「ペア代表選考の問題」
と言っても見方はさまざまであって、事前にカナダのスケート連盟に設定された代表選出基準と照らし合わせると妥当な選考結果ではあったのです。
ただ、代表発表後は何とも気まずい雰囲気が漂い、ファンたちの怒りのSNS合戦が巻き起こったのは残念でした。
昨年の春にオリンピックシーズンに向けて、いきなり現役復帰を宣言したエリック・ラドフォードが、それまでフランス代表として国際試合に出ていたヴァネッサ・ジェームスと組んだのは大きな話題となりました。
エリックの元パートナーであったメーガン・デュハメルはそのニュースを知ってショックを受け(一緒にアイスショーなどに出る予定であったこともあり)、色んな意味でのっけから賛否両論のペアでした。
とはいえ、彼らがそれぞれの輝かしいキャリアに基づいて周囲からかけられた期待に応え、シーズン序盤から良い結果を出せば誰も文句はなかったでしょう。
ヴァネッサとエリックのの2021年9月から12月にかけての戦績は:
- CSオータムクラシック(自国開催で優勝候補ながら、りくりゅうに負けて2位)
- CSフィランディア・トロフィー(世界のトップペアが出ている試合で、ここではアメリカペアにも負けて5位)
- GPスケート・カナダ(中国・ロシア・アメリカペアに次いで4位)
- GPフランス杯(ロシア勢とアメリカペアに阻まれて4位)
- そしてゴールデン・スピン(アメリカ・グルジア・ロシア若手に負けて4位)
試合勘を掴むためにかなり多くの試合に出場しましたが、結果は期待されたほどではなかった。
どこが悪い、というよりも(ヴァネッサがサイド・バイ・サイドのジャンプを頻繁にミスる以外は)、SP・FSを揃えることがなかなかできない。その不安定さゆえにスコアが伸びず、PCS(=過去の実績と評判)で助けてもらっている、という印象が強い。
徐々に二人で滑る経験を積んで行けば、調子が上がって来て世界のトップチームに迫るだろうと予想されていたのに、逆にシーズンが進むにつれて「やっぱり即席ペアの限界だよな」と囁かれるようになっていました。
カナダ連盟からもCBCからも、果てはオリンピック委員会のSNSでも盛り上げてもらい、鳴り物入りで参戦しただけにこれでは不完全燃焼の感はぬぐえません。
ここは一発、代表選考会でバシッと決めて、堂々とオリンピック出場を決めてもらいたいところでした。
一方、ヴァネラドが復帰する以前、カナダのペア二枠をほぼ確実に獲るだろうとされていた2チームはというと。。。
昨シーズンまではカナダのトップの座を余裕で確保していたカースティン=ムアータワーズ&マイケル・マリナロ組も思いのほか、今シーズンは不調に陥っていました。
彼らのオリンピック枠が脅かされているわけでは決してないのに、親友である(それまで)二番手のエヴリン・ウオルシュ&トレント・ミショー組のストレスを肩代わりしたかのように、どの大会でもミスを連発。
もともと苦手意識のあったツイストが悪化、果ては一つプログラムでリフトを複数回、失敗するというちょっと考えられないような試合もありました。
そしてそのウオルシュ&ミショー組も夏頃から病気や負傷やらに悩まされて、それまでの彼らの実績からはほど遠いリザルトをずっと重ねてしまいました。
平昌五輪以降、次のオリンピックには一緒に出よう、と励まし合って来た二組でしたから、突如、ヴァネラドたちが割り込んで来てその計画を台無しにした、と感じても無理はありません。しかし、勝負の世界では結果が全てです。
ベストとは言えないヴァネッサたちの成績さえ大きく下回り、あまりにもエヴリンたちは出遅れていました。これではオリンピック出場枠を代表選考会を待たずに手放してしまったようなものです。
ところが、最後の最後でまたハプニングが。
ヴァネッサとエリックがクリスマス休暇中にコロナ感染し、ナショナルズ直前まで隔離を余儀なくされた、というニュースが飛び込んで来たのです。
彼らの練習拠点ではリンクメイト達(ステラート&デシャン組、マテ&フェルラン組)も感染し、何と三組のペアの出場が危ぶまれたナショナルズでした。何とか全員、出ることになったのですが、練習不足は明らかでした。
ショートを終えた時点でムアータワーズ&マリナロ組が突出して良い演技をしたため首位、二位はクリーンなプログラムを滑ったウオルシュ&ミショー組でした。そしてヴァネラドは何と4位。この辺りから不穏な空気が流れ始めました。
このまま、ウオルシュ&ミショー組がヴァネッサたちを大きく上回った場合、選考にどう響くのだろうか、と皆が思った矢先にまたまた急展開で、「ジェームス&ラドフォード組がフリーを棄権」という知らせが伝わって来ました。
理由はすぐには公表されませんでしたが、コロナ感染の後遺症で体調が優れないから、というような理解でした。それでも同時期に感染したリンクメイト達は試合を続行していたので、何となく「分が悪いので勝負を避けた」と思われても仕方がありません。
