京都アニメーション事件 弁護士委任→被害者参加を! | 福岡の弁護士 水野遼

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京都市伏見区の「京都アニメーション」第1スタジオで発生した放火事件は大きな衝撃を与えた。被疑者の動機は、報道によれば小説を盗用されたことに対する恨みとのことであるが、それが真実なのか、被害妄想なのかも判然としないし、仮に小説の著作権を巡るトラブルがあったとしても、それでスタジオにガソリンを撒いて火を付けるという行為に及ぶというのは理解に苦しむところである。

さて、被疑者は、ドクターヘリで大阪の病院に搬送されたという情報以降、その容体に関する情報は入っていない。もっとも、捜査機関としては、本件の事案の解明のため、なんとしても救命した上で、刑事事件として立件したいと考えているところであろう。

被害者やご遺族にとっても、被疑者が何を考えて本件のような凶行に及んだのか、事案の解明を望んでいるであろうし、裁判を通じて、被害感情や処罰に関する意見を反映させたいという思いは誰もが抱いていることと思う。

しかし、本件の審理は相当に大変なものになることが予想される。今後、被疑者は逮捕・勾留され、その後起訴されることになると思われるが、本件は裁判員裁判対象事件のため、公判前整理手続が行われる。そこで争点の確認や証拠の整理が行われるのであるが、この手続自体に半年~1年程度かかることも予想される。これは法制度の不備なのであるが、被害者はこの公判前整理手続に参加する方法がない。

その後、裁判が行われるのであるが、被害感情等を裁判に反映させるために、証人尋問の手続が行われる可能性も高い。特に近年、裁判官は、裁判員へのわかりやすさを重視するという名目で、事実関係に争いがなくても、供述調書の読み上げを嫌い、あえて尋問を行うという訴訟指揮をすることが増えている。確かに、裁判員の目の前で直接話をすることで、書面では伝わらない機微が伝わることも多いのであるが、証人尋問をするためには事前にリハーサルをする必要もあるし、もちろん裁判の日は仕事を休んで裁判所に赴く必要がある。これがなかなか負担であるし、リハーサルや裁判の中で当時のことを思い出してしまうというのも大きな精神的負担である。

このように、現在の制度、特に裁判員裁判の制度というのは、被害者に優しくない。司法への国民の参加とか、裁判員へのわかりやすさというお題目が優先されるあまり、犯罪被害者への配慮があまりに欠けているのではないかと思われる場面が散見される。

そうした被害者への負担を少しでも減らす方法がある。捜査段階から、被害者支援ということで弁護士に依頼することである。

本件は今後、事件が検察官に送致され、検察官が起訴・不起訴の判断を行っていくことになるが、その過程で、弁護士が被害者の代理人として入ることで、捜査の進捗状況を尋ねたり、事情聴取を行う際の連絡窓口になったりすることもできる。もちろん検察官にも捜査上の秘密があるので、何でも教えてくれるわけではないが、全くのブラックボックスの状態が続くことに比べれば、いくらか安心できるのではないかと思う。これについては、日弁連の委託援助を利用することができ、簡単に言うと、資産が一定金額以下であれば、自己負担なしでの委任も可能である。また、本件では難しいかもしれないが、これから選任されるであろう弁護人と示談交渉を行うこともできる。さらに、本件のような重大事案では、マスコミ対応も重要になってくる。

その後、被疑者が起訴されて被告人になった場合には、被害者参加という制度がある。これは、被害者やその一定範囲の遺族が刑事裁判に参加し、被告人に対する被告人質問を行ったり、被害に関する意見を述べたり、量刑に関する意見を述べたりするという手続である。これも、自ら参加することもできるし、弁護士に依頼することもできる。例えば、素朴な被害感情については自ら意見申述を行った上で、法令の適用のような専門的事項については弁護士が意見を述べる、といった役割分担が考えられる。この被害者参加にも国選の制度があり、資産が一定金額以下であれば、費用は国が負担してくれる。

被害者参加弁護士がついた場合、被害者参加弁護士自体は公判前整理手続に出席できないことが普通であるが、毎回の公判前整理手続後に検察官に問い合わせて、事件の進捗状況を尋ねることができる。大抵は形式的・事務的な内容であるが(例えば、証拠開示といって、弁護人に事件記録のコピーを渡すやり取りが何往復かされることが通例である)、現在の制度では公判前整理手続の実施中、被害者は蚊帳の外に置かれているという感が否めないことからすれば、被害者参加弁護士に依頼するメリットはそれなりに大きいのではないかと思う。

何より、警察官や検察官に事情を聞かれたり、裁判に証人として参加するなどと言うことは、一生に一度あるかないかの出来事であろうし、細かい刑事訴訟の手続などは、専門家でないとわからない。そうした右も左も分からないことによる不安を少しでも取り除くことは、被害者やご遺族の平穏を少しでも取り戻すために大変重要だろうと思う。

私は、以前に裁判員裁判に被害者参加したことがある。その事案は、死者が出るようなものではなく、事実関係にもほとんど争いはなかったのであるが、手続がわからないことへの不安を取り除いたことは大変意義深かったと考えている。事件記録のコピーは膨大で、裁判員裁判の間はそれにかかりきりになるし、その割には国選だと報酬が少ないのであるが、犯罪被害者の権利回復という社会的にも大きな意義のある活動ができたと思っている。

本件に関係なくとも、もしあなたの身近に、突然降りかかった犯罪被害という不条理に悩んでいる人がいたら、是非、被害者参加の制度を説明してほしい。ひとりで抱え込まずに、共に事件に立ち向かう弁護士がいることを、是非知ってほしい。