OUT of HARMONY (8) | 水穂の小説置き場とひとりごと

水穂の小説置き場とひとりごと

ファンタジー小説を執筆中……のはずw


 ゆっくりと。確実に近づいている。

 何故だか分かる。そして、それに近づいてはいけないことも。

 でも、だめ。行かなければいけないのだ。

 そこに答えがあるはずだから。

 気がつくと、村の畑が広がる一角にいた。

 その先には、人影。背が高く、がっしりとした体形。甲冑の隙間から見える肌色黒く、筋肉質だ。腰には大剣。

「……やはり、来たな」

 ベティの姿を見とめると、ひげを生やした口元を、にやりと歪める。

「……」

 無反応のベティ。その表情も変わらない。

「覚えておらんか? ブライム・ハーバーだ」

 名乗るも、ベティに変化はない。

「本当に覚えていないのか。それは寂しいな。私の全てを奪っておきながら!」

 言うなり、小型のナイフを投げる。

「――!」

 すっと目を細め、そのナイフを見つめる。

 むぅうん……

 微かな振動音と共に胸元のペンダントが赤く光り、ベティの周囲が歪んだ。そこにナイフが突き刺さる。

 空中に浮いた状態となったナイフは、ゆっくりと溶けるように霧散していった。

「その力、多少コントロールできるのか。成長するとは驚きだ」

「…シ、ラ、ナイ…。ワタシ、ナニ…」

 ベティは、ぼそぼそと、言葉を口にした。彼女の周りは、いまだ歪んだままである。

「なるほど。本当に言葉を覚えたのか。自らの存在を語らないように“造られた”はずが、不思議なものだな」

「!」

 ブライムの言葉に、ベティは初めて反応した。思わず目を見開く。

 それを見たブライムは、ベティの目を見つめた。

「教えてやろう。お前は、全ての物質を消す力を与えられ造られたモノ――つまり、人間じゃない。だから感情も思考も言葉も持たない。センターシティで研究された、破壊兵器、とでも言おうか」

 ブライムは淡々と語りだす。その言葉は、ベティには信じ難く、受け入れられなかった。

 しかし、それをよそに彼は言葉をつづけた。

「だが、元は人間だったのだよ。名はレイス――死んだ、私の娘だ」

 その瞬間。

 ベティを覆っていた歪みが消え、少女はその場に膝をついた。目線が、ブライムから外せない。

 死んだ――娘?

「必ず蘇らせるという条件で、センターシティの極秘実験に娘の死体を提供したのだよ。確かに生き返ったが、記憶もなく、言葉も話せず、その力すらコントロールできず、妻や息子たちを消し去り、そしてお前も消えた。それ以来、ずっとお前を捜していた。

 ……ショックか? 今までそんな表情を見せたことはなかったな」

 ゆっくりと、少女に近づくブライム。

「本能的にここへ来たのだろうが、分かっていたんじゃないか? そのブラッディ・ルビーと……」

 ブラッディ・ルビー。少女が首から下げている、ペンダントの紅玉。

 そして、ブライムは懐から小さなバッチを取り出した。そこには蒼い宝石が埋め込まれている。

「対となるこのティアーズ・サファイアが引かれ合ったのだろう。それは、いわゆる制御装置みたいなものだからな」

 ブライムはバッチを左の袖口につける。そして、少女の目の前に立った。

「このティアーズ・サファイアがあれば、ブラッディ・ルビーを介して、お前の力をこちらでコントロールできる、というわけだ。お前に感情や意思が芽生えていたのは計算外だったが、一応役には立ってくれたようだ」

 言うなり、少女の髪を乱暴に掴む。痛みに、少女は顔をしかめた。

「…ぅっ!」

「こんなに動揺してくれるとはな。力を持たなければ、所詮、子供か」

 ふんっと、鼻で笑い、手を離す。

 重力に逆らえず、そのまま座り込むように膝をつき、少女は力なくうなだれた。

 ワンピースの端がボロボロとほつれる。

 昼間、ミンティが買ってくれた、白いワンピース。突然色あせ、劣化し始めた。

「その服は、あの女が作ったものではないのか」

 見下ろし、冷静なブライム。

「…あの女の正体は、大方予測がついている。うまく利用できればいいが…」

 ふところから煙草を取り出し、火をつける。

「立て、レイス。あの女のところに案内しろ」

「ま、待て!」

 その声は、ブライムの背後から聞こえた。

 ゆっくりと振り向くと、そこにはイルザの姿。

「話は、全部聞いた。そいつ……ベティや、ミンティねーちゃんをどーするつもりなんだ?」

 声が震えているのがよく分かる。ブライムは、ふーっと煙を吐いた。

「……この村の少年か。それを聞いてどうする?」

「……」

 逆に問われ、言葉に詰まるイルザ。

「この村を守る勇者ごっこか? 残念だが、そんなお遊びには付き合ってられんよ。子供には何もできまい」

「や、やってみなきゃ分かんねーだろ! だいたいお前、父親のくせに、ベティを道具みたいに……なんでそんな卑劣なことできんだよ!?」

 子供となめられたことに腹を立て、イルザが叫ぶ。

 イルザは子供扱いさるのが一番嫌いだった。今までイタズラをしてきたのは、偉いといわれる大人のプライドを砕き、隊長や村人たちを困らせることで、イルザなりに子供の力を見せつける為だったのだ。

