みずからすすんで注ぐ愛。



ただ気がつかないだけで

自分の周りは

そんな愛で溢れているのかもしれない。




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その時、私と友人の意見は正反対だった。




「これから生まれてくる子には

カケル(仮名)がいたことは

言わないと思う。

たぶん・・・。」







「私はね。 ココに話してるよ。

『あなたには渓太郎というお名前の

お兄ちゃんがいたんだよ』 って、

毎日、話してる。」







入院中、大の仲良しだったカケルくんは


渓太郎が他界した1週間後、


渓太郎のあとを追うかのように


天国へ旅立った。






それから約半年後、


私はココを出産し、


ちょうどそれと同じ時期に


カケルくんの母は


カケルくんの弟を身ごもった。





天国へ行ったお兄ちゃんがいることを




言うか・・・



言わないか・・・。













「言う」 という選択をした私は



これまで何度も感じてきた。









「話してきて本当によかった。



ココもタロウも


渓太郎の死から


たくさんのことを学んでくれた。」












だが、しかし・・・







つい最近



私は大変なことに



気付かされることになった。











それは友人と
 

ランチをしているときのことだった。







「そういえばさ、


ココちゃんの夢は獣医だよね?」






という、友人のなにげない言葉に







「うん。 動物のいのちを救いたいんだって。



やっぱりさあ、


ココに渓太郎のこと話してきて


ホント、よかったよ!」








・・・すると友人は、


ニコっと笑みを浮かべたあと


私にひとことささやいた。








「みゆ。


ココちゃんはさ。




これまでずっと、みゆの話を



聴いてくれていたんだと思うよ.。」









(・・・聴いてくれていた・・・)








これまでのココの姿が


一気によみがえった・・・。








・・・渓太郎の話をすると、


ココはいつでも


私の顔をじーっと見つめた。




まぶたに溜まるわずかな涙も見逃すことなく


「おかあたん」  と言って


私を抱きしめた・・・。









・・・ひとりで渓太郎の写真を見ていると、


いつの間にか


私の横にはココがいた。



ちょこんと座ったココが


小さなひとさし指で


渓太郎を差した。



「ココの、おにいたん。」








(・・・ココはこれまでずっと、


私の気持ちに寄り添っていたんだ・・・。)








友人と別れ、家に着くと


じっとココの帰りを待った。








そしてしばらくすると・・・







ガチャン。




「ただいまあ~」






学校から帰ってきたココの顔を見たとたん


涙がこみ上げた。






「あのさ、ココ。


ココはずっと、


お母さんの話を聴いてくれていたんだね。」






「え・・・」





びっくりした顔で立ち尽くすココ。





「今日ね。

かえみちゃん  に言われたの。



『ココちゃんはずっと、渓ちゃんの話を


聴いてくれていたんだよ。』


って・・・」





するとココは、ニコニコしながら




「私、お兄ちゃんの話聞くの好きだよ!」





と言うと、


カバンをおろしながら


うれしそうにつぶやいた。




「かえみちゃん・・・


ココのこと、


そんなふうに言ってくれたんだ 。」











大切なものを与えているつもりだった私・・・。



そんな私に

寄り添い続けてきたココ・・・。







小さな子どもが


みずからすすんで注ぐ愛。






私は15年間


ずっと気づかないまま


無償の愛に支えられてきたのだ。