「赤ちゃんは泣くのが仕事」なんて言葉があります。赤ちゃんにとって「泣くこと」は、大切な意思表示です。
「サイレント・ベビー」というのは、泣かない無表情な赤ちゃんのことです。いくら泣いても抱っこしてもらない、あやしてもらえないという状態が続いたことにより、泣くことをあきらめた赤ちゃんです。
サイレント・ベビーはとても心配な状態です。泣かなくなるので、手のかからない良い子のように見えますが、心に深い傷を負っています。そのまま大きくなると、人間関係がうまく築けなかったり、心のトラブルとして表面化してきます。
20年以上も前の本なのですが、「抱かれる子どもはよい子に育つ」という本があります。サイレント・ベビーを100例以上も診た医師、石田勝正先生が書いた本です。その中で石田医師は、サイレント・ベビーの症状と対処法を、次のように書いています。
生後3ヶ月の赤ちゃの例です。お母さんに赤ちゃんをあやさせてみたのですが、赤ちゃんはお母さんの目を一向に見ようとしません。天井の蛍光灯しか見ないのです。そして無表情で少しも笑いません。ひたすらに蛍光灯と交信をしているかのようです。
石田医師は、「よく抱いて、大きな声であやすよう」に指導しました。
その結果、2ヶ月後には母親にも優しい微笑みが回復し、赤ちゃんも母親の目を見て笑うようになったそうです。
サイレント・ベビーをよく抱くようにすると、再びパワーを得て泣くようになります。よく泣くようになったところで、「抱いたのがいけない」と勘違いして、抱くのをやめないようにしないといけません。
そのままよく抱くことを続ければ、赤ちゃんの心に安心感が育ち、泣いてぐずることもなくなります。
石田医師によると、「生後6カ月までであれば、2~3カ月よく抱いてあげることで、急速に全例回復した」とのことです。
「しっかり抱けばよい」ということを知らなかっただけであれば、よく抱いてあげることで、このように問題は解決します。
ところが、そんなに簡単でないケースもあります。
産後の母親の心は不安定です。不安感や孤独感の中で母親としての自信を失い、子どもを抱くことができなくなる場合があります。
しかもサイレント・ベビーになると、赤ちゃんは母親に笑いかけないばかりか、目も合わせなくなります。そうなると、母親はますます自信をなくし、不安感やイライラが大きくなります。虐待が起きてしまう場合もあります。
石田医師のところにも、そのような母親がやってきます。
私の小児科外来に、無表情の暗く落ち込んだ母親が、赤ちゃんのことで相談に来られることがあります。自分で赤ちゃんを抱く気力もなく、ご主人かおばあさんが赤ちゃんを抱いて来られることもあります。
石田医師の指導(治療)は、そういった母親への理解と愛にあふれています。
23歳の産後うつの母親の例です。石田医師は、母親の境遇を聞いたうえで、ご主人に話をします。
「奥さんのような不幸な育ち方をした場合、赤ちゃんが生まれても、母性本能を引き出して、それを強化させるのに、少し時間がかかってしまうのです」
そして、ご主人に治療法を具体的に説明します。
「朝と昼と夜、奥さんをしっかりと抱いてあげなさい。セックスはしない方が頭が混乱しなくてよいでしょう。安心感と快楽とはひとまず別のことなのですから。
それから奥さんが赤ちゃんをよく抱くようにしむけるのです。はじめはご主人がそばにいて、奥さんのからだに触れていてあげてください。そうしているうちに、母親は赤ちゃんを抱いても不安感をいだかなくります。
そして母親の乳が出なくもて、乳首を吸わせるようにしてごらんなさい」
このような指導によって、2ヶ月後には母親は笑うことができるようになりました。赤ちゃんにほおずりしながら涙を浮かべ、石田医師に感謝を示すまで回復したそうです。
スキンシップというのは、大人にとっても、愛されているという安心感をもたらすものなのですね。
「抱きぐせをつけるな」という間違った子育て法がアメリカから入ってきて、かって日本でも流行しました。そのようにして育てられた赤ちゃんの多くは、自己肯定感の低い、心が苦しい大人になりました。
石田医師は、アメリカで麻薬や覚醒剤に手を出す青年や大人が多いのは、この間違った育て方のせいだとさえ言っています。
育児法が、本当に薬物濫用の原因だったのかどうか私には分かりません。
ただ、しっかり抱っこして、自己肯定感のある子に育てることが、その子の幸せ、家庭の幸せ、社会の幸せにつながることは、間違いないと思いました。(完)
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