「私の娘だ。どうしようと勝手だろう? どけ小僧。邪魔をするなら、容赦はしないぞ?」

 言うなり、剣に手をかける。

 イルザの顔がサッと青ざめ、体中が緊張を始めた。汗が一気に噴き出す。

 相手は第一騎士団の団長。本気を出されたら、一瞬で殺されるだろう。

「……ベティとミンティねーちゃんを、どうするつもりだよ……」

 ブライムを睨みながら、震える声で、もう一度聞いた。

 目をそらしたら、殺される――イルザはそう言い聞かせ、極度の緊張で腰が抜けそうになるのを、必死でこらえる。

「……そうだな。どうせ死ぬなら教えてやるか。冥土の土産ってやつだな」

 無表情で、剣に手をかけたまま言う。

「センターシティのお偉方は、レイスの力を使って、近々隣国に戦争をしかけたいらしい」

「な……」

 思わず言葉を失うイルザ。

 センターシティーは平和を願う国だ。防衛の為の武装なり戦力なりはあっても、決して開戦する国ではなかったはず――。

「要は全ての国や地域を、牛耳りたいのだろう。世界征服と言えば分かりやすいかな? その為に研究され、造られたのがレイスだ。しかし、突然の暴走により姿を消したため、この研究がバレる前に探し出し捕える必要があった。それを一任されたのが、父親であり第一騎士団の団長である私だ」

 左手にある煙草の灰が、ハラハラと落ちる。

「もちろん、私一人じゃ捜しきれないのでね。あちこちに諜報部の人間を派遣し、やっと見つけたというわけだ。しかし、私も父親だ。娘のレイスを他人に好き勝手使われるのは面白くない。

 ……ならば、私がその力を使って、娘を提供した見返りに世界を頂くまで」

 にやっと口元のひげが歪む。

 イルザは、あまりのことに、言葉が出ない。

(研究――世界征服? 何を言ってやがんだこいつは!? んなこと、本当に――?)

 現実味があまりにもなく、困惑と憤りが入り乱れる。

 愕然とするイルザをよそに、くっくっくと低い声でブライムは笑った。

「センターシティのやつらの思い通りになってやるものか。試しに、この村を消して見せてやろう。やつら、驚くに違いない」

「!!」

 とんでもないことを言い出したブライムを、イルザは再び睨みつけ、身構えた。

「その為にも、あの女をどうにかしないとな。小僧、居場所知ってるんじゃないのか? 素直に案内すれば、助けてやってもいいぞ?」

「誰が……」

 言いながら、一歩後ずさり、背中に手をまわす。

「てめぇに教えるかよ!!」

 叫び終えると同時に、隠し持っていた石を素早く投げ付けた!

「うぐっ!」

 スピードがついた石は、甲冑と甲冑の隙間を正確に捕え、ブライムの右わき腹をえぐる。

「ベティ! こっちに!」

 ブライムの後ろにいるベティに叫ぶが、その目は焦点が定まらず、反応がない。

「くそっ!」

 ブライムはフラフラとしているが、倒れるまでに至っていなかった。ベティに近づけない。

「この村を消させるもんか!」

 もう一度、ブライムに向かって石を投げる。

 しかし、ブライムは紙一重で石をよけ、一気にイルザとの間合いを詰め――

「っ!」

 ガッとイルザの右腕を掴んだ。

「……残念だったな、勇者くん」

 言うなり、左手に持っていた煙草をイルザの腕に押しつけた。

「―っぅうあああああああああああ!」

 ジュウッと音を立て、皮膚が焼ける。

 ブライムは手を離し、間髪いれずみぞおちに拳をねじ込んだ。

「ぅ……っ!」

 まともに喰らい、イルザは地面に倒れ伏した。

「小僧のくせに、なかなかやるな……」

 わき腹を抑え、低く呻く。

 ブライムは腰の袋から、ビー玉くらいの黒い果実を取り出した。イルザの身体を蹴り、仰向けにする。

 顎を掴み、無理に口を開かせ、黒い果実を潰して果汁を注ぐ。

 微かに甘い果汁と独特な香りを感じた瞬間、視界が揺らぎ、イルザの意識はどんどん遠のいていった。

「褒美にソンヌの実をくれてやる。睡眠薬として使われている実だ。貴様の勇気をかって、今は殺さないでやろう。そこで大人しく寝ているんだな。運が良ければ、生き残れるかも知れんぞ」

 ふんっと鼻で笑い、立ち上がる。見上げれば、遠くから細く煙が立ち上がっていた。

「……見つけたか」

 つぶやき、放心した少女の元へ戻った。

「行くぞレイス。あの、女の所へ」

 少女の左腕を掴み、無理やり立たせ、引きずるように歩き出す。

「…、……、…――」

 呼吸とも取れるような微かな音で、少女は何かをつぶやく。が、その言葉は聞こえず、誰にも届かなかった。



――続く――



OUT of HARMONY (9)