滅相も無い | これ観た

これ観た

基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『滅相も無い』(2024)毎日放送、TBS、0417〜全8話

 

監督・脚本 加藤拓也{『ドードーが落下する』、『わたし達はおとな』『ほつれる』他)

音楽 UNCHAIN(アンチェイン)

 

中川大志、染谷将太、上白石萌歌、森田想、古舘寛治、平原テツ、中嶋朋子、窪田正孝、堤真一、秋元龍太朗、安藤聖、中山求一郎、宮田早苗、安川まり、鳥谷宏之、他。

 

突如現れた七つの巨大な穴。様々な調査が行われたが、結局なんだかわからないまま3年が経ち、調査は打ち切られる。そのタイミングで禁止されていた穴への立ち入りも自由化され、危険視する者、茶化す者、何かを求め穴へ入っていく者も多く現れる。ただ、調査段階から入っていった人が戻ってきたことはなかった。そして穴を神と見立て、穴の中には救済があると説く信仰宗教が出現する。教祖は小澤(堤真一)と言った。

12月1日、その小澤に入信した8人の男女が小澤の持つ宿泊施設に集まる。年に一度12月1日から30日までの1ヶ月、祝祭と称し穴に入るのだ。その前に、穴に入る理由を話し記録に残すことがルールづけられている。記録係は集まった信者8人のうちの一人、岡本(窪田正孝)が請け負い、穴に入る順番に身上(自分史)を語り始める。ただ、穴に入ることは個人の自由意思で、気を変えやめても良いのだった…。

 

まずは一番先に穴に入る予定の大学生の川端(中川大志)

父母は先に穴に入ってしまっていた。川端は怒り方がわからない。子供の頃からいじめられても理不尽な目にあっても、父親にやり返せと叱咤されても、なあなあで終わらせてきた。大学生になり彼女が出来た。彼女の行動に不満はあるものの、やはり怒れない。川端は嫌なことはわかるが怒ることがわからないのだった。そしてついに怒る練習を始め、小澤にも勇気をもらい、どうにか彼女との言い合いに発展するが…。

社会に抑圧され埋没していく個性かな。自己肯定感が低いのに自意識が高く、マイナスに働く例。という感じだった。

 

次に子供が病気だと嘯く菅谷(染谷将太)

小学生の時空手を習い始め、そこでの合宿で毛利さんという女子に初恋をする。でも毛利さんは引っ越して道場に来なくなってしまった。それから大学生になり留学先で再会を果たす。友人の域を出ない関係が続くが、毛利さんはアメリカでの就職を考え、菅谷は留学が終わると帰国し、再びそれっきりとなる。ところが8年後エジプトの空港で再々会を果たす。すごい偶然だったし、連絡先を交換したが、毛利さんには婚約者がいた。それもあってか菅谷から連絡をすることはなかったが、1年後毛利さんから連絡が来る。日本に帰国した毛利さんと飲み、帰りのタクシーで甘酸っぱい昔の感情が湧き上がり、お互い探るような会話がなされる…。

今ひとつ勇気と自信が持てなくて無難な方へ流れていく人間を描いてる感じだ。無難はひとつのチャンス、ふたつのチャンスと逃していく。

菅谷は穴に入らなかったようで、諦めることも獲得しに行くこともできないということか。だからであり、だけどなんだけど、妻子共に元気な家庭を持っている。

 

仕事を転々とし地方で暮らしていた松岡(上白石萌歌)

殺伐とした職場に嫌気が差し、静かで落ち着いたオルゴール記念館に転職する。そこで観劇しに来た「原幸恵(はらゆきえ)」という同姓同名の二人の女性をSNSを介して結びつけることになる。6年越しの二人の逢瀬に立ち合った松岡だが、次会えるのは4年後らしい。もちろんその時も一緒にと誘われるが、ただ、その頃、松岡はこの世にいないかもしれない。病気が発覚したのだ…。

松岡は何かやりがいを求めていたのかもしれない。自分が繋げた縁で何か得られたろうか? 松岡が一番欲していたのは揺るがない人間関係なのかもしれない。

小澤によると、穴の中でまた二人に会えるだろうという。穴は黄泉の国なのか。

 

5歳までイギリスに居た帰国子女の青山(森田想)

小学1年の時、日本語がしゃべれないから孤独だった。でも一人だけ下校を共にしてくれる石田さんという女子がいた。遊びながら帰るので言葉がいらなかった。しかし2年になって石田さんは転校してしまい、孤独は拍車をかける。母親の機転で、青山はバレエを習い始める。日本語はしゃべれるようになったがひとりぼっちな状況は変わらなかった。中学になった青山はバレエを好きになっていた。母親からはプロになれるわけでなし高校受験もあるからと辞めるよう促される。そんな時、石田さんが街へ戻ってきた。でもいざ話してみると、大切にしていた思い出をまるっと覚えてなかった。バレエの飯田先生はやりたいことをやらせてあげたいと手を貸す。そうして母親に秘密で続けていたバレエ。発表会で役をもらうことになり、秘密にしていたこと、子育てに介入してきた飯島の行動が母親の逆鱗に触れる…。

人の記憶の重要度の差。子供のためを思う母親と子が思うことの違い。毒親だの親ガチャだの揶揄されるけど、過去になればすり傷くらいになるということも感じた。が、母親はすでに穴に入っている。母子共に人生のちょっとしたつまづきを大怪我にしてしまったのかもしれない。

