「雑感」:思い出のCBC解説2012年Skate America FS | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

一つ前の記事:

Not his day: 思い出のCBC解説2012年Skate America FS

についての私の雑感を述べます。(いつものように続けて書くとあまりにも長くなりそうだったので、別の記事にしました。)

まず、私が憶えている限りでのこの時期の自分の心情ですが、2012年のニースの世界選手権が終わって間もなく、羽生選手がトロントに練習拠点を移すと聞いてかなり興奮していました。

なんとなく、彼は国内にとどまらないだろう、と思っていたのと、クリケット・クラブが素晴らしい環境であるということを考え合わせるとごく順当な選択だな、という感想でした。

とはいえ、お母さんと二人で知らない土地に移り住んで、色々と苦労があるだろうな、とも思っていました。

メディアで伝えられていることには、「地下鉄とバスを駆使して練習場まで通っている」

これはカナダでは考えられない。ほぼ100%のスケーターは親の送迎か自分で車を運転してリンクまで通っているからです。夏の間は良いけど、これが極寒の冬になったらどうするんだろう、などなど、勝手に心配していました。

まあそれでも何とか夏のアイスショーも終えて、練習も順調に行き、いよいよ新シーズン。出だしのフィンランディア杯では優勝をおさめ、良いスタートを切って迎えたスケートアメリカ。

のっけから波乱はありました。

色々なニュースやファンのブログから得た情報によると、大事な試合だと言うのに乗るはずの飛行機に乗れず、一日遅れて現地に到着したと聞いた時、自分のことではないのに非常に動揺しました。

何故ならトロントの空港からアメリカに行く場合、入国審査も通関も全てカナダ側で済ませるようになっているので、想像以上に出国に時間がかかるのを知っているからです。

ということはおそらく結弦くんとお母さんはそれで手間取って、あるいは他の人が手間取っていることで長蛇の列ができ、飛行機に間に合わなかったのではないか、と。

なのにそんな心配をよそにいきなりショートで世界新記録。これにはびっくりしました。

そしてフリーのどんでん返し。

私がこの時、リアルタイムで書いた記事が二つあります:
「アスリートの親(その1)」
これはアスリートの子どもを試合で見守る親の気持ちに寄り添って書いたもの

そして
「精密な機械を支えるアスリートの食生活~ハリー・ポッターからヒントを得る」
こちらは食生活に関しての私の持論でした。

北米では大都市でも、こと食材や惣菜に関しては日本の都市のように色々なものがすぐに手に入る便利な店がたくさんありません。

ましてやホッケー選手やスケート選手がリンクで練習中に口にできるのは、たいがいファーストフードのピザ、ホットドッグ、フライドポテト、そしてそれを流し込むのが毒々しい色のスポーツドリンクです。

そんな状況下で、遠征先で羽生選手がもしもちゃんとした食事が出来なかったとしたら…

飛行機に乗り遅れたために急いで駆け付けた大会会場、最初の練習日と次の日のショートはなんとかその興奮状態で出たアドレナリンで乗り切った。あるいは余計な事を考える暇がなかった分、勢いで滑ったのが良かったのかも知れない。

でももともと食が細く、「備蓄」がない彼はとてつもなく「ハイ」な状態から、今度はドーンと「落ちる」ことも考えられる。

記事の中で私が「血糖値」について触れているのは唐突に思われるかも知れませんが、アスリートが血中成分の変化によって、メンタル面で受ける影響は実はものすごく大きいのです。

結弦君の場合はもちろん、ショートの高得点によってのしかかったプレッシャーも大きかったでしょうが、もしかしたら体調から来るものもあったのではないかな、と私は考えたわけです。



さて、CBCのフリーの解説に関して、ですが、私は今回のこの聞き取り記事を書くまで改めて観たことがありませんでした。

実に二年近くぶりに、何度も繰り返して見るのは正直、ちょっと辛かったですが、なんとか記事を仕上げました。

前の記事の冒頭でも書いたように、カートさんからは明らかに

「さあ、どんなものを見せてくれるんだろう」

といったワクワク感が伝わってきます。

そして10点ものクッション(点差の余裕)があるのだから、多少のエラーはカバーできる、という出だし。

ところが最初の四回転での転倒でカートさんの声に動揺が走り、そこからは焦りというか苛立ちさえ聞こえてきます。

興味深いのはカートさんの結弦君の「リカバリー」力についての洞察です。私はこれを当時、聞いた時に、結弦くんにとってものすごく参考になる指摘ではないかと思ったのですが、残念ながら伝える術を持ちませんでした。

また、このシーズンを通して、カートさんはこの「ノートルダム」の音楽のチョイスについて何度か疑問を呈していますが、すでにこの大会で「盛り上がりがない」といったニュアンスのことを言っていました。

演技が終わると、「これはどうなるんだろう?」と試合結果の行方を案じながら、なんとか結弦くんのために言い訳を探し、落胆する姿を見て「でもこの子の才能は計り知れないよ」と言います。

極めつけはキス&クライで青ざめた顔でスコアを待つ結弦くんが大写しになると

「この気持ち、すごく分かる。超・嫌な気持ちなんだ。」


直訳では「ぼくも大っ嫌い」=(I) HATE THIS FEELING

カートさんも現役時代は絶好調で挑んだ大会で信じられないような失敗をおかしてキスクラに座った経験があるのでしょう。まさに感情移入の極みです。

なお、このキスクラの場面を見ていて、今さらながら私が胸が詰まったのは、結弦くんが泣き笑いのような顔をしながら呆然とスコアを見て

「負けちゃったあ…」

と唇が動いたところです。

なんと残酷な。



しかしこのシーズンはまだまだ続きます。