最終的にはムアータワーズ&マリナロ組が今シーズンのベストの演技を披露し、堂々のタイトル防衛。そしてウオルシュ&ミショー組も彼ら本来の安定した滑りを見せて2位、となりました。
All of the feels (📷@gregkolz / @SkateCanada) #CTNats22 #CreatingHistory #MooreTowersMarinaro pic.twitter.com/5bAcPXgam9
— Greg Kolz (@gregkolz) January 8, 2022
Senior Pairs final results: / Résultats finaux en patinage en couple senior
— Skate Canada / Patinage Canada (@SkateCanada) January 9, 2022
🥇 Kirsten Moore-Towers / Michael Marinaro, 212.54
🥈 Evelyn Walsh / Trennt Michaud, 186.52
🥉 Deanna Stellato / Maxime Deschamps, 178.60
📸 @DanielleEPhoto#CTNats22 #CreatingHistory #CréerlHistoire pic.twitter.com/M8Kjn6Bpwp
カナダのペアチームの中でシーズン前半は一番良い試合成績とスコアを獲得していたジェームス&ラドフォード組をやはり選ぶのか?それとも代表選考会であるナショナルズにピークを合わせて来たウオルシュ&ミショー組に二枠目を与えるのか?
両組のこれまでの(国際試合・ナショナルズを含めての)スコアを比べてみると、どちらも総合で200点を超えていない。
これでは世界のトップチームには遠く及ばないわけで(ロシア・中国ペアは220点を超えたりしますし、りくりゅうも210点近いスコアです)、それならばナショナルズでしっかり結果を出した方を選出すべきでは?という意見もありました。
しかし結局、代表発表の日、会場に姿を現したのはヴァネッサとエリックで、エヴリンとトレントはホテルで泣いている姿を目撃されたということでした。
そもそもこのオリンピックチームの発表が(例えば昨年末の日本の代表発表会見や、2018年の平昌五輪の時のカナダ代表発表会と比べても)えらく簡素であったため、あまり感慨深くなかったのですが、
Congratulations to the 13 figure skaters nominated to represent #TeamCanada at the #Beijing2022 Olympic Winter Games! (📷@gregkolz / @SkateCanada) pic.twitter.com/fhfwGmefP7
— Greg Kolz (@gregkolz) January 9, 2022
私自身、この現場に居合わせて何となく、手放しで喜べないような、ちょっと残念な気持ちになりました。
またこの発表会の前後でソーシャルメディア界隈ではかなり多くの同情票がエヴリン&トレントたちに集まり、いっときはカナダのOBやOGからも疑問の声や憤慨の意見が寄せられました。
ムアータワーズ選手自身もこのようなツイートを出しています:
「エヴとトレント、あなた達らしくいてくれるだけで感謝。私は永遠にあなた達の味方だからね。」
❤️
— Kirsten Moore-Towers (@Kirsten_MT) January 9, 2022
Thank you @gregkolz for this photo.
Thank you Ev and Trennt for being you. I am forever in your corner. pic.twitter.com/zvAgELkWEG
というわけでこの面々でカナダは北京五輪に挑むわけですが、団体戦では果たしてどのような組み合わせで出るのか、が非常に興味深いですね。
女子はスキザス選手一人なので、フリーに進めば両プログラムを滑るとして、男子がキーガンとローマンで分担するのか?
アイスダンスはギレス&ポワリエがRDとFDの両方を滑りたいと言うのか、それともどちらかをフルニエ・ボードリ―&ソーレンセン組に譲るのか?
私は何となく、ですが、ペアはカーステンたちが両方を滑る、と言うのではないかと予想しています。
なお、国にもよるのかも知れませんが、団体戦では出場・欠場、またプログラムのどれを滑るのか滑らないのか(二つとも滑るという選択肢も含めて)、国内選考における成績上位者から選べるらしい、と聞いています。
ルールではショートとフリーの分担は2競技まで、とも言われていますよね。色んな組み合わせが可能である、ということになります。
日本もどうなるのか、楽しみですね。