本日はバスケのネタです。
何人かの方にコメント欄で「トロントは今、NBAで大騒ぎなんじゃないですか?」とお尋ね頂きましたが、そうなんです。
ここ数週間は、「Centre of the Hockey Universe(=ホッケー界の中心地)」であると自他ともに認めているトロント市がバスケットボール一色に染まっていました。
愛するホッケー・チームのメープル・リーフスが早々にプレイオフの一回戦で敗退したのも手伝って、町中、いや、カナダ中のスポーツ・ファンが一斉に、地元のNBAチーム、トロント・ラプターズに注目したのです。
元からのファンはもちろんのこと、尻馬に乗ったニワカもひっくるめて、トロント市民の多くがチームの活躍を追い、一回戦、二回戦、東カンフェランス決勝戦、そしてとうとうリーグ決勝戦へと進んでいくのをいちいち狂喜乱舞していました。
プレイオフは2カ月の長丁場ですが、終わるころにはトロントどころか東は(次男の住む)ノヴァスコシア州、西はブリティッシュコロンビア州まで、カナダが一体となって応援の渦に巻き込まれました。
そして、とうとう「まさかの」リーグ初制覇。
しかも過去5年間連続で決勝戦に進んでいる(内、3回優勝)強豪のゴールデン・ステート・ウオリアーズを打ち砕いて、4勝2敗で見事な勝利を収めたのだから、これは「快挙」と言うだけでは物足りない。
最後の試合はアウェーのカリフォルニアで戦われたのにも関わらず、優勝が決まったとたん、昨夜のトロントのダウンタウン界隈は花火が上がり、人々がごった返し、パトカーやバスや電灯によじのる者(阪神タイガースが優勝した時は確かファンが、道頓堀に飛び込んでたよな、とか思い出しましたが)、抱き合って踊る者、とんでもないお祭りと化しました。
私は大人しく家で観ていましたが(いや、本当は怖くてスコアを追ってただけで、最後の数分間しか観ていません)息子たちは友達と繰り出して、この人混みの中にまみれていました。
プレイオフのMVPはスーパー・スターのKAWHI LEONARD(こちらでは皆、彼のファースト・ネームを「クゥワーイ」と発音します)、2018年のシーズンオフにサン・アントニオ・スパーズからトレードされてきて、一年目でチームを最高峰まで導いた立役者です。
このお方、とっても落ち着いてて、いつも寡黙でカッコいいのですが、長男と同い年のまだ弱冠(?)27才。
さて、私のブログを長年、読んでくださっている方々はご存じかと思いますが、私はけっこうなスポーツ・オタクで、車の中では必ずトロントに二局あるスポーツ専門のラジオを交互に聞いてるほどです。
なので普段はバスケのことなど、このブログでは全く話題にしていないと言えど、ラプターズに関してはけっこう詳しい。1995年のチーム設立以降、ほぼ毎日、ラジオで彼らについては主な情報を耳にしているし、このレナードのトレードに関してもさんざん、ファンやスポーツ解説者の間で議論されてきたのを知っていました。
実はトロントからレナードと引き換えに、逆にサン・アントニオにトレードされたのはそれまでラプターズいちの人気者、デマー・デローザンだったんですよね。プレイオフではイマイチ、チームを背負って準決勝や決勝まで導く、というところまでは行かなかったけれど、非常にトロントという町に愛着を感じてくれて、様々な慈善活動にも精を出していた彼ですから、ファンにすごく愛されていました。
それでレナードとのトレード当時、最終決断を下したGMのマサイ・ウジリは一体何を考えているんだ、とかラジオの番組でもファンが非難ごうごうでした。しかも2017‐18年のリーグ最優秀監督賞を取ったドウェイン・ケイシーを解雇して、アシスタント・コーチだったニック・ナースを抜擢したことと相まって「絶対にこれは大失敗に終わる」と言われていました。
それがなんと、賭けが大当たりして最高の結果を生んだのですからウジリさん、堪えられないでしょう。
いやー、良かった良かった。
とにかく私はラプターズを専門的に記事に書いているわけでもないので、ここで彼らのプレイ等に関して偉そうな事は言えませんが、ただ、いちスポーツファンとして幾つか、印象に残ったことだけを書いておきたいと思います。
1)スーパー・スターってやっぱりすごい。
さきほど触れたレナード選手、彼はトロントに来る前からすでにリーグ優勝を経験し、23才になるかならないかでプレイオフのMVP賞を獲得するなどして、NBA界ではスーパー・スターの座を有していました。
しかし2017の春に足首を負傷し、その次のシーズンもふくらはぎを痛めたり、肩を痛めたりしてずっと休場が続いていたのですね。なかなか身体が万全の調子に戻らないことから次第にチームメイトや上層部ともギクシャクし出して、とうとうシーズン終了後にトレード、となったのでした。
その様な背景を含めてもウジリGMはレナードの類まれなる才能を信じ、獲得に動いたわけですが、人気者のデローザンを引き替えにしたことで、ファンだけではなく(デローザンの)親友だったベテラン、カイル・ラウリーの怒りをも買いました。
今となってはレナード(左)とラウリーはこんな感じ。
しかし。。。
