GPFに向けて英語ネタ②:ブライアン・オーサー自身の言葉で聞きたい | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...



この記事ではブライアン・オーサーを取り上げたいと思います。

きっかけは(一つ前の記事と同じく)NHK杯の後の記者会見やインタビューで彼が発したらしい言葉が報道されたことでした。

引用しますと:

サンケイスポーツ

 --ソチ五輪優勝後の羽生について

 「(フリーでミスが相次ぎ)大喜びはしていなかったので、『誇りに思っていい。金メダルは誰にも奪われるものではない』と激励した」



News Lounge

「(羽生)本人はあまり大喜びをしていなかったですけど『本当に誇りに思っていいんだよ、誰にも奪われることはないんだから』と話しました」


ここでオーサーが言ったとされる

「(金メダルは)誰にも奪われるものではない」


の元となった彼の英語での発言は

(サンスポ版)
I told him "You should be really proud, nobody can take that medal away  from you"

あるいは

(ニュースラウンジ版)
I told him "You should be really proud. Nobody can take that away from you"

だったのかな、と思います。

北米ではこの言い回しはよく使われるのですが、

誰かから何かをtake awayする

とはもちろんその何かを奪い取ってしまう、という意味もありますが、もう少し突っ込んで解釈すると、それによって

その何かに「ケチをつける」
ひいてはその人自身を「卑しめる」

といったような意味合いがあります。

とするとブライアンの言葉には具体的に金メダルを取り上げられる(奪われる)という意味もあるけれど

金メダルを獲ったことは間違いなく偉業であり、(君を含めて)誰もそれにケチをつけることなんて出来ないんだよ。だからもっと誇りに思いなさい


という意味も込められている気がします。


まああくまで推量するしかありませんが、訳された言葉を読むと時々、「元の言語では実際、何て言ったんだろう?」と思う事があります。

(なので私はCBCの解説などを翻訳する時、必ず聞き取った英語文も掲載するようにしています。皆さんがそれぞれ、ご自分でも解釈できるように)


そこでやっと本題ですが、日本ではすでに発売された『チームブライアン』、私は残念ながらまだその著書を手に入れて読んでいないのですが、この本のベースとなったブライアンのインタビューを彼自身の生の声で聞いてみたいと思いませんか?

サービスとして一緒にDVDかなんかで付録につけてくれたら良いのに、と心底思います。

しかし実はそれに近いものがネットでは存在するのです。

今年の8月には早々とアップされてたらしく、私が今まで知らなかっただけで、他の方のブログではすでに紹介・翻訳などもされているのかも知れないのですが、どうして見落としていたのかと思うほどの優れものです。



http://www.manleywoman.com/episode-79-brian-orser/


皆さんはご存知でしたか?

1時間6分にも及ぶ長いインタビューで、まさに「チームブライアン」に掲載されているようなトピックが事細かく取り扱われています。

ブライアン自身、最後の方で

「今度、日本で本を出すことになっているから、あと一週間したら、取材されることになってて、これと同じ話を繰り返す羽目になるんだけどね」


と言ってるので、このインタビューの方が先だったということになります。

しかもご丁寧にTRANSCRIPT(聞き取り文)まで載っているので皆様、どうぞお楽しみください。


私が一番、心打たれたところはブライアンがキムヨナ選手と仲たがいしたことによって、その後の彼のコーチ哲学が大きく変わってしまった、という点でした。これも当然、著書の中で重要な章をしめているトピックですね?

なお、実際にポッドキャストを聞いてみると、掲載されている聞き取りは100%、ブライアンの言葉に忠実ではなく、そこかしこに省略があることが分かりました。なので以下は私が再度、聞き取ったものです。ご参考までに。

51分20秒辺りから

(キム選手との師弟関係を解消したのは)

It’s still one of the most heartbreaking things for me, and I still don’t understand what happened, or why it happened. I really don’t.
未だにぼくにとっては一番、胸が潰れるような思いをした出来事の一つだね。しかも未だに何が起こったのかも分からないし、どうして起こったのかもわからない。これは本当。


I know that they got some wrong information, I’m just sort of guessing what happened. I have a few ideas, but anyway, it’s sort of between me and me.
何か間違った情報が(キムヨナ側に)流れた、それは知ってる。推測するしかないけど、まあ幾つか考えられることはある。でもそれは僕と僕との間での話(=心の中にしまっておく)ってことで。


It’s too bad because we did have a great relationship, and I always thought "Wouldn’t it be great if I could be part of her life forever? And  I would have this really positive impact on her life?" I’d be going to her wedding one day, and just be connected, forever, you know? And the Olympics can do that.
残念だよ、僕らは本当に素晴らしい関係を築いていたから。僕はいっつも「このままずっと彼女の人生の一部になれたらどれだけ良いだろう?そして僕は将来、彼女の人生にすごくポジティブな影響を与えることになって…」とか考えてて、それでいつかは彼女の結婚式に行って、ずっとずっとお互い、繋がっていられたら...って。オリンピックを一緒に潜り抜けるとそういう事(ずっと関係が密なまま続く)ってあるでしょ。

And suddenly it was just all pulled away.

