近藤理論の根拠を突き崩す(胃がん編)①予告 | がん治療の虚実

近藤理論の根拠を突き崩す(胃がん編)①予告


近藤誠氏の主張が一部受け入れられている背景はある程度今までの記事で解説している。

なかなかすっきりしない理由の一つとしては専門家同士の論争が一般人に難しすぎる点があるのは確実だろう。
互いに相反する論拠やエビデンスを戦わせても一般人どころか非専門家でさえ、それぞれ一理あるような錯覚に陥る。
あるいは現在がん治療での位置づけがよくわからないというのが実情というわけだ。

このシリーズは自分の日常的ながん診療で患者さん側から出てくる近藤理論への疑問に対しての回答書として作成しているため、かなり包括的な反論記事を重ねてきた。
しかし、相当な分量になってきたため読み解くのが苦痛となっている人も少なくないはずだ。

近藤誠氏は莫大な数の医学論文を読みこなしていることを自慢にしており、いろんなエビデンスレベルの論文を根拠に提示して論争にも自信を持っているようだが、前述のように専門家でないと判断できないような些末な(それほど重要でない)議論を展開しても多くの人には役に立たない。

いろいろな反論戦略を考えたが、近藤理論の本陣を攻め立てた方が簡単明瞭になると気がついた。
氏がいくら大量の論文を引用して自説を主張しようが、そのおおもとの論拠の虚構を暴けば、不毛かつ理解困難な論争で時間を浪費しなくてもすむ。
もちろん近藤理論の疑問点を全て解消したい人には過去の記事を参照してもらえれば良いが、もっと簡単明瞭にわかってもらうための戦略として始めたのが、前回までの近藤理論の根拠を突き崩す(大腸がん編)だったわけだ。
さて、今回から「胃がん編」に移る。

近藤誠氏の主張 "抗がん剤の延命効果は証明されていない"
「抗がん剤は効かない」p92 より引用
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では抗がん剤の延命効果は、どのようにして判定したら良いのか。個々のケースの寿命を調べても判定できないのだから、大勢の寿命を調べるしかない。それで、抗がん剤を投与した集団と、投与しなかった集団を比較するわけです。
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近藤誠氏が繰り返し主張するのはこの「延命効果は証明されていない」という言葉だが、具体的に何を指しているのだろう?

これは、エビデンスレベルII以上のランダム化比較試験において抗がん剤投与群と非投与群の比較で投与群の方が全生存期間の有意な延長したと証明された報告がないことを指しているのだろう。

簡単に言い換えると
「抗がん剤を使うかどうかをさいころで決め、使った患者の方が延命効果があると証明された臨床試験がない」
と言っているのだ。

ところが大腸がん領域では実はランダム化比較試験どころかそれ以上にエビデンスレベルの高いメタアナリシスでさえ抗がん剤投与、非投与群で生存期間の有意差がしっかり証明されていることをこのブログで記載した。
近藤誠氏はリードタイムバイアス理論と単に生存曲線のグラフの形が上に凸の奇妙な形だから人為的な操作が加わっていて信用できないという難癖をつけているが、意味のある反論になっていないことは「近藤理論の根拠を突き崩す(大腸がん編)」で解説ずみ。

それでは胃がんに関してはどういう理論を展開しているだろう。
ちなみにこの20年間の臨床試験の論文からは下図のような新規抗がん剤の治療効果が続々と発表されている。

胃がん抗がん剤成績


実は胃がんについても抗がん剤の症状緩和効果、延命効果はたくさん証明されているのだ。
それをどうしても認めたくない近藤誠氏が、どんな文章トリックを使って真反対の結論に持って行っているかを次回から解説する。

なおこの生存期間中央値というのは別名「余命」のかわりに使われたりするが、それまでしか生きられないとか、生存期間の平均と勘違いしている人が結構多いので(医療関係者含む)、間違えないように。
念のため下図と解説ページも参照してほしい。

くせもの(医学)用語解説 I「余命」②
http://ameblo.jp/miyazakigkkb/entry-10797590904.html

②誤解される余命縮小

余命というと、普通の人は平均してどのくらい生きられるかと言う事を考えるだろう。実際各種がんのstageIVでの治療した場合しない場合の「余命」が医療現場で告げられる事があるが、これは生存期間中央値(MST: median survival time)であって「平均」ではないのである。つまり対象患者さん100人いるとすれば半分の患者さんが亡くなる時期を指しているにすぎないのだ。これは医師自身も誤解しているか、誤解されやすい事に注意していない場合が多い。よってそれよりずっと早く亡くなる人もいればあるいは長く生き延びる人がいても全くおかしくないのだ。