『ピピン』(2022) シアターオーブ
脚本 ロジャー・O・ハーソン
演出 ダイアン・パウルス
翻訳 小田島恒志(おだしまこうし)
作詞・作曲 スティーヴン・シュワルツ
訳詞 小田島恒志、福田響志(ふくだなるし)
リーディングプレイヤー:Crystal Kay
ピピン:森崎ウィン
チャールズ:今井清隆
ファストラーダ:霧矢大夢(きりやひろむ)
ルイス:岡田亮輔
キャサリン:愛加あゆ
バーサ(wキャスト):前田美波里、中尾ミエ
テオ(wキャスト):高畑遼大(たかはたりょうた)、生出真太郎(おいでしんたろう)
物語の進行役、リーディングプレイヤー(Crystal Kay)の案内で、少年(子供)が大人になるまでの物語が始まる。
神聖ローマ帝国皇帝チャールズ(今井清隆)の長男であるピピン(森崎ウィン)は、優秀な成績をおさめて学業を終えたが、生きる意味を知りたい、身も心も捧げるほどの「何か」が欲しい、といった人生の目的を求める探究心が抑えられない。とりあえず、思いつくことはトライしてみようと、リーディングプレイヤーの指揮下のもとに、まずは腹違いの弟ルイス(岡田亮輔)と同じ軍人を目指す。しかし頭は良いが戦闘向きではなく、ついには亡くなる兵士に疑問を覚え終了。次に祖母バーサ(前田美波里)の助言に従い、今日を生きればいいのさとばかり享楽に溺れる体験をするが、虚しいだけ。次は父チャールズの暴君ぶりに怒りを覚え、革命を起こす革命戦士になる。父を暗殺し自分が皇帝の座につき、民の幸せを考えた政治を執り行おうとするが、あっちを立てればこっちが立たず、であえなく撃沈。次もリーディングプレイヤーが設定したストーリーにのっとった恋愛体験。未亡人のキャサリン(愛加あゆ)と出会い、その息子テオ(高畑遼大)と仲良くなり、生活というものを知る。しかし、満足が得られない。何かもっと…という思いが消えずキャサリンのもとを去る。そして最後にこれぞというものをリーディングプレイヤーが用意する。ピピンはこの体験を前にして、本当に大切なものは何なのかに気づき、人生の喜び、生きる目的を得る…。
(↑記念写真が撮れるパネル有り)
アクロバットとマジックで見応えのあるステージ。
アクロバットにいたってはドキドキハラハラもあり、あちらこちらでポールやブランコ、マジックもするので、目が落ち着かない嬉しさがある。笑いもあり、観客への呼びかけも多い。会場全体でリーディングプレイヤー率いるサーカス一座を体感する形になっていて、コロナ禍であることが残念でならなかった。
とても良かった。
驚いたのはピピンの祖母役バーサの前田美波里で、タイツ姿を見せたのはもちろんだが、空中ブランコでのパフォーマンスは体幹の強さ、逆さ吊りのまま歌うとか、その歌唱に一糸の乱れもなく、軽く鳥肌が立った。素晴らしかった。
あと、キャサリン役の愛加あゆの口跡の良さ。前田美波里と愛加あゆの歌詞だけはきちんと聴き取れた。継母役ファストラーダの霧矢大夢もさすがの歌唱力表現力だった。宝塚出身は間違いないなと思った。
主役の森崎ウィンはミュージカル何度かやってると思うのだけど、声はとてもいいけど、息があがる感じがして、音程にも影響与えてる気がした。よく動くし出番も続くんだけど、そこはプロなら乗り切って欲しいところ。たぶん、公演最後の方には安定してくるんじゃないかな。
Crystal Kayはけっこう大きく見えて、森崎ウィンと数センチしか違わないはずだけど、その大きさが舞台映えして良かった。
タム役の子役、高畑遼大の子供ならではの高く柔らかく可愛らしい歌声も耳に心地よく素晴らしかった。
観劇日 20220831
この日、アフタートークもあり、霧矢大夢、愛加あゆ、岡田亮輔が登壇した。コロナ禍の稽古の話とか、互いの印象や裏話、3年ぶりの一座カンパニーの話、アクロバットもふんだんにあるのでその危険性とか話題になっていた。ここで、霧矢大夢が「ピピン役は一人一生に一回だけ」と言っていて、すんなり内容に合点がいった。
社会の構造も机上だけで知らず、自分探しに夢中になって独自の考えがまかり通ると思ってる世間知らずの子供が、愛を知って大人になる話なので、森崎ウィンのピピンは今回が最初で最後になるわけだ。だから前回のピピンだった城田優も二度はない。同じように考えるなら、キャサリンとテオも一回こっきりじゃないかな。一座よりピピンとの生活を選んだのだから。
次のピピンも楽しみ。
さらにくわしく↓
【個人的解釈によるネタバレ】
これはピピンの自分探しの旅で、リーディングプレイヤー率いるサーカス&イリュージョン一座がお膳立てした不思議な空間での疑似体験により、自分を見つけ大人になる話。リーディングプレイヤーによって私たちはピピンの物語(ショー)を観せられ、リーディングプレイヤーによって実存のピピンが生きる意味を知る。という感じ。
一座のキャサリンはリーディングプレイヤーの指示をうまく守れず本気でピピンと恋に落ちる。そしてピピンがリーディングプレイヤーが用意した最後の体験に応じず、キャサリンのもとへ走ったため、最終的にリーディングプレイヤーはこれは(ショー的に)失敗だと幕を閉じる。でもラスト、子供のテオが一座のステージ道具に興味を示して終わるのだが、それが次のピピンの誕生を匂わせてる。
ピピンが一人だけ衣装が時代にも一座とも合ってないのや、客席から出入りするのは、ピピンが私たちの誰かでもあるということを表しているんだと思う。リーディングプレイヤーが客席に体験者を募るし。リーディングプレイヤーは悪魔か、人間の邪悪な心の実体化なのかもしれない。
東京・シアターオーブ 0830〜0919
大阪・オリックス劇場 0923〜0927