OUT of HARMONY (9) | 水穂の小説置き場とひとりごと

水穂の小説置き場とひとりごと

ファンタジー小説を執筆中……のはずw


 ミンティは、木の根元に座り込み、月を見上げていた。

 頭の中は、ベティのこと、イルザのこと、隊長のこと、村のことがぐるぐると回る。

 本当なら、じっとできる状況ではない。でも、ここで待っているしか、彼女にできることはなかった。

(なんで、こんなことに――)

 平和な日常。優しい村人たち。明るいレストランの人たち。かわいいベティ。

 ごく普通の、あたりまえの日々を、平凡に過ごしたいだけなのに。

 はあ、とため息をつき、膝に顔をうずめた。その時――

 ガサガサッ…

「!」

 草木をかき分ける音。それはすぐ側だった。

「誰!?」

 その方向へ声をかけ、思わず立ち上がるミンティ。イルザでないことはすぐに分かった。

 彼が村へと向かってから、そんなに時間は経っていない。こんなに早く戻ってくるはずがなかった。

 ガサガサ…ザッ、ザッ!

 道を作るかのように、茂る草木を剣で薙ぎ切りながら、一人の男が現れる。

 それは、ミンティもよく知る男――

「いよう、ミンティちゃん」

「……隊長、さん……」

 隊長――ラズルは、いつもと変わらない声で、いつも通りの表情。しかし、今はそれが余計に怖く感じた。

 思わず、一歩後ずさる。

「こんなところで、何してるんだ? もう暗いし、一人歩きは危険だぞ?」

「た、隊長さんこそ、どうして、ここに?」

 恐る恐る、問うミンティ。

「イルザの小僧を捜してるんだ。あいつの仲間にこの隠れ場所の存在を聞いてな。そしたらイルザじゃなく、ミンティちゃんがいたってわけだ」

 素直に答える彼は、いたっていつも通り、優しい隊長のままだ。

 ミンティに正体がバレていないと、思っているのだろうか?

 それならば、ミンティもいつも通りを装い、なんとか彼から離れようと考えた。

「…そうだったんですか。わたしは、ベティを捜してたら、たまたまここに。あのあと、すぐに一人で出掛けちゃって。あんまり遅いから心配で捜してたんですけど、ここら辺にはいないみたいです。だからもう、戻りますね」

 きっと引きつっていたのではないか、と思うくらい無理な笑顔でそう言い、歩き出す。

「おう、なら送ってってやるよ」

「一人で大丈夫ですよ。隊長さんはイルザくん、捜してください」

「いや、そういう訳にはいかない」

 彼はミンティの前に立ち、行く手をふさいだ。

「本当に用があるのは、キミだよ、ミンティちゃん。……イルザから、聞いてないか?」

 低いトーンで言い、眼光が鋭くなる。彼の持つ剣が月明かりを不気味に照り返した。

「――!」

 彼の態度を見たミンティは、思わず背を向け、全力で走りだす!

「おっと、逃がさないぜ!」

 予測していたのだろう。ラズルは素早くミンティの右手首を掴み、引き寄せる。

「痛っ! 離して!」

 イルザに掴まれた時とは違う、禍々しい強制を感じる力に、ミンティは顔をしかめ、叫んだ。

「やっぱり、な。あの小僧め、いつも逃げ足と根回しが早くて困る」

 ラズルはイルザの行動を先読みしていた。直接追ったり、ミンティの家へ行っても捕まえられないと踏み、村の子供たちから彼の隠れ場所を聞きだしたのだ。

「ベティをどうする気なの!?」

 ミンティはなんとか逃れようと抗うが、ラズルは平然と掴んだままだ。その手は離れる気配すらない。

「自分のことより、あいつの心配か。ミンティちゃんらしいな」

 ラズルはそのままミンティの身体を木の幹に押しつけ、剣をその細い首に当てた。

「……っ」

「暴れると、怪我するぞ?」

 そう言うと、剣を地面に突き刺す。ミンティの両手首を左手でつかみ、彼女の頭上へ持ち上げ、空いている手でロープを取り出し、両手首を拘束する。残ったロープの端は、太い木の枝へ縛り付けた。

