『あるいは、ユートピア』(2024)
監督・脚本 金允洙=キム・ユンス(『白T』他)
音楽 竹久圏(たけひさけん)
藤原季節、渋川清彦、吉岡睦雄、原日出子、渡辺真起子、篠井英介(ささいえいすけ)、麿赤兒、吉原光夫、大場みなみ、杉田雷麟(すぎたらいる)、松浦りょう、愛鈴、金井勇太、他。
宿泊先のホテルで、ある朝異様な物音に気づいた小説家の牧雄一郎(藤原季節)は窓の外に巨大な謎の生物が蠢く光景に驚く。廊下へ出てみれば自衛隊の避難誘導に従い急ぐ宿泊客の群れ。しかし牧は後へ続くことをしない。他にも牧と同じく避難しなかった者たちがいた。
妻と子供とで宿泊していたが置いて行かれた松岡徹(渋川清彦)。自殺志願者で集まっていた介護に疲れ切った末永明穂(原日出子)と女装癖があり家庭が居にくい場所となってしまった㓛刀啓介(吉岡睦雄)。賞味期限が切れた女優の大西美和子(渡辺真起子)と、そのマネージャーの瀬戸一花(大場みなみ)。不倫関係にある三好善司(金井勇太)と柳紀子(松浦りょう)。摂食障害を持ちながらも自己表現の夢を諦め切れない宮田朝日(愛鈴)。ハラスメントを受け続けていた自衛隊員の山本宗介(杉田雷麟)。そしてこのホテルの支配人の鶴見晃(篠井英介)とオーナーの平山健(麿赤児)、の、牧を入れれば12人。
みんなそれぞれに理由を持って残った者たちで、さっそくトラブルが起こるが、牧が機転を効かせ「非暴力・不干渉・相互扶助」の三つのルールを提案してみんながそれに従う。しかし、結局2年という長いホテル生活には大小多々問題も起こり、二人が命を落とす。そして牧の嘘も明るみに…。
ネタバレだけども、ホテルに残った理由は様々でも、みんな何某かの問題を抱えていたわけで、半ば命などと自暴自棄になっている節もある。だからラスト、案外居心地が良くなったホテル生活を閉じることになった時、初めて自ら各々が生きる意味、生きる希望を実感したのだろう。目の前の救助隊によってその道が閉ざされようとしていることに抗い、絶望したのか自死を選ぶ者もいた。そこは彼らにとってのユートピアだったわけだ。
舞台演劇のようで面白かった。それは特に、牧が誰もいない食堂のテーブルで、その得体の知れぬ生物と思しきミニチュア(幼虫?)をじっと見たり、餌を与えてみたりしてるシーンがちょいちょいあるのだけど、それが現実であるのか遠い未来であるのか、幻想であるのか、はたまた牧の書く物語なのかわからず、作品から逸脱している感じが実に舞台っぽい。
ヒヤッとしたのは、牧の嘘がバレた時、美和さんが「それはどういう顔なのよ」と言ってカメラに映った時の藤原季節の表情。ほんとにどういう顔なのか、醜くて一瞬怖かった(褒めてる)。そして数秒で普通に泣き顔になる。藤原季節すごい。
すごいのは渡辺真起子もで、劇中で台本の読み合わせをしているシーンがある。すでに美和さんという人物の演技中であるのに、更に加えて表情がじわりじわりとその台本の役柄になっていくのだ。役者ってすごいなと感じた。
まあ、渋川清彦にしても、原日出子にしても、麿赤兒にしても、みんなすごいわけで。
松浦りょうが出てるので期待したけど、業の深い役ではあったけど、キャラ的にイマイチでもったいなかったな。長井短や市川実日子、モトーラ 世理奈みたいにその容姿を活かすキャラにあてて欲しいな。
★★★★(★)
配給 レプロエンタテインメント



