さて、そろそろミラノ五輪のペアFSから4週間が経とうかというタイミングでようやくブログ記事をアップしようとしています。もったいをつけている訳ではなく、全然、書く力が湧かないというか、さすがに疲れもあったのかも知れません。
その間にりくりゅうがカナダに戻って来たり、「徹子の部屋スペシャル」に出るというニュースが舞い込んで来たり、世の中はさっさと進んでいるのですが、頑張ってフリー当日を振り返り、思い出に浸りたいと思います。
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2月16日の日曜日の朝、Yちゃんと私はミラノ市内のピアッツァ・センピオーネに向かいました。ペアのフリーは、買おうとしていた当時(昨年夏ごろ)、普通に購入できるチケットがなかったので、ボッタクリを覚悟で「ホスピタリティ」のシステムを通して手に入れていたんですよね。
この「ホスピタリティ」システムはミラノ五輪の公式のものですが、ラウンジ・アクセスだのホテル宿泊だのを余分に付けてチケットを買わせるもので、平昌五輪の時もとにかくチケットを確保しようと思って使った経験がありました。
私はオリンピック観戦に二度しか行ったことがありませんが、その経験だけに基づいて言うと、ホテルであれ(よっぽど辺鄙なところでの開催でない限り)、チケットであれ、何カ月も前から確保しなくとも開催間近になるとより容易く手に入れられる気がします。
現に、2月まで待っていれば今回泊まった会場至近距離のホテルは私たちが払った値段よりも半分に値下げされていたし、ペアフリーのチケットもホスピタリティに頼らないでも定価でより良いカテゴリーのものが出回っていたのです。
絶対にあぶれたくない、なるべく早くに手に入れて安心したい、という観客の心理に付け込んだホスピタリティ・システムは今後、絶対に利用しないでおこうと思った事でした。
というのも、ですよ。
ペアSPの日に会場で翌日のFSの席の場所を確認しに行ったYちゃんと私はその酷さに愕然としたのです。
2階席のロングサイド2列目、というからけっこうちゃんと観えるのかと思いきや:
ご覧のとおり、手すりで視界が遮られているだけでなく、リンクが手前3分の1ほど見えないのです。
これは通常、シャペロン席に回されたり、観客に売るにしても注釈付きで最安値で提供されるべきレベルです。とてもではないけれど、目が飛び出るようなホスピタリティ料金を払って座る席ではありません。
写真を証拠に持参して文句を言いに行こうと決め、16日の朝に勇んでホスピタリティ・ラウンジに出向いたのでした。
センピオーネ広場にはナポレオン皇帝によって建設が開始された凱旋門があり、なかなか見応えがありました。
そこに設置されたのが「Clubhouse 26 - Milano」のラウンジです。
2026年ミラノ五輪、2006年トリノ五輪のオリンピック聖火トーチが展示されていたり
大人気のティナと写真が撮れたり
アペロル・スプリッツが飲めたりします。
しかしそんなものに惑わされてはいけません。
ここから最大の目的(席を替えてもらう)を果たすために、ラウンジ利用にあてがわれた時間を大幅に超えて延々とスタッフと交渉したのでした。
このプロセスで学んだことは:
1.どんなに軽くあしらわれても諦めずに食い下がることが大事
2.最初に出て来たスタッフの指示に甘んじるのではなく、どんどん上の人を呼んでもらわないと話は進まない
3.語学力がないと難しい
ということでしょうか。実際、この日の交渉に費やした時間は2時間強、駆使した言語は英語(Yちゃん)・フランス語(私)・イタリア語(助っ人に来てくださったNympheaさん)で、現場スタッフ5人とやり取りをし、メールでも問い合わせをして、ようやくリモートスタッフの1人が別の席を提供してくれた、という有り様でした。
これは不親切極まりない接客であり、YちゃんやNympheaさんの力がなければ私一人で対処できたかどうか自信がありません。皆様の今後のご参考になれば、と思って記しておきました。
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さて、肝心のFSの観戦記に移りましょう。(SPに関する記事でもそうでしたが、この記録はあくまでも「りくりゅうフォーカス」なので、他のチームに関してはほとんど触れないことをご承知ください。)