 ぶら下がる格好となったミンティは、ますます身動きが取れない。

「なんで、こんなこと……」

 声が震えているのが、自分でもよく分かった。

「わりぃな。これも仕事なんでね」

 全然悪びれた様子もなく言うラズル。

「どうする、つもりですか……?」

「そうだな。とりあえず、ブライム様をお呼びするか。……本当は、呼びたくないんだがな」

 冷静に答えると、小枝を集め、火をおこす。

「呼びたくない?……仲間、じゃないんですか?」

 ミンティの言葉に、ふっと笑うラズル。

「俺は、たんに雇われただけだ。報酬が破格だったから受けたが、出来ることならあんな奴に関わりたくはないさ」

 小枝がくすぶり始めた。少しずつ、煙が上がっていく。

「ベティのこと、何か知ってるんですか?」

「ああ、もちろん。……知りたいか?」

 ラズルはミンティを見つめ、ゆっくりと近づいた。恐怖なのか、ロープでの痛みのせいか、手が震える。

「教えてやるよ。俺は、ミンティちゃんの味方だからな」

 地面に刺さった剣を抜き、鞘に収めながら言う。説得力はない。

「……」

「その目は、信じてないな? まあ、無理もないか。でも、本当だよ。なぜなら、俺はずっと、ミンティちゃんが好きだったからさ」

「っ!」

 そっと、ラズルはミンティのほほに触れる。ミンティは反射的に顔をそむけた。

「だから教えてやるよ。キミがベティって呼んでたあいつは、人間じゃない」

「え?」

 思いもしない言葉に、ラズルを見る。その目は、笑っていない。

「死んだ人間に、全ての物質を消す力を与えて蘇らせた、造られたモノらしい。その力ってのは、ミンティちゃんも見ただろう。存在するだけで周囲のものを急激に劣化させてしまう、恐ろしい力だ。それがどういう訳か研究施設からいなくなっちまって、センターシティの偉いさん方が必死になってさがしてたって訳だ。だがブライムは、あいつの力を自分のものにするつもりらしい。大方、世界征服でも狙ってるんだろう」

 まるで人ごとのように語るラズル。ミンティは信じがたい話に、言葉が出ない。

「まあ、俺には関係のないことだ。でも、ブライムは何故かキミも利用しようとしてる。場合によっては、殺されるかもしれない」

 殺される――ミンティは、顔が青ざめていくのを感じた。それを見てラズルは、

「大丈夫。俺が守ってやるさ」

 そう言うとミンティの黒髪をなでリボンをほどき、顔を近づけた。サラサラと彼女の髪が肩に流れる。

「……う……」

「この仕事が終われば、遊んで暮らせるほどの報酬が入る。この村を出て俺と一緒になれば、何も心配することはない」

 耳元で囁き、スカートから覗く足に触れる。

「いや…っ」

 その感触に身体をひねって抵抗するが、逃れられない。嫌悪感に涙が滲む。

 ラズルは、髪に触れていた手を徐々におろし、ミンティの胸に触れた。

「……っ、やめて…」

「キミにとっても、良い条件だろ? あの子は危険な存在だ。本来なら、この世にいるべきモノじゃない。もちろん、キミにだって危険が及ぶ。俺は、キミを助けたいんだ」

「…わたしは……」

 ミンティの涙が、こぼれおちる。

「…わたしは…ベティと一緒にいたい…。わたしがどうなろうと、ベティがなんであろうと、ただ……今まで通り、普通に暮らしたい…」

 目を伏せ、訴えるミンティ。しかしラズルは小さく眉根を寄せるだけだった。

「それはもう、無理な話だ。だが、どうしてそう思うのか不思議だよ。まあ、その優しいところもキミの魅力ではあるんだけどな」

 ラズルは、愛おしい人形を扱うかのようにもう一度ミンティの髪をなで、その涙を指ですくう。

「ブライムが来れば、きっと気も変わるだろう。ゆっくり考えればいい。もう一度言うが、俺はミンティちゃんの味方だからな」

 そう言うと、ラズルはミンティから離れ、焚火のそばで立ち止まった。

「……意外と、早かったな」

 つぶやいたラズルの視線の先を追うと、生い茂る草木の間から、少女を引きつれたブライムの姿が小さく見えていた。



――続く――



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