『六月大歌舞伎(傾城反魂香、児雷也、扇獅子)』(2023)歌舞伎座
傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
●土佐将監閑居(とさのしょうげんかんきょ)の場
絵師の又平(市川中車)は吃音症もあって女房のおとく(市川壱太郎)を連れ立って師匠である土佐将監(中村歌六)のもとへ名をもらうために直談判に行く。ちょうど近くの竹藪にトラが出ると騒ぎになっており、当時トラは日本に生息してないことから、実際現れたトラを見た将監は、高名な絵師の絵から抜け出たトラだと踏む。又平の弟弟子でありながら将監に目をかけられている修理之助(市川團子)が絵であるならば筆をもってかきけそうと手を挙げみごと成功する。将監はその功績に土佐の名字を与え、修理之助は又平より先に免許皆伝を得る。その上、なんとか認めてもらおうと最大のチャンスでもあった姫君救出の場にも行かせてもらえなかった。絶望した又平は生きる気力がなくなり、自害を決意する。ならばとおとくはせめて手水鉢にでも自画像を残すことを提案し、又平は渾身の力を振り絞り描く。するとあまりの念の入れように裏に描いた絵が表に浮き出る。その力を見た将監は技量を認め土佐又平光起という名と免許皆伝も与え、おまけに姫君救出へ向かうことも許す…。
この演目に関してだけいうと、新春歌舞伎で観た中村歌昇、中村種之助のものの方が良かった。テンポもコミカルな部分も、おとくの強さも又平の情けなさも夫婦愛の部分も。演出がどうなっているのかわからないが、同じ演目を配役違いで観るのも面白いなと思った。
中車と團子は親子共演。歌舞伎では普通によくあることのようで。團子、声はまだ細いけど、今時の子らしくバランスがいいし、若いからきれいだった。
歌舞伎はまだまだ初心者でわかってないことを前提に、中車より期待値高い気がした。あと、女中お百役中村歌六の声がかすれすぎてて聞き取りにくかった。しかたないのか?手慣れ感もやだったな。
●浮世又平住家(うきよまたへいすみか)の場
又平(市川中車)とおとく(市川壱太郎)が家で救出に向かう準備をしていると、追手の目を盗んでどうにか逃げてきた姫銀杏(中村米吉)がかくまってくれとやってくる。又平らはさっそく中へ入れるが、すぐに追手(市川男寅、中村福之助、中村玉太郎、中村歌之助)もやってくる。又平の家には4枚のふすまに奴(市川青虎)、藤娘(市川笑也)、ナマズ(坂東新悟)、座頭(市川猿弥)の大津絵が描かれており、不思議なことに、これらに魂が宿りふすまから抜け出し、追手をやりこめていく…。
この演目は53年ぶりの上演だったとか。セットで観るとトラ退治とふすまの大津絵がちゃんとつながっていて物語性が強く良かった。土佐将監閑居の場よりコミカルさを出していた。
児雷也(じらいや)
父の仇を討つために仙素道人(中村松江)からガマの妖術を譲り受けた盗賊の児雷也(中村芝翫)の前に、山賊夜叉五郎(尾上松緑)、高砂勇美之助(中村橋之助)が現れ、ガマ、妖術使い(片岡孝太郎)も現れ秘術の探り合いになる…。
見どころは暗闇の中のだんまりだそう。よくわからなかった。六方もあったみたいだけど花道が前の方しか見えておらず観賞できず。
ガマの着ぐるみの中の人も歌舞伎役者ってイヤホンガイドの言葉に、ならせめて名前も出したらいいのにと思ってしまった。
扇獅子(おうぎじし)
江戸日本橋、芸者たち(中村福助、中村壱太郎、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村児太郎)が四季のうつろいを舞う。
見どころは芸者六人が揃って赤の獅子頭をかぶり舞うところだそう。確かに。この時の重心の保ち方、他、背景への溶け込み方、しぐさ、舞、どれをとってもダントツに市川壱太郎が良かった。ちょうど旬の芸者という感じ。あと、年増の芸者(たぶん)、若手の芸者の差もよくわかった。すごいな女形。
女形と言えば坂東玉三郎。片岡仁左衛門(当時片岡孝夫)とのセットが本当に麗しくて「天守物語」を観に行った。当時自分の小遣いではこれひとつ観るのがやっとだった。その玉三郎も70歳を超えて舞台から距離をおくと言う。大人になってからは数回歌舞伎で観てはいるが、もう一回、踊りだけでも観たいな。
(観劇日20230606)
東京 歌舞伎座 0603〜0625