グローバル時代にリーダーからのメッセージを受け取る | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

羽生選手がグランプリシリーズに出場しない、と発表してから数日が経ちますが、日本の連盟を通じて出されたコメントは瞬く間に世界中のメディアやファンによって取り上げられ、拡散されました。

 

そりゃあそうでしょう、フィギュア界のスーパースター、リーダー的存在のYUZURUが出した重要なメッセージだったのですから。

 

フィギュアスケートの様な個人スポーツ(ペアやアイスダンスはカップル単位ではありますが)においては、チームスポーツの主将に匹敵するような「リーダー」という存在を見出しにくいかも知れません。しかしその競技全体における「第一人者」という意味でのリーダーは存在すると思います。
 
テニスのロジャー・フェデラーやラファエル・ナダルの様に、長期間、メジャー大会で優勝を重ねているベテラン選手などがその例として思い浮かびますが、羽生選手はこのお二人と比べても何ら遜色がありません。

 

ソチオリンピックで男子、女子、ペア、アイスダンスの四部門でメダルを獲った選手は彼以外、全員引退しています。平昌オリンピックの場合でさえも、現役として続けているのはごく少数です。

 

その両方の五輪大会で金メダルを獲り、数々の世界記録を今もなお更新している。要はこれまでの実績と現在の実力を併せ持ち、驚愕の「トップレベル持続力」を備えているのが羽生結弦というスケーターです。

 
持続力だけではありません。常に新しいことに挑戦する情熱。怪我など多くの逆境を乗り越える勇気と精神力。
 
そして何よりもフィギュアスケートという競技の限界をより遠くに押し開いて見せようとする責任感
 
コーチであるトレイシー・ウィルソンが昨年のGPスケートカナダの解説で言ったことが思い出されます:
 
 
 
 
And you talk about belief; this is a guy that believes. He believes in himself and it’s about where he is going with the sport, and he takes it so seriously. And you think he has got two Olympic titles and you would start seeing the signs of fatigue. Well, we saw a little bit of fatigue from Yuzu last year, after second Olympic title. This year it's full force, he is as inspired and dedicated as I have ever seen him.
さっきも「信念」という話が出たけれど、彼はそれを持っている人なのよ。自分で自分のことを信じている、この競技をどこに導いていきたいかということに対しても、彼はものすごく真摯に取り組んでいる。オリンピックタイトルを二度も獲って、そろそろ疲れの色が見えて来るのじゃないかと思うでしょ?まあ、昨年は確かに二度目のタイトルを獲った後、ユヅにはちょっとそんなところも見えたのだけれど、今年はまた全力投球。これまでと全く変わらず、モチベーションも高くて、打ち込んでいるように見えるわ。
 
 
 
そしてスポーツに限らず、一般的なビジネスリーダーに求められる「Decisiveness 決断力」、「Awareness 意識の高さ」、「Communication コミュニケーション力」、「Vision ビジョン」が、この度のGPS欠場に関するステートメントに見られました。
 
色々とまだ見通しの立ちにくいシーズンである中、自分は現時点での状況を把握して、判断して、決断した。それを速やかに伝達して、自分の見解を明らかにするとともに、一つの道筋を示した。
 
彼には競技の第一人者として、自分の周囲への心配りが求められます。特にこのような混沌とした事態においては、一つでも不確定要素が減れば助かる人間がたくさんいるのです。
 
3月のモントリオール・ワールドの直前の状況が思い出されますが、誰かがとにかくさっさと決断を下してくれさえすれば、多くの者があれほど長時間、心臓が締め付けられるような思いをせずに済んだのです。
 
羽生選手はあのコメントを出すことで、その役割を果たしてくれました。
 
彼がグランプリに出場しないのは寂しい(痛い)けれど、じゃあそれはそれとして、次のステップに進める。精神的にも、実質的にも、楽になる。そう思った人がメディアにも、大会主催者にも、ファンにも多かったはずです。
 
またすでにこのブログでも言った通り、彼は何も皆が自分と同じ行動を取るべきだ、と言ってるのではないと私は受け止めています。自分はこういう考えに基づいて、こういう選択をした、と説明しただけ。それを受けて、どういう行動を取るのか、はメッセージの受け手一人一人が判断すれば良い事です。
 
なお、おそらく私はこれが一番言いたくてこの記事を書き始めたのですが
 
当然ながら今や時代はグローバル、どんな情報もいったん公開されれば瞬時に世界中で多数の言語に訳されます。
 
羽生選手のコメントは確かに日本の連盟を通じて、日本語で出されましたが、あれはフィギュアスケート界のトップアスリートが、世界に向けて発信したメッセージです。
 
そして少なくとも北米の感覚では、ごくストレートに受け止められ、「いや、ごもっとも」といった意見がほぼ100%だったと思います。
 
「Humility 謙虚さ」はリーダーの条件として挙がっているものの一つですが(そして羽生選手はそれを十分、持ち合わせていますが)、自分の行動が多くの人に影響を及ぼすことを明言するのはそれに全く反しません。
 
その理由については、もう一度、冒頭からこの記事を読んでいただければ、と思います。