ミラノのアリーナでは初めてのロングサイド観戦です。ショートサイドと比べると、たとえ二階席であってもプログラム全体が見渡せるので良かった気がします。(手すりはまだ気になりますが、最初の席よりはマシ)
ここからりくりゅうのフリーを見届けたのでした。
ボード際にブルーノコーチ、そしてその後ろに渡部トレーナーの姿が見えます。
この時点では前日のSPのミスに木原選手が相当な打撃を受けた、という情報がそこかしこから入って来ていたのですが、同時に三浦選手は凛として、強い気持ちを保っているということも聞いていました。
もちろん、二人の詳しい心の動きや対処の仕方については後々のインタビューなどを聞くまでは分かりませんでしたが。
とにかくフリーでは納得のいく演技をして、結果はどうあれ全力を尽くしたのだ、という境地で試合を終えてほしいとだけ祈っていました。
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二人がリンクの中央に立ち、「グラディエーター」の音楽が始まる。
弦楽器と女性の声が重なる重厚なイントロは、これから繰り広げられようとしていることへの期待を孕んだ、何かの前触れのようにも聞こえます。
冒頭でゆったりとした動きから二人が交差し、絡み合うのですが、手を繋いでコーナーを回った辺りで一気に二人のクロスカットからのストロークでスピードが生まれます。
緩慢に見える海面の波が、実は底知れぬパワーを含んで大きな潮を起こすように、彼らの滑りは氷の上をうねってあっという間にリンク全体を支配する。マリーフランス・デュブルイユがそんな彼らの滑りの特徴に見事に合った選曲をしていることに、改めて感心します。
三浦&木原組の独特な浮遊感のあるツイストが決まり、まずは一つ目のエレメント突破。
そこからしっかりとスピードを上げて、3連続のジャンプ:このエレメントは三浦選手が最初の3トウループで頻繁にqが付いたりしていましたが、年明けから彼女のジャンプの精度が飛躍的に上がり、今大会では全てクリーン、この日も見事なキレを見せていました。
2アクセルも両方、二人のタイミングが合ってクリア。
そこからリフトに入り、少し緊張感が走ります。しかしこれも淀みなく決まり、勢いが増していきます。そうそう、本来はこんなに綺麗に決まるんだよ、りくりゅうのリフトは、と思ったのは私だけではないはず。
そしてスピードをいっそう上げて、スロー3ルッツへ:ここでも三浦選手の強い集中力が遠くからでも伝わって来ます。絶対にクリーンに降りる、という心意気が感じられ、その通りに素晴らしい流れのある着氷。しかも音楽の荘厳なフレーズに完璧に一致していました。
他にもスロージャンプが得意なペアチームはけっこういますが、三浦&木原組のスローは決まると比類なき爽快感があります。木原選手の絶妙な投げ方から出る飛距離、そして三浦選手の柔らかい膝が生み出す躍動感。英語で言うところの「Swoosh!」という表現が良く合います。
すぐにデススパイラルに入り、これも正確に、綺麗に決まったところでいったん、音楽が静かになります。例年になく、プログラムの中盤でこのエレメントを持ってきたのも正解でした。
曲調が変わり、スピンが始まるとアンドレア・ボチェッリの歌声が流れて来る。いつもこの辺りで彼の声を聴くとホッとするのですが、この日はいっそう頼もしく、支えてくれている気がしました。
君の中にあった小さな夢が、やがて現実となる
次第に増す情熱は数知れない試練を潜り抜けさせてくれる
そして三浦選手が優しく首を傾けて木原選手の肩に頬を添えると、何とも言えない柔らかい雰囲気が醸し出され、観客から拍手が起こりました。このさざ波のような拍手は、他のチームのスピンでは(私の憶えている限り)聞かれることはありませんでした。
自分を信じて
また一気にスピードを上げて、コーナーを回り、ここから二つ目のSBSジャンプ、3サルコウに入ります。
どんな時でも選択権は君にある
音楽に合わせてこれも決まります。
この演技中はずっと一定の緊迫感があり、それが悲愴な緊張ではなく、二人の何事にも動じない集中の表れである、ということが分かりました。なので、観ている側もどんどん引き込まれて彼らと一緒にプログラムを体感していける。
決して忘れないで
君次第なのだ、ということを
二つ目のリフトが、私の大好きなフレーズと共にリンクを縦一杯に駆け抜けていく。
自由な息
魂の叫び
そしてまさに最後の大技に相応しい歌詞:
君の手の中に
運命はあるのだから
