VANITAS ヴァニタス | これ観た

これ観た

基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『VANITAS ヴァニタス』(2016)

監督・脚本 内山拓也(『佐々木、イン、マイマイン』)

「PFFアワード2016」観客賞受賞作品で、これが初めての映像作品になるとのこと。

 

大学に入学し、体育館のバスケットボールコートを介して知り合いになった柴原(細川岳)伊藤(小川ゲン)、橘、永井(野川雄大)。深く入り込まず、しかし表面的というのも少し違う、ざっくり、大学で時間を共にすることの多い友人という関係性の中で、それぞれが抱えている悩み、思いがふんわり明らかになっていく。でもそれは私達観客が一方的に見せられる形のもので、登場人物の彼らには何一つ共有されてないという…。

無常観が面白い。まさにヴァニタスか。

 

その他の俳優陣に、渋川清彦、川瀬陽太。

 

伊藤はバイトに明け暮れ、橘にも金を借りるなど、奨学金を申請する貧乏学生で、いつも同じ服を着ている。着るものにまで気が回らず、そのトレーナーが汚れていくのがリアル。生活は苦しいけど、友達は持っていたい。伊藤が最後に選んだ(というか衝動)道は、それまで描いてきた伊藤像ならまったく不思議じゃない。それが切ない。

橘は何事にもそつなく対応できるごく普通の環境に生きるステレオタイプの学生だが、怪しい組織に入って大金を手にしている。外見も徐々にそれっぽく変化していく。自分の可能性を見つけたいんだろうけど、そこそこの努力でやってこれたから行動が中途半端。自分からは何も事を起こせない、多くの若者像でもあると思う。

永井は性的マイノリティー。トランスジェンダーかゲイか。橘に想いを寄せるが、どうにかなれることでもなし。本当は女性の服を着て思いっきり街を歩きたいのにできない、男である自分の見た目に嫌悪感さえ抱いている。

柴原は…たぶん、これが私達観客を体現しているのだと思う。何に悩んでいるのか、何を考えているのか、どう彼らを世間を社会を見ているのか具体的な描写がない。だから、柴原は観客自分自身なのだと思う。

そもそも、柴原が一人バスケットボールに戯れているところへ、すでに仲間になった橘、永井、伊藤が現れ、一緒にバスケで遊ぶようになる。なので最初主人公は柴原かと思ったけど、一番詳細に描かれたのは伊藤だった。じゃあ、柴原は? とずっと気にしていたけど特に何も起こらず、観客がこの映画に参加する形を取りたかったのか、と解釈した。彼らと同次元にいる者はたくさんいるのだよと言っているようだった。

 

★★★★(★)


 

『佐々木、イン、マイマイン』で余計な事を詳らかにしたんで、それを思うと、これははっきりと何がどうだと全員分明らかにしなかったのは良かったなと思う。他人の考えてる事など文字や言葉に出来ない以上、やはり陳腐さが出てしまうから。

 

携帯電話がガラケーなので、時代設定が撮影当時としては古いかな。でも、監督は若いので、なんでガラケーだったんだろう。伊藤だけなら納得がいくけど。

 

内山拓也監督作品、いいな。まだ2本目だけど。