで団体戦の振り返りをしてみました。きっとたくさん、書き忘れたことがあると思うのですが、また思い出したら付け加えます。
ひとまず、これでアップします。























