『明け方の若者たち』(2021)
原作はカツセマサヒコの小説。
監督 松本花奈
脚本 小寺和久
北村匠海、黒島結菜、井上祐貴、山中崇、楽駆、佐津川愛美、高橋ひとみ、菅原健、高橋春織(はおり)、濱田マリ、他。
大手企業に就職の決まった「勝ち組」の飲み会で「僕」は「彼女」と出会い恋をし交際が始まる。でもそれは終わりのある関係だったし、僕は大手印刷会社に就職するも総務部に配属され理想と現実の狭間で焦燥に似た気持ちもかかえていた。
入社当時研修プレゼンで知り合い親友となった尚人と夢を語り合ったことが、たった5年で色あせた写真のようになってしまう、彼女との恋愛を中心に置いて学生が社会人になっていく様(2012年〜2017年まで)を描いた作品。
とても良かった。
黒島結菜は下手な印象しかなくて好きではなかったけど、この作品ではすごく良くて、北村匠海との芝居の相性がいいのか、相乗効果で魅力的に映った。北村匠海がまた安定してすごくいいわけで。どこにでもいそうな一般的な男子像で、少しも外れてない普通さがいい。この作品で「僕」「彼女」と名前がないのも、観てる側がそこに自分を投影できるようにではないかと思えるくらい、キャラクターが何でもなくて(色がついてなくて)、心情を共有できるのだ。「彼女」も少しも特別ではない。恋愛の始まりと高揚と流れ、そして終わりが、経験していなくてもわかる既視感をもって描かれてる。不思議。
作品は5年で終わっているけど、僕の未来はその先もあるわけで、例えば2022年の今でも、僕はどこかでどうにかなって生きているんだろうと思える。そして、僕はこの先幾度となく明け方を見ることがあるだろうし、その度にあの日のことを思い出すのかもしれないし、その度に甘酸っぱい感情が湧き上がってくるのだろうなぁと思った。過去ってそんな存在なんだと改めて思った。
ただ、たった5年前のことが郷愁めいて感じるって、早老過ぎないか?(笑) 私の感覚では10年でも短いくらいだ。彼らはそれだけ濃い時間を過ごしたということなのか。
★★★★★
ここからちょっとネタバレ含みます。
二部構成みたいな作りになっていて、前半は恋愛と夢いっぱいの社会人。観てる側としてはその青さに恥ずかしさを覚えるほど。後半は彼女との関係の秘密が視聴側にもわかり、そして終わる。何者かになりたかった僕が社会の構成員として日常に埋没していく。最後は、それでも学生と社会人の狭間の楽しさを享受した「明け方」の風景、時間(尚人が言うところのマジックアワー)が思い出となり力を与える。ゆるい階段ではあるけれど、長い人生の一段一段をどうにか上っていくしかないんだと、少しの諦め、少しの期待が見え、観てるこちらも少し苦しく少し切なくなる現実がある。
粋だなと思ったのが、後半への入り方で、尚人の一言「相手が結婚してたらハッピーエンドは望めねえよ」だったこと。既婚であることは初めからわかっていたことが、過去のシーン再生で視聴側にも知れる。指輪も細くあまり目立たないが(映らないようにしてたと思う)、ちゃんとしてたし、僕と彼女が手を重ね合わせる時は常に僕の右手と彼女の左手だった。不倫であること浮気でしかないことを、僕が本気の恋だと上書きしているようで、これも粋だ。
街の使い方もうまくて、明大前と下北沢は学生時代、高円寺と新宿三丁目は社会人時代、そして高円寺住みだった親友の尚人が転職して帰った先が経堂。それだけでどんな環境にいるのかが想像つく。
脇の登場人物も効果的に使われていて、「勝ち組」飲み会を主催した石田が5年たった今でも勝つことにこだわりねずみ講にはまってるのが物の哀れ(石田役の楽駆の加齢感がみごと)で、デリヘル嬢のミカが昼間は古着屋の店員をしてることがほのかに希望を見せている。僕が体調不良を理由に取ったその休暇明けに、会社の人間が腫れ物を触るように親切だったのが現代の会社員の体質を的確に現していたし、同期入社で尚人と共に理想を掲げ交流のあった黒澤は家庭を持つ幸せを手にした。そんな中で学生時代通った居酒屋のおかみさんはしばらくぶりに行っても覚えていてくれたという、変わらない過去の存在だった。人生の俯瞰図だ。
制作 ホリプロ
配給 パルコ