もう一人いました!:「戦闘型スケーター」 | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

幾つかの国際試合がすでに開催され、いよいよフィギュア・スケートの新シーズンの到来を感じる季節となりました。

羽生結弦選手の新しいプログラムがどんなものになるのか、皆楽しみにしていることと思いますが、私は実はちょっと変わった観点から彼の「ファントム」にとても興味を持っています。

去る八月のトロントでの日本のマスコミの取材時に、クリケット・クラブでの練習を公開し、その際にファントムのプログラムが披露されたのは動画で知っています。

あの動画の中で見た羽生選手の動きは、なんとなく、ですが、これまでの2シーズンのフリーとは違ったように見えました。

なんというか、「キレ」というのか、「キメ」というのか、ひとつひとつの動きにアクセントがついている気がしたのです。

皆さんはどうでしたか?

そこで、全く勝手な憶測ですが、これには振付師の影響が大きいのではないかと感じました。

どこだったかの記事で、羽生選手は視覚的な学習者であるということが言われていたと思います。

いや、そういう言葉で実際、書かれていたかは別として、とにかく人の動きを見て学べる選手である、ということを読んだ記憶があるのです。

とすると、昨シーズンまでのフリー・プログラムの振付師、デイビッド・ウィルソンから今年、シェイリーン・ボーンに替わったことはものすごく大きかったのではないかと思います。

皆さんもご存知の通り、シェイリーン・ボーンは現在もアイスショーで活躍しているスケーターです。彼女の滑りは未だに力強く、ダイナミックで、魅せるのに十分。

それが結弦くんと一緒にリンクを舞い、プログラムを創作したのだとしたら、どんなにすばらしい光景だっただろうかと想像してしまいます。


シェイリーンの滑りを見て、並んで、あるいはその後を滑りながら振り付けを覚えるのは、単に口頭で、あるいは身振り手振りでリンクサイドから指示を受けるのに比べると、かなり違ったプロセスになったのではないでしょうか。


そこで久しぶりにシェイリーンの現役時代に思いを馳せてみたのですが、もう一つ、気が付いたことがありました。

それは、彼女も選手時代は(私が羽生選手をそう形容しているように)「戦闘型スケーター」であったということです。

シェイリーンはパートナーのビクター・クラーツより5才年下でしたが、いつも彼女が「大将」みたいな雰囲気を醸し出していました。クラーツ君がちょっと優しげな風貌であったのも影響してたかも知れません。


(どーですか、この目線。滅多な事は言えない、って感じ?)



初めてのオリンピックは18歳の時、1994年のリリハンメルで10位。同年の世界選手権ではいきなり6位に浮上し、そこからは常にロシアをはじめとするヨーロッパ勢に占められていたアイスダンスの上位に食い込んでいきます。

私はシェイリーン・ボーン&ビクター・クラーツ組の活躍を当時はリアルタイムで追う幸運に恵まれましたが、スケートに全く興味を持たない主人でさえも、シェイリーンが画面に映るたびに

「このコ、すんごい迫力」

と言ってました。

自信満々できりっとした目元、そして何よりも口角がいつもギュッと上がっているのが彼女のトレードマークでした。




さて、私がボーン&クラーツ組で最も印象に残っているのは1997-1998年のシーズンのフリー「リバーダンス」です。





金髪の二人に衣装の緑(アイルランドの国の色)が眩しいほど映え、本当に大好きなプログラムとなりました。


長野オリンピックに出場した彼らは誰よりも難しいステップを踏み、誰よりも生き生きと踊っていたように思います。

当然、地元のよしみという先入観やバイアスがかかっているのは承知していますが、当時のテレビ解説者の間でも、マスコミの中でも、どうあがいてもカナダのチームがロシアやフランスのチームに勝てると言う気配がなく、なんだかとっても不条理なことのように言われていました。

だからこそ、私は彼らのプログラムが始まると正座してテレビの前で見守り、滑り出したシェイリーンの後姿が何やら「勝てない戦に決死の覚悟で出かける戦士」のように凛々しく、そして決意に満ちたように見えました。


結果は残念ながら4位でしたが、なぜか、その時のことをはっきり、くっきりと憶えています。

そこでちょっと面白がって、その長野の動画を探して見たらちゃんとありました。




そして演技開始直前のシェイリーンのクロースアップの表情をよく見ると、


彼女のいつもの余裕の笑み




そしてそこから目を閉じて





音楽の最初の音と共に、下唇を噛んで、カッと目を見開く。




そして終わるとこのドヤ顔(この画像は翌月の世界選手権から)。




ああ、この勇ましさ。思い出しても背筋がゾワッとします。



すっかり話は逸れましたが、とにかくシェイリーンが羽生選手の振り付けを担当したと聞いて、なんだかワクワクしました。

もちろん、実際プログラムを見てみないと分かりませんが、これは今後、ものすごく良いコンビになるような気がしています。


これまでにもシェイリーンは高橋大輔選手やケヴィン・レイノルズ選手のプログラムを創り、とても良い作品が出来上がっています。


しかし戦士の魂を持った彼女が、同じような闘魂を秘めた選手に出くわした時、どのような火花が散るのか、どんなプログラムが生れるのか、この目で見るのが楽しみでなりません。



もうすぐですね。