1月に開催されたカナダ選手権ではメディアセンターの仕事を手伝っていたために、大会のほとんどを観客席ではなく、リンク裏で過ごしました。
演技が終わり、キスクラから引き上げて来る選手たちはそこかしこに設置されているモニターを凝視して、映し出された自分のスコアの内訳や、次の選手たちの滑りを追っていました。
順位が決まった時に喜びを爆発させる人、うなだれて涙ぐむ人、安堵のため息をつく人、沈痛な面持ちでコーチの慰めの言葉を聞く人。
競技スポーツって、そういう風に笑顔と涙がいつも背中合わせになっているんだなあ
(↑ 予告した「テーマA」)
と考えさせられる光景ばかりでした。
それでも皆、準備して、戦って、そして結果を受け入れる。
カナダの場合、世界選手権に派遣されるメンバーはナショナルズの順位に準じて、というルールでした。
(訂正: ↑ ここは私の勉強不足で、さきほど別の基準もあるのだと気が付きましたので慌てて追記しています。スケートカナダのselection criteria という文書にはカナダ選手権だけではなく、2016年の四大陸やシーズン前半のGPS大会、前年度のワールドでの成績も考慮する、とありました。しかしながら、ナショナルズ後にワールド代表が発表されていることもあり、これまでの慣習としてはナショナルズが一番大きな選考基準であると考えられていることは間違いないと思います。)
終わってみると男子の場合、優勝はパトリック・チャン、2位にリアム・フィルス、そして3位にケヴィン・レイノルズ。昨年の覇者、ナム・ニューエンは予想外の4位。
ところが今日の午後、スケートカナダから正式なアナウンスメントでフィルス選手が「棄権した」と発表されました。その結果、彼のワールド出場枠はナム・ニューエン選手に与えられた、と。
(↑ 「辞退した」って言った方が良さそうですね?他の方々の訳を読んでて反省)
抜粋しますと:
In the men’s category Liam Firus, 23, North Vancouver, B.C., has withdrawn. “Making this decision was extremely difficult. However, I feel that withdrawing from the World Championships is vital for our team,” said Firus.
Nam Nguyen, 17, Toronto, Ont., will replace Firus on the Canadian Team. “My teammates Patrick Chan and Nam Nguyen are among the top men in the world. I have full faith in their abilities. This decision is about performance and giving our country the best opportunity to obtain three spots for the World Championships next year,” explained Firus. “I am extremely proud of the strides I’ve made this year; skating truly is a passion of mine. I look forward to coming back even stronger next season to help Canada obtain the three spots needed for the 2018 Olympic Winter Games.”
フィルス選手のコメントを要約すると、この決断に至るのは非常に辛かったけれど、チームのためには必要だった、と言っています。
(赤字は私が付けたものです)
また、
「パトリック・チャンとナム・ニューエンは世界でもトップの男子選手、ぼくは彼らの実力を全面的に信じている。「パフォーマンス(=成績、あるいは選手が試合でいかに力を発揮できるか)、そしてカナダが来年の世界選手権で3枠を確保する可能性を最大限に引き上げるにはどうしたら良いのか、問題はそこだから。」
と続けて、今シーズンの自分の成果には誇りを持っていて、来年(の世界選手権で)は2018年のオリンピックでカナダが3枠を取れるよう、貢献したい、と締めくくっています。
これを聞いたベヴァリー・スミスさんのツイート:
彼女の言うところの"Took one for the team, for sure" とは、自分の所属する団体やチームのために犠牲になる、ひと肌脱ぐ、とかいう意味です。
(スミスさんはこの他にも何故、フィルス選手の枠がケヴィン・レイノルズ選手ではなくて、ナム君に譲られたのかについて解説しています。要はケヴィンの場合、必要条件となる国際試合でのミニマム・スコアがSPでとれていなかった、ということです。)
すると、フィルス選手のツイッターにはこんなものも:
「ボストンでチームメイトたちが一発ぶちかまして来てくれるのを期待してる!」と健気に応援をしたあと、ハッシュタグに「#ifeellikeGilmoreJunio」と書いています。
これはソチ・オリンピックのスピードスケートの競技中に起こったことに言及しているのですね。
カナダのエース、Denny Morrison はオリンピック選考会となるカナダ選手権で、得意種目の1000メートルの出場資格をレース中のまさかのミスで得ることができませんでした。
ところがオリンピック本番ではその1000メートルに出場するはずだったチームメイトの Gilmore Junio が自分の枠をモリソンに譲ったのです。
ジュニオ選手は500メートル種目にも出ていたのですが、その結果があまり芳しくなく、その成績を鑑みて1000メートルのレースではモリソン選手の方が勝ち目がある、と判断したと言います。
そしてそのおかげでモリソン選手は見事、1000メートルで銀メダルを獲得し、カナダにとってはこれがソチ・オリンピックの屈指の美談となったというわけです。
この時のジュニオ選手のコメントが("Why I gave up my spot at the Olympics" という記事にて)、フィルス選手の言っていることに酷似しています。(というか、フィルス選手が引用した、のかも知れません):
“The decision to give Denny [Morrison] my spot was purely about performance. We wanted what was best for the team, what gave us the best chance to win."
「デニーにぼくの枠を譲ったのは純粋にパフォーマンスのことを考えて、だね。チームにとって何がベストなのか、いちばん勝てる可能性をもたらしてくれるのは何なのか、それがぼくたちの求めていることだったから。」
ね?そっくりでしょう?
今回も同じような美談となるのか、はナム君のワールドでの演技に掛かってくるわけですが、フィルス君のファンの方々の辛さはさることながら、ナム君のファンであっても、すごく切ないような、やきもきするような、複雑な心境ではないかとお察しします。
もちろん、ナム君を応援している身としては、出られないと思っていたワールドに出てくれて嬉しい。狂喜乱舞してしまいたくなるでしょう。
でもふと冷静に考えたら、このような展開となるとナム君にかかるプレッシャーは計り知れない。彼がチームメイトの想いを背負ってどう戦ってくれるのか、見守っているだけでも大変だと思います。
ビビりの私だったら、それこそいても立ってもいられないだろうなあ。
(いや、私だってナム君は応援していますけどね)
。。。。
などと考えている内に、ふと自分がなぜ、羽生選手のファンなのかに改めて気づきました。
それは彼が「クラッチ・パフォーマー(Clutch Performer)」だからなのです。
ここからようやく「予告テーマB」に移行するつもりなんですが、ちょっと力尽きました。
続きはまた明日。。。
(すみませんがコメントもそれまでお待ちいただけると嬉しいです。)