かしこい狗は、吠えずに笑う(ネタバレ有り) | これ観た

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基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『かしこい狗は、吠えずに笑う』(2013)

監督脚本 渡部亮平(脚本=『ビブリア古書堂の事件簿』『3月のライオン』、他)

 

ぴあフィルムフェスティバル、福岡インディペンデント映画祭、TAMA映画祭、日本映画プロフェッショナル大賞などで受賞した作品とのこと。

 

女子校に通う体が大きくブサイクな熊田美沙(mimpi*β)は、クラスメイトのマリナ(もりこ)と行方不明になってる西尾アヤ(瀬古あゆみ)から軽くいじめを受けていた。同じクラスの清瀬イズミ(岡村いずみ)は美沙と逆で可愛くておしゃれで別世界の人のように見えたが、可愛いことでやっかみから同じようにいじめを受けていた。2人はある日急接近する。

物怖じせず思ったことをはっきり口に出すイズミに、最初は気遅れしたものの、やがてうちとけ仲良くなる。けれど次第にイズミの束縛が強くなり、美沙は恐怖を感じ距離をおこうとする。そんな美沙に、イズミは親友という言葉でさらにがんじがらめにしていく。そしてイズミは最大の秘密を美沙にうちあける。

それが、中学時代仲良しだったけど仲違いした西尾アヤを非常勤講師栗田(石田剛太)と監禁していること。栗田とは「恐怖と利益」で繋がっていると言う。人を動かすには恐怖と利益、ナポレオンの言葉だ。そしてついに栗田、アヤ、イズミの間でトラブルが起こり、現場に呼ばれた美沙を含め殺傷事件へと発展する。

最終的には恐怖から美沙はイズミを殺してしまうのだが…。

 

 

冒頭、1人の女性(仁後亜由美)が生理痛に顔を歪めながら我慢している絵が流れる。後に司法修習生と判明するのだが、ちょうど美沙も生理痛に苦しんでいたので、その女性が大人になった就活生かなんかの美沙だと思ってた。だから途中で違和感が起こるし、ブサイクという設定の美沙よりもさらにブサイクだったので、成長する過程できれいにこそなれブサイクに拍車がかかるのは珍しいから、おかしい気はした。そうして見ていると、最後に接見室が映し出され、窓の向こうに美沙がいた。最初から美沙が、接見に来た弁護士(佐藤幾優)とたまたま生理痛を起こしてる司法修習生に、イズミとの出会いから事件までを話していたんだとわかった。そして確かに、ペットショップで逃げた犬を見た時から以降、美沙とイズミが交錯するように描かれ、時々イズミと美沙の立場が逆転しているようにも見えていた。「自分を守る嘘、あんたの武器でしょ」「私を守るのは私だけ」これは最初イズミが鏡に向かって言った台詞だが、ラスト、裁判で正当防衛が認められて無罪判決を受け、高校に戻った美沙も言う台詞。つまり、途中から自分を守るために嘘の供述をしていたということ。その嘘が映像の中に隠れている、という…。

ついでにエンドロールの後のコマに、イズミの立ち位置にいる美沙と、美沙の立ち位置にいる新しい獲物が映される。まあ、これはこの作品がサイコホラーであると言っているようなもので、余計かなとも思う。

 

美沙に積極的に迫っていったのは本当にイズミだったのか、西尾アヤを監禁したのは本当にイズミだったのか、けっこうぼやけてるので、解釈は二つあると思った。途中から美沙とイズミが入れ替わるところがあると取るか、最初から立ち位置的に美沙はイズミだったと取るか。

俯瞰して過去を振り返っている、また、誰かにイズミとのことを話をしているとわかった時点で、クライムサスペンスでもある。全体を見ればミステリーか。盛りだくさんだな…。

でもまあ、想像してたのと違い、グズグズした思春期の女子を描いただけの作品ではなくて良かったかもしれない。

 

★★★

 

 

細かい描写に面白みややられた感がある。印象に残ってるのは、裁判でトイレの盗撮映像が流されるシーン。裁判官たちは用をたしてるであろうところで静かに目を逸らす。このシーンが人間の心理描写的にすごく良かった。あと、イズミの「くひひ」という感じの笑い方。可愛さのわざとらしさとただの癖であろう自然との微妙な境い目をいっていて、イズミの特異なキャラクターを強調させている。それから、生理痛で倒れてしまい保健室のベッドで気がつく美沙の表情とカメラの角度。これは単純にきれいな絵。