2013年の秋にグランプリ・シリーズのスケートカナダ大会(ニューブランズウィック州セントジョン市開催)で、初めてボランティアを経験して以来、すっかりスケートカナダ(連盟)の主旨に賛同してしまった私ですが、昨年のスケートカナダ大会(こちらはブリティッシュコロンビア州ケロウナ市でありましたね)に続いて今週、ハミルトン市にて開催されるシンクロナイズド・スケーティングの世界選手権のお手伝いをすることにしました。
ハミルトン市は私の住んでいる所から電車でも行けるほどの距離なのでシンクロナイズド・スケーティングに関してはあまり知識がありませんが、面白そうなので名乗りを上げました。
今夜、ボランティアたちのオリエンテーションがありますので行って来ます。またその模様もお伝えしたいと思います。
さて、ナム・ニューエン選手に関する記事に、たくさんのコメントやメッセージを寄せていただき、ありがとうございました。
ナム君の今シーズンの台頭にからめて、要するに私の言いたいのはクリケット・クラブが単なる「良いコーチ、良い選手たちの集まる練習環境」なのではない、ということです。
それだけなら他にもありそうだし、実際にアメリカやロシアや日本でも思い当ります。
ではそれらに比べて、クリケット・クラブがなぜ現在、隆盛を誇っているのか?
(もちろん、全ては私の個人的な考察ですが)すでに述べたとおり、ピーキングの管理を徹底し、成功していること。選手の個性や強みを把握して、伸ばすのが上手いこと。
しかしこの他にクリケット・クラブに所属し、しかもブライアンの門下生である選手が得られる利点の中で最大のものは、もちろん、ブライアン自身でしょう。
私が最初に(コーチとしての)ブライアンの存在感・影響力を目の当たりにしたのは2年前のスケートカナダ大会にて、でした。
当然、彼の国であるカナダで開催されているから、ということもあったでしょうが、会場にブライアンが現われると、皆が注目する。各国の連盟関係者、コーチ、そしてメディアが彼に挨拶する。
記者会見場でもコーチでインタビューされるのはブライアンだけ。一目置かれているのは明らかでした。
スケーターたちにとって、戦いは試合当日だけではなく、すでに公式練習の時から始まっている、とよく言われますが、私は実はそれよりももっと前から始まっているのではないかと思います。
シーズン開幕前から、シーズンを通して、コーチの間での、ジャッジの間での、そしてマスコミを通しても、あらゆる選手たちの評判がささやかれる。
そんな中、ブライアンの様に理路整然と、淡々と、しかしにこやかに自分の援護射撃をしてくれる味方がいればどれだけ心強いでしょうか。
このブログでも何度か触れたことがありますが、2013年のスケートカナダ大会でパトリック・チャン選手がすでに順調な滑り出しを見せて優勝し、羽生選手が少々悔しいSPの結果を経て二位につけたこともあって、誰もがこの時点ではまだソチ・オリンピックに向けてチャン選手の絶対的有利を疑っていませんでした。
そこでブライアンはごく冷静に、まだシーズンは始まったばかりだ、ユヅルはこれからどんどん進化する、年末までにもその様子は見られるから皆、短気を起こさずに見守ってほしい、といったようなことを言いました。(確かこのインタビューの内容は海老名記者の記事に反映されていたと記憶しています。)
そして何よりも私がショックを受けたのは、彼が日本の記者のインタビューに答えながら
Patrick is beatable
と明言したことでした。
パトリックは無敵じゃないよ、勝算はあるよ
私は正直、これを聞いた時は「よくこんなことを真顔で言うなあ」と半ば呆れたのですが、今から思えばブライアンは日本のメディアに対するリップサービスとしてではなく、本気でそう思って言ったことだったのだと分かります。
それにしても見事な、効果的な発言でした。
この時のブライアンのコメントがパトリックに回りまわって伝わったかどうかは分りませんが、少なくともその後、羽生選手が徐々に調子を出して追い上げて行く様子と相まって、ブライアンという後ろ盾がついていることでパトリックの危機感が増したであろうことはじゅうぶん、考えられます。
少し話は飛躍しますが、
スポーツとしてはカナダで最も人気の高いプロホッケーの世界において、チームのコーチやGMが選手にかかるプレッシャーを拡散させるため、自らがメディアの矢面に立つことが多々、あります。
特にチームの調子が悪い時、あるいは選手がマスコミの追跡に辟易としている時、代わりに記者会見を開いたり、インタビューに答えたりする。その場でちょっと話題を提供して自分に注目を集める。
全ては作戦です。
私はブライアンを見ていて、彼もそういうことをしてるのではないかと感じる時があります。シーズン開幕時、ベヴァリー・スミスさんの記事(「オータム・クラシックで故郷に戻ったオーサー」)を通して羽生選手のショートとフリーのプログラムがいかに素晴らしい出来であるのかを語り、フィンランディア杯を棄権したことについての懸念を和らげる。世界選手権前にもそれまで途絶えがちだった羽生選手に関する情報を、さりげなく流す。深読みかも知れませんが、ブライアンがこれらを意図してやっているような気がするのです。
熾烈な頂点合戦では、どんなアドバンテージでも取りこぼしてはいけない。選手だけではなく、コーチたち同士も参戦する中、ブライアンは頼もしいパートナーであるに違いありません。
。。。とここまで書いて時間切れです。これから夕飯の用意をしてオリエンテーションに出かけなければなりません。
すでに予告しておいたクリケット・クラブでの「シミュレーション」の話題や、トレイシー・ウィルソンの役割などについても言いたいことはあるのですが、また次に持ち越します。
しばしのお待ちを。