福岡の弁護士 水野遼

福岡の弁護士 水野遼

弁護士になりました。
水野FUKUOKA法律事務所オープン!
判例の解説をメインに行います。見解については完全に私見です。

 

こちらのポストが少し話題になっている。これについて、当職の立場を明らかにしておきたい。

 

1 「弁護士業界にいる少年事件が好きで得意みたいな人」とは?

本件ポストが言及する「弁護士業界にいる少年事件が好きで得意みたいな人」というのは、どのような弁護士のことであろうか。

ポストを見る限り、「少年とは全く異なった生育環境で育ってきた人たち」であり、「少年を理解して(当職注:おそらく理解したつもりになって、と言いたいのだろう)、少年の将来を見据えて何が1番なのかみたいなことをしたり顔で考えてる」ということのようである。

すなわち、恵まれた環境に育っていて、少年事件を起こすような少年の生育環境について本当の意味で理解しているわけではないのに、理解したつもりになって、少年本人を置き去りにして少年の将来について偉そうに語っている弁護士のことを言うものと理解される。

 

2 当職はどうなんだろうか?

私は、福岡県弁護士会子どもの権利委員会所属で少年事件マニュアルの執筆も務めたことがある。最盛期は年間6件程度事件を担当しており、否認事件、虞犯事件、薬物の再犯事件、性非行など難しい事件も相応にやってきた。環境調整で就職先を紹介したこともある。私も上記ポストで批判されるような対象なのだろうか。

まず、「少年とは全く異なった生育環境で育ってきた人たち」かと言われるとそうなのだろう。私立中高一貫校から国立大学卒で、少なくとも幼少期に貧乏を経験したという記憶はないし、少年院や鑑別所に行ったこともない。本当の意味で少年の境遇など理解していないのではないかと言われると、身を以て知らないという意味では反論のしようがない。

ただ、大半の弁護士は、交通事故に遭ったことがなくても交通事故の事件を担当するし、未婚でも離婚事件を担当するし、覚醒剤をやったことがなくても覚醒剤の刑事弁護を担当する。少年事件だけ、少年と同じような生育環境を弁護士に要求するというのはバランスを欠く話であろう。

「少年の将来を見据えて何が1番なのかみたいなことをしたり顔で考えてる」という点はどうだろうか。当職の答えとしては、「少年の将来を見据えて何が1番」などというものを判断できたためしがない。年齢にもよるものの、本人の希望をベースにするというのは成人の事件とも何ら変わりがない。弁護士がいくらよかれと思ってやっても、本人にその気が無ければ、就職だって進学だってうまく行くわけがない。本人にその気があっても、せっかく決まった就職先をバックレてしまったり、首の皮一枚で少年院を回避できたのに、結局悪い仲間とつるみ始めて、再び警察のお世話になるなんていうのは珍しくない。

「少年事件が好きで得意」かと言われると、なんともいえない。好きか嫌いか以前に、少年事件はほとんどの事例で赤字である。とにかく金にならない。報酬が雀の涙の割に、やることが多いし、鑑別所も遠い。裁判所からもこき使われることがあるし、本人や保護者の対応に困ることもしばしばである。好き好んでやるようなものではない。

 

苦労話は、以下の部分を参照されたい。

 

福岡県弁護士会では、新人研修の際に、少年事件を指導担当と2人1組で行うという研修プログラムがある。そこで当職は、新人の先生に対して、「少年事件はやりがいがあるから是非やりましょう」などということは一度も言ったことがない。「こういう世界もある。次もやってみようかなと思うのなら続けたらよいと思うし、合わないと思うなら別の活動に注力してもらってかまわない」という以上のことを言ったことはない。

得意かと言われると、非行事実を争っている事案で尋問すらさせてもらえず少年院送致となったり、虞犯事件で調整に取り組んだものの少年院送致になり、出てきた後も紹介した就職先で問題を起こしまくったりと、失敗例も多いので、得意だと思ったことはない。

じゃあなんでやっているのかと言われると、「ノブレスオブリージュ」の一言に尽きる。すなわち、当職の個人的な自覚に由来するもので、他人に勧める気は一切ない。

弁護士会でも、常々、「やる気のない弁護士が多すぎる。そういう人は外れてもらって結構。」と声を大にして主張しており、「先生の言うことは分かりますけど、その調子で人を減らしていったら回りませんよ」と言われる始末である。

 

3 そんな弁護士は実在するのか?

一部マニュアルを見ると、本件ポストが言うような、机上の空論から大上段に構えた「少年の福祉」を声高に叫んで悦に入っている弁護士、というのは抽象的に観念できる。ただ、当職の経験上、少なくとも当地福岡県で、そういう弁護士が存在するという実感はない。確かに、「この人、ちょっと暑苦しいなあ」と思う人はいるものの、「少年の将来を見据えて何が1番なのかみたいなことをしたり顔で考えてる」かと言われると、それは違うんじゃないかと思う。その先生なりに一生懸命考えて、本人とよく相談しながら方針を決めているはずである。そんなことを言われたら心外だろう。

 

4 発言の悪影響

確かに、少年の意向を置き去りにして、自らの考える「少年にとって一番」を勝手に考えて、自らの価値観を少年に押しつけるような弁護士がいるのであれば、それは問題であるし、そのような弁護士が「少年事件が好きで得意」と自称しているとすれば、お引き取り願いたいというのが当職の偽らざる心情である。それはただの偽善者であろうし、少年本人にもマイナスにしかなるまい。

しかしながら、現実に少年事件を担当している弁護士の多く(少なくとも当地においては)は、少年とは異なる生育環境にありながらも、本人とよく相談しながら丁寧に方針を考える付添人活動をしていると思われ、少年に価値観を押しつけるようなタイプの人は見たことがない。そういうことをしたときに、最も正直に反発するのが少年というものである(大人の場合、「弁護士がこう言ってるんだから、自分の希望とは違うけど、とりあえず言うことをきいておけばいいこともあるんだろう」と打算的に考えることも少なくないが、少年は、嫌なことは嫌だとはっきり言うことの方が多い)。

にもかかわらず、あたかも、少年の意向を無視した偽善的な活動をして悦に入っている弁護士が多数存在するかのように受け取られる発言をするというのは、いかがなものかと思う。ご自身は刑事弁護に積極的なようであるが、刑事弁護の分野について同じようなことを言われたらどういう気持ちになるのだろうか。

 

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