やはりスーパー・スターの威力はとてつもない。これまでラプターズのファンの見たこともないレベルの選手の加入で、チームは一気に波に乗りました。ファンも最初こそ、懐疑心を持っていたのですが、あまりの素晴らしいプレイに徐々にレナードのフォロワーが増えて行きました。チームの結束も試合ごとに固まって行くのが分かりました。
何と言うのでしょうか。
デローザンも優秀な選手だったのですが、このレナードは「別次元」というのが相応しい。何がどう、と言えないのですが、「あ、こういうこと出来ちゃうんだ」とこちらが感心するようなことをそこかしこでやってくれる。トップ選手の最盛期を観ることは非常に貴重な体験であり、レナードがそれをトロントで我々に見せてくれたのは本当に有難かった。
最近、色んな場面で使われますが、スポーツでも「持ってる」って言われるアスリートがいますよね。
あれはそのアスリートが何か天から舞い降りて来た不思議な力を発する、というのではない。稀有な才能を持つ者が全身全霊をかけて成し遂げたことが、単に凡人の理解を超えてしまった、ということなのだと思います。
おそらく今季のプレイオフで最も劇的だったのは対フィラデルフィアとの2回戦の最終戦。同点で迎えた試合終了のブザーの音と共に、レナードが放った3ポイントシュートが何度かリングの際を跳ねたあと、ようやくネットに落ちて準決勝への進出が決まった瞬間でしょう。
あんなシュート、あり得ない。ストンと最初から落ちるならまだしも、数秒間、皆を焦らすようにバウンスしてクルクル回って、そして。。。
いやもう、あれは鳥肌が立ちました。
2)アスリートにとっての最悪な事態はプレイができないこと
優勝後のインタビューでESPNのレイチェル・ニコルズに対してレナードが言ったことにすごく打たれました。昨シーズン中、怪我をしていてなかなか試合に復帰することが出来なかった時のことを振り返り
“A lot of people thought I was faking the injury or didn’t want to play for my team & that was disappointing to me. So just going through that, I knew I just had to trust myself. It doesn’t matter what anyone had to say about me.”
「あいつは怪我をしたフリをしてる、とか、チームのためにプレイしたくないんだ、って思ってた人がたくさんいたみたいで、それがすごく辛かった。そんなこともあって、自分だけを信じて行こうと思った。他人が何と言おうと関係ないんだ、って。」
カナダのTSNの中継チームにも同じようなことを語っていました。そこで彼が言った、「アスリートにとってはプレイ出来ない、ということが一番辛いのに、誰が仮病なんか使うんだよ」といったニュアンスの言葉が切なかったわあ。
私は常々、世界でもトップを争うようなレベルのアスリートを競走馬に例えて来ましたが、彼らのメンタリティは本当に凡人には想像できないのです。自分たちの競技においてただただプレイすることにロック・イン(射撃で焦点をぴったりと合わせて、微動だにしない様子)して、他が見えなくなる。それさえできれば何も要らない、というほど彼らにとっては息をするように自然で必要なことなのだと思います。
3)最後にラプターズのスローガン「We The North」について
私はカナダ人のナショナル・アイデンティティに関して論じ出したらキリがないんですが、このスローガンは素晴らしく的を得ています。
NBAのチームはかつてバンクーバーにももう一つ、ありましたが、現在はカナダに一つ、トロント・ラプターズだけです。後は全てがアメリカに拠点を置いているチームばっかり(まあMLB野球もそうですけど)。
ホッケーに関してはカナダが主要国ですが、バスケットとなると「僻地」だとか、「田舎」だとかさんざんバカにされて来ました。実はバスケットボールというのはカナダ人が発明した競技なんですが。。。
とにかく1995年にラプターズ設立されて以来、ヴィンス・カーターなど何人かのスター選手が所属しましたが、けっこうこのチームに来るのを嫌がってる風な選手もいて、なかなかファンは肩身の狭い思いをして来ているのです。
アメリカよりも税金が高いとか、いちいち遠征の度にパスポートが必要だったりして移動が面倒だとか、気候が悪いだとか(実際はミネソタやシカゴなど似たような、あるいはもっと寒い都市がアメリカにもあるんですが)、とにかくトロントは長い間、NBAでは真剣に相手にされていないという気持ちがファンだけではなく、トロントのメディア関係者の中でもありました。
そもそも、ラプターズっていう90年代に流行した「ジュラシック・パーク」からヒントを得たような恐竜のマスコットも悪い。
マスコットの色こそ赤だったけど、最初のユニフォームはドギツイ紫色だったから、同じころに流行ってた子ども番組の「BARNEY」という紫の恐竜キャラとよく比べられてすごく恥ずかしかったっけ。
