医療現場での会話 その3 「タメ口」 | 宮沢たかひと Powered by Ameba

「タメ口」とは、相手に対して対等な立場で行う話し方のことです。日本では上司など目上の人には敬語を使うことが多いですが、同僚や友人にはタメ口を使うのが一般的です。「タメ口」のタメという言葉は、もともとサイコロのゾロ目ことを指していたとか。これは、賭博のサイコロに由来し、「同じ目=ドウメ→トウメ→タメ」と変化していったのだという説があります。(https://getnews.jp/archives/3440568

 

さて、私も子供時代から現在に至るまで、友人同士や家族内では普通にタメ口でした。医療現場で仕事をするようになってからは、タメ口をきく相手とそうでない相手は臨機応変に使い分けていました。しかし私は、職場の中でそれぞれの人間関係に応じてタメ口と敬語を使い分ける日本の言語文化が嫌いです。なぜなら、タメ口に切り替えるときは、「相互の上下関係」を瞬時に見定めているからです。特に医療現場では、医師対患者、医師対看護師、看護師対患者、医師対医師、看護師対看護師などの場面で、微妙にタメ口を使い分けていますが、けっこう個人差があるように思います。

 

まず、医師対患者。私は患者の年齢が高校生以上であればすべて敬語で会話するようにしています。中学生以下の子供さんについては敬語ではかえって不自然なので、子供向けのタメ口になります。しかし、今でもタメ口かつ横柄な態度で会話する他院医師についての不平不満を患者から聞くことあり、困ったものです。また、オジサン患者に多いですが、稀に医師に対していきなり横柄なタメ口で話し始める患者がいます。不安からなのか、威圧なのか、マウントとりなのか、医者嫌いなのか?そのような患者にも私は淡々と敬語を使いますが、そうすると患者側も徐々に敬語に変わっていく場合が多いです。医療は商売ではないので、会話について医師患者関係は高いレベルで対等であってほしいと思います。

 

次に、医師対看護師。最近は、医療現場では看護師に対して敬語を使うように心がけていますが、若いころは結構横柄な態度でタメ口の時期があったようで、私も反省しなければいけません。医療現場という「職場」では患者が医療従事者間の会話を聞いているのですから、看護師に対してタメ口は控えるべきであり、敬語を使うのが「美しい職場」であると思います。

 

次に、看護師対患者。これが結構千差万別です。若い看護師は自然に敬語で患者と接していることが多いですが、年配ベテラン看護師の中には、「おじいちゃん、どうしたの?」、「こっちに付いてきてくれる!」、「おばあちゃん、オシッコとってきてね!」などのタメ口で接しているヒトがいます。タメ口だけでなく、年齢的に先輩である患者さんを、「おじいちゃん」、「おばあちゃん」などと呼ぶのは失礼であり、可能な限り名前で呼ぶべきでしょう。ヤフコメで病院へのクチコミを見ると、看護師のタメ口に対する批判が多いようです。

 

次に、医師対医師。大学病院のように、医師の上下関係がはっきりしている職場では、上司あるいは先輩医師が、部下あるいは後輩医師に対してタメ口で話しかけるのが、10年以上前私が大学病院在籍中は普通でした。的確な指示と迅速な行動が要求される医療現場ではタメ口も致し方ないとは思いますが、「美しい職場」を目指すのであれば、少なくとも患者がいる前では敬語にすべきではないかと思います。なぜなら、患者にとって目の前にいる医師たちの上下関係は無関係であり、できれば医師間の穏やかな関係性を期待しているのではないかと思います。私が尊敬する一流の教授のほとんどは、部下の医師に対しても敬語を使っていました。

 

最後に、看護師対看護師。これも病院間および個人間で千差万別のように思います。看護師の中にも、医師と同様ヒエラルキーが存在し、上司あるいは先輩は部下あるいは後輩に対してタメ口をきくことが多いように思います。これも医師対医師と同様、洗練された職場環境を患者に見せたいのであれば、全員が敬語で会話するのが「美しい職場」ではないでしょうか。

 

以上ですが、例えばレストランに行って厨房の奥あるいは部屋の隅で従業員同士がタメ口で会話しているのが聞こえたら、せっかくの食事がまずくなるのではないでしょうか?一流ホテルで従業員同士のタメ口私語を客が聞くことはまずありません。一流病院、一流クリニックを自負するのであれば、会話についても「美しい職場」であってほしいと思います。