で、突然、全部、取り上げられてしまったんだよね。


And... I think that’s exactly what it was, I don’t think that other people wanted to see that happen and it just got yanked away from me.
もう、ぼくはまさにそういう事だったんだと思ってるんだけど、他の人達がそう(ブライアンがヨナの人生の中であまりにも大きな部分を占めることに)なるのを嫌ったんだろうね。で、僕から無理やり取り上げてしまった。



And the same thing happened with Adam (Rippon), and it was hard for me to trust anybody, in this sport. And I couldn’t get emotionally involved.  And that’s the thing I find now, as much as I love these skaters I’m working with, I cannot let myself get emotionally involved. I can’t. Perhaps it was ruined by people like Yuna  and Adam, you know. Anyway, it is what it is. I’m learning.
同じことがアダム(リッポン)に関しても起こって、それから僕はこのスポーツにおいて誰も信用できなくなった。だからぼくは今もそうなんだけど、教えてる選手たちは皆すごく可愛いけど、もう感情移入したらいけないと自分に言い聞かせてる。しちゃだめなんだ。ヨナやアダムみたいな人たちによってこういった残念な結果になってしまったのかも知れないけど、ね。まあいずれにしてもしかたない、学習したよ。


ここでインタビューをしているマンレーさんが、ブライアン・オーサーや、ライバルだったブライアン・ボイタノは二人とも、ずっと一人のコーチに付いていたことを指摘し、だからオーサーはキムヨナ選手とも同じようなコーチと教え子の関係を保てると思ったのではないかと聞く。

Yeah, I learned a lot. I’ll take it one season at a time, you know, and I  don’t have contracts with my skaters, so it’s on a handshake, and maybe  I need to revisit that idea, but I don’t feel that it’s necessary.
まあね、とにかく色々学習したよ。ひとシーズンずつ、それ以上は先を見ない。僕は教え子たちとは(正式な)契約を結んでないし、全ては握手一つ(=口約束)だから。もしかしたらそういうところも検討し直した方が良いのかも知れないけど、ぼく自身は(契約に関する考え方を見直す)必要ないと思ってる。



これを聞くとブライアンが本格的にコーチした最初の弟子であったキムヨナ選手との経験によって、(その後、アダム・リッポン選手とも似たようなことがあったようですが)いくら目をかけている選手であっても決して感情移入をしないように心掛けていることが分かりますね。

一人一人の選手の人格を尊重して、自分のやり方を押し付けるのではなく...といった彼のコーチング哲学は今では有名になっていますが、一定の距離を置いて付き合うのはブライアン自身が自分の身を守るために取っている姿勢でもあると明言しています。

契約に関する発言もちょっと驚きます。正式な取り決めではなく、暗黙の了解しかない。お互い、続けたいと思っている限りは続けるけど、合わないとなったら後腐れなく、さようなら、と別れられるように。

そう考えると前述のブック・アサヒ・ドットコムの記事に:

著書の目玉はオーサー氏と羽生選手がソチ五輪を振り返る長い対談。五輪後半年経ちカナダで対談したのが、2人でソチを振り返る初めての機会になった。「そのとき初めて結弦の解釈も聞き、わたしにとってもセラピーのような時間でした」と言う。

と書かれていたことにも納得が行きます。

この対談が実施されるまで、ブライアンはあえて羽生選手に、自分がソチでかけた言葉の効果や影響を確かめることをしなかった。契約がないのと同じで、お互い、言いたい事があれば言いたい時に伝えるのが決まりだから、詮索はしない。

でも羽生選手の解釈を聞き(これも私は実際に読んでいないので又聞きになりますが)、ブライアンは自分が教え子に与えているポジティブな影響や、いかに信頼されているかということを改めて言葉にしてもらって、セラピーになった、と言ってるのかと思いました。

ちょっと親が第三者のいる場で、我が子に嬉しい言葉を聞かせてもらった心境に似てるのかも知れませんが、それよりもさらに深い部分で、ブライアンは過去の教え子によって負った傷を今の教え子によって癒されたのではないでしょうか。


どことなく今シーズンの二人の様子が、中国杯の危機が起こった時なども含めて、よりいっそう密になったように感じるのですが、考えすぎ?



羽生選手、ブライアンの腕にずっと手置いてるし。



ブライアンは現在、ナム君の出場しているスケート・カナダ・チャレンジ(ケベック州でのカナダ選手権予選会)に行ってることでしょう。

その後はバルセロナGPFでハビとゆづのお世話、本当に忙しい日々です。

ブライアンも頑張れ。