生きちゃった(ネタバレ) | これ観た

これ観た

基本アマプラ、ネトフリから観た映画やドラマの感想。9割邦画。作品より役者寄り。なるべくネタバレ避。演者名は認識できる人のみ、制作側名は気になる時のみ記載。★は5段階評価。たまに書籍音楽役者舞台についても。

『生きちゃった』(2020) 英タイトルは「All the things we never said」

アジアの監督らによる映画制作の原点回帰をコンセプトにした作品連のひとつとのこと。

 

監督脚本 石井裕也(『舟を編む』『町田くんの世界』他)

 

仲野太賀、大島優子、北村有起哉、原日出子、鶴見慎吾、伊佐山ひろ子、嶋田久作、若葉竜也、他。

 

厚久と武田、奈津美は高校時代からの仲良し3人組。厚久と武田はいつもパピコを買っては奈津美に半分をあげていた。厚久と武田の真ん中には常に奈津美がいたが、当時は奈津美は武田に気があった。

高校卒業後厚久と武田はストリートミュージシャンをやったりしていたが、今は普通に働き、武田は独身、厚久はその時いた婚約者と別れ奈津美と結婚して5歳の娘を持つ父親だ。しかし言葉の足りない厚久に満足できない奈津美は浮気をし別れることになる。

厚久には引きこもりの兄透がいて、離婚したことを知ると嬉々としてアパートを訪ねる。けれどそこには厚久はいなくて、奈津美と娘、浮気相手の洋介が暮らしていた。透は洋介を殺してしまう。

奈津美は娘を実家に預け、洋介の残した借金のためにデリヘル嬢になり、やがて客に殺される。

自分の本当の気持ちを言葉に出して伝えられない厚久。そのフォローを惜しまない武田。消えないのはずっと続くのは、この男同士の友情なのか…。

 

ラストの武田のもらい泣きで吹き出した。

笑った。

これはコメディだ。

人間の行動、会話、言葉、思考、感情がいかにヘンテコキテレツなものかを描いてるとしか思えない。ナチュラルに、その最後の思わず吹き出したところで、今まで見てきたあらゆるシーンがコメディに塗り替えられた。なんだったんだろう、あのヒリヒリしたシーンはいったい、愛してるだの大切だのの言葉はいったい…と思えば思うほど可笑しさが増す。厚久が本音を言えないのは日本人だからかなと何度か言うのだが、もう、それがネタか頭の悪さにしか思えない。奈津美の全ての台詞も武田の全ての台詞も薄っぺらく、その台詞を吐く表情も思い出すごとにどんどん可笑しくなり笑いがこみ上げてくる。

タイトルだって、人生そのもののことじゃん。

 

やはり明確な導がない映画だと、見ながらあれこれ考え想像する。それのどれをも裏切って終わった。まいった。

すごく面白かった。面白い体験だった。

 

★★★★★

 

 

若葉竜也と仲野太賀のデュオ、うまい。

 

わからないのは、透が引きこもりの理由。厚久も言葉にするのが苦手なのだが、透はしゃべらない。なぜアパートに嬉々としてビールまで土産に買って向かったか、なぜ洋介に向かい「ダメだ」を意味する首振りをしたか。まあ、これは、いつも厚久に勇気づけられる立場だった透が、今度は勇気づけ慰める立場になったことを喜んでの行動だと思っていて、てっきりひとりしょんぼりアパートにいるのかと思ったら、そこには幸せそうな奈津美と娘、洋介がいて意表を突かれた気になり、もともと奈津美を快く思ってなかった透は(その描写として親の奈津美への冷たい態度がある)、洋介に奈津美はやめておけと言いたかったのではないか? ところが洋介が理解してくれず反撃してきたから思わず…ではないかな。当たり前に考えれば厚久のためを思った気持ちからだろうけど、私にはそう見えた。

もう一つ、奈津美と結婚することになった直接的な理由も明らかになってない。これもまた視聴者が想像して補完するのだ。おじいちゃんはなぜ死んだのか、なぜおじいちゃんの遺影だけ厚久は持っているのか、も。

 

ていうか、若葉竜也が可笑しいんだ。うまい。本当にうまい役者だ。