帰ってきたヒトラー | これ観た

これ観た

基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『帰ってきたヒトラー』(日本公開2016)

原作はティムール・ヴェルメシュの風刺小説。

 

監督 ダーヴィト・ヴネント

脚本 ダーヴィト・ヴネント、ミッツィ・マイヤー

 

ある日、ベルリンの総統地下壕跡地にアドルフ・ヒトラー(オリヴァー・スマッチ)が復活する。街や人の変化に面食らいつつ、しかしその周りの人間たちはさして驚く様子もなく変人か芸人くらいにしか思ってなく、むしろ記念撮影をせがむくらいの親密さで接してくる。状況がつかめないままキオスクに行きつき、新聞の日付で2014年であることを知る。1944年から70年飛んだことになる。

同じ頃テレビ局「My TV」を副局長ゼンゼンブリング(クリストフ・マリア・ヘルプスト)にクビにされたさえないザヴァツキ(ファビアン・ブッシュ)は自分が撮影したものの中にヒトラーが映り込んでいることに気づき、これは復職の手立てになるかもと探しあて、ヒトラーとドイツ国内を旅してまわる企画を考えつき、動画配信する。ヒトラーもまた現代の変貌を半ば情けなく思いつプロパガンダに使えると、政治活動の基盤構築を考え始める。各地で確かな手応えを得たので、ザヴァツキはいよいよ古巣「My TV」にヒトラーを売り込む。

ちょうど局長がゼンゼンブリングを押しのけベリーニ(カッチャ・リーマン)に変わり、採用され復職も遂げる。さっそく政治ネタで人気番組の「クラス・アルター」に出演が決まる。その後「My TV」のあらゆる番組に出演し、政治活動家たちに突撃して対談するなど意欲的な活動を見せ、あっという間に人気者になる。面白くないゼンゼンブリングはヒトラーをはめてベリーニ失脚を狙うが、ヒトラーのほうが民衆を読むことに長けていたためうまくいかない。ゼンゼンブリングはスキャンダルを探し始め、ザヴァツキとの旅の中での犬を銃殺してしまった映像を見つけ公開する。これでようやくベリーニもヒトラーもザヴァツキも局を追われ、ゼンゼンブリングが局長の座につくが、「My TV」の視聴率はどれも地を這う低迷ぶりだった。

人気の落ちたヒトラーはFacebookで親衛隊を募りつ今回の時空超えをネタに小説を書く。それが当たり、大ベストセラー。映画化になりザヴァツキとベリーニと共に再び浮上を遂げる。が、ザヴァツキは、彼女のクレマイヤー(フランツィスカ・ウルフ)の祖母にヒトラーを会わせた際の異様な反応に疑問を持ち、クレマイヤーの祖母がユダヤ人であること、そもそもの出会った場所とその映像などよくよく考え、ヒトラーは変人でも芸人でもなく本物だと確信するに至る。それを彼女やベリーニに訴えるのだが、信じてもらえずついに病院送りになってしまう…。

そうこうして映画「帰ってきたヒトラー」が完成する。と同時にヒトラーは支持者を掴み…。

 

という二重構造の作品。コメディという触れ込みだが、かなりブラックコメディ。もとが風刺小説なのでそうなるだろう。国民の政治觀や国家觀を大枠で見せ、ネットで個人がもの申す時代のテレビの終焉も示唆しているようだった。

インタビューやロケ先、街ナカの人とのふれあいは素撮りじゃないかな。政党員や著名人など実在の人物もそのまま出演しているようだ。あと、メインの役者さんは名前、本名を使っているもよう。

 

沈黙を怖がる番組MCや編成側と沈黙が力に変わることを知ってるヒトラーの対比が面白かった。つまらないテレビ番組を歴史を引き合いに出しぶった切り、現代に来てテレビやネットをプロパガンダに使うことを早くに思いつくヒトラーは頭いい。国家に理想を持ち、カリスマ性と能力のある人という描き方だ。

興味深いのは、若い世代の愛国心。2014年前後のドイツの風潮を描いているのだろうけど、ここ数年の日本にも通じる面がある。若い人ほど愛国心があるように感じる。

 

面白かった。

 

★★★★

 

 

ヒトラーの、心の中に私がいるのだ、というドイツ人である誇りを表してるセリフが響く。ドイツもユダヤ人迫害の負の遺産を持ち、ネタにするのはタブーとされてる。日本もそうだ。敗戦教育から自国を誇れず常に海外からどう見られるかを気にする。

また、ヒトラーが扇動したのではない、指導者を選んだのは国民だ、と言ったのは説得力あった。2014年に復活したところで自身は変わらないということだ。

同調圧力が働く過程もわかりやすい。

 

 

 

序盤の話が噛み合わないのに通じてるふうはコメディの基礎だけど気が利いてて面白かった。終始ヒトラーをヒトラーとして見ていないザヴァツキ以外の人間の存在も当たり前だが面白かった。本人が本物であるヒントをたくさん出しているのに、現代においてはギャグでしかなくなる文化と価値観の違いも。

あと、ゼンゼンブリングがヒトラーの真似したのはウケた。細かい。

ここまでくると、実は本当にドイツ国民の潜在意識には偉大なる総統ヒトラーとして存在しているのではないかと思う。誰だって歴史上の人物を、見る角度によっては尊敬し憧れ肯定する。

 

ジャーマンシェパードと一緒にいたのはロングヘアのワイマラナーだと思うのだけど、やっぱりワイマラナーいいな。飼いたいな。