明けましておめでとうございます。
今日は、映画『アラジン』の中で使われている曲 “Speechless” の歌詞解説をしていきますね。

 


こんな感じ↓の曲です。

 

 

 

 

まず、曲のタイトル “Speechless” について。
speech(言葉)+ less(ない)の組み合わせからできている単語なので、

「しゃべれない、黙っている」という意味のタイトルです。
 

 

今日の解説のメインは “I won’t go speechless” の箇所ですが、

まず、そこに辿り着くまでの歌詞を追っていきます。

 

 

冒頭部分は訳を載せるだけにしますね。

 

 

Here comes a wave
(波がやってきた)

Meant to wash me away
(私を押し流そうとして)

A tide that is taking me under
(私を沈めようとする潮)

Swallowing sand, left with nothing to say
(砂を飲み込んで、何も言うことができないまま)

(ここは、Swallowing sand だけで、ひとかたまりの一行だとすると、「飲み込もうとする砂」の意味の可能性もあります)

 

My voice drowned out in the thunder
(私の声は雷鳴にかき消される)

 

 

次に出てくる won’t はwill not の縮約形です。
will は「〜だろう」という「未来」の意味で最初に習うことが多いですが、「意志」の意味もあります。

 

 

例えば、注文の場面で、

I’ll take it.

 

と言えば、「それにします」「それでお願いします」という意味で、直訳すれば「それを取ることにする(意志)」ということです。「それを取るだろう」ではおかしいですからね笑


なので、won’t は「否定の意志」ということで、「〜しない」という意味になり、続きの歌詞の意味も次のようになります。
 

 

But I won't cry
(でも、私は泣かない)

And I won't start to crumble
(そして、私はくじけたりしない)

 

 

次の部分はよく分かって訳しているものが少ないように思うのですが、

 

 

Whenever they try

To shut me or cut me down

 

 

となっていて、ここは2行がひと続きのセットです。

“whenever(〜する時はいつでも)”から始まって、「try to ~(〜しようとする)」 が用いられている形です。 “they” の意味が曖昧ですが、「人」ということにすると、こんな感じの意味になると思います。

 

 

Whenever they try

To shut me or cut me down

(私を黙らせて、打ちのめそうとする人がいても)

 

 

次も won’t が使われています。

 

 

I won't be silenced
(私は沈黙に屈しない)

You can't keep me quiet

(私を黙らせておくことはできない)

 

 

次の部分は、I won’t の I が最初に省略されています。“tremble” は「(恐怖などで)震える」という意味で、 “try it” は前に出てきた、「黙らせようとする」ことなので、こんな風に訳せると思います。

 

 

Won't tremble when you try it

(黙らせようとしてきても、私は恐れおののいたりしない)

 

 

次は、こんな歌詞です。

All I know is I won't go speechless

 

最初の主語の部分は、 “All I know” です。

 

 

“All(全て)”の後ろに、 “I know(私が知っている)”が付いているので、All I know(私が知っている全てのこと)が主語になります。「私が知っている全てのこと」の内容が、is の後ろの “I won’t go speechless” です。

 

 

won’t は先ほど説明したのと同じで、「〜しない(意志)」ですね。

 

 

では、次の “go speechless” はどういう意味になるでしょうか?

 

 

ここで使われている “go”  は「行く」の意味ではなく、「〜の状態になる」という意味です。例えば、次のような使い方があります。

 

 

go wrong:間違った状態になる = 失敗する、故障する、など

go sour:酸っぱい状態になる = こじれる、腐る、など

 

 

この場合の “wrong” “sour” は「補語」と呼ばれるものです。

補語を説明するのに、一番わかりやすいのは、be動詞を使った文です。

 

 

It is good.
(それは良い)


この文では、good が It の補語である、という言い方がされます。

補語というと難しく聞こえる人もいると思いますが、意味しているところは、It = good ということだけです。

 

 

「それは良い」ということは、「それ」=「良い」ということですよね?

このように、前のものとイコールになるものが「補語」です(この文では “good”)。

 

 

同じことが be動詞以外の動詞でも起こります。

 

 

It tastes good.
(それは良い味がする)

It sounds good.
(それは良く聞こえる)

 

 

動詞が be動詞から、taste(味がする)、sound(聞こえる)に変わっても、It = good (「それ」=「良い」)の関係は変わりませんよね?

 

 

同じことが「〜の状態になる」の意味の “go” に関しても言えます。

 

 

It went wrong.

(それは間違った状態になった=失敗した)

 

 

この場合も、it = wrong(「それ」=「間違っている」)になっているので、wrong は It の補語、ということになります。

 

 

 同じように考えると、歌詞の文は、

 

 

I won’t go speechless.

