おはようございます!
みなさんご機嫌いかがですか?
前回からの続きです、、、
僕が退職した後の後継者も無事に決まり(僕の兄です)、あとは「残り少なくなった時間の中で、このホテルを宇都宮で一番愛されるホテルにするために、最後に僕に出来ることは一体何なのか?」を考えるだけでした。
たとえどんなにささやかなことでも、少しでもお客さんに喜んでもらえることであれば、最後まで一生懸命にやらねばと思いました。(たとえ短い期間であっても。)
何かお客さんが喜ぶことをやると言っても、僕自身が楽しめないようなことを、いくら頑張ってやっても、必ずお客さんに僕の楽しくない気持ちが伝わり、決してお客さんをハッピーな気持ちにすることはできないと思ったので、僕もハッピーな気持ちになることが出来て、お客さんもハッピーな気持ちになれる何かをしなくてはと思いました。
あれこれ考えていくうちに、僕にピッタリのアイデアが二つ浮かびました。
一つのアイデアは、僕が宇都宮にいる時は(川崎にいる時はやりたくてもできないので。)、必ず朝のチェックアウトの忙しい時間帯は、総支配人室に閉じこもる代わりに、ロビー(フロントのカウンターの前)に立って、一人ひとりのお客さんに、笑顔で直接挨拶して送り出すというアイデアでした。
僕は、何はなくとも(笑)人と接していれさえすればハッピーというシンプルな性格なので、このアイデアは僕にピッタリだと思いました。(僕も楽しいしお客さんも喜んでくれるだろうと思いました。)
そしてもう一つのアイデアは、チェックアウトの時に「タクシーを呼んでください。」というお客さんがいたら、僕の車で希望の場所まで送り届ける、というアイデアでした。
元々僕は、若い頃から自分の車で誰か(見知らぬ人に頼まれた時も)をどこかに送ってあげることが趣味のような人間だったので、このアイデアも僕にピッタリだと思いました。(これも僕は楽しいし、お客さんも喜んでくれるだろうと思いました。)
やるべきことが決まれば、善は急げなので、翌日のチェックアウトの時間から実行に移すことにしました。
翌日の朝、チェックアウトの時間帯にフロントの前に立ってお客さんに挨拶をしていると、一人のお客さんが、フロントで「タクシーを呼んでください。」と頼む声が聞こえたので、早速そのお客さんに声をかけました。
僕「お客様、どちらまでいらっしゃるのですか?」
お客さん「会社まで行きます。」
僕「それでしたら私の車でお送りします。申し遅れましたが、私は総支配人の水谷と申します。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
お客さん「総支配人さんに送っていただくのは申し訳ないですねえ、、、」
僕「どうぞお気になさらないでください。好きでやっているだけですから。(笑)すぐに車を持って参りますので、正面玄関前でお待ちいただけますでしょうか?」
お客さん「わかりました。ありがとうございます。」
ということで、その時から退職の日まで、朝の僕の総支配人兼タクシードライバーの日々が始まったのでした。
ちょうどその頃でした、オープンのドタバタも落ち着き始め、スタッフたちも少しづつ慣れてきたように感じられたので、スタッフ全員に僕が退職することと、僕の後任として、僕の兄が来てくれることになった、ということを話そうと思った矢先に(それまで忙しすぎてみんなに話す機会がありませんでした。)、まるでテレパシーが通じたかのように、社長から電話がかかってきて、スタッフに話すことを止められたのです。
その時の社長とのやり取りは、次のようなものでした。
社長「君に言い忘れたのだが、君がもうすぐで退職することは、まだ誰にも言わないでくれ。君が辞めると知ったら、みんな動揺して、君の後を追って辞める者も出るかも知れないからな。頼むから辞める直前まで黙っていてくれ。」
僕「社長、それはできません。みんなこれからもずっと私と一緒に仕事ができると思っているのですから、一日も早く知らせるべきだと思います。彼らはもう立派なプロのホテルマンですから、私が辞めるからといって、彼らまで辞めるなどということは絶対にありませんから安心してください。」
社長「ダメだダメだ!絶対に言わないでくれ!私の最後の頼みだから聞いてくれ!頼む!」
僕「それでは兄が後任として来た時に、みんなにどう説明するのですか?みんな馬鹿ではないのですから、総支配人がいるのに、どうして総支配人のお兄さんが来る必要があるんだ?と思うに決まっていますよ。どう説明するのですか?」
社長「みんながどう考えようと、君がもうすぐで退職するということだけは、最後の日まで絶対に悟られないようにしてくれ!頼む!」
と強く懇願されてしまい、最後には仕方なく社長の言うことを聞くことにしたのでした。
その日から、僕とずっと一緒に働けると思っていたスタッフたちの笑顔を見るたびに、みんなを騙しているような気がして、心苦しくて仕方がありませんでした。
そして、兄が入社してくる理由も、僕の後任ということは言えなかったので、何かもっともらしい理由を考えなければなりませんでした。
僕は昔から組織の中に身を置くことは、あまり好みません。
好まない理由は、会社組織に限らず、どんな組織にも共通していることは、組織のトップに立つような人間は、大なり小なり自分の保身や利益のためなら、平気で下の人間に嘘をついたり騙したりすることがあるからです。
誰でもトップに立つと「下の方にいる人間など、歯車の一つに過ぎない」と考えるからかもしれません。
もちろん例外もあるとは思いますが、、、。
当時の僕の社長は、組織のトップとしては、けっこう良い部類だったと思うのですが、それでも僕が「スタッフはみんな私を信頼してくれているので、私が退職することを最後の日まで隠すことはできません。」と強く言っても、自分の保身と利益だけを考えて「絶対に言わないでくれ!」と情に絡ませて懇願したのですから、「これだから組織はいやだな」とあらためて思いました。
僕は若い頃から、どんな仕事についても長く続いたことがありません。(短い時は数ヶ月、長くても4,5年)
幸いなことに、スペインで開業してからは、生まれて初めて組織に属さないで(上司も部下もなく)、一人で自由に楽しくやっているので、気がつけばもう33年も同じ職業を続けています。
33年もよく続いているなぁと自分が一番驚いています。(笑)
続きは次回のお楽しみに!
それではまた来週の金曜日にお会いしましょう!
みなさんお元気で!
スペインのイルンより心を込めて、、、
水谷孝