 

父母の離婚後、父親が亡くなり母が借金を抱えることになった青少年期を過ごした渡邊(古舘寛治)

姉と二人母親の苦労のおかげで大学まではいけたが、何度落ちても司法試験を受け続ける渡邊は母親からの仕送りで生活していた。ついに仕送りをストップされるが、今度は姉に頼ろうとする。映画館のバイトを紹介されるが、観客と自分との境遇の差を目の当たりにする毎日に、より一層偏屈になっていく。そして商品をちょろまかしたことがバレてクビになり、姉からは「死」を匂わされる。渡邊は海外に住むインフルエンサーを頼るという一攫千金の博打にかけ、なんやかや着いた先がドバイ。インフルエンサーに会える手立てもないまま、立ちんぼの女性リナと出会う。実はリナは出稼ぎに来ている生粋の日本人だった。両替の問題でなんとなく親しくなった二人は帰国後も数回会うことはあったが…。

言い訳ばかりで、言うだけの努力をしたのかも疑問な、いわゆるこどおじ。やり直して生きることも、全部捨てることも思い切れない。他責意識の強い人間は生命力強いのかもしれない。

 

起業して一応の成功をみた真吾(平原テツ)

小学時代、おとなしい性格ではあるが嫉妬も買いやすく、クラスメイトの崇之によって仲間はずれのいじめが始まる。しかし崇之がいなくなりやがて落ち着く。大学を卒業して就職したが疑問を感じ辞め、旅をしたりアプリ開発をしたり何か新しい事をと自分探しが続き、ついに代理出品ビジネスで名をあげ、フォロワーも多くなったのでSNS運用コンサル業を始める。それなりの手応えも得たがしかし、大手との仕事で担当の佐藤さんに格差を見せつけられ、叩きのめされる。その後佐藤さんが亡くなるのだが、真吾の中ではその時の折り合いがつけられていなかった…。

子供の世界なりのヒエラルキーがよく現れてた。半ば無意識に救いを求め、どこかにか誰かにか属そうとする気持ちがよく描かれてる。それは大人になってからだと人生を揺り動かすほど大きくのしかかってくる。上には上がいるという才能や社会の格差が見て取れる。それでも「死」は平等にやってくる。

真吾が穴に入る前にSNSに書いた言葉は「自分を恨んでる人がいたら入る前に話をしたい」だった。穴が今生の別れであることが暗示されてる。

 

周りに穴に入っていった人の多い井口(中嶋朋子)

子供の頃とても好奇心が強く、住むマンションに変わり者で有名なおばさん古淵(こぶち)さんがいた。一つ下の梅本さんと二人、面白おかしく見ていたが、古淵さんは飛び降り自殺する。その跡を見に行って目にした血痕に好奇心を後悔した。高校になるとよくつるむ男女グループができる。そのグループの男子、交際中の三木が突然学校へ来なくなる。どうやら失踪したという噂が立つ。そうこうして1年、グループの別の男子山下から交際を申し込まれ、梅本に相談をする。三木のことを調べてみると言うので任せるが、結局何もつかめず卒業となる。その日、三木から連絡がある。しかし会う約束の日に三木は現れなかった。ただ、後輩を使って探られたことを怒るメールが届いていた…。

好奇心も必要な時といらない時とある。人が介するとだいたいがろくな事にならない。主観で動くからだ。

これはトラウマの話かなぁ?自分の望むような結果は、まず自ら動かなければ得られない。動いたとて、主観。

中嶋朋子の声変わった。

 

そして岡本(窪田正孝)

他の者たちの話を聞きながら、何を話そうか残そうか考えた結果、子供の頃祖母の家に行った話を始める。それは夢か現か判然としない話で、結果的には夢であったのだけど、岡本の心の中には亡くなった祖母のことが忘れられなかったのかもしれない。

自分の意思で歩んでるであろう人生が、実は自分の預かり知らぬものによって動かされているのではないか。例えば物を見ているようで、何かを考えているようで、実は何も見ていない考えてない空白の一瞬、数分が誰にも経験あるのでは。その間は意識が存在しないから、もしかしたら死と同等の感覚に陥ってるのかもしれない。そこで実際何が起きてるのか、そんな短い空白の謎を描いた感じだった。

で、岡本は穴には入らない。現実を選ぶのだ。

 

毎話冒頭に、穴のこれまでや穴に入って行った人の話が紹介される。回を重ねるほどに穴は「あの世」ではないかと思えてくる。また、小澤の言葉も真髄をつくようになる。

真実より嘘の方が広まりやすいとも言っていた。これは今のネット社会に限らず、紙の時代のもっと昔からそうだなと思った。

 

結局何を言いたいのか大きなテーマや、いろんな考察はあると思うがタイトルとの相関性もわからなかった。でも、ただ、少なくともこの日本の一億二千万人の各々に、類似性はあれどその人だけの人生があるということを見せていたのでは、と思った。それと、人格形成に一番影響する外部との接触は小学生時代なのだなと思ったし、自分を思い返してもそう納得する。そんなのが見えた。

 

自分史を語る思い出のシーンは舞台演劇調の演出。語り手の関係する登場人物は6人の役者(秋元龍太朗安藤聖中山求一郎宮田早苗安川まり鳥谷宏之)に割り振られていた。音楽担当のUNCHAINは舞台上の小道具など美術として位置していた。ナレーション津田健二郎

 

★★★