 

 

ですから、speechless が I の補語で、I = speechless の状態にはならない(won’t)ということです。つまり、「私は黙っている状態にはならない=私は黙らない」という意味の歌詞でした。その前の部分と合わせると、こんな感じの意味になると思います。

 

 

All I know is I won't go speechless

(分かっているのは、私は黙らない、ということだけ)

 


「私は黙らない」という力強い歌詞の曲でした。沈黙を強いられがちな女性へのエンパワーメントの歌だと思います。

 

 

沈黙を強いられがちな女性、と書きましたが、声に関して言うと、日本人女性の声には特徴があります。日本人女性は「話し声が高い」とはよく言われることですが、歌う声(それはすなわち、話し声にも関係しているのですが)の特徴もあります。

 

 

歌う時に、何が障害になっているかで、声の分類をする仕方があるのですが、日本人女性の声は「ライト・チェスト(light chest)」と分類されることが非常に多いようです。

 

 

ヨーロッパから日本に招かれて来たボイストレーナーが、レッスンをしていて、あまりにも「ライト・チェスト」の女性が多いので、びっくりして、「そういう声が好きな男性が多いからですね」と言ったという話を聞いたことがあるほどです。

 

 

「チェスト(chest voice)」は「地声」のことなので、「ライト・チェスト」の人は、「地声が軽い」、「地声が十分に出ていない」状態になります。私は昔は、「ライト・チェスト」の世界No. 1 かと思われるほどの笑、「ライト・チェスト」でした(今でも戻りそうになる時はあります)。

 

 

もしかしたら、「地声」がどういうものを指すのか分からない人もいるかもしれないので、分かりやすい例を挙げるとすると、「地声が軽い」「ライト・チェスト」の極北のような歌い方はこういうものです。

 

 

 

 

とても綺麗な声だと思います。良く言えば、「ウィスパーボイス」、悪く言えば「スカスカ」な声ということになります。私もこういう歌い方をしていました。というか、昔は、こういう歌い方「しか」できませんでした。

 

 

その対極に位置するような歌い方はこういうものです。

 

 

 

 

Adele の声は、「地声がしっかり入った」、「重い」声ということになります。

 

 

1番目の声と2番目の声は、声帯周辺の筋肉で使っているものが全く違うのですが、どちらの方も有名なシンガーとして活躍していますし、それぞれの魅力があります。どちらが良いということではありませんが、日本人女性にとても多いのが、1番目のような声だということです。

 

 

そのことが意味しているものは何か?

 

 

言ってみれば、1番目のような声は「か弱い」「優しい」声で、2番目の声は「太い」「強い」声です。つまり、日本人女性は、話す声も歌う声も「か弱い」傾向があり、そして、社会的にもそうあることを求められる傾向にある、ということです。

 

 

私は生き方が声に出ると思っているのですが、そうだとするなら、か弱い声しか出せないということは、か弱い生き方しかできないことに通じるのではないかと思うのです。

 

 

私はかつて、「声が小さい」という理由で、仕事をクビになったことさえあるほどでした(そんな理由でクビになる人が、この世のどこにいるでしょうか笑)。今でも声が大きい方ではありませんが、頑張って出そうと思えば、それなりに通る声を出せるまでにはなりました。

 

 

マーロウの言うように、生きる資格としての優しさと生きていくための強さの両方が必要だとするなら、優しい声も強い声も出せた方が良いと思うのです。

 

 

というわけで、特に、日本人女性のみなさんは、声を出して、声を上げて、 “I won’t go speechless(私は黙らない)” で生きていきましょう(^ ^)

 

 

最後にもう一度、今日の歌詞と訳を載せておきます。

 

 

Here comes a wave
(波がやってきた)

Meant to wash me away
(私を押し流そうとして)

A tide that is taking me under
(私を沈めようとする潮)

Swallowing sand, left with nothing to say
(砂を飲み込んで、何も言うことができないまま)

My voice drowned out in the thunder
(私の声は雷鳴にかき消される)

 

But I won't cry
(でも、私は泣かない)

And I won't start to crumble
(そして、私はくじけたりしない)

Whenever they try

To shut me or cut me down

(私を黙らせて、打ちのめそうとする人がいても)

 

I won't be silenced
(私は沈黙に屈しない)

You can't keep me quiet

(私を黙らせておくことはできない)

Won't tremble when you try it

(黙らせようとしてきても、私は恐れおののいたりしない)

All I know is I won’t go speechless.

(分かっているのは、私は黙らない、ということだけ)