連載小説 『ROCK‘S』 2 | 日々幸進(ひびこうしん)

日々幸進(ひびこうしん)

日々、自分が楽しくて生きている事を簡潔に記しておきたいと思います♪
演劇、音楽、TVドラマ、映画、バラエティ、漫画、アニメ、特撮、他を色々自分の視点で面白しろ可笑しくね♪

通夜は、朋和の住んでるアパートから駅二つ向こうにある大きな葬祭場だった。

 最近、出来た大手の葬祭場チェーンのひとつだった。

 ひっそりしたものをイメージしていたのだが、思いの外、大勢の人々が居る事に困惑してしまう。

 そして・・・・・軽い嫉妬さえした。

 不謹慎ではあるが、こう考える。もし自分が死んだとして、ここまで人が集まってくれるのかどうか?という事と、こんなに大きな葬祭場でやれるという金の力とにだ。

 自分でも、大幅にズレた倫理観だと思う。

 今は、そんな事を言っている場合ではないことも重々承知だ。しかし尻の穴の狭い自分は、そんな馬鹿なことを考える。

 意識がおかしいのだ。

 麻痺している。

 朋和はふらふらと入口傍まで来て、ご大層な看板に献花された名前をじっと見詰めた。

 八重小鳩

 信じられなかった。

 桶川の電話をもらっても、そして今の葬祭場で名前を見ても納得していない。

 ぼうっとしてしまう。

 ドッキリなのでは?という呆気らかんとした気持ちが残っている。

 しかし、その事が事実なのは直ぐに判った。

 入っていきなり真正面の最上段に小鳩の写真が飾られていた。

 その写真には見覚えがある。

 そう、

 今のバンドのいいスチール写真がないから、桶川が連れて来た友達のカメラマンが一日自分らに密着して撮ったものだ。

 あの時はライブ当日の朝から付き従ってくれ様々な良いショットが撮れた。

 その中でも圧倒的に良かった一枚だ。

 普段、笑顔を前面に出さない小鳩が笑っている写真だ。

 バンドメンバーの澤口(ドラム)が、リハーサル時にジャージで太鼓を叩いていた。

 で、それが一段落してドラムセットから降りようとした時、ダルダルに履いていたジャージの裾を自分で無意識に踏んでしまいすっ転び落ちた。それだけではない。転んで気が付いた時にはジャージが膝まで脱げていた。桃色のブリーフが露になった滑稽な様。

 その場に居た全員が笑い転げた。

「やめろっ!撮るなっ!!」

「撮れ撮れ!」

 決定的瞬間を収めたカメラは、そのままグルリと皆の笑い顔を撮った。

………その時の写真だった……

 ガヤガヤとした喧騒。

 吐き気がした。

 しかし、歩みは止まらない。

 朋和は受付に名前を書き、ふらふらとお焼香の列に加わった。

 何だこれは?

 恐怖のような疎外感が朋和を包む。

 すえた線香の匂いが部屋に充満している。

 最後に小鳩に会ったのはいつの事か?

 そうだ。5日前のスタジオ練習だ。

 そして、明日も同じスタジオで練習する予定だった。

 だから今日、無理にバイトを入れたのだ。

 本来、明日のローテーションだったのを友達と入れ替わって貰っていたのだ。

 だが、

 今は目の前の棺桶の中に…居るらしい…?

 朋和は、やりきれない想いで爆発しそうになる。

 小鳩に一番近かったはずの自分達が蚊帳の外で、知らぬ間に水面下でこのような大勢の人々が小鳩一人の為に集まってきている。

 違和感と、嫉妬心と、羨望、閉塞感、羞恥感、猜疑心、それらが一気に昇ってくる。

 時折、後ろ側で笑い声が弾けている。

 久し振りに出会ったのだろうか?

 惨め。

 悔しい。

 小鳩の事をよく知りもしない連中が、何かの繋がりからか顔を出すだけの実のない葬祭。

 怒り。

 朋和は両手を握り締めた。

 ぎゅうっと、力強く。

 強く、強く、強く、強く!強く!!




つづく