ここでトドメの3スローループが見事に決まります。
もうここから最後まで観客(私?)はずっと叫び続けることになります。
会場中の皆がもう感じている、これは特別な、凄まじいパフォーマンスであることを。
滑っている二人にもそのエネルギーが伝わり、パフォーマンスのギアがまた一つ上がる、そしてそれに反応して観客がさらに盛り上がるという循環。
最後のリフトからの出も完璧に降りて、コレオでは二人の感情が爆発し、怒涛の勢いであのエンディング・ポーズへと突き進む。
三浦選手が拳を突き上げ、王者の君臨を示す。
音楽が終わるのを待ちきれず、皆が立ち上がってオベーションを捧げていました。
三浦選手をゆっくりと降ろし、木原選手が跪くと、三浦選手もそれにつられて氷上に膝をつく、そして彼の頭を労わるように抱え込みます。
大喝采を浴び、会場の四方に挨拶をしてからコーチたちの待つエリアへと戻っていく二人。
団体戦のほぼクリーンな演技で155点、この日はさらに感情がこもり、パーフェクトに限りなく近い出来でした。アナウンスがある前からとてつもないスコアが出ることは分かっていました。
158点を超えるスコアが発表され、木原選手が雄たけびを上げてガッツポーズを見せる。三浦選手はまたもや両手で口を覆って大きな目を見張る。(でも今回はズッコケなし)
これに勝る総合点を出せるのは最終滑走のハーゼ&ヴォロディン組しかない、と私は確信しました。
リーダーズ・チェアに座った三浦&木原組が見守る中、最終グループの4組が次々と演技をしていきます。最初に滑ったハンガリーのパヴロワ&スヴィアチェンコがSPに続いてFSもノーミスで終える。この安定感は今後、彼らの強みになることでしょう。
続くカナダのペレイラ&ミショーは、SPで3位に入ったのが少しプレッシャーとなったのでしょうか、フリーではミスを重ねて順位を落とします。
三番目に滑ったジョージアのメテルキナ&ベルラワもさすがに緊張したのか、クリーンな演技とはいかず、この時点で暫定2位。これで三浦&木原組が最低でも銀メダルを獲得したことが決まります。
実はYちゃんと私は最終滑走のハーゼ&ヴォロディンたちの演技が始まる前に1階のショートサイドの客席後方まで降りて行っていました。ペア競技が終わり、順位が確定したら前の方まで降りて表彰式を見届けたいと思ったからです。
ドイツのペアは、過去のスコアからするとパーソナル・ベストを越えなければ三浦&木原組に勝てないはず。ところが最初のSBSでハーゼ選手がちょっとしたミスをしてしまい、それが尾を引いたのか次のSBSジャンプではパンクしてしまいました。
この瞬間、私はつい、Yちゃんの腕を掴んでいました。本当に信じて良いのだろうか。本当に現実になろうとしているのだろうか、という気持ちを抑えるのが精いっぱいでした。
ハーゼ&ヴォロディンの演技が終わり、スコアが出る。
結果は彼らが総合で3位。メテルキナ&ベルラワ組が2位。そして三浦&木原組が優勝。
会場がまたまた大歓声に包まれます。
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自分の最も応援しているチームが優勝したから、ということだけではないと思いますが、本当に皆が清々しい表情で迎えた、本当に気持ちの良い表彰式でした。(いや、一人まだ泣いている人もいましたが)
4年に一度の大舞台だからこそ、「これでこそオリンピック・チャンピオン」と皆が納得するような圧巻の演技、圧倒的な強さを見せて優勝してくれることが望ましい。
我らがりくりゅうは、
過去のチャンピオンたちに全く引けを取らない、ペア競技の歴史に残る様な名演技をして、
しかも劇的な逆転劇を演じて、
2位に大差をつけて文句なしの勝利を収めてくれたのです。
これ以上、何を求めることがあるだろうか、という結果でした。
この日の彼らの演技、そして全てのペアチームが力を尽くした試合を会場で目撃できたことは一生、忘れないでしょう。本当に行って良かったです。
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以上、思い出せる限り、リアルタイムで観戦した時の光景や気持ちを記録したつもりですが、その後にアクセスできた様々な情報や報道や演技解説を受けて、改めて三浦&木原組の勝利について書きたいと思います。
アップするのがいつになるか分からない記事をお待ちいただければ幸いです。













