アメリカで起こった人種差別事件を発端に、世界中に広がっているデモンストレーションにより、色々と考えさせられる一週間となりました。
私が30年以上昔にカナダに留学して来たのは、北米におけるエスニシティ現象について学ぶためでした。なので当然、人種関係・エスニシティ問題が学者としての専門分野の一つですし、現職もそれに関連しています。
よって先週、書き始めた振り返りシリーズを続けるのにちょっと躊躇して、その時間を家族や友人たちとたくさん、話し合うことに費やしました。
色々な考え方があるとは思いますが、私が最も大事だと感じるのは歴史を知ること、です。何を語るにしても、その背景を出来るだけ知ろうとしなければよい議論には繋がりません。
私自身、大学院で人種関係について勉強していながら、実際に理解が深まったのはずいぶんと経ってからだったと思います。日常生活の中で色々なことを目の当たりにしたり、毎日、ニュースで取り上げられたりしていることから徐々に、身近な問題として感じられるようになったのです。そうすると自ずと歴史にも興味が湧いて来るし、カナダとアメリカの違いが何に起因しているのか、も歴史の観点から把握できるようになりました。
まあ、語り出すと長くなりますが、とにかく、入り口は何でもよいので、これを機会に北米(今回は特にアメリカ)における人種問題の歴史を調べる人が増えれば良いな、と思っています。
その一つの入り口として、「音楽」などはいかがでしょうか。
かつて日本の女子大学で教えていた頃、担当授業に「学術英語」があって、教材に David P. Szatmary の 『Rockin' in Time: A Social History of Rock and Roll』 を使っていました。
これは私の使っていた第4版ですが、
ベストセラーなので現在は第9版まで出ています。
ロック音楽がどのようにして誕生したのか、を解説する冒頭の章が面白かったので学生たちに読ませたのを思い出します。しかしこの本の一部は、音楽を切り口とした、アメリカにおける人種問題の入門書としても使えました。
アメリカ南部のプランテーションで働かされていた奴隷が、作業中に歌っていたことから生まれたコール&レスポンス(呼応)調の曲。それが元となってゴスペルやブルース音楽に発展し、リズム・アンド・ブルースからロックンロールへとつながっていく過程が良く分かります。その一方で、アフリカ系アメリカ人のミュージシャンたちが搾取され、彼等の作った曲を白人のミュージシャンがレコーディングしてヒットする。作った側には何の恩恵もない、というような現象も描かれています。
それと関連しますが、
この度の自粛生活の間、私は多くの人がしていたようにネットフリックスを駆使しまくり、「ReMastered」という音楽関係のドキュメンタリー・シリーズを見つけて、引き込まれました。
中でも1950年代後半から1960年代初めに活躍した黒人歌手のSam Cookeをテーマにした回 "The Two Killings of Sam Cooke"
そして、ディズニーの「ライオン・キング」でも有名になった曲:「ライオンは寝ている」の歴史を辿った"The Lion's Share"が面白かったです。(この場合は、南アフリカの黒人ミュージシャンが作った曲が事の発端となっています)
日本でも観ることができるようでしたら、ぜひどうぞ。