ニジンスキーの「動画」を創ったアーティスト:クリスティアン・コント | 覚え書きあれこれ

覚え書きあれこれ

記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

 

ほんの一週間の間に台風、そして地震が日本を襲い、本当に悲しい夏となりました。皆様のご無事を遠くカナダから祈っております。

 

なお、神戸の家族について多方面の方々からご心配頂きました。お陰様で無事にしております。暖かいメッセージをありがとうございました。

 

 

 

羽生選手の新しいFSプログラム「ORIGIN」がプルシェンコへのオマージュだということで、インスピレーションとなった「ニジンスキーに捧ぐ」のプログラムに対する、ひいてはニジンスキーという伝説のバレエダンサーに対する注目が高まった感があります。

 

多くの女の子がそうするように、私も小さい頃、バレエを習っていました。すごく好きで、12歳くらいまでは続けましたが、どう考えてもコンセルバトワールやらに入れる器ではなく、その内、学校が忙しくなって止めました。

 

これはもう半世紀ほど昔の話ですから、当時、私が家族と一緒に暮らしていたフランスではよりいっそう、アジア人の子が一人だけ、クラスに混じっているのは違和感があったのも事実。今でこそ日本人のバレエダンサーがコンクールで賞を獲って、世界中のバレエ団で活躍していますが。。。

 

まあそれはともかくとして、その頃、大事にしていた Odette Joyeux 著の"Le monde merveilleux de la danse" という一冊の本がありました。さきほど検索したらしっかりアマゾン(フランス)に出てて驚きました。

 

 

 

 

 

 

 

その中にあった一枚の写真が衝撃的に美しく、いつも眺めていたのを思い出します。(それも検索したら出て来る、というこの頃のネットの驚異的な便利さ)

 

 

 

 

「ジゼル」を踊るニジンスキーの写真でした。

 

 

 

↑ この写真の頭部だけを切り取っていたんでしょうね。

 

 

この写真を見つけるために色々な画像検索をしたところ、同じ演目の写真が見つかりましたが、本に載っていたものがダントツに綺麗だったことが判明して面白かったです。

 

 

 

 

 

とにかくニジンスキーというバレエダンサーについて知ったのはこの本がきっかけだったと思います。

 

彼について何が記載されていたかははっきり憶えていませんが、とにかくその頃すでに伝説の舞踊家であったということ、特に奇跡的とも言えるほどの跳躍力の持ち主であったこと、波乱万丈・悲劇的な人生を送り、後半は狂気にさいなまれて決して踊ることがなかった、などの点が印象に残りました。同じページに載っていた晩年の彼の写真は、同一人物とは思えないほどの荒廃ぶりで、それにも衝撃を受けたのを記憶しています。

 

今、考えてみればニジンスキーが亡くなったのは1950年で、この本が出版されたのが1967年ですから、著者にとって彼はさほど遠い過去の存在ではなかったのでしょうね。(ちなみにオデット・ジョワイユ―は自身もパリのオペラ座バレエ学校出身で、その後、女優に転向して活躍し、また執筆家としても数々の著書を出版しています)

 

まあ、そんなことを懐かしく思い出したついでに、改めて色々とニジンスキーについて調べました。その過程でちょっと面白いネタに到達したのでおすそ分けします。

 

 

ニジンスキーが全盛期(1909‐1919年)に所属していた「Ballets Russes (バレエ・リュス)」の団長、セルジュ・ディアギレフが当時の技術では正確な記録が残せないから、と撮影を禁止したことから、この類まれなるダンサーの踊っている映像が残念ながら全く残っていない、というのは有名な話です。

 

ところが、何やら不思議な動画が出回っているのに気づきました。非常にリアリスティックで、どう見てもニジンスキーが動いているとしか見えないのです。

 

「Nijinsky 1912 "L'apres-midi d'un faune"」(ニジンスキー 1912年「牧神の午後」)と題された動画です。色々なバージョンがありますが、最新と思われるものをここに貼り付けておきます:

 

 

 

 
 

これは一体どうしたことか?

 

実はこれは精巧なアニメーションであり、創ったのはフランス人の彫刻家・アニメーション作家のクリスティアン・コントであるということが分かりました。

 

ニジンスキーが「牧神の午後」を振り付けていた1912年当時、著名な写真家アドルフ・ド・メイヤー(Adolph de Meyer)に依頼して撮影させた32枚の写真が元になっているそうです。

 

コント氏はお祖父さんがLouis Maistre という有名な画家で、お父さんも画家だったという芸術家の家系。自身は彫刻家の道を進んで、学校も立ち上げて子供たちに教えていたところ、アニメーション作家のジャン・サントゥ―氏と出会い、新しいメディアに興味を持ち始めたと語っています。

 

ある日、ニジンスキーの32枚の写真と遭遇し、それらを使って「牧神の午後」のバレエを再構築することを思いつきます。ニジンスキーがプログラム全体を通して幾つもの場面をメイヤーに撮影させていることから、何らかの形でこのバレエの痕跡を後世のためにちゃんと残しておきたい、という彼の意思をコントは読み取ったそうです。

 

そしてその後、同じような手法を使ってニジンスキーの他の演目にも、ほんの短い場面だけではありますが、命を吹き込んだそうです。

 

こちらがその全貌:

 

 

 

 

そのプロセスを説明しているコント氏の動画がこちら(12:40 辺りから。  コント氏のHPに掲載されています)

 

 

 


 

ニジンスキー・シリーズの動画の他にも様々な絵画や写真を元に独特な雰囲気のアニメーション・フィルムを多数、掲載しているのでぜひ、コントさんのYou Tube チャンネルを覗いてみてください。

 

https://www.youtube.com/user/christiancomte

 

 

以上、私のニジンスキー・ネタでした。

 

 

 

さあ、来週はトロント国際映画祭でしばし、忙しくなります。

 

今年の通訳の担当は塚本晋也監督の「斬、」濱口竜介監督の「寝ても覚めても」です。

 

またこちらもレポートします!