他国の選手をコーチするということ | 覚え書きあれこれ

覚え書きあれこれ

記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

前の記事に書き忘れましたが、バンクーバーのホテルに着いて間もなく

 

「ああ、カナダに戻って来たんだ」

 

と実感したことが二つ。

 

一つは

 

テレビのスポーツチャンネルをつけると、NHL(プロ・アイスホッケー)のプレイオフが始まっていて、ニュースはその話題でもちきりだったこと。(めいこさん、ご名答です)

 

 

 

 

もう一つは、

 

トイレの便座が冷たかったこと。

 

オークビルの家で私が使うバスルームにはTOTOのトイレが設置してありますが、まだまだ(というか全然)こっちでは普及していませんからねえ。

 

 

*****

 

さてさて、本題に入りましょう。

 

 

私が去る4月の国別対抗戦を涙ながらに観戦していた頃、ジャッキーさんがこんなことをツイートしていました:

 

 

https://mobile.twitter.com/rockerskating/status/1383327084974534657

 

 

これを見た時、ジャッキーさんが三浦&木原ペアをとても高く評価してくれていることに喜んだものの、

 

 

「まあでも北京五輪の団体戦で日本がメダル有力候補、って」

 

と咄嗟に思ってしまいました。

 

国別対抗戦ではシングル競技でめっぽう強い日本が有利ですが、オリンピックの団体戦ではカップル競技の重要性が高くなるため、これまでソチと平昌の大会では両方とも総合で5位に留まっていました。

 

しかし、しばらくすると

 

「あれ、待てよ。北京の団体戦で首位はおそらく(国名が使えなくても実質的には)ロシア、二位がアメリカ、というのはほぼほぼ決まっている様なもの。じゃあ三位は?」

 

という風に考えるようになりました。

 

過去の五輪を元にすると、団体戦に出場する国は順当に行けば(なんちゃって)ロシア、アメリカ、カナダ、日本、中国、フランス、イタリア、ドイツ、などでしょう。

 

このうち、三位争いに絡んでくるチームとなると:

 

カナダはシングル競技が危なっかしい。男子はキーガン・メッシング選手が今回のストックホルム・ワールドで健闘しましたが、女子はトップレベルで戦えそうな選手が見当たりません。アイスダンスはパイパー・ギレスとポール・ポワリエ組がストックホルム・ワールドで表彰台に乗っているし、ペアはカーステン・ムアタワーズ&マイケル・マリナロ組、そして話題のジェームス&ラドフォード組がそこそこのスコアを出すことが予測されます。

 

中国は男子のボーヤン・ジン選手、そしてペアのスイ&ハン組あるいはペン&ジンがしっかりとポイントを稼ぐ。女子とアイスダンスは未知数。

 

イタリアは男子でグラッスル君かリッツォ君が調子良ければけっこう期待できる、そしてアイスダンスとペアのカップル競技が安定している。弱点はカナダ同様、女子か?

 

フランスは男子のエイモス選手がいるし、ダンスはパパシズが出れば問題なく高得点を稼ぐ。しかしパパシズが団体戦に出るとは限らないし、女子とペアがあまり期待できないとなると。。。

 

そう、確かにシングルで女子も男子も実力通りの演技をすれば、そしてペアでりくりゅうがしっかり戦えば、アイスダンスが多少弱点であったとしても、日本はじゅうぶん三位を狙える位置にあるのですよね。

 

 

そして次に脳裏をかすめたのが、三浦&木原組が練習拠点とするオークビルのリンクには、その三位争いに絡んでくるカナダのペア、つまりムアータワーズ&マリナロ組もいる、ということでした。

 

両チームともコーチはブルーノ・マルコット、そして振付師はブルーノの妹ジュリー・マルコット。

 

同じリンクでライバル選手達が練習する、というのはさほど珍しい事ではありません。Ice Academy of Montreal ではアメリカのトップ3チームがしのぎを削っているわけですし、ロシアではついこの間の世界選手権でチャンピオンとなったペアのミシーナ&ガリアモフ組が昨シーズンのGPFチャンピオンで同年代のボイコワ&コズロフスキーと共に、モスクヴィーナコーチの元で火花を散らし合っていると聞きます。

 

しかしそこに「国」という要素が加わるとさらにややこしくなります。有名なところでは一昔前のアイスダンスのヴァーテュー&モイヤー組(カナダ)とメリル・デービス&チャーリー・ホワイト組(アメリカ)がデトロイトのクラブに在籍し、またテサモエとパパダキス&シズロン組(フランス)がモントリオールのクラブに在籍していたことが思い浮かびます。

 

コーチにとってそのような選手同士の関係を上手く管理するのは容易な事ではないでしょう。リンクに集まる全てのスケーター達が何とか満足できるようにするため、実際の技術的なコーチング以外にも多くの心配りが必要となって来ます。

 

実力の上下がはっきりと付いている場合はさほど問題ではないけれど、拮抗して来るとコーチとしては嬉しいような、心臓に悪いような。でもこのような競り合いがオリンピック・シーズンに特に強調されるのは当然で、コーチの手腕の見せどころ、にもなってくるわけです。幸いマルコットさんはベテランですし、妻のメーガンのインプットによってよりバランスの取れた練習環境が整うことが期待されます。

 

ところでマルコットさんとは少し状況は異なりますが、羽生選手が9年前にクリケット・クラブにやって来た時のことも思い出され、あの頃のブライアン・オーサーは色々と複雑な気持ちがしていただろうな、と改めて感じます。

 

当時、来るソチ五輪では三年間負け知らずのチャンピオン、パトリック・チャンがカナダ男子悲願の初金メダルを獲るであろうと目されていました。その夢を脅かし、結局は打ち砕いたライバルを育てたのがカナダのオーサーとクリケットのコーチたち。そこかしこで「裏切者」とささやかれていたのも彼は知っていたはずです。

 

試合後、パトリックに慰めの言葉をどうかけて良いか迷った、とオーサーは言っていましたね。しかし究極的には自分はプロのコーチであり、選手の国籍は関係がない、とも。

 

ソチ五輪直後にトロント・スター紙に載った記事を訳しているので、ここに再掲しておきます。

 

懐かしいですね。