GPシリーズが終わり、もうすぐファイナルが開催されますね。
かなり時間が空いてしまいましたが、二つ前の記事で触れたGPスケートアメリカにおけるケヴィン・エイモズ選手のコメントについて少しだけ書いておきます。
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レイクプラシッドで行われたGPスケートアメリカにて、男子SPの記者会見に出席していたジャッキー・ウオンさんの一連の「X」投稿に概要が記録されいましたが:
Aymoz: My skating journey has been as long as Kazuki's. I've know him since juniors. I didn't want to skate for the audience, for the judges, for my family - I wanted to skate for myself. Because I had an injury this season, burned out two years ago - I had to fight to stay…
— Jackie Wong (@rockerskating) November 15, 2025
このエイモズ選手のコメントを引き出したのは毎日新聞の猪飼カメラマンからの質問でした。
スケートアメリカでもfigure-eyeを書かせていただきました。ケビン・エイモズ選手です。撮影時の疑問を思い切って記者会見でぶつけると、この日の氷に立つまでの思いを静かに丁寧に語ってくださいました。是非。https://t.co/cGs4AwNz9J
— 猪飼健史 (@Kenji_Ikaiphoto) November 28, 2025
エイモズ選手は質問を受けると、猪飼さんも少し驚くほど、正直に、詳しく、ゆっくりと自分のここ数年間の経験や思いについて語り始めました。
以下、ジャッキーさんの投稿を元に、私がその場で聞いて、猪飼さんに通訳した内容などを用いて少し補足しつつ、エイモズ選手のコメントを辿ってみたいと思います。
My skating journey has been as long as Kazuki's. I've know him since juniors. I didn't want to skate for the audience, for the judges, for my family - I wanted to skate for myself. Because I had an injury this season, burned out two years ago - I had to fight to stay alive.
僕のフィギュア・スケート界における道のりは〈友野)カズキのそれと同じくらい長いです。彼のことはジュニア時代から知っています。
(今日の演技について言うと、僕はすごく自己的になっていたと思います。)観客のためでもなく、ジャッジのためでもなく、家族のためでもなく、自分のために滑ろうと思っていました。
というのも、シーズンのはじめに怪我をしたり、二年前にはバーンアウトをして、本当にただ生き残るために足掻かなければならなかったこともあったからです。
I have been through eating disorders; everyday when I wake up, I fight to put clothes on and think about what people think I'm going to wear today. Being an athlete is very difficult, and maybe I wanted to send a message to the audience - respect the athletes.
僕は摂食障害にもなりました。(若い女性の摂食障害の経験談を聞いて「そんな事がなぜ起き得るんだろうか?」と理解できなかったけれど、自分がそれを経験する側になってしまいました)
毎日、起きて服を着る時も、「これを着たら周りの人に何て言われるだろう?」という恐怖と闘う思いでした。
アスリートであるのは非常にしんどいことなんです。だから(今日見てくれている)観客にメッセージを伝えたかった。「アスリートをリスペクトしてください」と。
When we do bad, it's difficult for us first, because we are the ones who are training everyday. Respect the athletes - they are working so hard.
