「大切な人を幸せにしたい。」


その想いから生まれる行動は


想像以上に力強い。



強さと優しさは


いつでも共存しているのかもしれない。





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「たのしそうですね~。」




4年生のマユちゃん(仮名)と遊んでいる


看護師さんに声をかけた。





ナースステーションの中には


いつでも子どもの姿があって、


仕事のお手伝いをしたり


看護師さんごっこをしている。






イスをクルクルと回転させながらお話しをしている


その日のマユちゃんは、


いつも以上に元気に見えた。






でも、そんなマユちゃんを尻目に



看護師さんは



ちょっと切なそうな顔をして



小声で言った。





「でも、実はね・・・。」








(え・・・)







胸のあたりがザワっとした。






「マユちゃん、さっきまで泣いてたのよ。」






(・・・まさか・・・)





そこは「まさか・・・」が起こる場所・・・。




私は一瞬にして言葉に詰まった。





しかし、



看護師さんの表情は



どこか柔らかで



わずかに微笑んでいるように見える。






「なにか・・・あった?」





小さな声で聞いた私に



看護師さんは



感慨深げな表情をして



教えてくれた。









その日、いつものように


お母さんがマユちゃんのお見舞いに来た。




小学生以上の子の付き添いは


許可されていないため、


小学生や中学生の子どもたちは


毎日おうちの人がお見舞いに来てくれるのを


心待ちにしている。






マユちゃんも、


毎朝お母さんが来てくれるのを


心待ちにしている一人だ。







その日も、


お見舞いに来たお母さんと


マユちゃんはうれしそうに


お話をしたり、遊んだりした。







しかし・・・



しばらく遊ぶと、マユちゃんは



意外なことを言いだした。






せっかくお見舞いに来てくれたお母さんに向かって



あっけらかんとした顔をして言ったのだ。






「お母さん、もう帰っていいよ。



今日は看護師さんと遊ぶ約束してるんだ。



だから、もう帰って。」









なんで・・・と思いながらも、


お母さんはマユちゃんの言うとおり


早めに家に帰ることにした。






荷物を抱えたお母さんを


病棟の入口まで


見送るマユちゃん。





出入口にある二重トビラが


お別れの場所。






あとは


ガラス越しに


お母さんの背中に向かって


手をふり続け・・・




お母さんを見送る女の子イラスト 






お母さんが廊下の角を曲がると・・・






マユちゃんはあわてて



自分の病室に向かった。








ベッドに飛び込み



頭から布団をかぶり



声を殺して泣くマユちゃん。




布団をかぶる女の子イラスト 




本当はそばにいて欲しい・・・。



寂しくないはずもない・・・。






でも、マユちゃんには


どうしても早くお母さんを帰したい


理由があった。







それは、大切な人のため。




大切な人の笑顔を守るため。









実は、マユちゃんには





お母さんの帰りをおうちで待つ





まだ幼い妹がいたのだ。











しばらくして


ナースステーションにきたマユちゃんに




「そんなに頑張らなくていいんだよ。」




と看護師さんが言うと、



マユちゃんは





「だって、わたし・・・




おねえちゃんだから!」





と笑ってみせたという。












「4年生の女の子に



どうしてそんなことができるんですか・・・。」






そう言った私に、



看護師さんはそっと、つぶやいた。






「強いから優しくなれるのよ。」









少女が見せた強さと優しさ。







それは



たくさんの痛みを乗り越えて手にした



宝物なのかもしれない。







【illustrated by kaemi