『ニトラム/NITRAM』(2021/日本公開2022)
オーストラリア映画。原題は『NITRAM』。
1996年オーストラリアタスマニア島のポート・アーサーで起きた無差別銃乱射大量殺人事件「ポート・アーサー事件」の犯人マーティン・ブライアントの実録映画。
監督 ジャスティン・ランドリー・ジョーンズ
脚本 ショーン・グラント
両親(母親:ジュディ・デイヴィス、父親:アンソニー・ラパーリア)と三人暮らしのニトラム(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は、知的障害があり(冒頭幼少期の花火遊びで負傷し、他の子は二度と花火をしないと言うのに、ニトラムは怪我と花火は別モノと考え、またやると公言している)、子供の頃からばかにされいじめられてきた。ニトラムという名前もあだ名で、マーティンという本名を逆から読んだもので、ニトラムはその呼び名が大嫌いだった。
大人になってからもニトラムは近隣の迷惑など一切省みず、花火遊びをする。何か別の興味を与えようという意図もあり、父親は民宿をやるため物件を探し始める。そしてその経営を手伝うことを約束させる。ただ、今のところ資金が足りない。そうしてるうち、ニトラムはサーフィンをこなすジェイミー(ショーン・キーナン)に憧れ興味を抱き、サーフボードが欲しいと言い出す。母親はそんな金はない、欲しければ自分で稼げと却下する。
サーフボードを買うため芝刈りの注文を思いつきセールスに回るうち、裕福な未亡人ヘレン(エッシー・デイヴィス)と出会い、飼い犬数頭の散歩を請け負うことになる。二人は気が合い、ヘレンはニトラムに車を与え、一緒に暮らすようになる。誕生日には両親にも紹介し、二人は友達以上でも以下でもない関係を保っていた。しかし、実は運転免許証も持っていなかったニトラムは、旅行にいくべくツーリストに向かうドライブ中のいたずらで事故を起こし、ヘレンを亡くしてしまう。ヘレンの財産を受け継ぐことになったニトラムだが、ひとりぼっちになり再びジェイミーとコンタクトを取ろうとするがやんわりと避けられる。
そんな状況下、物件購入の資金調達ができた父親はニトラムを連れて不動産屋へ出向く。しかし目的の物件はすでに他人の手に渡っていた。気落ちする父親の姿に、二トラムはヘレンの遺産を持ち交渉しに行くが追い返される。気力を失った父親は自ら命を絶ってしまう。
ニトラムはヘレンと行くはずだったロサンゼルスへの一人旅を終えると、拳銃や半自動小銃を購入し射撃練習を始める。そうしたある日、スコットランドの小学校で起きた銃乱射事件のニュースを耳にする。その犯人の特徴は、ニトラムにずっと向けられてきた蔑称「変わり者」「はみ出し者」などで呼ばれている人間だった。ニトラムは、不動産を譲ってくれなかった老夫婦銃殺を皮切りに、ヘレンと両親とで誕生日を祝ったカフェで35人もの人間を銃殺する事件を起こす…。
ヘレンと両親が会った時に、母親はニトラムの障害のことを暗に匂わせる形でヘレンに伝えるが、ヘレンはひるまなかった。ヘレンも過去(女優だったっぽい)を精算できず、澱んだ日常にいたのだろう。けれど、ニトラムは銃に興味を持っていてエアガンを楽しんでいたが、本物が欲しいとヘレンにねだった時、きっちりと断った。車の運転も自分がして、邪魔をしたら叱っていた。冷静な判断能力も持っていたようで、ただただ寂しかっただけで、手のかかるニトラムが救いだったのかもしれない。
銃を購入したニトラムはまたジェイミーをそれで釣ろうとする。けれどまともなジェイミーには効かない。様々な要因が重なり犯行に及んだにしろ、そこでひとつ、ラインを超えたのかもしれない。
ジェイミーへのこだわりは、そんなに多くを描いているわけではないけど、母親に彼女ができたのかと聞かれた時、ジェイミーの彼女の名前を出す。そのくらいには意識していたということで、よほど仲良くなりたかったのかなぁとそれはそれで切ない。
映画では銃乱射シーンはない。銃をかかえ席を立ったところで場面が実家のテレビから流れるニュース音声に変わる。その外で母親がゆっくりと煙草をくゆらすシーンで終わる。母親は何を思っていたんだろう。ずっと、ニトラムに厳しくしてきた。それは一人でも生きていけるようにという親心だと思うが、結果的に手に負えなかった。友達もできない現実を、母親はどうすることもできない。これは優生思想につながってしまうが、子を持とうとする多くの人はしっかり考えるべきことだと思う。
★★★(★)