パフォーマンスが上手く行かない時、第一に辛い思いをするのは僕たちです。だって毎日、練習しているのは僕たちなんですから。だからアスリートをリスペクトしてください。本当に皆、必死で頑張っているんです。
Every single skater, doesn't matter what competition, what country - every skater has something to bring on the ice. We are here for the love of sport and figure skating. Today, I cried because I fight all the demons I fight everyday
一人一人のスケーターは、誰であろうと、どんな大会であろうと、どんな国の出身であろうと、皆、自分なりの何かをリンクの上で捧げようとしています。僕たちは皆、このスポーツを、フィギュアスケートを愛しているからここにいるのです。
今日、僕が泣いたのは毎日、自分が向き合わなければならない「心の闇」と戦ったからです。
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エイモズ選手は発言の中で「Respect the Athletes」というメッセージを特に強調していました。これを訳す場合、日本語でもカタカナとしてこなれている「リスペクト」が最も便利なんですが、ニュアンスとしては「敬意を払う」というよりも、「尊重する」という意味合いかなと思います。
どんなスポーツでもそうですが、私たちはアスリートをその競技における結果やパフォーマンスで評価しがちです。勝敗や順位を争うのがスポーツなのだから、当然と言えば当然なんですが、時には彼・彼女に向ける言葉が度を超して、一人の人間としての尊厳をも傷つけるようなケースがしばしば見受けられます。
それらに遭遇すると非常に胸が痛むし、憤りさえ感じます。
私は2013-14年のシーズンからカナダ連盟の主催する大会でボランティアを始めましたが、その経験を通してスケーターたちの試合前後、あるいはオフアイスでの姿をたくさん、見ることができました。
そしてエイモズ選手の言う通り、どんな(ノービス・ジュニア・シニア)レベルのどんな選手も、誰一人いい加減な気持ちで大会に来ているわけではないのだな、と痛感することがしょっちゅうありました。
それもあって、私はもちろん「特に好きな」「特に応援する」選手もいるけれど、どんな選手に対しても「頑張ってるな、偉いな」という尊敬の気持ちを持つようになりました。
私は特別ナイーブでもないし、勝負の世界は厳しいという事も知っているつもりです。
でもある程度の年齢に達した、ある程度の良識を持つ大人として、一生懸命練習を重ねてたった一人で(あるいはひと組で)あの広い氷の上に乗って演技をする若者たちを目の当たりにすれば、「全員が実力を発揮して良い演技をしてくれますように」と願うようになるんじゃないかな、と言いたいのです。
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これに関連して最近、ひとつとても不快なことがありました。
以前、このブログでもご紹介したポッドキャスト「The Skating Session」は、グランプリシリーズの大会結果を解説するエピソードを毎週配信しているのですが、私はこのシリーズの主催者二人が珍しくアイスダンスについて詳しいことに興味を持って聴くようになりました。
当然、アイスダンス以外にシングルやペアについても話が及び、時々ホストの一人がちょっと嫌味なコメントをするのが前から気になっていましたが、フィンランディア杯のエピソードの中である男子選手のことを「何も良い事が言えないなら、黙っておくほうが良い、というのは分かってるんだけど」と前置きをした上で、本当にこっぴどくこき下ろし始めたのです。
技術的な点ではなく、その選手の表現力について批判を展開し、とにかく「退屈」だという意味合いのことを、さんざん、しつこく言うので本当に気分が悪くなりました。
私はその選手のことを個人的に知っているわけではありませんが、ジュニア時代の時から試合の場で何度か会ったりしていたことからに彼のキャリアについてはずっとフォローしていました。
スケート・ファンのポッドキャストであろうと、テレビ局の解説者であろうと、一人一人の選手の人間性だとか個人的な苦労だとかを把握した上でなければ試合や演技に対してものを言ってはいけない、というルールはありません。
逆に演技の出来に関係なくポジティブなことばかりを並べ立てて、改善すべき点や今後の課題について触れないのであれば、コメントをする意味がないですよね。
しかしあまりにも執拗に、自分の好き嫌いや自分の感じたこと、だけを基準に語られると、「そんだけ言うなら、簡単なことかどうか、あんたがやってみせたらどうよ!」という、これまた的外れな反応を招いてしまいます。
まあこのポッドキャストのホストの様に、プロの解説者でない場合はちょっと注目され出すと気が大きくなるのかも知れません。もう少し謙虚に、そして「アスリートへのリスペクト」を忘れずに、ものを言ってほしいと思ったことでした。
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さて、最後にオマケですが、レイクプラシッドの大会会場には「オリンピック・ミュージアム」が併設されていて、一緒にボランティアで入っていたお友だちと最終日に訪れました。
そこで古いフィギュアスケートのポスターを見つけて、「どこかで見たポーズだなあ」と思ったのですが、
皆さん、分かりますか?
そう、これこれ!
りくりゅうのお二人にもシェアして、「確かに、同じですね!」と言っていただきました。
ではそのりくりゅうもGPF出場のために本日、出発したことですし、そろそろ頭を切り替えなければ。