そこで2014年に新たにイメージチェンジをしよう、ということになり、生まれたのがこの「We The North」というスローガンです。
これは訳するのがなかなか難しい。
The North は当然、地理的に北にある、という意味ですが、冬が長くて厳しい、寒い国というイメージと同時に、アメリカに対して北側に位置している、という意味も大いに込められています。
きらびやかな実績を持ち、強くて、モテて、皆から注目を受けてカッコいいお兄さん=アメリカ。
それに比べていつも大人しく、一歩後ろに下がって、お兄さんからお下がりをもらうことに甘んじている弟=カナダ。
というわけで
「俺たち、北の人間」
とでも言いたいところですが、あえてここは訳さなくても良いかと思います。
もともとアメリカに対して少なからずそのようなコンプレックスを抱いているカナダ人なので、それを逆手に取ってラプターズの新しいプロモーションに「北」をキーワードにしたのが大いにウケました。
PVではあえて寒い中、バスケットにいそしむ若者たちをフィーチャーし、厳しい環境の中で耐えているアンダードッグ的なアイデンティティを前面に押し出し、ラプターズのチームもファンも「いつか見てろよ」という雰囲気をまとったのでした。
なかなかカッコいいナレーションなのでちょっと聞き取って解説・翻訳して、この記事を締めくくりたいと思います。
We The North
俺たち、北の人間は
In many ways we're in a league of our own
色んな意味で、自分らだけのリーグにいるみたいだよな
(league of our own = は、別の次元にいる、という意味にも使われますが、この場合の「リーグ」は明らかにNBAリーグに引っかけています)
One step removed, just beyond the boundaries
一歩、後ろに下がって、境界線のちょい向こう側にいるっていう感じ
ここも「境界線」、はのけ者になったマージナルな存在であることを意味しつつも、「アメリカとの国境」を意識しています。
Some will say we're on the outside looking in
俺らが外から(羨ましそうに)中をのぞいてるって言う奴らもいるけど
But from our perspective, we're on the outside looking within
こっちから言わせてもらえば、俺らはちょっと距離を置いて(自分らの)内側を見てるんだよ
「Being on the outside looking in」はマッチ売りの少女のように、窓の外から家の中の暖かい、豊かな光景を、指をくわえて見ている、みたいなイメージで使われたりします。ここもカナダ人がアメリカ人に対して抱いている羨まし気な感情に言及していますね。
ああなんだか痛ましい。
でもそこから言葉の遊びで、「俺らが見ているのは(よその家の)中、じゃなくて、自分らの(心の)中だ」という風に持って行っています。
'
Cause that's where the effort resides
だって力が出て来るのはそこからだろ
Toughness is found, the agression is tapped
強さが潜んでたり、戦う気が湧いてきたりするのも
On the inside
全部、内側からだし
Far from the Eastside
東の端まで距離があって
Miles from the Westside
西の端まではもっと遠くて
Nowhere near the Southside
南の端なんか見えもしない
ここのくだりは、地理的なことをシンプルに言ってるのだと思います。トロントはカナダの東部に位置しているとは言っても、さらに大西洋に面した東海岸まではかなりの距離がある。バンクーバーなどのある、太平洋に面した西海岸まではさらに距離がある。それだけ広いカナダという国に位置しているのだ、ということ。そして南側はまた、明らかにアメリカを意識している。距離的にはさほど離れていないけれど、心理的には全く違う国だ、と言いたいのではないかと思います。
We, are the Northside
俺ら、北端なんだよ
A territory all of our own
(ここは)自分らだけのテリトリー
カナダという北の国にいて、自分らの縄張りに君臨する。
If that makes us outsiders
それでアウトサイダーってことになるなら
We're in
上等じゃないか
また言葉の遊びですね。Eastside, Westside, Southside, Northsideと並べておいて、「よそ者」を指す「アウトサイダー」を持って来る。そしてとどめに「We're in」を使って(直訳すれば「その意見に同意する」という意味ですが)要するに「俺たちはそれで構わないぜ」というのがオチになります。
よう考えてあるわ、これ。
ちなみにこのキャンペーンを打ち出したのはSID LEE という広告会社で、当然、ラプターズの快進撃に伴って、再びものすごく注目が集まっています。ホクホクでしょうね、彼らも。









