オッペンハイマー | これ観た

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基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『オッペンハイマー』(2023/日本公開2024)

原題『Oppenheimer』

原作 カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン

 

監督・脚本 クリストファー・ノーラン

音楽 ルドウィグ・ゴランソン

 




原子爆弾開発者である「原爆の父」と呼ばれた天才理論物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの半生。

 

オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)はハーバード大学卒業→イギリスのケンブリッジ大学留学→ドイツのゲッティンゲン大学留学へ。ここでニールス・ボーア(ケネス・ブラナー)ヴェルナー・ハイゼンベルグ(マティアス・シュヴァイクホファー)の影響を受け理論物理学に進む。博士号取得後アメリカに帰国しカリフォルニア大学バークレー校で教鞭を取りつつ、自身の研究(核分裂応用の核爆弾)上、また自身がユダヤ人でもある故に、ナチス・ドイツの動向に注目していた。

第二次世界大戦が始まると、ナチスドイツの勢いに焦りを持ったアメリカは、アメリカ陸軍レズリー・グローヴス准将(マット・デイモン)指揮のもと、オッペンハイマーを原子爆弾開発製造「マンハッタン計画」のチームリーダーに抜擢する。そしてニューメキシコ州にロスアラモス国立研究所を立て、全米各地からの優秀な科学者、及び欧州からの亡命科学者を集め、原爆開発に着手。各国の開発競争も頭に、ナチス・ドイツより先に完成、投下させることを目標としていた。また、さらに強力な水素爆弾の登場も危ぶんでいた。そんな中、1945年、ナチス・ドイツが降伏。使うあてがなくなったに見えたが、いまだ交戦を続ける日本に標的が変わる。7月16日に史上初の核実験を成功させ、ハリー・S・トルーマン大統領(ゲイリー・オールドマン)は日本への無条件降伏、またソ連への牽制も兼ね、8月6日広島、8月9日長崎に原爆を投下する。

第二次世界大戦は終結したが、英雄に祭り上げられたオッペンハイマーは果たして原爆開発は正しかったのか、それを使うことは許されることなのか、爆発の威力に、事後の惨状に、逡巡苦悩する。その後ソ連による原爆開発成功を耳にして、国は次は水素爆弾だと核兵器製造所持推進話が進み、オッペンハイマーは規制へと動くが…。

 

映画はソ連のスパイ疑惑を受けたオッペンハイマーの1954年の聴聞会、それを企てた首謀者政治家ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)の1959年の公聴会から始まるので、予備知識がないと何が何だかわからない。私の場合、外人の顔の識別がつかず、名前も覚えられないので、ラストを迎える頃ようやく「ああ、あの人がこうだったのか。この人はアレだったのか」というざっくりな理解で終わった。そんなでも、この2シーンから匂い立つ、嫉妬、自尊心、保身、損得、利権は醜い限り。

 

原爆による悲惨かつ残酷な映像は一切ないが、オレンジ色の爆発の光、轟く爆音、空気の振動のみを感じる無音のコマ、いわゆるキノコ雲はその下にいる生きている人間を容易に想像させ、胸が締め付けられる思いだった。それは日本人だから、写真や映像、絵画、漫画では「はだしのゲン」など多くの表現物に触れてきたからこその連想力かもしれない。でも、映画の中で原爆投下後の映像を見た者たちのなんともいえぬ表情がそういった気持ちを物語っていた。知れば核がどんなに恐ろしいか、人間に対して使ってはならないと思うのは、おそらく万国共通の感情だと思う。一方で、科学者と国を動かす政治家及び軍隊、その立場立場での相違は仕方ないとも思う。

 

オッペンハイマーは決して核を肯定的にとらえていない。夢にうなされるなど映像効果から、アインシュタイン(トム・コンティ)との会話からも、心の中でのせめぎ合いがわかる。なので、日本人としてはアメリカの原爆投下は腹立たしいが、映画自体は「まぁ、有りかな」と思えた。

 

オッペンハイマーの私生活も描かれている。妻キャサリン(エミリー・ブラント)、愛人ジーン(フローレンス・ピュー)、弟フランク(ディラン・アーノルド)との関係、大学時代からの交友関係、同僚との関係、また共産主義者の立ち位置など。

 

科学者の探求欲という点では、柳楽優弥主演の『太陽の子』を思い出した。あれも科学者の立場を描いた良い作品だった。

 

★★★★

 

 

 

 

配給 ユニバーサル・ピクチャーズ、ビターズ・エンド、ユニバーサル・ピクチャーズ