2024年8月18日:「アラン・ドロン死す」 | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

このブログではたまーにフランスの文化や政治や芸能人について書くのですが、本日は大スター、アラン・ドロンが亡くなったというニュースを受けて記事にしないわけにはいきませんでした。

 

1935年生まれ、享年88歳。まさに私が両親・兄とフランスに住んでいた1960年代から70年代にかけて、彼の最盛期を目の当たりにしていたことになります。


ジャン・ギャバン、ジャンポール・ベルモンドなどと並ぶフランス最後の「monstre sacré du cinema」(直訳すると「映画界の聖なる怪物」、つまり常人にはとうてい近づけないほどの域に達した映画スター)と言われた俳優です。

 

最近は介護にあたっていた(日本人)女性とドロン家の人々との争いが取り沙汰されるなど、ドロンが心身ともに弱っている様子がクローズアップされていて切ない気がしていました。

 

しかしそれがきっかけで半年ほど前からドロンに関するドキュメンタリーや古いインタビューの動画などを見まくり、知っていたけれど忘れていたことを再認識したり、新たな発見が多かったりしました。

 

例えばドロンの数多くの映画女優との恋愛話の中で、私はナタリー・ドロンやミレイユ・ダルクのことはよく知っていたのですが、初めて真剣に付き合ったのがロミー・シュナイダーだったことを知りました。

 

二人が「恋ひとすじに("Christine")」という映画で共演するため、最初に対面した当時はシュナイダーの方がだんぜん有名、ドロンが空港に出迎えに行って彼女に花束を渡すという演出を制作側が指示したけれど、最初はお互いあまり好感を抱かなかったそうですね。

 

 


 

 
この時、シュナイダーは20歳、ドロンは23歳。どうですか、この美貌(彼の)。
 
 
いや、実際これほど美しい顔をした男優は他にいなかったと思います。栗色の髪に真っ青な瞳。
 
かつてこのブログでご紹介したジェラール・フィリップも美男でしたが、
 
 
 
アラン・ドロンは圧倒的な美しさの中に、さらに刃物のような鋭さが秘められ、何とも言えない凄みがあります。
 
 
 
 
ドロンは睨んだ顔が最も似合う、と私は思うのですが、逆に笑う時はあまり大きく口を開けるよりも少し皮肉めいた微笑みを浮かべる程度に留めておいてほしい。
 
 
 
 
 
もう一つの発見は(恥ずかしながら)ドロンの初期の代表作である「太陽がいっぱい」("Plein Soleil")が後にマット・デイモン主演で「リプリー」("The Talented Mr. Ripley")としてリメイクされたものであったこと。
 
 
 
 
 
 
 
ぜーんぜん、気が付きませんでした。
 
 
なお、ドロンに関する動画を見ていて改めて感じたのは彼が若い時から非常に「大人っぽかった」ということです。
 
妙な言い方かも知れませんが、まだ26,7歳の時分に受けたインタビューでの振る舞いがあまりにも落ち着いているのです。(うちの次男が今年で29歳であることを考えると、頭がクラクラします。)
 
若い頃から苦労をして、這い上がって来た人生経験のなせる業でしょうか。
 

 

 

 
また、イタリア語や英語でも流ちょうにインタビューに応えているのを見ると、さんざん学業面では退学になったり17歳で海軍に入ったり、と高校さえ卒業していない彼ですが、頭の回転は冴えていて、知能指数も高かったであろうことが伺えます。
 
 

 

 

 

 

 

 

 
ところでドロンは世界中でフランスの映画スターの代名詞みたいな存在でしたが、日本でも有名でしたよね?

 

 

一時帰国で日本に戻った1973年のことだったと記憶しているのですが、従兄が「アラン・ドロンっていうフランスの俳優がコマーシャルに出てるんだけど、何て言ってるの?」と私に聞いてきました。レナウンの紳士服の「ダーバン」に登場するドロンのセリフが「D'urban, c'est l'élégance de l'homme moderne」だと教えてあげるとえらく喜ばれました。

 

 

 

 

長いキャリアの間には様々なスキャンダル(中には相当、ヤバいものも)あったり、政治的なスタンスとしてはけっこう問題も多かったドロンですが、カリスマ性溢れる俳優であったことは疑いようがありません。

 

 

最後に、私がとても好きな彼の演技の動画を置いておきます。

 

「Le bel indifférent」というこの短い戯曲は1940年にジャン・コクトーによって書かれ、ある程度の年齢(40代半ばごろ?)の女性が、エミールという年下の恋人に向かって延々と独り言をぶつけるという設定です。当初はエディット・ピアフとポール・ムーリスによって演じられたそうです。

 

テレビで放映された1978年版(動画のタイトルは1980年、となっていますが)ではアニー・コルディとアラン・ドロンが出演しています。

 

普段はコメディアン、ミュージカル女優として知られているコルディですが、ここではドラマティックな役を見事に演じています。

 

タイトルの意味は「美しい、(私を)無視する男」なのですが、8分余りのシークエンスの中で、男は一切、セリフがありません。

 

それでもドロンは彼の役どころである「めちゃくちゃ意地悪で嫌な男」を実にリアルに表現しているので、ぜひご覧に入れたい。

 

動画はフェイスブックにどなたかが上げたものなので、見れるかどうか分かりません。念のため、ハイライトシーンのスクショを上げておきます。

 

 

夜中に男が帰って来て、女は「どこに行って、何をしていたの?」と彼を問い詰めますが、男は知らんふりをしてコートを脱ぎ、タバコに火をつけ、ベッドに(靴のまま!)寝そべって新聞を読み始めます。

 

 

 

 

 

 

 

 

ずーっとしゃべり続け、怒ったり、恨み言・泣き言を言っている内に、他の女から電話が掛かって来る。

 

呼ばれても電話に出ようとしなかった男に「ありがとう、エミール」と嬉しそうに近寄る女。

 

 

 

 

 

でも男は単に眠っていただけだったことに気づき、また激怒。

 

めんどくさそうに起き上がって男は再びコートを着始めます。

 

 

 

 

そこに駆け寄って止めようとする女。(おそらくタクシーを呼ぶために)電話を掛けようとする男に

 

 

 

 

行かないでくれとしがみつくも完全無視。

 

 

 

 

その時、彼女が言ったひとこと「Pense à tout ce que j'ai fait pour toi」(私があんたのためにどれだけのことをしたと思ってるの)に男の顔がサッと、一瞬だけ、変わります。

 

 

 

 

この冷ややかな、しかし刺すような一瞥。

 

そこからまた電話を置いて出て行こうとする男に、謝りながらしがみつく女。

 

 

 

 

お願いだから私を見て、と懇願する彼女にこの目線をくれてやる。

 

 

 

 

最後は「あなたがどこに行っても、誰と会っても、文句を言わないから」とすがる女を、うるさそうに手で払って出て行く。

 

 

 

 

 

 

また一人、取り残される女。

 

 

 

うわー、たまらなくサイテーな男。

 

でも上手い。

 

 

アラン・ドロン、天国でギャバンやベルモンドたちと再会していますように。